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2015年12月

天使のアルバイト-038-

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 姿は無いも返事は聞こえ、程なく、隣の通路からパートの中年女性が走ってくる。時間的に学生バイトはおらず、パートの女性たちと純粋な社員、そして“アルバイトのプロフェッショナル”……フリーターだけ。
 店長はパートの高木さんに後を任せると、エリアを伴って入口脇のサービスカウンターに向かった。ここでは迷子の保護の他、一般的な客の応対、宅配便の受付をしている。
 到着すると髪をゴムで留めた女の子が泣きじゃくり状態。2歳か3歳かというところであろう。フリーターの若い女性店員と、たこ焼き屋の兄ちゃんが、お菓子やオモチャを片手にご機嫌伺いをしている。が、女の子は応じず困っている様子。
「おがぢゃ~ん!」
 笛吹けど踊らず。形式的な“あやす”行為を見るに、二人が“いやいや”女の子に対しており、“どうにか静かになってよ”という心理であることが如実に判る。ところが、子どもというのはそれを見抜くもの。若い二人を味方と見ていないことは明白。テレパシーではない。女の子が二人を見ようとしないことから、容易に推察できるのだ。
 店長は若い二人に合図。
「後はいいよ」
 意味、持ち場に戻って良い。二人は頭を下げて持ち場へ向かった。
 同時に自分に任されたとエリアは知る。さてどうしよう。
 欲しいのは楽しい雰囲気。
 楽しいもの……たとえば歌。
「にゃお~ん」
 エリアはまず、猫の鳴き真似で気を引いた。
 幼い子向けには“猫は可愛いもの”と紹介されるのが一般的。ゆえに小さい子は猫に可愛い存在という印象を持つ。著名な猫のキャラクターが四半世紀を超えて可愛がられているのもその辺にある。
 果たして女の子はハッと黙った。型にはまった“自分を呼びかける大人の声”ではなく、猫のマネというのが興味を持たせたのだ。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-22-

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 背後に気配。
 次の刹那、レムリアは半ば自動的に反応した。
 傍らの友を引き倒し、四阿床面に転がす。もちろん目前の危険回避。
 そして振り返り、次の意味を有する、異郷の語を放つ。
「(意図したこと形をなさず)」
 右の人差し指を唇にあてがう。“静かにして”の動作に似て。
 次いで、その指を、気配もたらした主に対し、矢を射るように、向ける。
 倒されて身を起こした溝口の目に、自分の動作が見えたことが判った。
 自分の動作……指先を向けた……その先……。
 ベンチの背後、低い壁の向こうにいたのは、黒縁メガネで全裸の男であった。件の変態紳士であると即座に判じた。
 全裸の男は壁乗り越えて四阿へ入り込もうとし、何らか段差に蹴躓いてバランスを崩し、四阿の壁と地面の間に倒れ込んだ。
 ゴツ、と重く低い音がし、男が四阿コンクリ床に頭部打ち付けたと知る。
 溝口が起き上がり、事象の全容に気が付く。四阿の壁は下部に隙間が空いており、視界には俯せになった男の背中や尻が見えたであろう。
 溝口が声を限りの絶叫。立ち上がろうと動作するも、手足が震えているのか、力が入らず、ガクガクとした動きで後ずさりするような状況。
 パニックである。彼女をなだめたいが、警察を呼びたいし、この男も不動としたい。
 誰か……四阿屋根から顔を出したら、アパートのベランダにいたどこぞの奥様と目が合った。
「どうかしたの?」
 渡りに船。
「変質者です!警察に連絡を!」
「判った。息子を行かせるから」
「お願いします」
 レムリアは応じると身を翻す。まだ“効いてる”から全裸男は動けまい。
 溝口は絶叫こそ収まったが、顔面蒼白となり四阿の反対側の壁に貼り付いて固まっている。
「いや……いや……」
 汗が玉をなし首振り拒否する彼女の姿は、男性に対する深い心の傷を示唆した。
 

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天使のアルバイト-037-

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「すいませんでした」
 エリアは立ち上がり、もう一度頭を下げた。
「ええホントにすいませんですよ。……あらあんた見習いなの。今度から気をつけてちょうだいよ」
「はい、申し訳ございません」
 母親が男の子の手を引いて去る。名残惜しそうにこちらを見つめる男の子に、エリアは小さく手を振った。
「ばいばい」
 男の子がにっこり笑い、母子の姿が角に消える。エリアは安堵し、ため息をついた。笑顔は大安売りすればいいという物でもないらしい。
 納得と、寂しさが、背中合わせのような、複雑な気持ち。
 でも、これも一つ勉強だ。エリアは気を取り直し、陳列を再開する。
 背後に気配。
「まぁ、いろいろとあるよ」
 店長である。隠れて様子を見ていたのだ。
「すいません、まさかあんなことに……」
「いやいや、妥当なところだろう。“先を読んで行動”ってのはなかなか難しいしな。君、うまいよ」
「そうでしょうか」
 エリアははにかんだ。あれで一杯いっぱいである。うまく行かなかったらお手上げだったところだ。
 店長はゆっくり頷いた。
「うん、良かったよ。最後に男の子がにっこり笑ったのに気付いたかい?納得しただけじゃない。あれは明らかに君のことが気に入った。小さい子は美人かどうかでなく、相手が自分にとって敵か味方かを……」
 そこで店内放送。
『業務連絡。店長8番です』
「ごめんな」
 店長は話をちぎって行こうとし、足を止めた。
「君も一緒に」
「え?」
「8番は迷子なんだよ。いずれあることだし、ついでに。それに君はそっち方面素質がありそうだ」
 店長は言った。“そっち方面”とは、自分に“小さい子を扱う”能力があると見ているということ。
 それは全く構わない。だが問題は……
「陳列は…」
「他にやらせるさ。高木!ちょっと」
「はい」
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-21-

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 屋根裏にはクモの巣が幾重も掛かり、枯れ葉が絡まり、やはりスプレーの下品な落書き。
「多分、クラスの女子は、相当な確率で相当な人数が知っているでしょう」
 レムリアは感じたままを素直に口にした。
 ベンチに腰を下ろし、隣に座るよう促す。
 溝口は、恐る恐る、ぎこちない動きで、隣に座った。
「すごい女の子だなって」
 彼女はまっすぐ前を向いたまま、言った。
「ポジティブで、キラキラしてて、しかも、すごい美少女。こんな、それこそお姫様みたいな女の子本当にいるんだなって。もう、気持ちが止まらなくなっちゃって」
「フィアンセが、います」
 レムリアはまず言った。このネタになった時、彼女はトイレに行っていて聞いてないはずだからだ。
「えっ……」
 少なからぬ驚きと、目線が返る。
 が、ショックを受けて走って逃げ出す、という感じでは無い。
 それは逆に溝口が抱く“女の子への思い”がある意味本物であると共に、男女間に成立する性行為を経て結婚して、とは違うものだとも判断できた。
「結婚相手……」
「そうです。私が16になり次第籍を入れる約束です。もっとぶっちゃけ言うと彼の家に居候して通学してます。指輪してないだけです」
「そうなんだ……」
 溝口はうつむいた。ショックを受けたから、であるが、その真意は、
 “自分では対抗できない相手がいる”
 というもの。失恋とはニュアンスが異なる。なぜならレムリアは彼女の気持ちや思いを受け止めたからである。門前払い、ではない。
 レムリアは内心頷くと共に、グラスハープ奏でるような繊細な対応が必要であると認識する。同性を好きになる……その同機は色々あろうが、彼女は生物学的に性的なもの、ではないようだ。一方で友達や憧れの延長線上でも無い。“真剣に好き”なのである。あまた子供達に接し、あまた老若の女性に接して来たが、女性から、女の子から、言われたことは無い。調べたことも無い。調べても無駄だろうという漠然とした確信はある。すなわち、個々で最適解は異なるからマニュアル的な対応は難しい。どころか自分のようなテレパス持ちが先回り先回りして受け止めるくらい必要な気がする。
 

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天使のアルバイト-036-

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「……申し訳ありません。わたくしの不行き届きでした」
 エリアは言葉を飲み込み、まず頭を下げた。
 言い訳がましいことは一切言わない。事実を言えば、「うちの子のせいにするのか?」と逆上されるのが目に見えている。
「勝手に渡すなんて何事よ!ほら洋平(ようへい)!返しなさい」
「ちがうもん、おねえちゃんがくれたんだもん。やだー!」
 絶対離すまいとお菓子を握りしめ、涙ボロボロ流して抗議。
「どうしてくれるのよ!そこまでして売りつけたい!?」
 申し訳……エリアはもう一度言おうとし、こうなるとペコペコしているだけでは解決しない事に気付いた。
 とにかくお菓子を手放してもらうより他ない。パッケージが破損したら売り物にもならないだろうし。
「洋平君」
 エリアはしゃがみ込み、微笑みかけた。
 泣きじゃくる男の子がエリアに目を向ける。
「これね、そうやってぎゅーっと持ってると、壊れちゃうんだよ」
 途端、男の子はハッと気付いたように泣くのをやめ、手の力を緩めた。
「おねえちゃんに貸してくれるかな。誰にも買われないように、ここに隠しておいてあげるから。その間にお母さんと相談して」
 エリアは陳列棚の一番奥に空間を作り、指差した。
「……わかった」
 手のひらを広げると、男の子はお菓子をエリアに渡した。
「ありがとう。内緒ね」
 ウィンクして口に指を当て、“しーっ”。
 エリアは棚に菓子を戻し、他のお菓子で覆い隠した。こういう事はその場を納得させることが大事で、あとはどうにでも誤魔化せるであろう。それは、お菓子を簡単に買い与えないような母親なら、理解しているだろう。ただ、だからってウソは良くなく、ゆえにエリアも“隠しておく”“相談して”だけしか言っていない。嘘も方便と言うが、嘘では無い“方便”そのものである。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-20-

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「意味、判ってる?」
 まばたきもせずレムリアを見つめる、その真っ直ぐな瞳、勇気を駆使したと判る呼吸、同期して上下する肩、額には汗のにじみも。
 比して、レムリアは、静かな瞳で。
「多分、相当数の女の子は、私と同じ立場にあったら、逃げるか、あなたを避けるでしょう」
 それは、彼女がクラスで波動が異なる解でもあった。
「理解されない気持ちでしょう」
 すると、溝口の目から頬へ涙一筋。
「だよね、ごめんね……」
 同性愛。言葉で片付けてしまえば簡単である。ただそれは恐らく予断を含むレッテルに過ぎないことを意味する。
 一方で彼女はこれまで抱えてきた思い、気持ちを吐き出す術を持たなかった。受け入れてもらえる場所を持たなかったことは確かであろう。
 レムリアは、握られた手を、離しはしなかった。
「親御さんや先生、クラスのみんなは知ってるの?」
 溝口の説明によれば以下の通り。小さい頃から“女の子のお友達”に特別な思いを抱き、その旨口にしてきた。しかし、その結果、彼女らは次第に自分からは離れていった。
 だから、経緯を知る者からウワサのレベルで周囲に浸潤しているであろう。対し、親は半信半疑。教員はウワサは聞こえているであろうが、明確に告げたことは無い。
“波動の違い”は当然だ。彼女は自己認識を言った上で、
「なのに……私……なんでか知らないけど……あなたなら受け入れてもらえる……急にそんな風に思っちゃって……変、だよね。転入生に初日からそんな」
「座って話さない?」
 レムリアは丘の上、赤い屋根の四阿(あずまや)を背中越しに指さした。
 この丘は何度も来ていて目をつぶってでも歩けるが、四阿を使ったことは無い。近づくと赤い屋根は塗装が剥げかけ、中のベンチは薄いブルーに塗られているが落書きとタバコの焦げ跡。
 

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天使のアルバイト-035-

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 空っぽの棚と商品名を照合し、カートンの段ボール包装を破る。
 と、遠方から幼い声。
「あ!あったあった。おかあちゃーん!」
 エリアは小さな男の子が自分の方へ走ってくるのを認めた。
 このお菓子のファンであると一見して理解する。箱から出し、棚に並べる作業を興奮した表情で見守っている。
 その仕草が可愛くて、エリアは男の子にニコッと笑った。小さい子は好きである。どんなに小悪魔的な行動を取ろうとも、その動機は根本的に純粋無垢であり、可愛さを感じこそすれ、逆はないからだ。澄んだ瞳で笑っているのを見ると、何だか自分まで幸せになったような気になるし、一方で泣いているのを見ると、何だかこちらまで胸が痛くなる。
 だから、笑ってもらおうと思わず笑顔を作ってしまう。最も、“親”の立場になると、また見方が変わると言うことも、知見として持ってはいる。
 果たして男の子はエリアの笑みを見るや、箱から菓子をひとつ直接取った。
「わーい、おかあちゃーん、おねえちゃんがくれた~」
 菓子を手に走り出す。
 は?
 その動作たるや驚いたという以外評しようがない。笑ったのを“あげる”と解釈したということか。“欲しい”という気持ちが、自分の“笑う”という行為を、最も都合良く解釈したのであろう。ちなみにもちろん、背景には、男の子の母親が、これを容易に買ってくれないという状態が存在するのは考えるまでもない。
 それはさておきどうしたものか。追いかけて取り返す?
 困っているうち、母親とおぼしき人物が、男の子の手を引き、赫怒の表情ですっ飛んできた。
「ちょっと!勝手にこんなもの持たせないでくれる?」
 違う!とエリアはまず思った。しかし、母親はこの場を見ていない。まして子どもが「くれた」と言えば、自分が渡したと判断して当然であろう。
“お客様の立場で”
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-19-

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「人は人。気にしない。行こ」
 繋いだ手を少し引っ張るようにし、ゆっくりと歩き出す。それでもレムリアがやや早いので、逆に溝口を先導しているような感じになる。
 昇降口のガラス扉を押し開き、空気冷たい外へ出、校舎の日陰を校門へ。学校は住宅街の西端に位置し、道は校門前で直角に曲がっている。従い通学路は右へ真っ直ぐか、前に真っ直ぐか。みんなバイバイあっちへこっちへ。
 二人は前へ真っ直ぐ進む。方角的には北である。校舎の陰から日向へ出、自分の影を追うように少し行くと“造成せずそのまま残した丘”がある。含んで丘の一帯は公園になっており、遊歩道とベンチが少し。
 その丘、草むらの中の遊歩道を歩く。とはいうものの、時節柄枯草色が一面に広がり、緩い風に揺られて葉っぱ同士が触れあい、カサカサ。
 陽の光暖かだが、空気自体はそうでもない。1月初旬の東京多摩地区は最も寒い時期と言って良く、日陰では日中でも5度以下など、ままある。
 小道に、草むらに、人影は無い。同じく小学校も短縮授業のはずだが、良く目にするそうした子供たちの姿も無い。
 丘の向こうは5階建てのコンクリアパート群。ベランダに白い布団や洗濯物が見えているが人の姿無し。
 人口40万新興住宅地で、人の目線が周囲に皆無。
 何か寂しい。話題が欲しい。レムリアが思ったその時。
「あの!」
 それは溝口のこれまでの印象とは違う強い調子。
 引く手を強く握って来、彼女は立ち止まった。
「ん?」
 レムリアは振り返る。
 そして、知ってしまった。
「あの……変なこと言うと思うけど、素直に言うね。あなたが好きになった」
 それは、友達として、ではない、重い告白であると、レムリアはすぐに気付いた。
「驚いてる?」
「いいえ」
 

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天使のアルバイト-034-

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「馴れてきたかな?」
「はい」
「じゃぁ次。お菓子の入荷があったから並べて。裏に松原(まつばら)ってのがいるから、POS(ぽす)登録の済んだものを棚へ」
 店長は精肉コーナー奥のドアを指差した。押すだけで開き、バネの力で勝手に閉まる。その向こうは準備や包装のスペース。ちなみにPOSはポイント・オブ・セールス……販売時点管理システムのことを言い、“バーコードでピッ”でおなじみであろう。登録とは、そのレジでピッをやるために、商品を在庫品として登録する作業のことだ。この店は商品をカートン単位で購入しており、入荷したカートンをコンベアに乗せると、途中でバーコードを読み取られ、カートン単位で登録されるというシステム。
 ドアを通って裏の荷受所に行くと、シマシマTシャツの若者が、コンベアから次々に菓子の箱を下ろし、台車に積み上げている。
「陳列?」
 彼はエリアに気付き、チラと見、しかし作業は続けながら言った。
「はい。お菓子です」
「その赤台車OK」
「わかりました」
 赤台車、と言っても真っ赤に塗られた台車があるわけではない。ただ、手すりに赤いテープの巻かれた台車があり、お菓子のカートンが3つほど乗っている。
「これですか?」
「そう」
 見もせずに言われたが、どこに何が把握していると言うことであろう。エリアは正しいと判断して引き出した。
「失礼しま~す。台車通ります~」
 客に当てないよう注意しながら台車を転がす。客は商品に意識が向いており、通路を行く他の物には注意を払っていない。従って自分の方が客の進路を予想し、台車の動きをさばく必要がある。
 ちなみにエリアが並べようとしているのは、お菓子と共にアニメキャラクターのカードが入っている商品である。このカードをコレクションするのが流行っており、畢竟、お菓子は人気商品だ。
 

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