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2014年8月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-44-

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 以上、ジェフ氏は来歴を説明し、
「このように、ほぼ同時代に建造されたオリエント急行客車類と同じく、デザイン的にはアール・ヌーボーの系統に属します。復古に際しては当時まだ存命だった技術者を招聘し、細心の注意を払いました」
 そう復古車、である。原製造は1920~30年代。引退後は個人所有や、廃棄され朽ち果てていたり。それをチャーター専用のクルーズ列車として買い取り復古。骨組み以外ほぼ作り直したという。
「なるほど。よれよれでもスーツで良かった。そして何より一通りの柔軟な対応、彼女に代わりまして感謝いたします」
「お気になさらず。コーヒーでも淹れましょうか。エスプレッソはお嫌いですか?」
「いいえ、いただきます」
 このやりとりより程なく、抽出機器の動作音か、はたまた香りか、レムリアは目を開けた。
「どの辺?」
 肩にかけられたブランケットを畳んで脇へ。
「ドイツに入った」
 時間的にもティータイム。テーブル挟んで向かい合う。
「きらっきら輝く少女だな」
「おかげさまでね。もう、何も要らないや。EFMMも出ようかと思ってる」
「え?」
 相原は目を見開いた。
 EFMM……European Free-will Medical care Missionの頭文字である。欧州自由意志医療派遣団と訳され、彼女が公的に所属し、看護師資格を取得したボランティア団体である。
 彼女の活動の軸足。
「出るって……」
「あちこちで活動した中で、今度は自分が助ける側に、と言ってくれた方々がいた。そうした人はもう充分なスキルを持ったし、手品を覚えてくれた子ども達もいるからね。任せて良いとこは任せてもいいかなって」
 レムリアはそこで相原を見た。
「で、思ったのは、実は、私がいるべきは日本なんじゃないかって。あなたと暮らそうってだけじゃ無くて。マザーテレサの言葉を知ってる?」
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【13】

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「だから、姫さん逃げたんじゃないの?。だってこれじゃ人間相手じゃないもん。姫さんがいつも行くところはどこ?説得してあげる。その代わり国民に勉強する権利をあげなさい」
 するとセバスチャンは“子供をあしらうような”顔。
「これはこれはありがたいお話で。しかし……」
「一つ聞くけどここに病気は無いの?病気かどうかどうやって判断するの?いちいちお姫様の質問タイムまで待つわけ?」
「治るものは治る。そうでないものは仕方が無い」
 つまり放っておく。
 ウソでしょ?
「え?インフルエンザとかペストって知ってる?一気に死ぬよ。すると王様だけ生きてるわけ?滑稽だわ」
 どこかのアニメで聞いた台詞。でも、言ってみて意味は分かった。王様だけ生きてて何が“国”やら。
「王国って言ったね。王様は?私のお父さんとやらはどちらに?」
 その時。
「いませんわ。私の服を着た女の子さん」
 群衆の向こうから声がし、群衆が気付いて振り返り、サッと道を空けた。
 確かに自分とよく似た顔立ちの女の子がそこにいる。引きずるような白いスカートひらひら。
 ただ、そっちのお姫様の方がずっと背が高く、大人っぽい印象。
 だとしたら、なんで幼稚園娘のわたしと間違えるかな。
「ひ、姫?」
「おお、姫君。どちらに……」
「どこにも。ただ、私がいないとどうなるかなと思って隠れてただけです。まさか中つ国(なかつくに)から掠ってくるとはね。ここの“王女”はね、女の子さん。こうして来ている国民の中から記憶力のいい子を選んで据えるのよ。王も后もおりません」
「姫様……」
「それでね」
 本物、であるらしい姫様は言うと、履いている靴の、その高いかかとを使って、王宮の芝生の庭を掘った。
 カチン。金属の音。
 掘り広げると金色。
「それ金?金メダルとかの金?」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-43-

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「おや、お詳しい」
 ジェフ列車長は目を見開く。
「日本は鉄道趣味が盛んですから。でも、こいつがフレッシュドール号のプルマンで2両一組で運転が基本、程度しか知りませんよ。こんな、“とれいん・ど・るくせ・ふぁすと・くらっせ”に乗ってていいのか、とさっきからヒヤヒヤです」
 ジェフは笑って、
「いえいえフィアンセさんは紳士です。あの、よろしければ、姫もおやすみのことですし、車内ご案内しましょうか?」
「それは嬉しい。是非」
 とれいん・ど・るくせ。これはTrain de luxeで、豪華列車の意味である。航空機発達以前、国際時刻表「トーマス・クック」では、前の方のページに豪華国際列車をまず掲載していた。フレッシュドール号もそこにあった。
 フレッシュドールは黄金の矢、を意味するフランス語である。パリからドーバーを渡船連絡し、ロンドンまで走った英仏間急行のフランス側呼称だ。イギリス側列車は当然英語のゴールデン・アロー(Golden Arrow)として走る。今乗るこのプルマン車はフレッシュドール用として建造されたもので、中央の通路を挟んで2人向かい合わせのソファテーブルが左右に並ぶ。他に間仕切りされた4人用のコンパートメント室がある。厨房付きの車輛と無しの車輛2両一組で運用され、定員はそれぞれ24名(付き)、32名(無し)である。細かく書けばキリが無いが、床にはカーペットが敷かれ、壁はマホガニー。窓間には寄せ木細工がはめ込まれている。コンパートメントとの間仕切りはガラスパネルで彫刻がされており、デザインにはルネ・ラリックらが参加。
 総じて走るホテルロビーそのものであり、ふぁすと・くらっせ(First Classe:1等車)を称するに相応しく、チャーター列車に乗車するにせよ応じた費用は必要。一介のサラリーマンに過ぎない相原が気圧されるのはある意味当然である。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【12】

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 言いながら、お母さんもそうだったのかな、とユカは思った。“忙しいから後で”。
 引き替え、お父さんは答えを教えてくれると同時に、答えの見つけ方も教えてくれた気がする。図鑑だってそうやって“なんで?”と聞くたび少しずつ増えていった物だ。
 でも、“答えの見つけ方”を自分はあまり真剣に考えて来なかった気がする。
 聞けば教えてくれるから。
 だけど、それだけ。それで満足してしまう。
 それって、この国の人たちみたいにならないか。お父さんは本当は“答えの見つけ方”を自分に覚えて欲しかったんじゃ。
 それなら、真逆のここは。
「このままじゃユーカ姫戻って来ないかもね」
 ユカは言った。
「ユーカ姫は私のいた世界に来てるんでしょ。どんなもんか知ってるわけでしょ」
 セバスチャンは唇の端っこでニヤッと笑って。
「まぁ、そうですね。それを知ってるからこそ、ここを確実に治めることができるわけでして。あなた様の国、中つ国(なかつくに)と私ども呼びますが、そこでの失敗を起こさないように存在しているのが我が国です。国と国ではもちろん、国の中ですら、考え方の違いで争いごとが起こる。争いは損失が出るのみで何らプラスになりません。だったら、最初から何も知らなければ、考え方の違いも起こらない。そういうことは一切知らない方がいい。そうじゃありませんか?」
 わざと全員“バカ”にしているんだ。ユカは判断した。
「それって、人間じゃなくない?」
 ユカは言った。確かに、そういうことしているのは人間だけだ。かと言って、そういうことしなくなったら、人間である意味はない気がする。そして人間であるなら、そういう違いを、どっちが正しいか、ではなく、違いをわかり合って生きて行くのが正しいんじゃないのか。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-42-

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 以下、暫くは列車長ジェフ氏と相原のやりとりである。なお、相原は海外関係会社を持つ企業に勤めることから、若干ではあるが英語が喋れる。対し列車長氏は国際列車を預かる立場上、英語は当然である。
 まず関係から。距離も歳も遠く離れた二人だったが、将来を約束した。
 今回背景は少女売買春と勘違いされ、立証するヒマは無いことから、逃げることにした。王女という身分は伏せて暮らしていたらしい。
 一方、こちらに彼女が乗ったのはおおよそ2年前。
「その運転なら鉄道雑誌の海外ネタで見ました。オステンデからイスタンブールまで、元、ナントカ王国だった国と地域を通って流したとか」
「ええ、その途中コルキスまでご乗車になられたのです。その時確かに“もう一度王女の権限でチャーターを”とは承っておりました。それがこのような形で実現するとは」
「すいませんね熟慮する前に行動する娘で。いきなりオリエント急行1本貸せと言いだしたなんざ、過去にも未来にもおらんでしょう」
「いえいえ、私にはだからこそと思われるのです。実はその時、姫の機転をもってお客様をお一人、急病から救うことが出来たのです」
 委細略すが、婦人が一人、心臓発作を起こして倒れ、彼女の応急処置の後、医療チームへ託した。
「なるほど。看護師ですからね」
「まだ当時のお客様からお手紙を頂戴します。あの時の姫君と旅を出来ないものかと。わたくしもあれほど印象深い旅は前にも過去にもありません」
 相原は「うーん」とため息をし、
「週末はボランティアや慰問、3週に一度は海外で支援活動とか忙しい娘ですからね。こういう座席車でランチタイム、位なら可能でしょう。内容も金持ちの暇つぶしに付き合え、ならアレでしょうが、一人暮らしのお年寄りに楽しんで頂く、なら応じるでしょう。御社サロン車もお持ちですよね。ダンススペースも作れるような」
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【11】

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 うまく行ったらしい。男達がサッとその場から離れ、空いた空間に胴上げ失敗みたいにドサッと落ちる。
 だが、階段もフカフカ絨毯、ユカも体重20キロなので全然痛くない。
 でんぐり返って仰向けになり、冬のオリンピックのソリ競技(リュージュのことであろう)みたいに、男たちの足の間ずるずる滑って下までドン。
 城の玄関口に出たらしい。その向こうには庭に集まった人々がいて、こちらを覗き込んでいる。
「助けて!あたしここの城に人さらいされたの」
 ユカは人々の中に駆け込んで行った。が、誰も動かない。
「警察は?お願い、だれか助けて」
 困ったように自分を見つめる人々の目。
「無駄ですよ……全くとんでもないことになったもんだ」
 勝ち誇ったようなセバスチャンの声。
 ユカはゾッとしながら振り返った。おとぎの国の人々が、悪者の変なクスリや電波でおかしくされて、とかアニメや童話で見るが。
「我がハテナ王国に警察組織はありません。ここは、何も知らない人々が何も知らないまま、何でも食べて暮らせる平和な国です」
 そのセリフ、そんな頓狂な童話に近い。
 イコール、ここ、いちゃいけない。
「それっておかしくない?」
 ユカは振り返った。キッとなって問い詰める。詰問という奴だ。
 対してセバスチャンはニヤニヤ。
「何故ですか。なまじ知らないことがあっても姫様が国民の皆に答える。これで生きていて何の不自由も無いではありませんか。しかし困りましたね。あなたにこのまま帰られると困るわけですが、さりとてユーカ姫を探す手がかりはあなただけ」
「それって私が言いふらしてバレるの怖いって奴?フン、こんな国があるなんて言っても誰も信じないよ。逆に私の頭がバカになったと思われるだけ。私の住んでるところ?世界と言うべき?ではね。でも、ユーカ姫も可哀想だね。毎日毎日こうしてバカみたいな質問されて答えてたわけでしょ。そのくらい自分で調べろって。逃げたくもなるんじゃない?」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-41-

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 ランチコースは以下のよう。突然なのでこの程度、とはジェフ氏の弁。駅構内レストランのテイクアウト。
・アボカドのサラダ
・子羊のローストにジャガイモ添え
・プチケーキチェリーソース掛け
・コーヒーとパンは好きなだけ
「君がようやく本当に姫様なんだと思えてきた」
 コーヒーをゆっくりと飲みながら、相原はそう評した。応じたメシ食っている、そういう認識とレムリアは理解した。
 レムリアは小さく笑うと同じくコーヒーを口にした。
「華奢で、小さくて、可愛かった、そして、何より一生懸命だった天使さん」
 照れくさいはずの言葉の数々も、最早そうとは感じない。なお、天使さんとは最初に出会ったときの彼の感想。何せ彼女は天から船で降りて来た。さもありなん。
「一気にオレの年を追い越して女に、大人の女になった気がするよ」
「生理になったから?」
「その判断は任す。そうだな、これでいいんだ、そんな認識。自覚と言うべきかな、その結果が君を変えた気がする」
「だとしたら……」
 レムリアはまず言った。そして、口にする確信。
「だとしたら、それはあなたのおかげ。あなたが自分にとってどんな存在か判ったから。ノロケになっちゃうね」
 乗客2名、2両のみのプルマン列車は国境を越えた。ベルギーの平原を駆け抜けて行く。
 これで、オランダ警察の追っ手が掛かることは無い。
 ジェフ氏は隣の車輛、コンパートメント・スペースに座しており、見ない振り。
「いっぱいいろんなこと話そうと思ったのに」
 レムリアは相原の目を見て言った。
 決して美男子ハンサムでは無い。ただ、自分のことを世界最強に愛してくれていると言える存在。
「自然に出てくる範囲でいいじゃん。もう、幾らでも時間はあるんだ。しかし……ああ、少し寝るかい?」
「うん」
 自分にまどろみが訪れたことを相原は察したようである。ゆっくり息を吸って、吐いたかどうかの記憶が無い。
 

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ユカちゃんハテナ王国へ行く【10】

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 するとセバスチャンはユカを抱きかかえ、塔の階段を降りてフカフカ絨毯の廊下まで戻った。
 ユカを下ろし、しゃがみ込み、バラの花みたいに広がったドレスの裾をバッとまくり上げる。ものすごい堂々としたスカートめくり。
「膝のほくろがない……おお、なんと言うことだ」
 セバスチャンはユカから離れ、立ち上がると、ユカの周りをぐるぐる何度も回ってじろじろ眺めた。それからマンガみたいに目を丸くし、両手で頭を抱えた。
 ようやく、自分がユーカじゃ無いという結論になったらしい。
 ともあれ、脱走するチャンス。
 ユカはドレスの裾をたくし上げ、更に抱きかかえて走り出す。
 
 
 イヤな結婚から逃げ出す花嫁。
「あっ!」
 セバスチャンは絨毯がフカフカ過ぎるせいか、追いかけてこようとして転んだ。
 一方ゆかは体重が軽いせいか、フカフカに余り沈み込まず、案外早く走れる。
「誰か!誰か捕まえろ!そいつはユーカ姫の偽物だ!」
「何それ!」
 ユカは走りながら怒鳴った。自分で間違っておいて失礼千万!
 長い廊下、その行く先ドアが次々開き、黒服に黒めがねという男たちがわらわら出てくる。
 しかし捕まる気がしない。伸ばされた腕はよけ、飛びかかってきたのはその下をかいくぐり。
 立ちはだかれたらフェイント噛ましてすり抜け。
 ひとりにドレスの裾を掴まれたが、そのままずぼっと脱げた。
 パンツ一丁。しかしむしろ身軽。
 下へ行く階段を見つけて降りる。
 階段下から男たちがぞろぞろ。階段横いっぱいズラリ並んで通せんぼ。
 そんなのが何列も。
 ユカは……しかし迷いなし。同じようなのアニメで見た。
「じゃ~んぷ!」
 ユカは思い切り飛び上がった。
 そのまま階段にギッシリ詰まった男たちの上にどさっ!
 こうすると人間の“防衛的反射行動”で咄嗟に避けようとするのだそうだ(作者註:この確かな情報源を私は知らぬ。従って常に通用するという保証は出来ない)。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-40-

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「理由は聞くなと仰せなので伺いませんが、私どもとしても、何かあった時の言い訳を考えておく必要がございます。こちらの殿方と逃避行、と理解してよろしいでしょうか」
 ジェフ氏はテーブル上のシャンパングラスを裏返し、ゴールドの炭酸飲料をとくとくと注いだ。泡が白く膜を作り、列車の揺れが新たな泡を作る。
「ええ、それで結構です。申し訳ありません。突然」
「いえ。殿下からはいつかチャーターを頂戴する、と伺っておりましたから。さて今回目的地は殿下の故国アルフェラッツと承りました。到着は明朝になります。必要な食料は積み込みましたが、寝台車が用意できませんでしたので、こちらの椅子でおやすみ頂かざるを得ませんが……」
「それで充分です。ありがとう」
「かしこまりました。では昼食の準備をさせます。ミスター、申し訳ありませんがパスポートを拝借」
 その定期運行の観光列車もそうだが、列車長が国境越えに関する権限一切を有する。ちなみに、逮捕特権すら持つ。
 相原はページを開いて氏に手渡した。
「ミスター、マナブ・アイハラ、ジャパン」
「イエス」
 相原は頷いた。
 レムリアは安堵の笑みを浮かべた。
「良かった。これで正規の出国スタンプが押される。そんなこと、この列車だからこそ」
 ジェフ氏と目配せ。
「王女の権限、て奴か」
「ええ」
 レムリアはテーブルの上で両の手を組み、頷いた。
 正規定刻になり、留め置かれていた駅の外れから本線へと滑り出す。ジェフ氏の説明だとまずは快速列車の後を追いダラダラ走るが、途中からドイツ版新幹線“ICE”用の高速線に入り、限界ギリギリの高速走行でフランクフルト、ニュルンベルクを経由し、東欧を目指すとか。ハンガリー以東のダイヤは調整中。
「ランチですがアルコールはいかがしましょう……フィアンセさん」
 レムリアはもちろん、相原も酒は飲まない。
 

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