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2015年2月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-70-

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 相原は縮むパンタグラフのように一瞬の動きでしゃがみ込み、スーツの襟首に添えた手の角度を変え、校長の首元に手首をあてがった。
 絞め技である。その状態から手首を軽く動かすだけで首が絞まって窒息する。この種の流れ技も柔道の本来形の一側面である。
 力や大きさが勝敗を意味する国家民族にとって、“柔よく剛を制す”感覚は理解を超えた文字通り魔法であろう。
 校長の顔には理解不能な存在に対する恐怖の色がある。
 勝負が付いた。
 レムリアは歩み寄り、拾ったナイフをもてあそびながら、校長を覗き込んだ。
「申し立てがあるなら時間を与える。私にも不行き届きがあったのかも知れない」
 それは王女の威厳を伴った問いかけであった。
 手にしたナイフは傍目に脅迫だが、レムリアはその刃をぐんにゃり曲げて見せ、どころか紙で出来たようにぐるぐるのロールケーキ状にしてしまい、放り出した。
 校長が驚いたか、身体動かす素振りを見せ、応じて相原が手首をぴくりと動かす。軽く締めて“一瞬で殺せる”ことを誇示する。
「……白人(この者はセイント・ホワイトと称した)がそれ以外の生物の支配下に入ることがあってはならない」
 校長は素直に認めた。
 それは植民地主義の裏返しと言えた。有色人種は人間では無い、それが大航海時代以降の植民地政策・搾取正当化の論拠になっている。
「現在ただいま合衆国の大統領はアフリカ系だが?」
「企んでるに決まってるじゃん。力の拮抗は常にある。表だって出さないだけ。見せたくない本当のためにいかにもそれっぽい嘘を前に出すんだって。ウチはその肝」
 相原の問いにレムリアは答えた。相原はフッと息を一つし、
「そこを潰そうと」
「その通り。最もこいつはただの差別主義者じゃ済まないけどね。……あなたの国へ行きたい、行くように動く流れのもう一つがそれ。キリスト教の仮面をかぶった困った人たちが多く入っているでしょ?」
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-20-

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「ここはいわばエセキリスト教だよ。端的には人類皆兄弟と称して性的関係を肯定する。目的はそれだけ。後は嘘。でも、中にいると、正しいことをしていると信じているから、奇異に見る目を逆に奇異と感じる。天動説地動説と同じ」
 理絵子は部屋中ゆっくり見回して言った。
「りえぼーは……」
「感じてた。見つけよう、取り込もうとする動きね。少しオカルトかじったのを吸い込もう……その繋がりの果てには本物がいるだろう。世界中でやってるよ」
 理絵子は北村由佳を一瞥した。
 それは一つの理解・洞察を田島綾にもたらした。理絵子は全て見抜いており、しかし一般的なコミュニケーションの体を装って北村由佳と距離を置いていたのだ。
「だから、あなたに何も意識させたくなかった。知ってしまったら知らんぷりは通用しないから」
 理絵子は綾を見た。綾は半ば自動的に頷いた。北村由佳を理絵子の友達と認識して接すれば、自分がダシに使われるであろう。
 そして、実際、ここにまんまと誘い出された。
 だから、そのどちらでも無い“無関係・無関心”の醸成に腐心した。
 しかし、理絵子を呼び出すことに成功してしまった。本物との接触実例を作ってしまった。
「およそ卑怯と思われることは何でもやるよ。だからそもそも無縁でいたかったんだけどね。でも、こうなった以上、もうそれは通らない」
「私のせい……」
 綾は萎縮した。
「ううん違う。既にこの彼女を落とした時点でアチラさん作戦殆ど成功」
 理絵子は首を横に振り、顎で“この彼女”、北村由佳を示した。
 それは傍目には誠に失礼な動作であり、綾は目を丸くする自分を隠さなかった。理絵子がそんな他人を見下す言動を取った記憶が無いからだ。
「彼女は、もう、別の何かだよ」
「うそ!」
 田島綾は反射的に大きな声を出し、慌てて居並ぶ者達を見回した。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-69-

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 相原はナイフ突き出して来たその腕を見、しかし特段驚くこともなく、その手首を取り、姿勢を下げ、相手の下に潜り込むようにして、くるりと向きを変え、
 柔道の一本背負い。
 校長は相原に向かって突進してきたのであって、相手の攻撃エネルギを用いる柔道にとって、それは充分なポテンシャルであった。
 校長の身体は見事なまでに円弧を描いて宙を舞い投げ飛ばされ、
 仰向けにリノリウムの廊下に落ちた。
 ちなみに、背負い投げは、投げた後で手を離せば自由落下、逆に叩き付ければ相手の後頭部を強打させ、早い話殺害できる。柔軟に対応できる。柔道とはよく言ったものだ。
 対し相原は、校長の身が自らの身体を乗り越え、落下モードになったところで腕を引き上げるような動作をし、下半身はさておき、頭部の打撃を回避した。
 校長は仰向けになり、覗き込んだ相原と顔を合わせた。投げられた際に手のひらを離れたナイフが今更のように音を立て転がり、レムリアが回収した。
「ジーザスクライスト」(イエスキリストの意だが、なんてこった、的な意に使われる)
 その見開かれ、そして震える青い瞳孔は、魔法を目の当たりにした現代人の反応そのものであった。
 魔法の国で、東洋人から、魔法を喰らった。
 彼の認識はそう解釈すれば合点が行くであろう。ちなみに、物理的手段に出たことは、校長自身は何らか超常の手段は持たないことを意味した。言い換えれば魔法の存在を知る者の走狗に過ぎない。
「何をした……」
 校長は相原に問うた。ナイフで刺したはずなのに、刹那の後には自分が叩き付けられている。
 相原は校長から手を離さない。
「これは“ジュードー”だ。オリンピックのポイント稼ぎはニセモノだよ。おっと余計なことはするなよ。貴殿を殺さなくてはならない」
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-19-

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 権化の口から汚穢なものが流れ出す。現象は嘔吐に似るが、白濁したそれはむしろ性的な射出物を思わせた。もちろん、子種であろうはずが無く、真逆の存在、命を冒涜する意図の乗じたものと理解された。相対的に権化はその形象をこぢんまりさせた。剣先でナメクジが塩に溶ける様に似て。
 
-目くらまし
 
 示唆があった。
 理絵子が剣先から足下に目を転じると、滴下した白濁物が個々に意思を有したようで動き出すところであった。伸縮しつつ、迷っているように見えるが、しかし確実に進むその様は軟体動物のヒルを思わせる。
 彼らは失神状態で横たわる幾人かの女性を目す。
 理絵子はハッと気付いたように目を見開き、槍先のこぢんまりしたものを振り落とした。
 振り落とされた権化は微動だにしない。主体が分裂し、各ヒル状の異体に移ったようである。
 分裂すれば一度に処理できない。権化はそう判断したのだと理解された。
「のうまく さまんだ ばさらだん かん」
 比して理絵子は唱え、槍と化したそれで床をドン突いた。
 槍はりぼんに戻り、同時に円環状の炎を放射した。
 それは具象化した怒りの観念、怒りの炎そのものであった。
 床面広がる炎の輪はヒル状異体を飲み込み、その先はひとたまりも無かった。あがく間もなく溶解蒸発してしまう。分裂して一度に処理できない反面、個々の耐力は低下していたと判断された。
 以上、時間にして3秒か。
 意識あってその場にいる者は二人だけ。見届けたのは彼女たちだけ。理絵子と綾と。
 他の者は失神して横たわっている。八方に広がるように北村母子ら“信者”があり、その中心には“牧師”を称する者がある。ズボンを下げ尻丸出しで昏倒している有様は無様そのものである。その口元には嘔吐の痕跡。
「大丈夫?」
 理絵子は綾に問い、彼女が頷くと真言を唱えて指で宙を弾いた。それは机上の小石をはじき飛ばす動作に似て。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-68-

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「何と言うおっしゃられようだ」
 校長は大仰に両手を広げ、眉毛がハの字。
「証拠があれば認めるか?」
 再び青い虹彩が動く。チェックメイトであった。
「2時間の猶予を与える。その間にこの城郭内から立ち去れ」
「姫様……」
「まだ言うか。汚らわしいから姫と言うな。それとも法の裁きを受けたいのか?お前がローデシア勢力と手を結んでいることなど既に把握済みだ」
「訳が判りませぬ」
「じゃぁこれは何だ」
 レムリアが手のひら開いて提示したのはバッジ。
 純白地に、米国南北戦争、南軍の旗を隅にあしらっている。イギリス連邦国家が国旗の隅にユニオンジャックを掲げているが同様のコンセプトである。
 南軍……奴隷制維持を掲げた白人優越主義の象徴。
 ローデシア。かつてアフリカに存在した白人優越主義国家。勢力はその残党。水面下でその主義主張を続ける企み。
 レムリアの指摘は、校長はそういう組織に送り込まれたエージェント。
 持ってして、そういう教育をし、洗脳せよ。この宗教的緩衝地を掌握し、恐らくは白人優越主義と密接に繋がる“キリスト教原理主義”に、この地の秘められた力を、魔法を取り込め。
 理由の二つ目。要は国家乗っ取り。
 オカルト、と一笑に付されるからこそ“本物”は偽物に紛れて生き残っていられる。
 果たして校長は、無意識に、で、あろう。バッジの確認に己れのスーツの胸裏に手をしてしまった。
 それは、キングが倒れた瞬間であった。
 チェスであれば。
「くそっ!」
 校長は暴言を口にし、意表を突いたつもりであろうか、相原に突っかかって行った。
 その時、レムリアは、その旨の警告を相原に出すことも可能であった。
 テレパスなら警告を発する猶予は充分であった。だが、相原が己に対する攻撃であると気付いた時点で、知らせる必要すらも無いと同時に知った。
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-18-

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 対して理絵子は……長い髪に結んでポニーテールにしていた白いりぼんを解いた。
 それは場違い無関係見えて当然の所作であった。
「我に力を」
 理絵子は呟き、りぼんを両手で引っ張ってぴんと鳴らした。
 次の瞬間、りぼんの中に金色(こんじき)の煌めきが発し、次いでりぼん全体が金色の剛体へと変化した。
 刀と言うより、剥き身の刃そのものを素手にしている状況に似ていた。
 理絵子は鞭打つ要領で金剛のりぼんを権化へ向けて投じた。りぼんは、りぼんならではのしなやかさを持って空を舞い、尾を引く流星に似て金色の煌めきを放った。
 男性器さながら膨張していたそれは急激に萎縮した。恐怖の故の萎縮を彷彿させた。
 萎縮の故にりぼんの鞭は空を切った。
 失敗したかのようであった。
 対して、翻るりぼんに向かい、噛みつくように、権化が口を開き、飛び上がる。
 それは、権化が虚を突くことに成功したかのようであった。
 ここからはマイクロセカンド単位の現象変化。すなわち刹那の出来事である。
 りぼんには一本だけ、金色の髪の毛が織り込んである。それは、以前超時空で邂逅した聖戦士、伝説に名を残す超常の戦女から譲り受けたものである。最後の手段、お守りとして持つことを許可する……彼女が理絵子に伝えた言葉である。
 その髪の毛が瞬時に棘と化し、伸びた。りぼんから金色の鋭利が伸展し、噛みつこうと開かれた権化の口の中へ侵入し、喉元深く貫いた。権化の喉元、すなわち、
 声にならぬ声が空気を揺らし、口の奥に配された目玉を破裂せしめる。水玉よろしく弾けて飛び散る。
 金色の棘は径を太くし、針となり槍となり見る間に巨大化し、りぼんと一体を成し、刹那の後、そこにはちびた毒魚を巨大な槍で刺したような理絵子の姿があった。弱い者いじめと捉える者があってもおかしくなかった。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-67-

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 レムリアがオランダにいた理由。
 初等校での教員ぐるみ全員からの無視。すなわち、いじめ。
 因子は人種の違い。子供達に王族卑下の洗脳行為。但しそれは振り返っての結論。そう考えた方が得心が行くのでテレパス噛まして確定。もちろん、公的な、科学的な証拠にはならない。
 ただ、私的、および、
 精神世界次元の対応には十分。
 いじめという行為を王族に対してやるか?と訝る向きもあろう。しかしここは決して裕福ではない国家であり、税金(と、実際には過去の遺産)により生活。国民感情は決して良くなかった。そこへ乗じた。以上、理由の第一。
「どうしますかレイシスト校長」
 吐き捨てるように、レムリアは言った。レイシスト。人種差別主義者。
 意趣返しが通じないならストレートしか手段はない。
「これは異な事をおっしゃる」
 普通、真っ向その手の最悪人格否定を受ければ、拒否から怒りへ転じたり、戸惑ったりするものであるが。
 比してこの“戯言をあしらう”ような対応。
「気付いていないと思うか愚か者」
 自分の声のトーンが下がる。そして、
 出てくる。押さえ込んでいたものが全部出てくる。レムリアは感じながら言った。
 それを止める手段や言葉は、自分も含めて、相原も含めて、確信を持って誰も知らない。
「なんと姫殿下、お言葉を返すようですが……」
「私以外のクラスメートにだけ宿題がある旨電話しただろうが」
 その時、校長の青い虹彩が一瞬震えるように拡大縮小したのが二人にはよく見えた。
 青さのゆえに。青い虹彩における中心部瞳孔の黒さのゆえに。
「……姫殿下、申し上げにくいのですがそれは言いがかりというものでございます。証拠はあるのでしょうか」
「愚か者。本当に罪無き者ならそのような反問はせんわ」
 説明は要るまい。何年前か知らんが良く覚えているもんだと相原は思った。
 普通、小さな嘘や悪さは忘れてしまう。
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-17-

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 理絵子の歩みは床の上に積み上がった人体の前で止まった。複数の人体が覆い被さっているその中。
 理絵子は睥睨し、右腕を持ち上げ、なぎ払うように左から右へ振った。
 積もった枯れ葉が風に吹かれるさながら、人体の山がどたどたと崩れて広がった。
 悲鳴を上げてはいけないと田島綾は自らを制した。
 異形の生命体がそこにいた。
 食虫植物“ハエジゴク”を思わせた。植物の茎のようなものの上に、尖った歯のズラリ並んだ口の形状があり、双葉のように開いてあった。そして、男性器さながらの物体が口の下に生えていた。その姿形で床面すれすれに浮いているのであった。
 性器と口だけの生命体。それは男性に帰属する性質が暴走して権化となったとすれば説明が付いた。
 どうやら、牧師に取り憑いたらしい。
 以下、権化、と称する。権化はおぞましい形状の口を開いた。
 口の中には目があった。奥方に埋もれていたのがニュッと伸びて目玉の形状を出現させた。人の目に酷似した一つ目であり、血走っていた。
 権化、の周囲には怨念と復讐が雰囲気を作り、小さいがしかし、強固に固まっていた。それら想念が男性原理と結着して凝縮した存在と理解された。童話のリリパットのように小さいのは、田島綾が看破した通り“小ささ”へのコンプレックス。
 と、田島綾が意識したら、権化の目が田島綾を向いた。
 いや正確には目を向けようとしたのであった。それを理絵子が直前察知したのであった。
 理絵子は伴った重力場もろとも水平に滑った。田島綾は理絵子の真後ろではなく、権化から目線が直線で届く位置にいた。
 権化の男性を象徴する部分が膨張し始める。それは、牧師状態の“動作”の“続き”を意図していると解せられた。
「悪魔。本物」
 理絵子はそれだけ言った。理絵子は死神、怨霊、使い魔、……魔物の類いは過去幾らか相対してきた経験を持つ。だが、こいつは、見かけこそ小さいが、それらと同じ手法は通用しないと判った。
 

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