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2014年6月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-35-

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 図書館前に到着した。が、電話しながら中に入るのはちょっと。
 相手方電話口が変わった。
『Yes,Hello?』
 体格の良さを彷彿させる重心の低い男の声。
「メディアです。ジェフ列車長」
 対して相手は少し間があった。
『プリンセス!おお幻ではありますまいか我が栄光の姫君!』
 それは最早、懐かしさを感じる耳当たりの良いおべんちゃら。しかし、多分に本気に聞こえる。ただ、今は余計なやりとりは抜き。
「良く聞いて下さい。お約束通り、と言うか突然ですが、今すぐ、アムステルダム中央駅からアルフェラッツまで1本用意できますか?理由は聞かないで」
『え……あ、はい。プルマン車2両だけなら何とか。何人様でご利用ですか』
「私含めて二人です」
『判りました。今なら11時45分発のダイヤに押し込めるはずです。どちらにおいでですか?』
「アムステルダムの図書館。中央駅のそばです」
『判りました。ではこちらから図書館まで迎えをやらせます。この電話に掛ければよろしいですか?番号は表示されている……』
 相原の携帯電話の番号。
「はい、それで結構です」
 
 
 謝辞を言い終わる前に相原がレムリアの手を引いてその図書館へと入る。
 市内パトロールが始まったらしく、パトカーがそこここに見え始めたからである。
「この変身はいつまで持つんだい?時と共に解けると思ったが」
 観光地でもある図書館の閲覧コーナー。アニメ娘と秋葉原オタク。
 イヤでも目立つ組み合わせで。当然、じろじろ見られる。だが、逆にコソコソ隠れているという印象は完全に消えていた。
「De heer Anime Otaku. Neem samen een foto.(アニメオタクさん、写真を一緒に)」
「おーけーおーけーあいむおたく」
 写真を撮ったり。
 その前をパトカーが行き過ぎるが、気付いた様子は無い。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【4】

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「どうされました」
 馭者席ヒゲの男性が振り返り車室を覗く。騒ぎが気になったのだろう。
「下ろし……」
「何でも無い。急いでくれたまえ。姫は早くお帰りになりたいそうだ」
 執事みたいな男性はユカの口をふさいで言った。
 馭者さんが顔を前に戻してしまう。執事みたいな男性はユカの顔を正面からじろり。
「我慢もここまでです。これ以上お手向かいになるようでしたら、痛いことをしなくてはなりません」
 ユカは噛みつこうか、でかい声出そうかどっちかしてくれようと思ったが、その前に何だか頭がくらくらしてきて、考えるのが面倒になってしまった(興奮状態で口元をふさがれたので酸素不足に陥った)。
 てゆーか気持ちが悪い。誰か助けて。
 
 
 花の匂い。
 母さんがベランダで咲かせているバラの匂いだと気付く。
 変な夢。
「お加減如何ですか、姫」
 夢じゃない!
 ユカはガバッと起き上がった。白いドレスを着ている自分。絵本の挿絵みたいなベッド。
 それともまた夢?
「どうされました。セバスチャンはここにおりますぞ」
 あちこち見回すユカに聞こえるその声。
 ユカはいっぺんに思い出し。本当にセバスチャンと言うらしいその男性を指さした。
「人さらい!」
「何をおっしゃいます。まだお加減がよろしくないようですな。さ、これをお食べ下さい」
 セバスチャンは言い、ベッドの傍ら、鏡台に歩み寄り、上にある花瓶からバラの花を一本抜いた。
「それパパメイアン」
「よくご存じで。気分が落ち着きます。どうぞ」
 セバスチャンはパパメイアンというそのバラの花びらを一枚ちぎり……食べてみせた。
「は?何してんの?お腹壊すよ?」
 バッカじゃないの?と思いながらユカは言った。
「衛生管理は万全です。お忘れですか?本国の草本(そうほん)は全て食用可能で無毒です」
「は?」
 堅苦しい言葉だが、花食べてもいいらしいことは何となく判った。クサモトと書いてソウホンと読むのは図鑑で見た。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-34-

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 騒ぎに背を向け、高架下、線路沿いに歩く。早足になりそうなのを自制しながら。
「その電話ネット検索できる?」
 レムリアは訊いた。相原の携帯のこと。
「当代流行りのスマートホンと相成り。どちらへ?」
 相原が手のひら液晶画面でパスコードを入力、検索窓を開いたら、レムリアは横から手にしてキーパッドをチョンチョン叩いた。
 それを見て相原が目を剥く。
「待て待てチャーターって……そこワゴンリをレストアして運営してるとこだろ?」
 ワゴン・リ。フランス語でありwagons-lits……かの名列車オリエント急行に使われた客車であり、運営していた会社である。ワゴン・リ社自体は列車供食サービスなどで存続しており、客車達は文化財として保存されたり、レストアされて個人所有の観光列車として運営されていたり。
 レムリアは発呼した。以下元の言語は英語。
「あ、オリエント急行をチャーターしたいのですが。メディア・ボレアリス・アルフェラッツという者です……いえ、一昨年になりますか、リバイバル・オステンデ・ウィーン・オリエントエクスプレスの乗客番号02-01。ジェフ・サマーサイド列車長殿はご在社ですか?」
 電話の向こうが大騒ぎになっていることが、機体から漏れる音で相原にも判った。
 その列車に、彼女は王女として乗った。そのせいであることは間違いなかった。普通、王女が列車貸してくれと電話してくる事態は生じない。テレパシーを働かせて曰く、情報が漏洩したんじゃ、いやいや本当に姫君本人なんだ……。
 ちなみに、相原と出会うきっかけも、沢山の冒険も、その列車に乗ったことが全ての始まり。前述、空飛ぶ船の救助隊が彼女の招聘に列車を使ったのである。
 電話向こうが一つの結論に収斂して行く。ジェフ氏に応対させる分には構わないだろう……。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【3】

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「どこに連れて行くの!」
「いい加減になされませ!」
 執事のような男性は強く言った。ピシリ!という言葉が似合った。
 そしてそれは、最早戻りようがない状況に自分が追い込まれたのだとユカは悟った。
 涙が勝手に出てくる。怖さ、悲しさ、寂しさ。
 全部ごちゃ混ぜみたいな気持ち。
 何これ。勝手に連れ出されて、しかも、
「おこられた。おこられた……」
 あたし、何かした?
「何もしてないのに。下ろせって言っただけなのに~」
 ユカは顔を上に向けてわんわん泣いた。男性は腕組みし、目線を外に向け、イライラしたようにその腕組みした指先を小刻みに動かしている。
 と、急に馬車がガタガタ言い出し、ユカは何事と外を見た。
 見えた風景に涙が止まる。クレヨンで虹色に塗ったような地面が波打つ。
 土の道を馬車は走っている。お菓子のような、甘いにおいが漂う。
 白い服を着た人たちがいて、この馬車が通るのを見るや、大げさなポーズで頭を下げる。
「ああ、そんな服で見られてはたまりません」
 執事のような男性は言うと、馬車の扉のカーテンをさっと閉めた。
「お召し物はどこへ置かれたのですか?」
「何のこと?TKG?」
 さっぱり意味が分からない。メシなら今朝はタマゴ(T)かけ(K)ご飯(G)を食べた。
「もう一度お叱りしないといけませんか?」
 今度はだんだん腹が立ってくる。何なのこの態度。園長先生なんか立派でも優しいのに。
「変なこと言わないで。勝手に連れてきたくせに。人さらい。誘拐、人間泥棒、スケベ変態エロ痴漢、アホバカ間抜けちんちん毛だらけもーじゃもじゃ」
 ありったけの悪口言ったつもり。
 しかし、執事みたいな男性はニヤニヤ笑うだけ。
「降りる。帰して」
 ドアをガチャガチャやる。開かないとは判っているがめいっぱいの力でガチャガチャやる。いかのおすし、いかのおすし。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-33-

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 変化は一瞬であり、しかも人々の目線が外れた瞬間を狙っており、その瞬間をリアルタイムで見た者は自信を持って無いと断言できる。
「学はアキバの大きなお友達と言うことで」
「了解。しかしこの程度変身するのに最早お月様は不要か」
 相原が自身とレムリアを見回して言う。彼女の魔法は月の精霊の力を借りるもの。当初は満月が必要だったり、応じた呪文や作法を要したりなどあったが、段々と、制限が取れてきている。
 出会った時、彼女は魔法は半人前と言った。
 比して成長しているのであった。
「このくらいならね」
 ウィンクを返すと、人の流れに乗って出口へ向かう。人目が二人に集まる。
「目立ちすぎないか?」
「あたしこれでホコ天歩いたりしてるから逆に大丈夫」
 レムリアは休日歩行者天国でよくマジックショーをする。魔女のマジックであって切れ味抜群であり、感激した観客からおひねりをもらうこともしばしば。その際の衣装は金縁スーツにシルクハット、であるが、これを子ども達メインで行う場合はアニメのコスプレをすることもある。その結果、孤児院の男の子が手伝ってくれるようになり、応じてアニメのアクションショーを行うことも。
 するとなるほど、そんな彼女に見覚えがあるのだろうか、小さい子が彼女を見つけて手を振った。
「いざとなれば魔法を使うし」
 駅前広場に出る。乗り捨てられたパトカーは既に発見されてあり、周囲にパトカーが集まり、検分の最中。警官各人銃を手にしており、物々しいことこの上なし。
 比してアニメコスプレは目立つので見られはしたが、疑われることは無かった。一般的な“隠れる・紛れる・逃げる”と真逆の行動であり、さもありなん。
 通り過ぎる。とりあえずの関門突破。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【2】

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 ユカは自分が連れて行かれるらしいことは理解した。ただ、誘拐と言うより、その“姫”と間違えられたとした方が良さそうである。閉じ込められはしたが、縛るとか、猿ぐつわと言った状況にはなく、何より、馬車の中はそれこそ絵本に出てくる姫の乗り物そのものだ。向かい合わせのソファみたいな椅子に絹張りの内装、天井の電球。
「ほっ!」
 声が聞こえ、馬車が動き出す。ガタンとショックが来て、ユカは椅子から投げ出されて落ちる。
 住宅街からクルマの多い道へ向かう。やたら速い。アパートがあっという間に小さくなる。
 そして交差点へ。この交差点は信号がないので、渡る時はちょっと遠回りして横断歩道を。
 なのだが、馬車は止まる気配無く、クルマの多い道へ突き進む。
 ぶつかる!
「あっ!」
 しかし、クルマは、まるで、立体映像のように、馬車の中をすり抜けた。
「え?」
 これは、夢と魔法の世界の出来事。ユカはまずそう思った。
 横断して道沿いに走る。しばらく行くと通っている幼稚園と、隣のお寺と、その隣。
 そこは“帰らずの藪”。それは、大人向けの書き方をすれば禁足地と呼ばれる一角。管理がお寺だと言うことはユカも知っている。
 その藪の前に男性がいる。燕尾服を着ており金髪碧眼。年齢はよく判らないが、自分のお父さんよりは年上っぽいものの、“おじいちゃん”という感じではない。
 馬車は男性の前に止まった。
 男性はアニメに出てくる魔法の国の執事、にそっくりだとユカは思った。そういう人は大体みんな同じような名前だった。何だっけ……。
 馬車の扉が開いた。
「セバスチャン!」
 思い出してユカは思わず言った。
「確かにセバスチャンでございます。姫、おいたが過ぎますぞ」
 呆れたように、その男性は言うと、乗り込んで来、ユカの隣に座り、出せ、と言った。
 ユカはハッと我に返る。今、逃げるチャンスを逸した。
 動き出す馬車。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-32-

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 前にも同じような逃避行をしたことがある。と、レムリアは思い出した。姫の身分で日本を訪れた際、滞在先ホテルからこっそり抜け出したのだ。その時は誘拐と勘違いされ、こっそり戻るために頼ったのが彼である。ちなみにその際は、国際博覧会が開催されていたため、その送迎バスを乗り継ぐという方法で、都市中心のホテルへ戻った。
 ならば、今度は、この街を知る自分が、彼を助ける番。
 彼のパスポートに、合法的に出国したことを示すスタンプを押させる番。
「このトラム(路面電車)の線路に沿って走ればそのまま駅前広場」
「了解」
 相原はサイレンとクラクションに物を言わせて街路を飛ばす。
 無線が大声。ストップ、GPSトラッキングなどと英語が入っているあたり、自分たちに対する警告。位置バッチリだから逃げられんぞ、そんなところか。
「このパトカーが目撃された。追っ手が掛かる」
「駅までの距離は?」
「あの広告だらけの電車の向こう」
「ああ、見えた」
 視界が開け、レンガの駅舎が両翼を広げる。その姿は東京駅丸の内口駅舎を思わせ、実際、そのモデルになったと言われたこともある(現在は否定されている)。
 一般車を蹴散らし駅前広場に入り込み、パトカーを文字通り乗り捨てて駅構内へ走り込む。
「ここから先は私に任せて。歩いて図書館に行きます」
 レムリアはまず言い、そして続けて。
「駅のそばにあるんだ。良く聞いて。列車の運行は全部ロックが掛かりました。なので当然、駅に探しに来るでしょう。そこでまず、魔法かけさせてもらって、一般観光客になって図書館へ移動します。図書館自体観光名所なので何の不自然もありません。その間に列車を一本チャーターします」
「チャーター?」
 言ってるそばから二人の外見が変わる。フリース姿にリュックを背負った東洋人の男性であり、アニメキャラクターの衣装にコスプレした少女だ。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【1】

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「ねぇなんで?」
「今忙しいから後で!」
 ユカは図鑑を片手にお母さんに尋ねた。しかしお母さんは振り向くこともなく、洗濯機から掘り出した洗濯物をカゴに放り込むと、リビングを横切り、ベランダへ行ってしまった。
「つまんない!お母さん嫌い!」
「嫌いで結構」
 ユカは怒ってブゥとふくれると、図鑑を手に廊下を逆に歩き、玄関を開けて外へ出た。
 ユカが住んでいるのは3階建てのアパート、階段を降りて1階部分は通り抜けの駐車場。トンネルみたいなそこを抜けると、道へ出られる。
 と、その道に見慣れない車。
 まんまるい形の白い車。
 大きなタマネギに車輪を4つ付けて運んでいるような。
 そして、クルマの左側には馬がいる。
 ユカは気付いた。違う違うこれ馬車だ。
 二頭の馬に牽かれた馬車が止まっているのだ。
 馭者席(と呼ばれる場所だが、もちろんそこまでの語彙は幼稚園年長のユカには無い)には、燕尾服にシルクハット、白ヒゲという男性がいて、何か探すようにあたりをキョロキョロ。
 そしてユカの方を向いた。
「おお、姫様そこにあらされたか」
「え?」
 お姫様どこ?ユカは自分の後ろにいるのかと思い、振り向いたが、誰もいない。
 ふわっと風吹くような感覚があって、後ろから抱き上げられる。
「あ!あ!何するの!いかのおすし!そうだ。大声。誰かー!人さらい!」
「何をおっしゃいます姫殿下」
“いかのおすし”は、誘拐対策で警視庁が子供達に覚えさせている標語の略記である。
 
知らない人についてイカない
車にらない
おごえをだす
ぐにげる
らせる
 
 ユカは「お」に基づき大声を出したが、大人の体力にかなうわけも無く馬車の中。
「少々おいたが過ぎますぞ姫」
 白いヒゲの男性は怒るように言うと、馬車の扉を外からガチャリ。馭者席に戻ってなにやら話す。
 
(つづく)

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