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2016年2月

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-31-

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 但し使うに際し条件があるので説明する。いやなことをされた時だけ、にすること。もし、いたずらや攻撃など、悪いことしてやろうと思ってこれを使うと、逆に自分に術が掛かる。そして二度とこの呪文は効かなくなる。
「約束できる?」
「うん」
「あなたに祝福と幸せを」
 指をパチンと鳴らすと、光の輪が彼を囲むように現れ、弾ける。但しそれは意図した幻覚。
「じゃあね」
「ありがとう、天使様」
 ハシゴに乗り、そのまま船の高度を上げる。
 元来た道を操舵室まで戻る。
 大扉を開くと、自分を迎えた新しい友の顔は最前までのそれではなかった。
 一部始終見ていたであろう、聞こえていたであろう、その経過は彼女溝口を変えたと判った。
 それは、神秘体験を経て価値観が変わった人の表情であり目線であった。
「相原……さん」
 その気は無かったが勝手に声が出る。そんな調子で溝口は言った。
「はい」
「あなたは、普段、いつも、こんなことを」
「子供が子供らしく、子供達にいつも笑顔を。それが私の願いで目指すもの。そのためなら持てる手段は皆使う。子供が幸せで居られることこそ平和の指標だと思うから」
 船を動かす。船の向きは日本を出てから変えていないが、地球の丸みで向いてる方角は勝手に変わる。現在船首が向いているのは南南東。
 溝口はうなずき、そしてゆっくりと息を吸い、
「あなたに、不可侵の神秘性を覚えます。気安く友達呼ばわりした私を許して下さい」
 そう、ゆっくりと言い、頭を下げた。
「大げさだよ」
 レムリアは笑って言い、手をさしのべ、
 対し、吸い寄せられるように出てきた溝口の手を掴み、引き寄せて抱きしめた。
「あ……」
 溝口の身体が溶けるようにほぐれて柔らかくなるのが判る。
 それは、こうされたことがないことを、レムリアに教えた。
 

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天使のアルバイト-046-

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 続いてワゴン内のスイカが幾つかこぼれ落ちる。そも重く大きな果実であり、落下リスクがあるため、ワゴン自体背が低いし、山積みしていたわけではない。が、POPスタンドがテコのように作用したのだろう、押し出されて落下し、幾つかが床で鈍い音を立てて割れ、次いで甲高い金属音と共にPOPスタンドが転がる。
 ギャーという、泣き声というよりは絶叫に近い声が上がり、次いで、
 スイッチが切れたように声が途絶える。
 エリアは戦慄した。
 幼子がケガをしたことは明白だった。
 駆け寄る衆目より早く現場に着き、割れ広がるスイカの中から幼子を引っ張り出す。
 顔中血だらけ。果実の赤ではなく流血である。四肢は弛緩し、意識なし。
「……!!」
 その状況に、周囲数人の女性から悲鳴が上がった。
 大けがという状況は、確かに悲鳴を上げたいところではある。しかし、エリアは至極冷静であった。
 それは彼女が、その本質のゆえに、何をなすべきか承知していたからである。また、悲鳴や、果てはパニックにつながる根源“絶命への恐怖”を元々有していないからでもある。
 駆けてくる他の店員。
「店員さん救急車!」
 客の声にその店員が動き出す。エリアは黙って、顔を流れる血の筋を逆に辿る。救急車の手配はお任せだ。今自分がなすべきは応急処置だ。
 血は頭から流れ落ちている。怪我したのは頭部。
 血の筋に沿い指を這わせる。売り場に入る前に“二重消毒”をしたので、指で触れても問題はあるまい。程なく指先に傷口の存在を感じ、髪の毛をかき分ける。
 切り傷だ。倒れたPOPのスタンドによるものであろう。母親が見たら気絶すると思う程の深さと長さでスパーッと裂け切れている。裂け目の奥より後から後から溢れ出てくる大量の血液。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-30-

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 ハシゴから下り、レムリアは男の子に生じた異変と、“いじめ”の理由を知った。
 極端な怒りの感情で体表に斑紋が生じる。
 毛細血管が切れて斑紋になりやすい“紫斑病”という病気がある。怒りによる血圧上昇がそれを惹起する。
 その様相を故意に起こして楽しむ。
 何という嗜虐的な“遊び”であろうか。
「大丈夫。私は何もしないよ」
 レムリアは、敢えて、日本語で言った。優しい言葉が優しく聞こえる言語だと思うから。
 逃げたらしい5人の視線を背後の方々から感じる。男の子は白目を剥き、口角泡を吹き、ほぼ意識を失い掛けている状態である。
 手のひらを持ち、手首を握り、肩に手を回し、そのまま抱き寄せる。
 10歳か11歳か、その位。何年、こんなことされて来たのか。
 背中をなでさすり、ようやく落ち着いてくる。
 白目剥いていた碧眼がレムリアに焦点を合わせた。
「……天使様」
 という英語。彼にも術は掛かっている。
「ずっと見ていました」
 英語で応じる。そして知る。彼が過去何度も、やめてと周囲に頼んでいたこと。引っ越しを繰り返し、それでも結局はこうなってしまうこと。
 もう、あきらめていること。
 走馬燈のように流れる記憶を拾い上げる。
「でも、もう大丈夫。私が魔法をひとつあなたに掛けます」
 呪文、夕刻なので月齢ほぼ7の半月が中天にいる。
「(我の唱える解き放つ力この身へ降らせ『意図したこと形をなさず』)」
 レムリアは、そんな意味の語を唱え、唇に指先で触れ、その指と手のひらをまっすぐに月にかざし、
 短い髪の毛がふわりと動いたところで、手のひらを握り拳とし。
 そして、男の子に握った拳を両手で握らせ。
 その状態で、手を広げる。
「あ!」
 男の子は電撃でも受けたように身体をビクリと震わせ、声を上げた。
「これであなたは一つだけ魔法を使えます。呪文はこう『意図したこと形をなさず』……」
 

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天使のアルバイト-045-

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 天気予報に関することわざ“天気俚諺”(てんきりげん)に、“梅雨明け十日”という言葉がある。これは、梅雨明け後しばらくは安定した晴れが続くという意味である。
 エリアが川沿いに落下してより季節が一つ。
 その、梅雨明け十日に属する、夏の暑い日。
 エリアは午後の仕事に就こうと店内に入り、レジへ向かって歩いていた。今や仕事にも慣れ、指示を待って行動する受け身のアルバイトから、提案したり、一部発注も担当するなど、部分的に責任を負う仕事も受けるようになってきた。宅配の荷物手配の他、レジも扱えるようになり、社内試験を伴う総菜の調理以外は一通りこなせるような状況だ。人に頼らず、何でも出来る毎日が楽しい。
 その日も、その時までは、いつも通りの楽しい時間経過を辿っていた。
 12時と13時のほぼ中間の時刻。
 歩きながら気付いたのは、意味をなさない幼い声。
 目を向けると、買い物カートに乗せられた幼い男の子が、何か欲しそうに身を乗り出し、 手を伸ばしている。どうやら特設のスイカ用ワゴンの発泡トレイに並べてある、試食用のスイカ片が欲しいようだ。
 しかしカートを持つ大人の手はない。カートを置いて品定めといったところであろうか。従って、無人のカートで幼子一人身を乗り出し、という状況。
 ……危ないのではないか。
 エリアはその可能性にはっと気が付き、走り出した。
 しかし次の瞬間。
 幼子がカート上に立ち上がり、前のめりとなる。その反作用でカートが後ろへ動いた。
 従って。
「あっ!」
 エリアを含め、周囲数人から、声が挙がった。
 幼子の身体がバランスを崩して倒れる。
 特設のひな壇型ワゴンの中へ落下する。この時明らかに頭部をステンレス製のPOPスタンドに当てたのをエリアは見た。更に幼子は床面へと投げ出されるかの如く落下した。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-29-

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 従って、拾った心のシグナル……いじめ、という内容自体は、奇蹟というよりは、大人による論理と人間性に基づく対応が必要な事案であるが。
 今二人が気付いた事態は様相を異にした。
 正面スクリーンにカメラ画像を映す。北米大陸某国、としておく。時差相当の夜間の市街地であり、男の子が流れの縁に追い詰められており、数名の男の子がちょっかいを出している。叩いたり、石を投げつけたり。
 北米大陸の国家では人種差別が引きも切らないが、これは肌の色ではないようだ。いじめる、ちょっかいを出してる5人の側は肌も髪の色も様々。
 二人は気付いた。
「これは……レムリア」
「はい」
 正面スクリーンの右下に文字列が走る。cloaking(迷彩)、空中静止。
「ゼロベクトル固定」
「行ってきます。えみちゃんは待ってて」
 レムリアは操舵室を出る。1階層下に医療機器を積み込んだ病室エリアがあり、そこから船底の蓋を開いてハシゴを下ろす。
 ちょっかい出していた5人ほどがハシゴに気付いたと見え、動きを止めた。
 ハシゴはステンレス製で電動伸縮である。レムリアは先端にぶら下がり、ハシゴと共に降下して行く。一方、船は迷彩で背景に溶け込んでおり、5人ほどには、虚空から突如ハシゴと女の子が降りて来たように見えたはずである。
 少し催眠術。呪文を唱えるまでもない。彼らには天から降りて来た自分が天使に見えている。
「Oh my!」
「Jesus」
 驚いた結果としてのオーマイゴッド、ジーザスクライスト。神よイエス様よという意味だが、“何てこった”程度に訳されることが多いようである。
 ハシゴよ急げ。レムリアは思ったが、間に合わないとも同時に知った。
 男の子が、“切れた”。
 5人はそっちに気付いてはやし立てるように口々に何事か言い捨て、そのままちりぢりに逃げ出した。
 

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天使のアルバイト-044-

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「精神的ストレスで胃をやられるとか、そういう、気持ちの変化が身体に影響を与えることです。だとしたら……私はもうダメと考えることが、どれだけ身体に悪影響を及ぼすか。想像付くでしょう」
 由紀子は目を伏せた。
「……うん」
「医者はいろいろ言ったかも知れない。でもそれは確定事項じゃない。医者が命をコントロールしてるんじゃない。そこに目を向けてよ。何か特定の病名を言われたの?違うでしょ」
「うん」
「弱いというなら強くする。心身相関現象にはそういう逆向きの作用もある。誰かを好きになったことある?すごく元気にならない?あれもそうだよ」
 由紀子は何も言わず、うつむいたままぎゅっと口を閉じ、唇をわななかせた。
 エリアは由紀子をそっと包む。そして。
「……ごめん、キツイ物言いになったかも知れない。でも、私達は頑張る人に力貸すのが仕事だから…」
 それは、つい、口をついたこと。
「え?」
 見つめられ、ハッと気付く。しまった。
「……とにかく!そのうち死ぬんだ、とか、絶対に、絶対に思わないこと。生まれてくるということは、生きなさいということだよ。死ぬために生まれてくるなら、最初から生まれる必要なんか無いんだから」
 エリアはやや早口になって言った。実際には、彼女のセリフは“学校で習った”内容である。
 しかし今、ここでは、彼女自身の知見のようにすらすらと出て来た。“言うべきタイミング”ということであろう。
「うん。判った」
 由紀子は頷き、決意したように顔を上げてエリアを見た。意外だ、そんな気持ちが彼女の表情に表れている。
 そこで、サンダルを突っかけ歩く音がし、振り返ると由紀子の母親。
 二人を発見し、声をかける。
「何してるかと思ったらこんなところで……由紀子どうしたの?」
 エリアは母親が由紀子の涙を見つけたと察知した。由紀子も見られたくはあるまい。
 理由を追及されるからだ。
「くすぐりっこ!」
 エリアは即座に由紀子をくすぐりに掛かった。由紀子が身をよじらせてけらけら笑う。
「総菜食用油ニオイ攻撃」
「きゃあ~」
 屈託なく笑い転げる由紀子を、母親は静かな微笑みを浮かべながら見ている。
 

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生(但し魔法使い)-28-

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「ま、魔女なわけよ」
 レムリアはいきなり言った。そして金曜と同じ、唇に指をあてがう動作をしてみせる。
 溝口の目が見開かれた。
「魔女……魔法の国の……」
「そう。原野さんだっけ。彼女に言われた時は速攻バレたかと焦った」
「本当の……」
「ほうきじゃなくてこんなもんで空飛ぶけどね」
 一通り話して聞かせる。テレビに出ていた王女様というのは正解で、フィアンセ出来て日本に帰化した。しかも王国の魔法というのは健在で、誰も利用者がなくなっただけ。ちなみに中世魔法が幅をきかせていた時代は、宗教を超えた位置にあることから、主として戦争仲介、開戦防止を生業としていた。結果都市国家となり他の産業が育たなかったことがアダとなり、今はその時代の遺構を活かした観光、程度しか収入源は無い。王族を養って行くことは許される時代では無く、王族は解体。サンマリノのような直接自治国家とし、ルクセンブルクばりの金融経済で食って行く予定。
「魔法の……国の……お姫様」
 溝口は言いながらレムリアの手を取り、撫で、顔を見、頬に手を伸ばした。
 まるで顕現した天使に触れるかのように。
「そしてこれは、特殊能力者を集めた秘密のボランティア救命活動……」
「ええ」
 レムリアはシグナルに気づき、背後で聞いていた副長セレネを振り返り、セレネも頷いた。
 
 
「いじめ、ですね」
 このボランティア救命活動はアルゴ・ムーンライト・プロジェクトという。レムリアとセレネの超感覚(ESP)と超高速空中船であるアルゴ号、搭載したレーザやプラズマといった高エネルギ銃器、これらを扱う男達で構成されている。定例として3週に一度世界巡航を行い“救助には奇蹟が必要な”要救護者を対象にする。今回はイレギュラーでレムリアが呼び出したため、副長セレネだけ、という次第だ。
 

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天使のアルバイト-043-

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「あたしを見てよ。17に見える?これじゃまるで小学生。医者の言うように全然育たない。そしてそう、恐らく医者の言うとおり私の命はあと三年も持たない。見たことあるんだ。育たずに死んだ子猫。それと同じ」
 由紀子の声が、暗闇のナイフのような、冷たさと鋭さを帯びる。
 それは恐らく、彼女が誰かに聞いてもらいたかった本当の気持ち。
 そして恐らく、自分自身認めたくなかったこと。
「夢を持っても叶えられない。勉強したって活かせない。何度、何十度、自暴自棄になりかけたことか……」
 由紀子は自分の手首を見つめた。
 エリアはすぐには何も言わなかった。
 つられて出そうになる瞼の裏側のものをこらえ、由紀子の目をまっすぐに見る。
 なすべきことを自覚する。由紀子の思考の向きを変えなくてはならない。
 自分を助けてくれた女の子が、死を意識しながら日々を送るなんて。
 あってたまるか。
 エリアは生じた強い気持ちを意識した。対して、由紀子の表情が、エリアを見つめる由紀子の表情が、驚きを含んだものに変わる。
「エリカどうしたの?怒った?何か怖……」
「信じてるの?」
 エリアは感情を殺した声で言った。
「え?」
「そのヤブ医者の言うことを真に受けてるの?」
 由紀子の瞳が大きく開かれた。
「そのヤブ医者にあなたの命は弄ばれてるの?あなた医者に命預けてるの?」
「それは……」
「違うでしょ。あなたの人生はあなたのもの。あなたが自分で設計し、切り開いてゆくものでしょ。ひとつ訊いていい?」
「……なに?」
 エリアの声は責め立てているかのように感じたであろう。由紀子の声は小さく、気圧されたか、腰が引けた感じであり、まばたき一つしない。
「心身相関現象って知ってる?」
「名前だけは……」
 

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