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2015年8月

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-05-

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「はい?」
 レムリアは小袋の中身をネコにやると、立ち上がり、母親の向かい側に同じく正座。
「あなたはそれで、その類い希な力で、子供達喜ばせてあげようとしてるわけね」
「そうで……わ」
 母親はレムリアを抱き寄せ、抱きしめた。
「素敵な子……おお神様仏様、この女の子はまこと天からの賜り物、人類の至宝。あなたは素晴らしい。この上なく素晴らしい。理想が結晶したような女の子。ありがとう。全人類の母親を代表して私からお礼を言います。子供達のためにありがとう」
 それは、母親が見いだしたレムリアの存在と活動に対する価値と意義であった。
「お母様……」
「他人行儀な。サマ付け禁止」
「母さん」
 充足、その時レムリアに訪れた心理を書くならこの一言である。身体が緩く解けて行く感覚が訪れ、充ち満ちて消えて行く。
 消えて行くのは恐らく公に認めて欲しかった功績、功名心。常にどこかに存在し、しかし自身蔑視していた心理。
“こんなすごいことしているのに”
 涙が出る。そんな心理を抱いていた自分、理解し、言葉に出してくれた母親。
 しかしそれは、この頬伝う一筋で最早充分という認識も同時に持つ。間違っていなかったと自分自身に頷く。
 リスタートの瞬間なのだ。この家の家族として、日本国籍を有した身として。
 
 
 教室ドアがカラカラと開かれた。
「どうぞ」
 女性教員に手招きされ、陽光の満ちる教室に足を踏み入れる。
 床面で反射された逆光で、級友になるであろう彼たちの顔は見えない。
 ワックスされた木の床を、上履きでキュッキュと踏みしめ、中に入る。
 一旦後ろを向いて、ドアを閉め。
 振り返る。今度はハッキリ見える2年3組36名。
「あいはら、ひめこです」
 彼女は、言った。
 その声は水晶のように光り輝き、張りのある……と表現しようか、少し硬めの音質で教室に響いた。
 
つづく

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天使のアルバイト-020-

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「でも、オトナって一方的だな~とあたしも思うよ」
 由紀子が言う。
「何かやらせたかったら、その理由を言えばいいのにさ。頭ごなしに『言うこと聞け』ってだけ。わけも判らず言いなりになれと言われたら、誰だって頭来るでしょうがって。結局コドモはコドモであって、人間じゃないんだよね」
「論客だね~」
 母親が感想を述べる。ちょっとふざけた口調。
「茶化さないで」
「はいはい」
 エリアは母娘のやりとりを、少々驚きを持って聞いた。
 年少者は年長者の言うことを唯々諾々と聞くべし。よく見られる親子の関係がここにはないらしい。
 由紀子が勝ち気に笑う。
「この情報社会に生きている以上、コドモだっていろいろ知りますよ。何も知らず親の手のひらで遊んでいた孫悟空の時代じゃないから。オトナの皆さんもその辺わきまえて変わってくれなくちゃ」
「はいはい。全くもう、親より頭のいい子もつと苦労するわ。エリカさん、由紀子と遊ぶの程々にね。また風邪ぶりかえしたらたまったものじゃないわ」
 母親は言うと立ち上がり、逃げるように退室した。
 エリアは母親を見送りと、由紀子に目を戻した。
「すごいね、あなた」
 少なくとも聞きかじっていた、“ティーンエイジャー”のイメージと、眼前のこの少女とは異なるようだ。エリアの知る限り、後向き、いやルーズと言えようか、最近の若者、イコール、芯も目的もなく、ただ単に惰性で淡々と日々を送っている、というイメージがあったからだ。
 しかし、この華奢な体躯の少女には、そうした気配は微塵も感じない。どころかむしろ、精神的には芯の強さすら感じる。
「別に……みんなそうだと思うんだ。ただ、言いたいけどうまく表現できないだけで。私はそこを露骨に口に出してるだけ。そっか、あなたも学校嫌いだっけ」
 由紀子は苦笑混じりに言った。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-04-

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 そしてそれは、古来の国民を人種的・民族的に少数派に追い込んだ。王家自身も然り。
「何も姫ちゃんが謝らなくても。こちらこそごめんなさい。辛いこと考えさせて」
 母親は言った。
「いいえ、事実は事実。そして、私は国自体にわだかまりはありませんから。相原姫子、コールサインはレムリア、です」
「れむ……りあ……?」
 母親は目をしばたたいた。母親はこの名の存在を知らぬ。
「ネット上のあだ名。国際的にはむしろこっちの方が通りがイイ」
「ふーん」
 相原の説明で話は済んだ。無論、レムリアとはアトランティスと並び称される幻の大陸の名である。ボランティアでマジックショーをやるので、その神秘性は実に好都合。
「不思議な女の子だわ。つくづく」
 母親は自らもみかんを手にして言った。
「まぁ純系の魔法使いですし」
 レムリアは言った。相原が目を剥く。
「隠しておくつもりは無いよ。だって、お母様ですから」
 レムリアは言った。その右手を握り、開くと、“鰹節削り”のビニール小袋。
 膝上のネコが俊敏に反応する。それは今の瞬間までそれはそこに無く、たった今そこに出現したことを意味した。
 テレポーテーション、になろう、超心理学の用語を使うなら。
 しかし、母親は特段大きな反応を示すこと無く。
「凄いもの見た……それが、あなたの、手品の、正体ね」
 母親は頷いた。マジックショーをしていることは母親も承知の範疇。ただ、そのマジックの中身についてはこれまで話したことは無かった。
 すなわち本物の魔法である。従い中世以来の国家運営可能なのだが、科学技術文明の現下、依頼者はおらず生業にならない。募ればバカにされるであろうし、売り込みに行っても門前払いであろう。
「こっちいらっしゃい」
 母親は座をずらし、正座の姿勢になってレムリアを呼んだ。
 

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天使のアルバイト-019-

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 人間の娘になるなら、それもまた良い。人間であることを謳歌してもいい。
 “生きている”ことを楽しもう。
 母親が口を開く。
「由紀子も、そのくらい食べてくれるといいんだけどね」
「え?」
 自分の食べっぷりを穏やかな表情で眺める母親のひとことに、エリアは手を止めた。
 少し恥ずかしい。自分がとってもはしたない娘になった気分。
「あ、他意はないのよ。ただあの娘(こ)ホントに食べないから。それに、病み上がりは食べて体力回復しないと。これは命令」
「は~い」
 エリアはこそばゆく思いながら“命令”に従った。母親に怒られるなんて何年ぶりだろう。
 そして結局、エリアは“由紀子二人前”をあっさり平らげた。
「すみません、何か無遠慮にバクバク食べちゃって」
「いいのよ。余った方が困るわ。さ、悪いけど今度はあなたが由紀子のところにこれ持ってって」
 母親が持ってきたのはお盆に載ったプリンとバナナ。
「はーい」
 エリアは喜んでそれを隣室の由紀子に持って行った。
 部屋に入ると、青白くやつれた顔の由紀子が、それでも笑ってエリアを迎え、身を起こす。エリアは傍らに座り、由紀子の肩にはんてんを羽織らせる。
 母親がアップルティを持って来た。りんごの匂い。
 由紀子がバナナの皮を剥く。そこでエリアは口を開く。
「それで、先ほどお尋ねの件ですけど……」
 エリアは身の上を話す。無論、事実を話すことは出来ないし、信じてもらえない。だから“天界”は外国に、カンニングは不登校に置き換えた。
 外国からこちらへ移り、学校へ通い始めたものの、一方的な詰め込み押しつけがイヤで飛び出し、それが原因で勘当された。しかし、今にして思えば、詰め込むのは、“考え方、論理の組み立て方の勉強”であって、それを考えず飛び出した自分が浅墓だった……。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-03-

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「まぁ、もう魔女の時代じゃない、ってのは確かだな。農産物で自活できるか、工業製品を生み出すか。何かしら自分で食い扶持稼げない国家は今日び無理だって。規模も実情もイメージとしてはバチカンに近いわ。あそこがキリスト教の本家という箔を取られたら?みたいな感じさ」
 相原学はふすまを開いてリビングへ戻る。
 と、パジャマ姿のレムリアがこたつでみかん。
「深刻な話?」
 彼女は訊いた。
 その膝上には三毛ネコがいてにゃぁ。一般にネコは家族を識別するが、彼女には当初から懐き、今や完全な“最初からの家族”扱い。
「素早い姫様だこと」
 さっき階段登っていったばかりのはず。母親の驚きはそれ。なのに気がつくとここにいる。少し、常識を越えている。
 しかし相原は驚きもせず。
「王家の運営は大変な時代だなって説明をしてた。まして中世に魔法で生計を立ててた国家が今となっては、ってね」
 相原母子は相次いでこたつに収まった。
「貧乏王国でゴメンナサイ」
 レムリアは言った。ちなみに王家自体は解体の方向。過渡的に立憲君主制を敷き、彼女の両親が世を去った時点で議会制民主主義に移行する。なお、往事の生業は出てきた通り、魔法を使った国家間仲裁や除霊託宣である。それが農業立国、近代産業化、どっちも妨げ、結果として現在になり王家運営不能に陥った。その点で今後の産業は不明確なのだが、ルクセンブルク、リヒテンシュタインなどに範を取った金融都市国家として自立を目指すと聞いている。ただ、彼女にとって、そこから先は実のところ余り興味は無い。なぜなら、国民の殆どが20世紀以降入れ替わってしまったからだ。一部商店、生活物資の生産業を除けば、早い話が宗教的良心から受け入れた流民たちである。
 

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天使のアルバイト-018-

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「ああ、なるほど」
 エリアは頷いた。自分には証明する身分も、履歴書に書くべき過去もないのである。文字通り“降って沸いた”しかもやたら手のかかる娘なのだ。
「ま、とにかく先に食べな。今は訊かない」
「はい。すみません」
 エリアはハンバーグにナイフを通す。恐縮に次ぐ恐縮で、ブラックホールのように縮んで無くなってしまいそうだ。
 “痛感”とはこのことかと思う。自分には守護者どころか、自分の存在自体についてすら、語る資格がないのだ。
 リテシア様。私は思い知りました。
「どうしたの?まずい?」
 うつむくエリアに母親が尋ねる。
「いえ……冷静になってみると、私が勘当されるのも一理あるなって。すいません。冷めちゃいますね」
 エリアは憂鬱を振り払った。せっかくごちそうしていただいてるんだ。今は何も考えず美味しく食べよう。それが始まりだ。
 ナイフとフォーク……どうにか扱える。
 一口。
「美味しいです!」
 その言葉に母親が笑みを浮かべる。そして、実際相当空腹だったのだろう、食べ始めると、鳴りを潜めていた食欲が一気に爆発した。
 良く火の通った挽肉、じわりとにじむ肉汁、それらと絡み合うデミグラスソース。しゃきしゃきとした千切りキャベツと、甘みを有する葉の中の水分。食道をぐいぐいと音を立て、通過し、胃袋へと落ちて行く米飯の塊。次第に重さを増して行く胃袋。食べ進むに従い感じる、“食事誘導性体熱産生”と呼ばれるほんのりとした身体の火照り。
 それらは肉体の感覚・属性であり、畢竟、肉体ならではの快さであり楽しみである。“食えること・食うことの喜び”とはこれか、とエリアは知る。そして、これはこれでいいのだと、開き直りというか、達観に近い感覚を持ってエリアは今の自分を受け入れた。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-02-

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「どういう論理でそうなる。あ、やっぱ言うな、よくぞこの天使我が家にってんだろ。それが唯一最大の功績で以外は黒歴史ってんだろ?」
 男は眉毛をねじ曲げ、背後母親を見上げた。
「その通りです。彼女に免じて引き続きこの家に居住をすることを許可する。さ、姫ちゃんはもう寝な。学校通うなら規則正しい生活リズム身につけて行かないと」
「はーい。学(まなぶ)追い出してごめんね」
 彼女は母子の会話に笑うと、ブレザー一式収まっていた大ぶりなボール紙の箱を、付属の取っ手でぶら下げ、畳の部屋を後にした。
 階段を昇って行く軽やかな足音。
 幾らか説明すべきことがあろう。端的には彼女はこの家……相原香(かおる)・学の母子宅に居候することとなり、明日3学期初日から近所中学校に転入するという次第だ。相原学を“追い出した”というのは、学の自室を彼女に明け渡したことによる。なお、学自身は父親(故人)の部屋へ移る。
「勿体ない話で」
 母親が余韻の中で言った。
「分不相応ってか?付き合っているなら責任持つ意志示せと言ったのは母者(ははじゃ)だぜ」
 学は姿見をタンスの脇へ移動させながら応じた。
 この会話の意味するところは次の通り、彼女と学は婚約している。
 但し、日本の法律上、女性が結婚できるのは16歳からであるから、彼女はそれまで帰化の上居候、という次第。なお彼女は本名をメディア・ボレアリス・アルフェラッツ、というが、帰化に当たって相原姫子(あいはらひめこ)と改名した。
「もう、王様姫様の時代じゃないのかねぇ」
 母親はため息交じりに言った。彼女の名前、“アルフェラッツ”というのは国の名である。王族の娘、要するに姫様なのだ。“姫子”という名はそこに因する。なお、彼女はインターネット上のハンドルネームを“レムリア”としており、学とのコミュニケーションは「学」「レムリア」である。以下本稿では彼女の意を汲んで彼女をレムリアと呼ぶ。
 

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天使のアルバイト-017-

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 それに対し……エリアは思い知らされる。自分はなんという恵まれた環境で生まれ育ち、生きていたか。
 それなのに、それなのに、自分は。
 母親が続ける。
「しかも……それと関連あるのか体力なくてねぇ。ちょっと動くと貧血起こすの。だからあまりあの子と遊んでくれる友達いなくてね。それが、いきなりあんたをおぶって来た日にゃぁ、そりゃ二重の意味で驚いたよ」
 エリアはそれを聞いて目を剥いた。
「ご、ごめんなさい。じゃあ私、彼女に相当な無理を……」
「謝ることかい。あの子が好きでやったんだから。ま、そういうわけで普通の娘とは言えないけど、というか、どっちか言うとすごく変な娘だけど、良かったら遊んでやって」
 それはもちろん……というエリアの台詞に重なって、別室から由紀子の声が飛んでくる。
「お母さん、余計なこと言って!」
「やれやれ、全く元気なんだか病気なんだかね。さ、出来たよ。座った座った」
「すみません……なんかもう何から何まで……こんな、服まで貸していただいて……」
 エリアはダイニングテーブルに移動しながら、着ているジャージ……由紀子の中学時代のもの……をつまんで言った。何にも出来ないので恐縮するより他ない。
「あんな学芸会みたいなの着て動き回れるもんかい。しかしつくづく不思議な娘だねあんたは、全然育ちが違うって感じだよ。勘当されたって?」
「はあ、まあ」
 エリアはテーブルについてうつむく。置かれた皿の夕食はハンバーグ。
「由紀子食べないから二つあげる」
 ひどーい!という隣室布団の中からの抗議。
「いいからあんたは寝てなさい!ああ、ごめんよ。理由を探ろうというんじゃないんだ。ただ、アルバイトの口を探すとなるとさ、ホラ、どうしても私の知り合いってことになるからさ、あんたのこと、説明できないと困るじゃない」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-01-

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 フィギュアスケートのターンよろしく、姿見の前で彼女はくるりと1回転。紺色のスカートが花開くようにふわりと広がり、そして閉じる。
「セーラー服の方が良かったか?」
 立て膝で見ているメガネの男に訊かれる。上下紺色ブレザーの彼女は、首を左右に振って否定し、振り返った。
 キラキラと瞳輝くショートカットの娘。ころん、とした顔立ちの持ち主であり、少女マンガのヒロインという表現がぴったり。
「ううん。構わない。憧れだったんだ日本の制服。こんな可愛いシステムはめったに無いよ」
 そう言う彼女を、メガネ男は頷いて下から上へと見上げた。
 二人の背後でふすまが開く。
「あら……可愛いねぇ。怖いくらい」
 そう感想を述べたのは男の母親。男は22歳であるからして、応じた年齢。
 一方彼女はブレザーまとって畳の上に立ってはいるが、この母子と血縁関係は無く、それ以前に日本人ですら無い。しかし、彼女の容姿を見てそうと気付く者はまずおるまい。身長153センチ。
「校則に違反しない?スカートの長さ」
 彼女は屈んで男に尋ねた。購入時よりミニに改造して膝上にしている。というのも、街中で、繁華街で見かけた日本の女の子達はみんなミニであり、応じて可愛らしく感ぜられ、自分の髪型ショートカットとのバランスも考えて最初からミニにしてみた。
「『極端に短すぎないこと』ってだけだし、大体この辺の子達そんなもんだからいいんじゃね?黒髪すっぴん飾り物無し。王道の14歳大和撫子出来上がりだぜ」
「やった!」
 男の評を聞いて、彼女は両手を合わせてパチンと鳴らした。これは彼女が嬉しいとか合点が行った時に見せる特有の仕草である。
 母親がボソッと言う。
「あんたを生んで正解だったわ。ようやく合点が言った」
 

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