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2015年5月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-83-

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「お前が気にする事象では無い。下がれ」
 比して女王は理由も述べず却下した。
 黒い霧は床面下へすごすご……と言うのが適切か、いささかの諦念を示して潜っていった。まるで廃油のようなどろりとした動きであり、少しずつ穴から流れ落ちて行き、糸を引き、ひとしずくとなり、全部落ちた。それは圧倒的な能力差、権限の格差を感じさせた……相原の理解。
 後は封印である。すると、父王の手に突然、レンガより一回り大きく切り出された石の塊が現れた。突然の質量出現に父王の手がガクンと下がり、ちょっと驚いたように体勢を立て直す。
 それはすなわち石の出現が女王の所作によるマジックであることを示唆した。
「学殿」
 父王は相原を呼んだ。
「何でしょう」
「封印は太古より繰り返し謀(はかりごと)によって破損と修復を繰り返してきた。が、先回の破壊より1200年。この形状を如何にしてその部位に整形付与し、形象を刻むか、術は失われて久しい。口述伝承のみ残存し、我ら男子にのみ受け継がれる。曰く、『英知と光もて封ぜよ。魔に悟られぬため術式を用いて刻印を生成してはならぬ』」
「つまり……」
 相原の問いかけを遮り、レムリアが補足する。
「つまり、修理用の石はあるんだけど、壊れた形に加工して、はめ込んで、魔方陣刻印する技術が無い。魔法を使って魔方陣を描くと、魔がそれを盗んで封を解く可能性がある。で、伝承では英知と光を使って何とかしろ。光は栄光(グローリー)の意味かも」
 その説明に相原は頷き、床面を見渡し。
「魔法陣は裏?」
「うん」
「するとまず裏返す。石を加工しはめ込む。魔方陣を描き直す。再度裏返して元通り。光は使って良い」
「そうだね。でも光って……何か出来るの?判るの?」
 レムリアは言い、相原の言い回しにハッとした。
 

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天使のアルバイト【目次】

天使が、人に近い属性を備える理由。
そして、だからこその過ち。その結果。
(毎週水曜昼12:00更新)
 

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天使のアルバイト-007-

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 呆然としてしまう。今自分にあるのは、この恐らく病気であろう肉の身と、その付随現象と見られる頭痛。
 すなわち“人間並み”。
「大丈夫?」
 黙ったまま、まばたきすらしないエリアに、女の子が尋ねた。
 エリアはハッと気付く。私はこの女の子に見つけてもらったんだ。お礼を言わなくては。
「あなたは……」
 エリアは女の子に尋ねる。ようやく女の子を見つめられる状態となる。その女の子はどう見ても“自分と同じ”普通の人間、日本の女の子である。
 ほっそりと言うよりはか細い……か弱いと言っても良い。一見して小学校高学年という感じの、幼さの残る娘である。実際は高校生であるらしく、ジャージにはデザインされた“高”の文字が入っているが、子どもっぽい印象は否めない。ただ、輝く瞳には知性を覗かせ、精神的な成熟を感じる。
「沢口由紀子(さわぐちゆきこ)」
 女の子はエリアの目を見、自らの名を答えた。そして。
「あなたとっても繊細な声してるね。お姫様みたいに綺麗だし……服装もお姫様みたい。でもどうしてこんな所に落ちてたの?それに……何かこう、とっても不思議……」
 由紀子のその言葉に、エリアは思わず目を見開いた。
 思い出す。
「どうしたの?」
 問う由紀子にエリアは答えなかった。
 映像がフラッシュバックしている『ここではない場所、異境で、個人研修…特別授業をしていただくということです』。
 そういうことか。エリアは立ち上がって周囲を見回した。
 そんなエリアを見、今度は由紀子が目を剥く。
「え?は?あなたハダシじゃない!どうして?」
 由紀子はエリアを上から下まで見回し、指摘した。
 エリアは自分の足元を見やり、指摘通りの状況を認識し、次いでゆっくり、しおれる花のように腰を下ろし、由紀子の顔を、見た。
 大体、事態は把握できた。後は確認。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-82-

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 以下、思念だけのやりとりを要約する。彼らはそもそも人の形をとることで、結界されたこの国・国土への侵入に成功した。応じて、人の形を取っている段階で排除する。
 人の肉体はある意味、心を直接攻撃されることへのシールドである。応じて、人間性という概念が成立する。またこの結果、今行った自分の攻撃も気付かれず遂行できた。彼我の“魔の違い”に気付かなかったというのだ。
 果たして黒い霧が戻って来た。まるで王室が“彼”を吸い込んでいるような挙動を示して王室内部に流れ込み、再度人の形に集合する。
「終わった」
 何をしたのか、概念で寄越す。
 
-闇の中の闇は存在が判らない。目立たないようにした。
 
「ダークマターだな。天使のヒエラルキならぬ、宇宙構造の転写ぜよ」
 レムリアの思念を受けて相原が言った。宇宙、例えば銀河の質量は、見える星の数だけでは、その星々を引き留めておく重力に不足する。観測されない質量因子があるだろうという仮説が立つ。その因子を見えない、イコール黒いとして、ダークマターと称する。
 宇宙空間という背景の持つ闇に隠されているのである。
 集合魔バルトクロイツは、この比喩を正しいと評価した。つまり、各々人格の“断魔”成分を自身に、すなわち“集合魔”に取り込んだ。
 闇に闇を吸い込んで隠した。
 そして、何かを待っているようである。人体の形状に戻らない。濃密な生きるインクの様に王室空間を漂う。
「戻れ。相応しくない」
 女王は命じた。
「何と?」
 異議が室内に満ちる。
「再度封をする。中に入れ」
「封印は壊れた……」
 どうやらバルトクロイツは自由が欲しいらしい。対価、というわけだ。
 しかし、解放すれば何が生じるかレムリアには見えている。“ダークマター”をも飲み込んだ彼の中では、さながらお家騒動のように主たる人格の主権争いが生じ、バルトクロイツとしての個は存在不可能となるであろう。人間で言う多重人格で、人格同士が喧嘩をする。
 それは彼という言わば“生きる封印”の意味が無くなる。集まっているからこそ封として働く。
 

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天使のアルバイト-006-

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 言葉が出ない。状況が判らない。ここが川っぷちで、傍らに見知らぬ女の子がいて、
 寒い。
 もう一度くしゃみが出る。見知らぬ女の子がジャージを脱ぎ、自分の肩に掛けてくれる。
「……ありがとう」
 エリアはとりあえずそう答え、ジャージの上着を抱きしめるように身体にまといつける。
 日本語が喋れる状態と後追いで気が付く。思惟も日本語で紡がれる。すなわちここは日本。
 寒い。恐ろしいくらいに寒い。
 にわかに感覚神経が活動し始めたかのようである。秒単位時を追うごとに寒さがいや増す。
 ガチガチと勝手に歯が鳴り出し、身体がひっきりなしに震えて止まらない。
 自分の身体が悲鳴を上げているのが判る。頭に“がんがん”と擬音を付けられる周期的痛みがあり、熱を、温かいのものを全身が切望している。
 ただ座っているだけすらも苦しい。
 この一連の未経験の不快感は何なのか。エリアはそれが“肉体”の属性であることにようやく気付く。自分は今“人間のように”生物体としての肉体を持ち、ここにおり、この女の子に存在を発見されたのだ。
 この急激な変化の意味するところは何か。一体自分の身に何が起きたのか。エリアは探って発見を試みる。感覚を研ぎ澄まして…。
 ……働かない!
 衝撃と共に認識する。それは“心で全てを感じ取る能力”、肉体の属性ではなく、意識が所有する能力である。人間の概念で言うところのテレパシー。それは、あらゆる情報が、“波無き湖の波の音を聞こうとする”、心理状態によって得られる、はずである。
 それが一切機能していない。
 あらゆる感覚が鉛のベールをかぶせられ、極めて鈍くなってしまっている。普段の10分の1以下。いや皆無だ。何も感じ取れず、まるで闇夜で霧にまかれたよう。ただ感じるのは、頭のズキズキと心臓の鼓動、血圧上昇による頸部の周期的圧迫感。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-81-

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 相原は言った。レムリアは現在、自分の思念をこの夫たる者に流し込んでいる。応じた彼の反応であった。
 それはすなわち。
「新種の魔族と?」
 レムリアは誰にともなく尋ねた。
 母が言う。
「天使から悪魔が転じたように、人からもその属性を全く逆の位相とした魔が転じたのかも知れません」
「メディア殿……」
「何だ」
「ここに徘徊する者私に任せてもらえぬか」
「認めない。魔に借りを作るつもりは無い」
 レムリアは即答した。
 対し、女王が応じた。“異議”をレムリアは感じた。そして、反駁するものでもないとすぐに判じた。
「我が名において命ずる。集合魔バルトクロイツ。断魔を滅せよ(めっせよ)」
 女王の命であった。
 借りを作らない。そのために使役する。
「御意」
 バルトクロイツと、“名付けられた”集合体たる魔は、霧状に戻ると、父王が操作し開いた王室天井から外へ出て行った。
 なお、天井が開くのは月光を呼び込むためであり、伝承の技の正式名称……アルフェラッツ・ムーンライト・マジック・ドライブからして自明の機能と言える。
「名前を与えると存在を認めることになるんだ」
 レムリアは相原への説明としてそれだけ言った。結果、女王が上位に立ち、提案に応ずるではなく使役側に立てる。
「彼らは破壊はするが創造はしない。光があるから影が出来る」
 父王の説明。
 レムリアはテレパスを拾った。
〈私です。これは一体……〉
 副長セレネであった。映像が飛んできて識域で結像する。黒い霧が街を包んでおり、各所で人体を身動き不能にしている。
 レムリアは母を見た。これは傍目には殺人行為に映らないか?
「滅せよと私は命じました。応じて彼は動いた。講じる手段を持つということでしょう。寄生者が宿主を支配するに近いようです。大丈夫、あなたが危惧するような内容ではありません……」
 

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天使のアルバイト-005-

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 そして白い物体のそばに立つ。彼女は体力がある方ではないようだ。僅かな距離でも肩で息をし、胸を押さえてちょっと咳き込んでから、白い物体を覗き込む。
「やっぱり……」
 彼女は呟く。それは白い……服をまとって横たわる。
 少女。同年代か少し上。
「うわぁ……」
 彼女は目を見開き、横たわる少女を見る。その少女は美しい金色の長髪の持ち主である。
 顔立ちはどこぞの“姫君”かと思わせる典雅で高貴な趣を持ち、息を呑むほど。しかし髪の色の割に欧州系という感じではなく、渋谷あたりで見かけても不自然ではないと書けようか。茶髪のモデル系美少女のイメージに近い。そして……シルクだろうか、その纏った白い衣服は、住宅街の灯火の中でわずかに光沢を放ち、豪奢そのものである。言うなれば劇中のシンデレラが何かの拍子にこの場にドサッと落ちてきた、そんな感じか。白い衣服をフワリと広げてそこにいる様は、さながら純白のユリの花。
「不思議な子……」
 彼女ため息と共に呟いた。しかしすぐにハッと思い出したように。
「ねえ」
 姫君の如き少女に呼びかける。
 姫君の如き少女に反応なし。そこで彼女はしゃがみ込み、少女の肩を掴んで揺らす。
「ねえってば、聞こえる?」
 姫君の如き少女の口から、吐息に近い、小さな声が漏れた。
「起きて。こんなところでそんな薄着じゃ風邪引いちゃう」
 生きていると判るや、彼女は姫君の如き少女を激しく揺らした。電車が通り、呼びかける声を轟音がかき消す。行き過ぎる窓々から明かりが漏れ、二人を古い映画のように点滅させて見せる。
「うるさい……なあ」
 姫君の如き少女が呟き、不機嫌そうに表情を歪ませる。意識は不明から引きずり出された。
 大きなくしゃみ。
「ホラ、風邪引いた」
 姫君のような少女……エリアは目を開けて半身を起こす。そして。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-80-

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 “悪魔”が堕天使を出自とする魔族であるのは、それこそ新約聖書の黙示録に書いてある。今、目の前の集魔はその直系というのがレムリアの理解。だから、人間の心理と親和性が高いのだ。
 比して今この国を徘徊する、人種差別を肯定する“魔”は違うのか。
「説明を許されよ。我らは闇だ。しかし光あってこその闇であり、光のための闇だ。が、これらは異なる。我らを騙り、時に神をも騙り、別の何かでこの星を囲繞しようとしている」
 集魔が、あろう事か、魔族が恐怖を抱いているのを、レムリアは感じた。
 そして受け取った概念……バラバラ。
「我らと貴殿らは契約の下にある。繋がりだ。ゆえに我も今、個として具象化できていると考えている。貴殿が我を消去することは可能だが、行使しないと信じている」
「魔族が信じるとは滑稽だが、お前の心に私に対する恐怖は無い。その通りであろう」
 レムリアは応じ、そして知った。
 聖書に出て来る“悪魔の体系”は“天使の体系”の転写・影である。同様にヒエラルキ構造があり、相互につながりがある。もちろん、人間も同じ。結びつきがあるからこそ、人は人として自己を確立し、生きていられる。
 他との関わりを断たれた人は、往々にして、生きている意味・存在価値を見いださない。
 居てもいなくても何の関係もない、と自己認識するからである。
 この集魔は繋がりを肯定している。集合しての一個体はその具現化と言えよう。
 対して、今この城を囲繞し、国民を侵食している魔は“繋がり”そのものを断とうとしている。なるほど、異質である。
 すると、
「その概念、断魔とでも名付けさせてもらおうか。平井和正の幻魔のパクりだけどな。殺すとか、滅ぼすよりも、行く末の結果は悲惨になるかも知れないぜ。人間という生き物の尊厳そのものへの挑戦だからな」
 

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天使のアルバイト-004-

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 女性リテシアはため息を小さくひとつし。
「あなたは、“付与された力”を、なぜわざわざ抑圧し、様々なことを考えさせ、行動させるか、その意図が判っていません」
 反論不能。
「そこで、しばらく、あなただけの力で生活し、その理由を判ってもらおうと思います。級友の皆さんとは、しばらく会えません」
「え?」
 彼女は目を円くして女性を見た。
 意図が判らない。束縛懲役に相当する罰則はないはず。
「その通り。ですので、ここではない場所、異境に派遣し、個人研修……特別授業をしていただくということです。級友と連絡を取ることもできません。付与された力の一切を封じます。あなたは、あなた自身の力と思考、同じ場所に住む他の方々たちの協力のみで生活するのです」
「あの……」
「大丈夫、命に関わる場所ではありません。では、派遣します」
「あっ!」
 彼女が質問するより早く、女性の手が彼女の額に触れ、その瞬間、彼女は意識のヒューズが飛んだように何も判らなくなってしまった。
 
 
 日本、埼玉県。
 夜の川に掛かる短い鉄橋を電車が行く。白い車体に青いストライプを巻いた私鉄電車。鉄橋の上だけ鉄と鉄の組み合わせであり、電車にとっては一またぎと言って良く、轟音が車輪の数だけリズムを刻む。
 午後7時30分。
 学校の体操服だろう。ジャージ姿が川沿い堤防、斜面を覆った草の上を歩いてくる。小柄で、川沿い家々から漏れ来る灯火で女子生徒と認識できる。彼女は、その草に足首まで埋もれさせながら、比較的ゆっくりしたテンポで歩いている。
 と。
「ん?」
 彼女は前方、草むらの中に異変を発見し、足を止めた。
 それは一見、丸めてくしゃくしゃになった白いシーツ。
 違う。
 人である。
 彼女は気付いて駆け寄る。急いでいる割にはゆっくりした足取りで、まとわりつく草にちょっと困惑しながら。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-79-

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 レムリアは相原に入室を許可した。そこでセレネから意識。-あなたは玉座の有様(ありよう)のみを見て。燕尾服は私に任せて。
 声がした。
「人の形に具象化して良いか。話がしたい」
 いない男の声。重心低い周波数分布であり、それだけで魅力的な風貌と表現できる。耳の細胞が捉えて聞こえたが、霧状の魔王が合成していると判じた。
「よろしい」
 レムリアは威厳を持って許可した。
 魔女は魔族の上に位置づけられる。相原は理解した。魔の力を御せる、だから魔女なのだ。
 果たして黒い霧は人体の形象にまとまった。但しのっぺらぼうの、デッサン用の立体人形と評すか、ネット社会的表現を使うならアバター状態。
「私は醜い姿になる。この姿を許して欲しい」
「夫に問うな!」
 レムリアは鋭く叱責した。
「申し訳ない」
 萎縮の観念が形象に表出する。黒い人型は目に見えて縮んだ。
 以下、この魔の集合体を表現する代名詞として“集魔”を用いる。
「以後は私とのみ会話を許可する。……あなたもね……続きを申せ」
「その勢力は、我々の知る者では無い」
 “集魔”はいきなりとんでもないことを言った。は?
「お前の仲間では無いと申すか?」
 レムリアは両親をチラと見た。どちらも“魔族”であるのだろうが。
 何が違う。
「我らはアルフェラッツの僕(しもべ)が誇り。アルフェラッツは我らを消しはしなかった。元より力及ばぬこと承知。何を挑むことがあろうか」
「悪魔が悪魔の力を借りるのか?とかキリストが言ってたような」
 相原が言った。確かに新約聖書にそんなやりとりがある。描かれている“魔”は悪魔のみ一種である。
 それと違う、ということか。
 父王が、口を開いた。
「メディア、“魔”が一つの族でのみある、いうのは単なる思い込みではないか?」
 

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