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2015年4月

天使のアルバイト-003-

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 肩をすくめ、そのまま暫く監督教官について歩く。彼女が先程、机にいながら覗き込んだ教官室を行き過ぎる。もちろん、こちらを見る怒りの目がある。
 廊下を右に折れ左に折れし、明らかに教室の前とは雰囲気の違う一角。
 マホガニーの大きな扉。
「どうぞ」
 ノックする前に中から声があった。ゆったりとした女性の声で、典雅な趣。
「失礼します」
 監督教官が扉を開く。しかし、彼女は顔を上げて扉の中を見られない。
「エリアさん」
 典雅な声が彼女を呼ぶ。但しその口調は堅い。
「はい」
「わたくしはあなたを呼んだのですよ。お入りなさい」
 その声音、トーンは優しいが、雰囲気はきつい。
「……はい」
 彼女は顔を伏せたまま、おずおずと扉の中へ足を踏み入れる。ふかふかのカーペット。
 彼女を残して、監督教官が退出する。カチャンという軽いメカ音がしかし驚くほど大きく聞こえ、扉が閉まる。
 大きな部屋に二人きり。
 すると窓際、大きな机に座する女性が立ち上がる気配あり。
 彼女は半ば、怖々と、顔を上げる。
 流麗な黄金の髪の毛をなびかせた女性がそこにいる。“異国風”とでも表現したい顔立ちであり、王妃という言葉を思わせる清さ気高さを周囲に漂わせている。肌の色は透き通っているのかと思うくらい儚く白く、身にまとった薄いシルクの装束から、細く長い手先が覗く。
 机の位置から女性が近付いてきた。
「エリアさん」
 呼ばれたが、女性のまっすぐな目線を彼女は思わず避けてしまう。返事も、したつもりだが、声にならない。
「わたくしは、あなたを叱ろうという意図で、ここに呼んだのではありません」
 予想外の言葉。彼女は思わず女性に目を戻した。
 しかし、女性の目は(少なくとも彼女には)、刺さり込んでくるような糾弾の眼差しに感ぜられる。彼女は再び目を伏せてしまう。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-78-

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 電磁推進の金属塊は、刻まれた魔方陣の線刻を切り破ってしまったのだった。
 魔方陣の線刻。それは母も娘も知らぬ事実であった。玉座の間、床板裏面に、地下から迫る魔の力を抑圧すべく、魔方陣を刻んで封をしてあったのだ。祖先はその旨を子孫に伝えず世を去った。ただ、今、全て天啓の形で女性二人にはもたらされた。
 理由を父王の意識より得る。
 魔に必要なのはひたすらに長き時のみであり、魔を操する者が慈悲を施して途中解放することがあってはならない。
 従い、地の底へ送り込まれた魔を封じると共に、慈悲請う彼らの声すら遮るよう陣を講じた。そして、子孫代々が知ることすら無いように、誰にも告げぬまま世を去った。
 もし、開かれる時あるなら、時を司る者がそのように取り計らった時。
 そして、その時が来たならば、魔を司る者の威厳を持って接せよ。
 レムリアの理解する限り、魔の処理方法は多く二通りである。堕天使に代表される“魔道に落ちた者”はその心救い上げ慰謝を与えて光に返す。
 根源的な魔は魔界に戻して封じる。
 その根源を封じた場所がこれで、今、破れた。
 果たして黒い霧が電磁砲撃の穴から出現し、玉座の間を満たした。それは数千年を通じて後から繰り返し封じられ続け、合体して一つの人格をなした大きな魔であった。日本の昔話に出て来る“巨大な鬼”を思わせた。
 その存在に燕尾服二人は起き上がり、こけつまろびつ逃げ出した。魔の手先であろうのに怖いのか。
 対し、レムリアは怖くは無かった。
 不思議な感慨であった。黒い霧はもし魔王と称しても、そう思わせるだけの大きさ、力を感じさせた。だから燕尾服は逃げたのだろう。魔すらも恐れる魔なのだ。だのに、恐怖を感じず、実際攻撃もしてこない。
 

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天使のアルバイト-002-

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 具体的には出題した男性の意識を拝見、である。氏は離れた場所で執務中だが、難ではない。
 接触を悟られなければ。
 出題した当人(と表現しておく、便宜上)であるからには、回答例多く持つはず。その実体験を組み合わせれば。すなわちコピーペーストすれば。
 理解されよう、彼女の試みはカンニングである。
 その時。
「エリアさん」
 その声は、無人と思っていた暗闇から突如呼びかけられたように、彼女には感ぜられた。
「うわ!」
 返事ではなく、驚きの叫び声が彼女の口をついて出る。意識が捉えていた“出題者の記憶の映像”は持ち去られるように消えた。
 肩に置かれた手。振り返ると、試験監督の女性の目。
憐れむような、悲しいような、その目。
「……あの」
 および、周囲から集まっている、自分に向いた級友達の目。
 冷たい目。軽蔑の目。
「あなたの試験はそこまでです。リテシア様の所へ」
「はい……」
 彼女はしょげてうつむいた。逃げも隠れも出来ない。そうするつもりもない。悪いことをしたのは事実。
 筆記具を机に置く。そして促されて立ち上がり、みんなの目線を受けながら、試験監督の後につき、教室から退出して行く。
 扉を閉める。
 静かな廊下と、大理石の作りがもたらす、ひんやりした空気が、彼女に冷静な内省を促す。
 頭から、すーっと、血の気が引いて行く気持ち。ああ、人間さんの言う気持ちが判る。
「こちらへ」
「はい」
 歩きながら、徐々に、“とんでもないことをした”という気分になってくる。恥ずかしさと……どこか焦りに似たような気持ちが、心臓の鼓動を高める。それは恐怖に似ている、と言って良いか。
 ペナルティを課される予感なのだと気付いた。
「あなたは、どうも、取り組む姿勢に真剣さが足りないようですね」
 だから不正行為で済まそうとしたのでしょう?……婉曲なく核心を突かれ、返す言葉がない。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-77-

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 がちゃん、どん、ごろごろ、擬音で書けばそうなる。何かロックが外れて動力機構に接続し、大きく重く動く。
 レムリアが足元で何かを踏んだ。
 壁のレンガが崩れて目の前にバラバラに散乱し、光が二人の目を射る。玉座の間であり倒れている男が2名。
 男は双方とも、燕尾服にシルクハット。
 そして、玉座にありこちらを見る女王と父王。
 レムリアは片手で相原を制した。相原は引き金に指を掛け、その場にとどまった。
 レムリアから思念が流れ込む。それは、言語の形態を取っておらず概念であった。一瞬で何なのか理解できるが文字に起こすと以下のよう。燕尾服の二人は、普段は城で観光客を案内するガイド役。それが突如スイッチ入ったように玉座の間に来て父母に何かしようとした。否、父母の注意を引きつけようとした。
 気付かれた、という悔恨と怒りの概念があり、倒れていた二人が身を起こし、その口から攻撃の呪文が投じられる。
 レムリアがそれを阻止する。手のひらを“ことば”に向かって広げる。
 ただ、それは盾で跳ね返すような現象にはならなかった。燕尾服の二人を大きなシャボン玉で包むように、阻止する膜が生成された。
 呪詛を吸収し、膜が消えた。光と闇が相殺してゼロになる。レムリアは相原へ解説するように思念を寄越した。
 それが罠だったと知る。阻止ではなく、封じる、べきであった。
 燕尾服の再度の呪文。
 比してレムリアの対応は遅れたかのように思えた。が、
 相原手の中レールガンが発砲され、その破裂にも似た音は呪文をかき消し、唱えること自体、途切れさせた。
 呪文による謀略の抑止に成功した、かのように思われた。
 次の刹那、発砲されたレールガンのアルミ塊が床面を溶解させ、えぐった。
 燕尾服の口に笑みが浮かんだ。そこまでが罠か。
 魔が出現する。母娘の意識は揃ってそう言った。
 

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天使のアルバイト-001-

 
 試験中である。問題は唯一で以下のよう。
問題・庇護者が次のような仕草を示した場合、それは心理的にどんな状態にあるか。また、どんな示唆を与えればよいか。理由を付して述べよ。
 述べよったって……お気楽に試験を済ませようとしていた彼女は、困惑と不機嫌を、ため息に載せて、そっと吐き出した。周囲からも似たような心理を感じる。事前の情報では教科書ベースの選択肢問題、対して真逆の出題であり、裏を掻かれたと言って良い。詰め込みもヤマ掛けも全部吹っ飛んだ。
 かくて彼女は書くべきこと見つからず筆記具を机に転がす。
 午後の教室。窓から入る日射し柔らかく、温度は適切。眠るのに丁度いいという表現が使える。生徒として椅子にあるのは、いずれも白い薄手の衣服を付けた少女達。やがて、そこここから、筆記具を踊らせる硬質な音が聞こえ始める。
 試験監督は二名いる。いずれも年齢的には大人であり、一人は男性、一人は女性。少女達と同じく白い衣服をまとっている。女性が教室の隅から全体を見回し、男性が机の間を歩いて見回る。
 面倒くさい。彼女は考えるのをやめて、良からぬ行為に思いを巡らす。
 要は答えが判ればいいのである。どうせ試験なんかやったって、人間さんは千差万別。必要なのは実践ベースであり、覚えたことをここに書いても、まず間違いなく役に立たない。習った通りには行かないのだ。大体、世の中教科書通りに事が運ぶなら、私たちなんか不要だろう。
 だから。
 彼女は一瞬ならと思い、まばたきに見せかけて瞼を動かした。
 所要0.3秒とか。その間、彼女は知識と経験が豊富な意識を垣間見る。具体的には“思い出す”という行為を考えて欲しい。視覚を通して記憶された映像が数多、意識に並ぶであろう。同じ感覚で“自分以外”の意識を見たのである。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-76-

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 相原はそれだけ言い、先にらせん階段へ入った。
 レムリアは銃器の真意に気づき、ハッとした。
 自分の存在を悟られないようにする。忍者は、“雰囲気を消す”と言うが、それは探ってくる意志に対して反応を示さないことで可能となる。比して彼たちは探る意志そのものである。
 そればかりに頼ると、であるからこそ、機械の所作には逆に気付かない。
「探られてる、と思ったらオレに教えろ。注意を逸らす」
「どうやって……」
 レーダのようにスキャンしてくる思念。
「来た」
「アイ」
 相原はらせん階段の真下に向けて銃を放った。
 発射の破裂音が朗々と残響を引き、続いて、アルミ弾が床面突き抜ける音。
 地響き。
「城が進入防止モードになる。急いで」
 レムリアは言い、相原の手を引き、先頭になって走り出した。進入防止モード。石造りの構造物がゴロゴロ動いて砦に化けるのだ。地下に複雑な機構を持っているため、地下に想定外の衝撃があれば自衛で動き出す。相原の一撃で顕在化した。
 らせん階段が偽扉で封じられる直前に廊下へ入る。
「天井板ぶっ壊して反応しなかったのはなぜだい」
「誘い込んで閉じ込めるようになってる。中に幾らでも落とし穴あるから多少入られたところで状態。逆に言うとそうなってるから勝手に動かないで」
 あちこちから聞こえるドンドンという重い音、応じた震動。さながら震源。
「ついてきて」
 レムリアは走る。壁に手をして秘密の通路を開き、床をドンして秘密の階段。
 上がるようだが途中は鏡。数段上がって途中から降りる。
 真っ暗だがレムリアは自身の超常の感覚で、相原はグラスが有する暗視機能で足元を見ながら進む。
 足を止める。
「ここは王室の裏……悟られた」
 レムリアは呪文を口にした。唸るような低い声でミニマル反復のリズムを持って。
 

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「ブログ小説」というか「小説ブログ」というか【プチ予告】

元々「ココログ小説」というプロジェクトがあって、エントリーされて公認された物がココだが、プロジェクト自体の動きはその後聞かぬ。「プロも見ます~」みたいな物言いだったが、まぁどうでもいい。
作品公開用のwebサイトは元々作っていたが、それだと特定のキーワード検索と自分の宣伝しか拡散手段が無い。いや売れる物書けば済む話というお説ごもっともだが、無理矢理エロ突っ込んだりごちゃごちゃ込み入ってるの書きたくない。ファンタジーメインで「良かった」と思える話書きたい。それだけ。
で、時を経てスマホメインの時代となり、ブログを眺めるというのは一つのスタイルとして確立したように思う。逆に通常のウェブサイトを眺める機会は減った。さすれば、このブログ版の公開場所こそは「出張所」ならぬ「本家」そのものとしてよい。
そこで本家を大幅縮小することとした。参加しているウェブリング対応で置いておくだけ状態である。伴って「ココログに移植していない」作品は削除した。構わぬ、元々習作群である。ただひとつ、「天使のアルバイト」だけはサルベージしてリニューアルして掲載する。メイン張ってる3人娘は全員超能力者で、人間と妖精だ。そこに天使が加わればヒューマノイドとしては揃う(?)であろう。
多分、連載番号が久々に三桁になる。原稿用紙290枚。お楽しみに。

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-75-

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 相原が答え、二人してドア内側のパイプに掴まる。加速度があり、船体が上がって、下がった。
 この船自体は地球大気圏内において秒速3000キロでの移動を許容している。応じた加速と減速により、ほぼ一瞬で城の上に着いた。なお、単位は書き間違いでは無い。光速の1%速度である。最も、城から1キロも離れておらず、そこまでの速度は出していないが。
『現在位置、屋上布告台の上』
 それを聞いて、レムリアは出入り口の開口ボタンを押した。
「ここは任せて、船は……城へ来るマインドコントロールを吹き飛ばして下さい。ヘタに近づけると城の防御機構が働いて町を破壊しかねないので」
『アイ』
 レムリアは操舵手、ドクター・シュレーターに告げ、出て行こうと背後を見た。が、相原はおらず、見回すと程なく、長大な銃を背負い、グラス端末をメガネに重ねて、船首方から走ってきた。
 船が有する4機長銃の残った1機、レールガン、電磁加速銃である。アルミのインゴットを音速の2倍で撃ち出す。なお、学校前に降りた男達は光線系2機と、火の玉撃ち出すプラズマガンを持っている。
「銃なんか役に立たないよ」
「魔法に頼ってるから科学がモノ言うのさ」
 相原はニヤッと笑った。何か策があって持ってきたのではなく、いざという時裏を掻くためか。レムリアはなるほどと頷き、開いた扉から布告台へ飛び降りた。
 次いで相原が飛び降りる。中へ入ろうとするが、出入り口(車のサンルーフのように石板が水平にスライドする)が閉じられたまま。
 相原が間髪を入れずぶっ放した。パンという破裂音がし、蓋石板に穴が開き、そこから伸展した放射状のヒビだらけになった。
 銃底でぶん殴って叩き割る。
「魔法で開くのに」
「魔法は封じておけ。悟られる。まさか瞬くほどの時間で城へ来たとは思ってないだろ。そのまま隠せ」
 

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【理絵子の夜話】新たな自分を見つける会-25-終

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 北村由佳の中に、もはや複数の人格はなかった。再統合され、しかし以前とは異なる彼女の姿があった。
「母は……」
「あなたのためにと奔走した結果が今であるだけ。あなたの真実を理解すれば、離れる」
 理絵子は母親に手をかざし、触れた。
 母親が目を開く。我が身の置かれた姿勢状況に気が付き、翻して立ち上がろうとし、我が子と、理絵子に気がつく。
「由佳……」
「もう、必要ないよ。私、友達いるから。もう、今までと違うから」
「この……皆さんは……」
 母親は横たわる人々を眺めて問うた。
「やがて気がつくでしょう。この状況です。やっかいごとになる前に立ち去ることをお勧めします。そして二度と近づかない。早く!」
「は、はい」
 母子はそそくさ立ち上がりその場を後にした。
「結界を解けば衆目の知るところとなるでしょう。私たちも行きましょう」
 理絵子は友の手を取った。
 綾の強い目が自分を見ている。
「この手の攻撃って……気付かないだけで延々と繰り返されてるんだろうね。それこそ聖書みたいに、いろんな宗教の経典みたいに」
「幾らでも。押し返しても、消しても、幾らでも。恐らく、独立した族であり、人間の一部でもあるのでしょう。人間は生き抜くためにこいつらと取引したのかも知れない。長い原始の時代に支配欲とか破壊カタルシスが存在すると思う?どこかで生まれた必要悪。きっとそう。その対価がこの文明社会で、代償が格差社会」
 大きく動く気配を感じる。そして声が聞こえる。逃げよ、逃げよ。
 まともに相手するにはひとりでは無理。
 理絵子は横たわる人々を放置し、友と手を取りその場を後にする。
 
 数日後、世紀末ノストラダムス騒ぎで集団自殺。そんな活字が新聞の社会面に踊った。
 どうやら残った者達は絶命したらしいのである。
 黒野家に警察が来るまで長い日時は要さなかった。

 

 新たな自分を見つける会/終

 

 

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