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2015年9月

天使のアルバイト-025-

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 住人達は何か言いたげな顔をしながら、個々の部屋に戻って行く。二人は足のもつれる由紀子をどうにか階段の上まで運び上げた。
 部屋に連れ込み、新聞紙を敷いて仰向けに寝かす。
「ごめん……あたし何しに来たんだか……」
 ぜぇぜぇと荒い息しながら。
「昼寝だろ」
 即座に母親が言った。
「ひどーい。えーん」
 由紀子が泣き真似。
 エリアはそのやりとりに吹き出してしまった。母親が“どうということはない”的な答えを言って、深刻な雰囲気を振り払い、由紀子を安心させるとは思った。しかし、そう来るとは思ってなかったからだ。
「あはは……」
「エリカちゃんまでひどい。えーん」
 大泣き真似。
「だって……」
 そこで母親が立ち上がる。
「何か飲み物買ってくるよ。エリカちゃんは紅茶あたり?」
 母親はサンダルを履きながら訊いた。
「はい。じゃあ」
「由紀子はスタミナドリンクだね」
 母親は有名なブランド名を口にした。
「そんな……あたしも紅……」
「じゃ行って来るから」
 由紀子に言い返すヒマも与えず、母親が部屋から出て行く。
「面白いお母様だね」
 エリアは由紀子に向かって言った。最初は素っ気なくぶっきらぼうだと思ったが、どうもそうではないようだ。傍から見てると“この親にしてこの子あり”。
 由紀子が苦笑。
「面白すぎるよ。私は普通の母親でいい」
「でも、由紀子ちゃんのことホントよく考えてると思うよ。感心するくらい」
 由紀子がそこで母親の置いていったほうきを一瞬見やる。
「そうかなあ」
「そうだよ。家の中で会っても会話すらしない、冷戦みたいな親子になりたい?」
 エリアのその発言に、由紀子はハッとしたようにエリアを見た。
「それって……」
 エリアは気付く。由紀子は今の自分の発言を、“エリカの家”の状況と受け取ったようだ。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-09-

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 なのだが、自席に到着して黒板側へ姿勢を変えたら、目線はクモの子散らすように去った。まるで見ていたとバレたら困るが如く。要は、見ていた各人目を逸らしたのである。
 スカート手を添えイスに座る。その所作は彼女の意図せぬところで、風が舞い降り、吹き広がるような雰囲気を作る。
 この間、教室は無言。
「あ、あの……」
 おずおずといった感じで、隣席、その女の子が声を出した。
「はい?」
「判らないことあったら、訊いてね」
 制服の胸元名札には“溝口”。
「ありがとう、溝口さん」
 微笑みで返したら笑顔が咲いた。
 学生カバンから教科書ノート一式取り出して机の中へ。1月7日金曜日。3学期オリエンテーションと午前だけ授業。
 3学期は短いので定期テストは期末1回、3月上旬。終わって3月11日お別れ遠足。場所は東京と名は付くが所在千葉。ネズミのキャラクタで人気のテーマパーク。
 総員喝采。が、事前料金徴収があると聞かされて総員“え~”。
 そして、3月18日卒業式で、彼女ら2年生は準備から片付けまで主体的な活動必要。
 以下、委細は略すが、彼女はやりとりから色々必要なこと抽出して、制服胸元のポケット“生徒手帳”取り出しメモしていった。学級委員がいて生徒会委員がいて、各人当番制で色々“係”がある。係は主として清掃と給食。日本では生徒が自ら、自らの居場所を清掃する。聞いていた話と合致して頷く。なお、世界的には、公共施設の清掃になることから、清掃業者が行う方が多いようだ。ちなみに、この間隣席の溝口がじっと彼女を見ていたが、彼女は気付いていない。
「何か質問は。特に相原さん」
 自分のことだと認識するのに数瞬要する。まだ“相原姫子”に慣れてない。
 この数瞬の間に溝口は視線を外す。
「あ、はい」
 

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天使のアルバイト-024-

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「うわ……」
 開けた瞬間は“噴火”という言葉が思い浮かんだ。凄まじいホコリである。せき込むエリアを母親が見る。
「ホコリ吸わないようにね。何年前のか判ったモンじゃないから。マスク使って。……あの子は洗剤ひとつ持ってくるのに何やってんだい」
 母親がポケットからマスクを取り出し、ドアの方を見る。
 その時だった。
 エリアは、心臓のあたりで、誰かが、何か言ったような感じを覚えた。
 それは警告。そして警告の中身は。
 
“由紀子ちゃんに”
 
「由紀子ちゃん!」
 次の瞬間、エリアは声を出し、部屋を飛び出した。ほうきを放り出し、裸足のまま鉄階段をかけ下る。
「エリ……?」
 母親は最初、エリアの行動を、首を傾げて見ていたが、すぐにそれと気付いた。
「由紀子がどうしたって!?」
 エリアの後を追って階段をかけ下る。
「由紀子ちゃん!」
 先に下りたエリアがその状況を見つける。物置の傍らに四つんばいで動かない由紀子。
 胸元を押さえ、荒い息をし、顔は血の気が引いて真っ白。
「由紀子ちゃん、ちょっと、大丈夫!?」
 顔を覗き込んで肩を揺さぶる。スローモーションのような動きで由紀子がエリアに目を向ける。
「大丈夫……ちょっと……貧血……急に立ったから……よく……あること……」
 元気のない笑み。
 そこに母親が追いついた。
「しばらく横にならなきゃ……掃除中断。エリカちゃん。悪いけど肩貸して」
 状況を見て母親がさっと指示を出す。慣れた感じであり、なるほど由紀子自身言う通り、良くあることらしい。
 そして二人で由紀子の両脇を抱えて立ち上がる。エリアが大声を出したせいか、住民達が何ごとかと出て来て見ている。
「何でもありません。こちらの不手際です。失礼しました」
 母親が頭を下げる。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-08-

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「あらお菓子の持ち込みは校則違反よ」
 言いつつ、担任奈良井は受け取って、あめ玉を口に放り込んだ。
「驚きました。席は……近眼とか無いと聞いたので後ろにしましたが、いいですか?」
「はい」
 奈良井が手を伸ばして示し、呼応して教室後方、女の子が控えめに手を上げる。その隣に空いた机。
 その挙手した女の子、その表情に彼女は胸の痛みを覚える。
 その女の子だけ明らかに雰囲気が違う。その同調圧力に押し出されたというか、おどおどした感じ、及び孤独。
 彼女は女の子にVサインを作り、ウィンクして応じる。
 バッと野生な視線が集中するのを感じる。彼女は魔女の属性として超常感覚……テレパシーの類いを一式備えるが、能力の曰く、今の自分の仕草はこのクラス男子生徒を虜にした。
 そして、能力は集団生活に背を向けフリースクール……に至った一因でもあるが、色々無用なことが判ってしまう。スイッチみたいに切れるのか、切ってみようか。ただ、例えば相原家では特段この力の存在出しゃばってこない。自分が家族に組み込まれているからだろうか。されば、この教室に受け入れられれば、同様に存在感消えるか。
 逆に言うと、自分なりにこの状況警戒しているのか。
「よろしく~。こんな奴です~」
 通路両脇の目線に声を掛けながら、彼女は今日からの自席に向かう。机は縦8人で5列が基本のようで、最後部に3人分の空間が残っている。男女の座り方には統一性はなく、完全にばらばら。
 スポーツでよく見るハイタッチのように手を出してきた女の子がいたので手のひらを合わせる。その仕草がきっかけか、或いは加速したか、自分の姿を、一挙手一投足を、男子生徒らの目線に追われているのを感じる。まるで遙かなる憧れを見つめるように、しかし食い入るように。前から後ろから。まるで目線という名の圧力にやんわりと包まれているよう。
 

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天使のアルバイト-023-

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 じっとりと湿った畳。ふやけており、乗れば沈み込みそうで、それでいて表面は砂ぼこりでザラザラしている。スリッパ持参だがそれで正解。
 窓がガラガラと開かれた。
 室内に溢れる白い外光。
「ありゃりゃ」
 照らし出された光景に母親が半ば呆れた声を出す。そこはキノコこそ生えていなかったが、壁にはあちこちに黒カビが繁茂。
 と、そこへ掃除用具を持った由紀子が到着。
「はいほうき……うわ、何これ」
 部屋を見回して絶句。
 すると、母親がさながら彼女の前に“立ちふさがった”状態で。
「見たね。見たら何したい?綺麗にしたいね。ハイ今度はカビ取り洗剤」
「そんなぁ」
「理由もなく頭ごなしに一方的なのがオトナというもの。ハイ、諦めて持ってくる」
「ぶう!」
 由紀子が不平そうに言い、それでも掃除用具をその場に置くと、洗剤を取りに回れ右。
「やれやれ。こんなホコリだらけの場所にいたら、またどんな病気背負い込むやら」
 由紀子の足音を聞きながら、母親が言った。
 エリアはハッとして母親を見た。
「かと言って『家にいろ』といっても聞かないだろうしね」
 母親は呟きながら、ほうきで畳を掃き始める。エリアはそんな母親を感心しつつ見つめる。由紀子の“手伝いたい”という気持ちと、母としての“ホコリだらけの場所にいさせたくない”という気持ちとを勘案した結果が、今の指示だったのだ。
 ……相手の気持ちと現状とを勘案して臨機応変に結果を出す。あのテスト問題が求めていたのはこれ、たった今母親がなした行動ではなかったか。
「何ボッとしてんの」
 考え込むエリアを母親が呼んだ。
「え?」
「ここ誰の部屋?なのに掃除してんのは誰?」
「あ、すいません!」
 エリアは頭を下げると、手持ち用の小さなほうきとちりとりを持って押入のふすまを開けた。
 

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転入生(但し魔法使い)【目次】

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-07-

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「あの、間違っていたらごめんなさい。あなたテレビに出て……」
 クラス中にざわめきが広がる。各人の持つ“特異な感情”の正体がそれであると全員気付かされた。
 興味津々の瞠目72、彼女に集まる。
「あー、あの姫様とよく似てるとは言われます。実態はただのオテンバですが」
 なーんだ。クラス中のテンションが下がり、同時にある種の安心感が支配する。
 一体となって動くもんだと彼女は別の感慨を抱いている。いつぞや、いじめられてる女の子のそばにいたことがあったが、教室に入り込んで、まではしていない。こういう全体が動くという挙動・性質を把握していれば、また違った対応が取れたかも知れぬ。そういえば“みんなと同じコトしないといけない”みたいな流れが存在し、同調圧力と言う、と、相原学から聞いた。
「ああ、みんなもそう思ってたのね。先生もそう思った。でも違うんだ」
「ほぼ同じ容姿で手品が得意、日本語ぺらぺらではそう思われても仕方ないかと……」
 彼女は両の手のひらを交互に握り開き、都度あめ玉を出現させた。
 言葉を濁したが、実際は、テレビに出たことは、ある。ボランティア団体で活動する日本語ぺらぺらの手品得意な姫様……他ならぬ自分である。先年日本で開かれた博覧会において、子供達に危機が迫ってるみたいなパネルディスカッションで喋ったことがある。
 ただその身分は隠しておきたいので肯定はしない。なぜなら特別扱いというか、普通の友達として付き合ってもらえなくなる可能性が高いからだ。一方で嘘つきはイヤなので否定もしない。
 あめ玉36個。ちなみに時節柄を考え、のど飴である。
「これはその彼女の流儀の真似で……ご挨拶と言うことで。後ろ回して下さい」
 居並ぶ座席各列先頭に小分けして渡す。
 とってつけたように更に1個。
「はい先生も。こんなとんでもない奴ですがよろしくお願いします」
 

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天使のアルバイト-022-

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 震える肩をしっかり支えながら、そんな由紀子が自分に内心を吐露した、その意味の重大さを思う。それは彼女が、自分の前なら、ありのままで構わないと思ってくれた証し。
 落ちていた女の子“エリカ”を、理解者であると、友人であると、認めてくれた、ということ。
 彼女を大切にせねばならぬという責務を感じる。そしてそれは何のことはない、“本業”で仰せつかることではないか。
 その認識は、ハッとするような感情と共に、一つの自覚をエリアに与える。思考の焦点が定まり、シャキッと整った。そんな感じ。
 背後で襖が開く。
 エリアはそちらに目をやる。由紀子の様子が変わったため、母親が何事かと見に来たのである。
 エリアは口に人差し指を当て、黙って、の意“しー”の仕草をした。母親は指で輪を作り“ok”を出し、そのまま襖を閉じた。
 由紀子ちゃん。私思うんだ。普通じゃないってのは、ありきたりじゃないってことだよ。
 そういう意味では、私も多分、普通じゃないね。そんな私で良ければ、あなたの友達でいさせてよ。
 同じ“普通じゃない”だからさ。最も、私は出来損ないの勘当者なんだけど。
 
 
 錠がガチャンと開く。
 ついで、相当長いこと動いていなかったのだろう、蝶番がギイと軋んだ音を立て、ドアが開いた。
 真っ暗な室内。沈滞した空気。湿っぽさに混じるわずかなカビ臭。
「うわあ。こりゃ思った以上にひどいやね」
 母親が呟く。開いたドアは今後のエリアの部屋。そう、彼女が“月1万円。但し土日は店で手伝い”で借り受けたアパートの一室である。
「窓開けよう。由紀子は物置からほうきとちりとり」
「はーい」
「うわあ。キノコでも生えてんじゃないのかね」
 母親の声に由紀子がくすくす笑いながら、鉄の階段をカンコンと軽快に下りてゆく。その間にエリアは母親と共に部屋に入り、締め切って何年経つのか、雨戸と窓を開きにかかる。
 
つづく

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-06-

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 36名72の瞳が自分を向いてまばたきすらしない。
 それは何か特異な感情が36名を残らず捉えていることを意味した。
 黒板には既に白いチョークで名前が大書きされ、ルビまで振ってある。
「こっちへ。相原さん」
「はい」
 招かれて教壇へ上がる。彼女が視線を教員に向けると、ひそひそ話が幾つか。
 教員の手が肩に回された。
「今日からみんなの仲間になる相原姫子さんです。長く外国で暮らしていたそうで、このたび日本に戻ってきて、本校この組に編入になりました」
「よろしくお願いします」
 両の手を前に学生カバンを持ち、頭を下げる。短い髪がさらりと頬撫で。
 見上げ、そして見渡す。彼女は一瞬ずつ全員と目を合わせた。その目が合った瞬間、誰もが一様に驚愕を示した。それは彼女の目線に異分子の存在を見て取ったせいだ、と思われた。
 独特の距離感と緊張を感じる。ただ、それは彼女の予測の範疇。自分は“よそ者”。
「とは言え日本と縁無しって訳でもないもんで、どっちかてえと名古屋弁が判ったりするもんでいかんだて。向こうじゃフリースクールって通信制みたいなとこだったんで、こうやって制服着て学校通うっての初めてなんです。判らないこといっぱいなんで教えて下さい」
 それは芽生えた緊張を崩したが、ギャグとしては“滑った”と彼女は直感した。
「だめ?あ、得意な科目は英語、特技は手品で」
 カバンを下ろし、手を握って開くと携帯電話。
 どよめく教室とギョッとした担任教諭。名は奈良井(ならい)。
「え、それあたしの携帯」
「はい、すいません」
 返す。
 担任奈良井は目を白黒させながら電話を見、そもそも入っていたであろう胸元を撫で回す。
 級友がひとり、ハッとした顔で立ち上がった。
 女の子である。長い髪で、利発そうな。
 

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天使のアルバイト-021-

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 そして少し、エリアから目線を外して、
「友達のいない学校、人は大勢いるのにコミュニケーションなし。辛いよこれは。最初から誰もいない無人境ならあきらめもつくけど」
 呟くように、ぽそぽそっと喋る。早口気味に。
 エリアは由紀子の心に影を見た。
 テレパシーというよりシンパシーであろう。病弱で華奢で、ともすれば小学生と間違えそうなこの少女は、しかし知的なそのココロに、背負いきれないほどの辛い思いを抱えている。
「ごめんね、何泣いてんだろね。あたしバカだよね」
 苦笑する由紀子の瞳に煌めきが浮かぶ。しかし彼女はそれを溢れさせようとはしない。
 しかし、エリアには判る。その涙、溢れそうでとどめている涙が、この少女の抱えている思いの多さを象徴している。
「確かに……一緒にカラオケ行けないよ。体育見学ばかりだよ。夜更かしすると高熱出すよ。そのくせたまに仲間に入れると知ったかぶりばっかり言うよ。
 普通の女の子じゃないよ。でも、私は信じてる。そんな私でも認めてくれる人が必ず現れるって。ああごめんなさい。あなたにこんなこと言うつもりなんかなかった……んだけど、何かあなたに優しくしてもらって……お喋りして、あなたの雰囲気というか……つい……」
 エリアは由紀子の瞳の煌めきが溢れ出す前に、彼女を抱きしめた。
 そういうところを見られたくないのだと感じたからだ。コドモではない、“一人の人間”として認めてもらいたいというのは、年齢的にそろそろ出現してくる相応な心理だろう。
 しかし、実際の周りの反応はそうではない。子ども時代と変わらないと書こうか。この自他の意識の乖離は、理解者がいない以上抑圧するしかなく、抑圧の与えるストレスは涙に現れる。
 ところがその“涙”は、人格が求めるものとは裏腹に“子どもっぽい”感情表現。だから、“見せたくない”。
 

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