天使のアルバイト-035-
空っぽの棚と商品名を照合し、カートンの段ボール包装を破る。
と、遠方から幼い声。
「あ!あったあった。おかあちゃーん!」
エリアは小さな男の子が自分の方へ走ってくるのを認めた。
このお菓子のファンであると一見して理解する。箱から出し、棚に並べる作業を興奮した表情で見守っている。
その仕草が可愛くて、エリアは男の子にニコッと笑った。小さい子は好きである。どんなに小悪魔的な行動を取ろうとも、その動機は根本的に純粋無垢であり、可愛さを感じこそすれ、逆はないからだ。澄んだ瞳で笑っているのを見ると、何だか自分まで幸せになったような気になるし、一方で泣いているのを見ると、何だかこちらまで胸が痛くなる。
だから、笑ってもらおうと思わず笑顔を作ってしまう。最も、“親”の立場になると、また見方が変わると言うことも、知見として持ってはいる。
果たして男の子はエリアの笑みを見るや、箱から菓子をひとつ直接取った。
「わーい、おかあちゃーん、おねえちゃんがくれた~」
菓子を手に走り出す。
は?
その動作たるや驚いたという以外評しようがない。笑ったのを“あげる”と解釈したということか。“欲しい”という気持ちが、自分の“笑う”という行為を、最も都合良く解釈したのであろう。ちなみにもちろん、背景には、男の子の母親が、これを容易に買ってくれないという状態が存在するのは考えるまでもない。
それはさておきどうしたものか。追いかけて取り返す?
困っているうち、母親とおぼしき人物が、男の子の手を引き、赫怒の表情ですっ飛んできた。
「ちょっと!勝手にこんなもの持たせないでくれる?」
違う!とエリアはまず思った。しかし、母親はこの場を見ていない。まして子どもが「くれた」と言えば、自分が渡したと判断して当然であろう。
“お客様の立場で”
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