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2014年7月

ユカちゃんハテナ王国へ行く【9】

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「ハチの巣に行くにはどうすれば?」
「ハチの後を追えばいいんですよ」
 それはテレビで見たスズメバチ退治の方法だが、ミツバチでも同じだろう。
「どうやって?」
「飛んでいるのを走って追いかければいいじゃないですか」
「ハチって飛ぶんですか?」
「飛んでいるところ見たことないのですか?その辺のお花にいませんか?」
 なんでそんなことも知らないの?ユカは少しいらいらしながら、城の庭に広がる花畑の方を示した。
「ハチというものがどんなものかさっぱり……」
 ユカは振り返った。
「ねぇセバスチャン、この国は……」
 ミツバチがいないのか?と訊こうとしたら、セバスチャンは目をまん丸にしてガタガタ震えている。まるで怖いところに来たみたいに。
 冗談じゃない。怖いのはこっちだ。
「あなたは……ユーカ様では……」
「だから違うってば。さっきから言ってんじゃん。でもまぁいいよ。これ終わったらウチへ帰して。でさ、図鑑とか無いの?口で幾ら言っても無理。見せてあげないとだめだよ。あたしの図鑑は?」
 それは“なぜ”とお父さんに聞いた時、お父さんに言われること“百聞は一見にしかず”。本物が一番いいが、なければ図鑑だったり、コンピュータで調べても。
 コンピュータ。
「パソコンないの?」
 するとセバスチャンは突如ユカの腕を引っ張って台から下ろした。
「痛い!」
「あなたはユーカ様ではありませんね?」
「だからユカだって言ってるじゃん。何を今更、勝手に連れてきておいて」
 アホかい。
 いや違う。ユカは思い直した“に、違いない”という思い込みだ。どう考えても間違いなのに、本人が思い込んでいたらそのことに気付かない。
「え、と、ではユーカ様はどちらに?」
 アホかい。
「知るわけ無いでしょ。さっきも言ったけど管理不行き届きでしょこの城。誰が来ても判らない。出て行かれても判らないよ」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-39-

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 おっかなびっくりの相原を手を取り、レムリアは車内へ誘(いざな)った。低いホームからステップを登って。
 デッキから眺めたその車室は、一言で言えば、レールを走るホテルロビー。日本に同等の品格内装を有する車両としては、復古した一等展望車マイテ58形式、程度。21世紀になって各社クルーズトレインを製造しているが、それらもルーツを辿れば結局この車両に行き着く。ある意味デファクトスタンダードであり、系譜に座しないのは皇室用になってしまう。なお、マイテ車は観光SL列車「やまぐち号」に時折連結される。
 ジェフ氏は自らも乗り込むとドアを閉め、腰に手をしてトランシーバーを取り出した。
「ジェフだ。出してくれ。いいや判ってる。3番ポイントの前で待てばいいだろう。ホームから見られたくないんだ」
 乗客の都合で時間外に列車を出せというのも大概だが、程なく先頭、黄色い機関車から小さく汽笛が聞こえ、列車はのろのろと動きだした。ドーム状の屋根が連なるプラットホームを行き過ぎ、外れたところで再度止まった。
 途中見えた各ホームには警官がそこここ。二人は地震でも来たかの如くソファテーブルの下に身を潜める。
「あの、お座り下さい」
 ジェフ氏がジンジャーエールのボトルを銀のトレイに載せ、通路に立っている。
 プルマン車。元はアメリカで豪華客車を作っていたジョージ・モーティマ・プルマン(George Mortimer Pullman)の名にちなむ。ソファテーブルを並べた一等座席車で、食事やお茶を頂きながら目的地を目指す。アガサ=クリスティ“オリエント急行殺人事件”では、1両だけ連結されていた設定で、特別車と訳されることが多いようである。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【8】

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「殿下、それはですね……」
「それは月食という現象です」
 セバスチャンが何か言いかけた。多分答えの耳打ちだったのだろう。しかしユカはその声を遮って言った。
「げっしょく?」
「そうです。太陽に照らされた地球の影に月が入ると、月に光が届きにくくなり、赤っぽく見えるのです」
「どうして赤くなるんですか?」
「夕焼けを見たことがありますか?」
「はい」
「何色になりますか」
「赤です」
「ですね。赤い光は遠くまで届きやすいのです。なので、月が地球の影に入っても少しだけ届いて、月が赤く光るのです」
 どうだ完璧!
 ところが。
「なんで赤い光は遠くまで届くのですか?」
 え……知らない。ユカは困った。ちなみに、波長が短い方が散乱されやすく、比して波長の長い赤い光は遠くまで届く、が科学的な回答ではある。
 ただ、ユカは別の答えを絵本で見ていた。
「それは……真っ暗になったらお月様寂しいじゃない。だからよ」
 ユカの答えに、集まった人たちはどよもした。
「姫様……」
 少し驚いたようなセバスチャン。
「ありがとうございました」
 男の子は納得したらしい。すると今度は大人の女の人が挙手。
「はいどうぞ」
「ハチミツというものはどうやって出来るのでしょう」
「姫様それは……」
 セバスチャンが言いかけるが、こっちもその必要は無い。
「ハチたちが一つ一つの花から集めたものです。少しずつが積み重なって、いっぱい、たくさんのハチミツになるのです」
 図鑑に書いてあった。すると。
「どうやったら手に入れることが出来ますか?」
 何その質問。
「お店で売ってませんか?」
「お店?お店って何ですか?」
「は?」
「は?」
「ひ、姫様……」
 焦っているように感じるセバスチャンの声。
 よく分からないが、お店というものを知らないというなら。
「ハチは巣を作っています。ハチの巣に行けばたくさん集まっていますよ」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-38-

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 パトカーは典雅な乗り物を避けるように動き、図書館、のみならず周囲建物へも横付けされる。馬車はその物々しいを抜け、淑やかに隣ブロックの街路を巡り(要するに遠回りをし)、駅へ戻る。但し先ほどパトカー乗り捨てた、捜査が続く一般向け入り口ではなく、その傍ら、王室用車寄せへ。物々しい中の場違いな典雅もあろう、パトカーも、一般市民も、驚愕の目で馬車を見やる。
「王室用かよ」
 驚いたのは相原。
「そう」
「ひょっとして、警察に追われていますか」
 ジェフ氏が訊いた。馬車の窓は開けてあり、馭者席との会話は充分。
「ええ。行き違いがありまして」
「そうでしたか。それで私どもの列車をご選択は賢明至極。さぁ着きました」
 総大理石の王室用車寄せに馬車が止まる。全て始まりのその日、キャリーバッグを引いて訪れた入口。および、高額のツアーに参加した上流の人々が集った待合。
 今は照明も無く、暗く、冷えびえ。
 ただ、それでも開いているのは、ジェフ氏の手回し。
「こちらへ」
 ジェフ氏が走り、次いで相原に手を引かれて走る自分。
 まるで、式場から連れ去られる花嫁の気分。
 着っぱなしのブラウスにジーンズだが。
 駆け上がる大理石の階段。
 そして。専用ホームに止まっているのは。
P5190381
(模型です)
 
「フレッシュドール・プルマン(Fleche d'Or・Pullman)」
 現れた列車を見、相原がまず言った。ベージュとブラウンのツートンカラー。両端にデッキがあって手開きのドアがある。並ぶ窓の向こうに並ぶ豪奢なソファ。
「借りた?これを借りたのか?」
「ええ」
 問い返す相原にレムリアは頷く。
「さ、ご乗車下さい。乗ってしまえば、国境越えの警備に関する権限は私に委譲されます」
 ジェフ氏が金色のハンドルをカチャリと回し、楕円窓のドアを開く。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【7】

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「か、かしこまりました」
 珍しく?セバスチャンがあたふた。
 石造りの階段ぐるぐる登らされ、到着したのは、石造りの塔の上。
 絵本のお城でよく見る、てっぺんがとんがった塔とぺったんこの塔。そのぺったんこの方。
 城は3階建てで、そこから突き出たこの塔は5階くらいになるだろうか。立って縁から見下ろすと、庭の人々が気付き、見上げながら近寄ってきた。
 そばでセバスチャンがすうっと大きく息を吸う。
「我が王家の親愛なる臣民諸君に告ぐ」
 すっげぇエラそうな言い方。意味わかんないけど。
「本日もここにあらせられるユーカ・エンプレス・ド・ハテナ殿下が諸君らの疑問にお答え下さる。質問ある者は挙手せよ」
 セバスチャンが言った。
 ユカはハッと気付いてその横顔を見上げた。今、ユーカ、と言った。
 それは多分、ここの本当の姫様の名前なのだろう。自分は人間違いされたのではないか。ユーカ姫はどこか行ってて、そこにたまたま似たような顔で似たような名前の自分がいた。
 ただ、この人は自分をユーカと信じ込んでおり、違うと言っても信じないだろう。
 そのうち本人出て来るんじゃね?
「はい」
「はい。私も質問が御座います」
 集まった人々から一斉に手と声が上がり、ユカは我に返る。
 多くの目に見つめられて先生になった気持ち。
 で、どうするんだろう。
「ご指名下さい」
 後ろからセバスチャンの声。
 指せ、ということであろう。ユカはとりあえず目のあった男の子を指さした。幼稚園の先生のやり方と同じ。
 すると男の子は笑顔を作り、次いで、大きく息を吸って。
「月が赤くなると聞きました。何ででしょう」
 男の子は、言った。
 ああ月食のことだとユカは判断した。図鑑にそのことは書いてあり、どうして、なのかは、この間お父さんに教えてもらった。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-37-

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 レムリアは相原を見た。
 そう。もう、一人で、たった一人で、この街に住む必要は無い。
 この街もあと数時間。ただ、出来れば早めに。
 画面リロード。
「あっ……」
 レムリアの“気付いた声”は図書館には少し大きく、やや批判めいた周囲の目線を招いた。
「どうした」
「アパート周辺にインタビューが入ってる。謎の少女が街娼をしていたって」
 つまり、自分、そういう風に見られていた。
 だから、踏み込まれた時も、容疑は彼女だったのである。
「コスプレして……ああ、ごめん、私からバレる……」
 幾らか、手持ちデバイスで同じ情報ソースに接していた人もあるかも知れぬ。その“コスプレ”の娘はここにいる。
 しかし。その時。
 それ以上に衆目の視線を奪ったのは。
 図書館の前に突如現れ、横付けされた馬車。
 白馬2頭の牽く白い馬車。
 それは、リバイバルオリエント急行を降りた時、自分が受けた歓待と同じ。
 すなわち、この馬車こそは。
 程なく、レムリア見ていたスマートホンがバイブレーション。
「はい」
『馬車を用意しました。図書館に到着しております。いつでも』
 二人は動いた。
 衆目が寄ってくる。
 中には携帯電話を手にする者もある。
 立ち上がり、出て行く途中で魔法を解く。今度はその瞬間幾らか見られたようだが、最早どうでもいい。
 図書館入り口には、懐かしい風格と微笑み。
 列車長ジェフ氏はアフリカ系の黒檀の肌の持ち主。金ボタンの青い制服。立派な体格であるが温和な表情。
「おお姫様。少し大きくなられて」
 笑みをたたえた瞳を見開き。
「お願い、すぐに駅へ」
「判りました。さぁ中へ」
 パトカーのサイレンが聞こえる。
 近づいてくるのを感じる。
 ジェフ氏が手招きし、二人は馬車のキャビンへ転がり込む。
 パトカーが集団で近づく。
 ジェフ氏が御者席。馬に一鞭。
 馬車はパトカーとすれ違う。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【6】

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「そこもどうぞ」
 おしべめしべと一緒に一口でペロリ。蜜があるので応じて甘い。
 ドアをノックする音があった。
「誰だ」
 セバスチャンがとげとげしい誰何の声を発する。
 対して。
「ヨセフに御座います。失礼いたします。国民への応答の時間で御座いますが……本日は中止なさいますか?」
 柔らかい物腰を感じる年老いた男性の声。
「構わぬ。待たせよ。すぐに参じる」
 セバスチャンはそう応じた。そのビッグな態度(作者註:居丈高という語彙はユカにはない)。
「かしこまりました」
 足音は聞こえないがヨセフというその男性は去ったのであろう。なんかいじめてるみたいでユカはカチンと来た。
「では姫、参りましょうか」
 この、丁寧なのにイヤと言わせないような雰囲気の言い方。これもまたカチンと来る。
 ムカつくおっさん。
「その応答って奴?」
 ユカはバラの花を棒アイスみたいに食いちぎりながら、反抗的に答えてみた。どうせイヤと言ってもさっきみたいに抱えて連れて行かれるのだ。こうなりゃ徹底的にイヤな子になってやる。こんなイヤな奴にいい子ぶりっ子してやる必要も無い。
 叱りたければ叱れ。人さらいに叱られたところで悪いとは思わない。
「さようでございます。こちらへ」
 手を引かれ、連れ出される。廊下はフカフカの絨毯が敷き詰めてあって、なるほどこれではヨセフさんが来たか行っちゃったのか聞こえない。
「なってないね。何この廊下、変な人が来た時足音が聞こえないじゃない」
 ユカは言ってやった。忍者屋敷は敵がコッソリ来ても足音聞こえるよう、敷地にが砂利敷き詰めてある……図鑑で見た。
「……どこでそのようなご見識を」
「教えないよ~だ」
 あかんべぇ。その図鑑をどっかやったのは当のあんたでしょうが。
「しかし」
「いいから早く連れて行きなさいよ。誰か待たせて勝手なことするとかサイテー」
 これは幼稚園で聞いた話。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-36-

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「今は半日かな?まぁ、解けたらやり直すだけの話。警察屋さんの意識ごまかしてもいいし。遠慮する気は無いよ……」
 レムリアは言いながら、相原のスマートホンでニュースサイトや掲示板の類を見て回った。「手配かかったね。スーツにメガネの東洋人男が少女を誘拐。公務執行妨害、傷害、窃盗。あたしに対する疑いはどこ行ったんだい。似顔絵が出てるよ。似てないけど。アムステルダムの国際列車とスキポールは重点警戒。バス、タクシー、路面電車に手配書。防犯カメラが駅に逃げ込むところをバッチリ。これが何度もテレビ放映されてる」
「パトカーの車内カメラあったらアウトだな」
「パトカーは多分大丈夫。ていうか、あなたに魔法かかりっぱだし」
「ああ」
 相原は頷いた。彼には以前、空飛ぶ船の船長と同じ能力を持つよう魔法をかけた。脳で電磁波を拾ったり、脳波で電磁的干渉を生じさせるというものだ。これはやがて解ける外観変化と違い、スキル・能力として身についてしまう。同じ理屈でマジシャンの魔法をかけた子供達が少々いる。彼ら自身は自覚していないが。
 従い、相原の“知られたくない”心理は、その能力を無意識に発揮させ、エレクトロニクスに干渉したであろう。以上、彼女の見解。なお、このスキル系は解除も可能ではある。しかし相原は“回路の不具合探しに便利だから”という理由でそのまま保持している。
「まぁ、存在するならテレビで流れてるわな」
「そゆこと」
「しかし……まぁ。怒るわけじゃないが、君の身分と所在はオランダ政府に開示されてるんじゃないのか?今からしたらダメか?」
 レムリアは首を横に振った。
「してないし、もうしない。そんなことしたらセキュリティ問題が出てきて政府や王室に負担が掛かってしまう。この街に来たのは私の勝手わがまま。税金動かすなんてとんでもない。でも、それも今日までだから」
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【5】

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 この地は、馬車に乗せられて連れて来られたこの地は、花が食えるのか。
 それこそ図鑑で食用としてあった一部の菊のように。
 そうだ図鑑!ユカは見回したが見つからない。
 その前に、そうやって首を回したらチクチクするのが極めて不快。
「かゆい」
 ユカは首回りをボリボリ搔いた。新しい服着るとよくあることだが。
「あたしの服は?これヤダ」
「処分しました……その、姫が、端的に申しますとゲロを吐かれたもので」
 セバスチャンは言い、バラの花ムシャムシャ食べながら窓を押し開いた。
 風が入り、カーテンや調度が揺れ、音を立て、そして、
 いい匂いが乗ってくる。ユカは思わず立ち上がり、窓の外を覗きに行く。
 森と、草むらの境目が視界の左側にあり、その境目が奥へずっと続いている。草むらは緩やかに波打ち、人々がゴロゴロ寝ている。
 しかしこのいい匂いは何だろう。香ばしくて甘そうで。
 食べたくなるようないい匂い。
「今日は前庭解放日ですので」
 背後足音と共にセバスチャンが言った。
 そして、ユカは、見た。
 人々が草をむしり、そのままむしゃむしゃ食べている。
 根っこの土が付いているところは、さすがにちぎって捨ててはいるが。
 これは、夢ではなく?
 ユカは身を翻す。ベッドの向こう鏡台の上。
 バラを手にする。家で枝差しを繰り返して咲かせているパパメイアン。お母さんがおばあちゃんから切り分けてもらったもの。
 対してこっちのパパメイアン。
「どうぞ」
 花びらを、ちぎって。
 口へ。
 香りと共に広がるさわやかな甘さ。噛む必要を感じない口溶け。
 痛いとか、後から変な味とか、そういうことはなさそうである。
 食えるらしい、この国のパパメイアンは。
 花びらをむしっては食べる。食べられると判った瞬間に急にお腹が減った。
 めくっては食べ、しているうちに、花びらは無くなり、芯の部分。
 

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