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2015年6月

【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-87-

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『オレが持って降りる』
「OK。レムリアは魔方陣のビジュアルを船のコンピュータに転送して欲しい。レーザで掘らせる」
 それは光の力、再び。
「はい」
 レムリアは答えた。連綿と受け継がれてきた過去と、自分自身の有り様が、今ここに、文字通り、焦点を結ぼうとしている。
 そうして自分も受け継ぐのだ。それは強い認識。王家自体は法制上無くなろうとも、この地自体は残るであろう。それは確かな直感。
「行くぞ」
 程なく大男ラングレヌスの声がし、長銃抱えて無造作に飛び降りた。王宮屋根は応じた高さがあり、傍目には“飛び降り自殺”のように見えてもおかしくないほどだが。
 ドン、と音立てて飛び降りた彼は、即座にスタスタ歩き出す。まるでロボットのような無機質さである。何のことは無い、彼は“不死身”だ。その肉体は粘土のような特性を持ち、傷つかず変形もしない。ただその代わり体温は冷たい。
「ほれ」
「あい。で、悪いんだけどついでの頼みが。ちょっとそのまま」
 相原は長銃を受け取ると、修復用のブロックを下に置き、プラズマの銃口を向け、銃を直立させた。
 数回小刻みにトリガし、その都度白い火の玉が出て緑閃石のブロックが灼熱する。
 赤熱し溶解した石の出来上がり。
「これを、そこへ押し込んで欲しいんだ」
 相原はピザの囓り口を指差し、ニヤッと笑った。
「人使い荒いぞ」
「王女の権限で」
 ラングレヌスの言い返しにレムリアが被せた。“命令”というわけだ。
 彼は巨躯の肩を揺すってひと笑い。
「しょうがねぇな。だが人命救助じゃ無いからタダではやらんぞ。相原、お前のおごりでしゃぶしゃぶ特上な」
 彼は言い、灼熱したブロックを無造作に素手で掴み、囓り口にあてがい、手のひらを載せ、そのまま上からグイと押した。それは一般に手指が火炎に包まれてもおかしくはない。されど、彼の手肌に何か変化があるわけでは無く。
 

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天使のアルバイト-011-

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 気が遠くなる。悲しくなる。どうやって……その後は?……浮かぶ思いはそればかり。
 涙も出たかも知れない。
 頭まで布団を被り、潜り込む。
 そしてそのまま、いくらか、うとうとしただろうか。
「ただいま~」
 聞き憶えのある女の子の声。
 由紀子ちゃん。
 エリアは少し安堵を覚え、布団の中で半身を起こす。襖の向こう、由紀子ちゃんが走ってくる方へと目を向ける。慌てたようなドタバタとした足運び。ちょっと転ぶよと言う母親の声。
 襖が開いた。
「目が醒めたんだって?良かった」
 肩で息をしながら、ブレザーの制服に身を包んだ由紀子が入ってくる。そして、エリアのそばにぺたんと座り、顔を抱きしめられる。
「良かった……。本当に良かった……。お母さんたら、お金がないからって、入院させてくれないんだもん……」
 エリアが健康保険の仕組みを聞くのはずっと後の話である。
「ずっと心配で食欲もなかったんだよ…。あなた、熱全然引かないし……時々うわごと言うし……」
「ごめんなさい……」
 エリアは戸惑いながら、とりあえずそれだけ言った。いわゆる“病気”の状態を経験したことがないせいもあるが、ここまで誰かに心配されたことはない。
「迷惑……かけてばっかだね。突然河川敷に落ちてるし、病気になるし……」
 申し訳ないような気持ちと、しかし、くすぐったいような嬉しさ、ありがたさが同居している。結果、表情筋は笑みを作った。“はにかみ”という奴だ。
 ありがとうという言葉が自然に浮かぶ。誰かに気を遣ってもらうというのは、こんなにも、不思議で、暖かな気持ちをもたらすものか。
「いいよ、いいよ、許す。とりあえず治ったんだから。さぁ、治ったら食べなきゃ……。日本の料理、食べられる?」
「え?」
 エリアは由紀子を見る。言われている意味が判らない。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-86-

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 相原は喋りながら、円形の蓋に沿って歩き、蓋の縁を銃の筒先で突いて回った。場所により、叩いた響きのトーン、硬さが変わる。
 相原はまず、自らが開けた穴の断面へレールガンを寝かせて一撃した。蓋は現在、端っこをつまみ食いされたピッツァの様な姿だが、その囓られ部分にアルミの弾丸を水平方向の弾道で叩き込んだ。
 蓋がずるりと水平に回転し、ズレる。
 ごとん、と大きな音。
「ああ!」
 レムリアは気付いた。蓋が少し回り、ロックが外れた。
 囓り口から角度にして120度ほど。キラリ光る部位が現れる。
 レムリアは隠し通路へ両親を案内した。
「ドクター、このキラリ部分へエンジンから軽く光圧放射。蓋をひっくり返す」
『アイ。待避せよ。カウント3から。3・2・1……』
 4人は隠し通路へ身を潜めた。
 アルゴ号のエンジンは光子ロケットである。すなわち、光そのものの圧力で推進する。
 その出力を蓋の端部に集中させる。
『目を閉じよ』
「アイ」
 瞼の裏が真っ白になる。
 続いて、風が起こり、ドンと重い音がし、地鳴りが響いて少し体が浮いた。
 裏返った蓋がそこにあった。刻印の魔方陣。5時の方向囓り口に欠損あり。
 相原と父王が同時に身を乗り出して覗き込む。
 蓋裏はそこここに修復した痕跡が見受けられる。四角くなっている箇所は今回同様の修復ブロックで後から繋いだ場所であろう。
「石の溶けた部分がある。ストライエーションっぽいものもある。熱的に溶かしてノミと金槌で懇々と作業したものもある。知恵と工夫と根気が刻まれているよ……船内聞こえるか。プラズマガンを下ろしてくれ」
 太古からの工夫に対し、現代相原の手段はそれであった。なお、ストライエーション(striation)とは、同じ方向の細かい亀裂が並んで見える状況を言い、同じストレスが繰り返し印加されたことを示す。
 

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天使のアルバイト-010-

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 もしかすると、このまま戻れないのか。
「ところであんた名前は?」
 中年女性……由紀子の母親の声に、エリアは目を開く。
 は?名前……?
「この辺の娘(こ)じゃないね。おうちは?学校はどこ?」
「え、あの……」
「言いたくないならいいよ。私だって無理に家に戻そうとは思わない。でも名前だけは教えて。名無しのゴンベじゃ呼ぶのも困る」
「エリア……」
「えりか?」
「え?あ、はあ」
 エリアは頷いた。母親の声がロクに意識に届いて来ない。これからどうすればいいか、答えのない問題を提示されたみたいで頭が呆然。名前なんかそっちのけ。
 母親が少し困ったようにため息。
「まだ熱が残ってるのかしらね。もう少し寝てなさい。治るまでは置いてあげる」
「……すみません」
 それしか出て来ない。しかも、本当なら真っ先に言うべきは助けてもらった礼だった、と気付いたのはずっと後のこと。
「いいよ、お気楽に。何か不思議なお嬢さんだね。世間ズレしてないというか。浮き世離れしてるというか」
 母親が立ち上がる。部屋の隅へ歩いて行き、襖を開け、退室し、襖を閉める。
 廊下を遠ざかってゆく足音。
 静かになる。部屋は純日本風な造りの和室6畳。引きひも付きの蛍光灯。単調にコチコチ動く時計の秒針。
 人間さんの居住空間。
 状況を整理する。まず、自分は人間世界へと追放された。
 そして身も心も人間並みになって風邪を引き込み、ここへ、由紀子ちゃん家に運び込まれた。
 これからどうすればいい。“上”へ戻る条件、方法は?
『あなただけの力で生活してもらおうと思います』
 反芻する。追放前に聞かされたリテシア様の言葉。
『あなたはあなた自身の力と、同じ場所に住む人たちの協力のみで生活するのです』
 それはつまり。考えるべきは戻れるかどうかではなく。
 ここで、人間世界で、人間と共に生きろというのだ。
 一人で!
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-85-

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「了解……ここ、開けっぱで作業してOK?」
 相原は猶予に答えると、天井を指さして訊いた。レムリアは質問先が自分だと気づき、我に返って。
「ええ、中庭に降りるより船には安全でしょう」
「了解。聞いての通りです」
 欧州冬期で吹きさらしだが寒くは無い。
「それは応じた“場”が出来ているから」
 レムリアは相原の意を読んで説明した。
「実はこの蓋の下、魔物達が心地よいように作ってあるんだ。結界は外部侵入阻止と共に、そういう環境の保全も意図している。さっきの彼が戻った理由の半分はそれもあると思う」
「魔物を守る……」
「使役者の義務だよ」
 言葉かき消すようにアルゴ号が飛来した。上空に静止し、マストを倒し、帆を広げ、パラシュートのように扱い、真下へ降りてくる。
「ドクターまた新たな技を……」
 相原は小さく笑った。アルゴ号は通常高圧空気を噴射して徐々に降りてくる。学校前の暴風の正体である。不可能な場合帆膜を広げて滑空する。ただ滑空は紙飛行機と同じであり、降下着陸には応じた空間を必要とする。
 比してパラシュートは更なる降下法であり、真下に降りられることになる。但し若干前後左右にエアを吹き、垂直降下実現のため制御を行っているようだ。
 船が近づいてそれと知る。城の天井空間に対してアルゴ号船体は大きく、王室内に入るには至らず。
『入れないが』
「城壁にまたがって着船されて構いません」
 女王が答え、船は竜骨二カ所で王室の壁面上端に接し、その帆膜を前後に広げて補助接地点とし、船体バランスを確保した。
「で?どうするの?」
 尋ねたレムリアに相原は笑みを返す。
「まずこの蓋をひっくり返す。船内、現在操舵権はシュレーター博士という理解で宜しいか」
『その通りだ』
「レムリア、お父様、お母様、そこへ待避を。ドクター、我々が壁の後ろに下がったら……」
 

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天使のアルバイト-009-

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「しっかり掴まっててよ……店のケータイ持ってくりゃ良かった……うわ!軽い!赤ちゃんみたい」
 由紀子は驚き歩き出し、一歩一歩踏みしめるようにして、ゆっくりと堤防を上ってゆく。
 エリアは、由紀子の背中で、涙が流れ出すのを感じながら、華奢な身に体重を預けた。今、自分は、人間の女の子に背負われてる。人間みたいに、高熱を発して。
 初めて会った相手なのに、今できることは、彼女に頼るだけなんて……。
 情けなくて、惨めな気持ちが、涙をどんどん溢れさせる。
「ありがとう……」
 エリアは、どうにか、それだけ、絞り出した。
 後は、良く、憶えていない。
 
 
 エリアは“人間的”な眠りをしたことがない。
 生命体の体を取る時、応じて休みは要するが、いわゆる居眠りを時々するだけで事足りるからだ。しかも、仲間内では眠る彼女の方が珍しい位で、全く眠らない者もある。そもそも身体自体がタンパク質の集合体ではなく、肉体的要因で休む必要がないからだ。
 だから、布団と枕の寝床で目覚めた時には心底驚いた。仰臥状態というヤツだ。
「お目覚めかい?」
 たっぷりした体格の中年女性が自分を上から覗き込んでいる。状況が今ひとつ把握できない。何がどうやら……。
「あの……」
「起きちゃダメ。あんた夜露でびしょびしょでね。失神してるし熱も40度あった。お医者に来てもらってね。入院する必要はないというからウチで預かった。まるまる2日寝てたよ」
 言われて、記憶が甦ってくる。そういえば女の子、あの由紀子という名の娘の背中で……。
 ここは彼女の家か。
「由紀子ちゃんは」
「学校行ってるよ。真っ昼間だもの。あんただって本当は学校に行ってる時間でしょうが」
 学校……エリアは自分の失敗を思い出し、目を閉じた。
 瞼の裏が熱くなる。後悔と懐かしさ。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】Baby Face-84-

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 光は使って良い。それは、使える光があることを知る者の物言い。
 光。それは栄光、或いは王族の威光といった、言わば“なぞなぞ”の類いと思ったが違うのか。本当に物理学の言う光を使うというのか。
「持っても?」
 相原は父王の手のひらを指さして問うた。
「ええ。あなたは私の夫(つま)です。部外者だと死ぬけど」
 レムリアは代わりに答えた。夫という字を「つま」と読ませるのは日本の古風なスタイル。短歌などでは今でもよく使われる。
 相原は、失礼、と言って父王から修理用石材を手にした。それはレムリアが心から彼を身内と認めていなければ“死ぬ”リスクを包含していたわけだが、彼が意に介した様子は無い。
 二人の間の信頼の醸成を裏打ちする。
 相原は石を見回す。白っぽく石英のようだが、所々緑色のキラキラを含む。
「アクチノライド」(緑閃石)
「我々は、材質までは、把握しておらんのですよ」
 父王は言った。1200年前は“同じ石かどうか”は気にしたであろうが、物理学的な分類を可能とする技術力は無い。対し現代の相原はそこを気にしている。
 相原は石を手にしたまま、レムリアを見た。
「人の手、人の創意工夫による手段で、光であれば何でもいいんだな?」
「ああ、構わない」
 再度の確認には父王が応じた。
 相原は上を見た。魔物が出入りした上の穴。
「アルゴ号。周辺問題なければ城内王室真上へ頼む」
 レムリアはそれで全てを知った。
 相原はアルゴ号の光動力・ビーム類を使うつもりなのだ。
 鳥肌が立つ。この王家に伝わる“真理”とされる言葉“その時は光が解決する”。言い伝えが成就する瞬間に自分は立ち会うことになるのか。そして、アルゴプロジェクト参加時に聞かされた“22世紀テクノロジーの先取り”。それはすなわち極めて先進的な技術と、太古伝来の魔法の融合。
『猶予2分請う』
 

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天使のアルバイト-008-

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「バカな質問と思わないでね」
「ん?」
「ここ、どこ?」
 由紀子は一瞬目を円くしたが、すぐにニコッと笑って住所と川の名前、近隣の私鉄駅の名を言った。
「人間の世界……」
 エリアは呟いた。間違いなかった。これで事態がようやく全て判明した。
 自分は、ここに。そう、この由紀子という娘の言う通り、“落とされた”、のだ。
 気が遠くなり、力が抜ける。これはやはり追放ということか。
「ちょっと……顔青いよお姫さん。大丈夫?」
 由紀子が心配そうに覗き込む。
 絶望がエリアを襲う。自分は堕天使よろしく追放された。
 しかも、“力”を剥奪されて。
「ねえ。お姫さん。寒いの?……」
 由紀子は続けて訊く。しかし、エリアには由紀子の声が聞こえていない。
「もう」
 由紀子が半分怒ったように頬を膨らませ、エリアの額に手を触れる。
 そして。
「うわ!」
 由紀子は驚きの声を上げる。エリアはそこで初めて、落胆に埋没していた自分の意識を引き出し、呆然と由紀子を見る。
 なぜ、彼女が驚いているのか、判らない。
「すごい熱!ちょっと、とにかくウチまで行こう」
 由紀子はエリアの肩に手を回し、抱き起こした。
 そういうことか、と、エリアは思う。理解が遅い。ちなみにそれは、事態の認識に伴い落胆し、張っていた気が抜けたことに加え、高熱による貧血状態が急激に現れたためであるが、普段熱など発しない彼女には、すぐにはそれと判らない。
「おぶってあげる。私の首に腕回して掴まって」
 エリアは言われるまま、由紀子の首に自分の腕を巻き付かせる。今や身体は億劫を通り越し、異様と言えるほどだるい。筋肉の力も失せてしまって“ぐでんぐでん”であり、立つも座るもままならない。
 由紀子がエリアをおぶって立つ。首にどうにか巻き付いた腕を、自分にしがみつかせる。
 

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