« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »

2016年7月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-015-

←前へ次へ→

 

「地震が来る」
「え?警報?」
「自分の鳴ってないけど」
 めいめい自身の携帯電話を開いて確認。
 周囲で自分の言動を聞いた一般客も、いぶかしげに同じ行動。何も無いと知りじろりと睥睨。
「ダンナのパソに凄いの入れてあるんだ。それでメールくれたと思う。えーとね」

 

・壁やガラスと距離を取れ
・背を低くして頭を守れ
・火を消したら距離を取れ
・揺れが怖けりゃ足踏みを

 

 七五調に整理されたそれを彼女は唱えた。
 それは前述の通り、宮城県沖地震が間近いと思われたこと、今後の危難として首都直下地震、南海トラフなどがあることを踏まえて、日本で生活するに当たり最初に言われたこと。
 彼女自身は深発震度4というのを日本で体験したことがある。ただそれは距離1000キロ地下700キロからの地震波であって、前述の相原側で言うなら“長周期”だけを体験した形。

 

Eq3
(現物例:2015年5月30日・小笠原沖M8.1)

 

 もちろん救助活動には大地震の被災地もあり、そこで余震に遭遇したこともある。ただ、それらは気象庁震度に置き換えてやはり4レベルであり、時間も短い。
 揺れ出す。一様に揺れに気づいた声。
「あ、来た」
「なんか一昨日と同じ感じ」
「しゃがんでしゃがんで」
 彼女は教えられた通りしゃがみ込んだ。周りの観客は立ったままざわついている。
 ショーは継続。水の上では揺れに気付きにくいというのはある。
「なんかウチらだけしゃがんでバカみたいなんですけど」
 班員の一人、薮原(やぶはら)という娘がが苦笑。
 初期微動40秒。その間先んじて“学校の避難訓練”の様な格好していればさもあろう。周囲に比して過剰に過ぎる、ように見える。
 バイブレーション再び。
“warning MEGAQUAKE about 3-5min shake.”

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-068-

←前へ次へ→

 
「この……」
 エリアの見下したセリフは明らかに挑発であったが、暴力を取ったら何も残らないであろう男は、あっさりとこの挑発に乗った。
 しかも相手はどう見ても小娘である。“極道”が公衆面前で“小娘”にあしらわれる。
 それは男のプライドを痛く傷つけたようだ。
「女に小馬鹿にされたって怒ってんの?古いねえ。何億年前の極道だよ。いやカタギに因縁付けるなんざ極道に失礼さね」
 時代劇の女将さんとでも書こうか、軽妙で切れ味の良いエリアのセリフに、取り巻きが失笑する。
「てめ……」
 男は鼻息が荒いだけで声が出ない。あまりに度が過ぎた怒りで満足に脳が動かないらしい。
 周囲の呼気アルコール濃度が次第に高まる。
「確かに……事故品に気付かず売ってしまったのは私のミスです。それは謝ります。返金或いは正規の商品とお取り替えのどちらかご希望の処置を執らせていただき、更にご希望であれば健康診断の手続きをいたします。しかし、実際にはあなたの“若い衆”さんは誰一人、腹痛など起こしたわけではない。それが証拠に診断書も何もない。お金が欲しいなら、こんなことするより診断書見せる方が余程効果がありますからね。でもそれは存在しない。それは何も起こらなかったことの何よりの証明。さあ、どうします?それでもお金を、というなら立派な恐喝。暴力振るえば暴行です。あそこで監視カメラに録画もしています。逆にあなたが咎められる立場になりますよ。小娘にバカにされてカタギの人たちに笑われた上、勝ち目のない裁判しますか?」
 一連のセリフはエリアから立て板に水の如く流れ出た。店長は驚きと……恐らく、どうしていいのか判らないのだろう。男とエリアを交互に見ている。
 その、次の瞬間。
「この……」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-014-

←前へ次へ→

 

 これは一般家庭においても同様である。特に停電した場合、ケーブルの切断やショートに気づくことが出来ないので、電力復旧と同時にそれらから火を噴く。復電火災という。電気ストーブやこたつのような加熱機器も同様。落下転倒が多い場合、一旦メインのブレーカを落とし、可能な範囲で電気ケーブルの状態を確認されたい。
『なるほど』
 男性はため息混じりに答え、
『……判った。了解した。指示するよ』
 ここで一つ余震が起こる。東京の震度は2。電話の向こうはただちに、と言いかけたところで切れた。
 執務室は戻ってきた社員らがどよもす。
「おお」
「これは収まらんぞ」
 彼達は次々ヘルメットを被り始めた。
 相原のPHSが着信した。呼び出し音の鳴り方は外線。
 発信者はレムリアであった。

 

※恒温槽:高温・低温・高湿度など極端な環境を実験するための密閉室。家庭用冷蔵庫サイズから体育館ほどの大きさのものまで様々

 

 

 14時46分。彼女の方である。遊園地内の池で行われているショーを見ていた。
 アニメキャラクターの着ぐるみによる海賊退治である。ドクロの旗を掲げた海賊船があり、周囲を巡るように水上スキーをしたり、噴水などいわゆる水芸を混ぜたり。
 関東地方に携帯電話向け緊急地震速報は出ていないので、その場にいた他の観客も含め、その情報を最も早く得たのは彼女の携帯であった。ウェストポーチでバイブレーション。
 彼女は最初、同じ班の誰かのメールと思ったが、班の仲間達とは一緒にいるので、呼び出すなら救助プロジェクトか相原家のどちらか。
 表示された発信アドレス。
「ダンナだ」
 しかも携帯からではなく職場のアドレス。彼女は緊急性を感じてメールを開いた。
 massive quake.protect yourself and friends.

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-013-

←前へ次へ→

 

 部長は自らもスーツ姿にヘルメットを被り、接客スペースのテレビをつけていた。ニュースキャスターが緊張の面持ち。震度と津波警報が表示され、塩釜(しおがま)からの中継画像。
「相原は安全委員のマニュアル通りに行動しているだけだ。何が悪い。それにこれ見ろ。マグニチュード8近いんだぞ。化けもんみたいな地震なんだ。従業員の安全第一が我々の役目だ。違うか。それからこの後の本社会議は中止だ。メールが来た。電車が全部止まった」
「判りました……申し訳ありません」
 課長は頭を垂れ、その横目で相原をじろり睨んだ。
「相原」
 部長に呼ばれ、相原は応じ、居心地の悪いその場を離れる。
「はい」
「ラボ室を引き上げさせ、ここに集めろ。今後の行動について全員に指示を出す。材技(ざいぎ)も招集しろ」
「判りました。各課聞いた通りです。ラボ室を引き上げさせて下さい。恒温槽(こうおんそう※)も含め全部の電源を落として執務室へ。河合(かわい)さん。給茶機のコンセント、それから給水管の破損状況を確認して下さい。ひょっとしたら貴重な水源になるかも知れない」
 河合さんというのはそのお局さんである。
「あ、はい」
 相原の指示に河合女史が応じ、相原は構内PHSでラボ室に電話する。
「一課相原です。部長指示により全員撤収し、執務室へ集合のこと。電源は恒温槽含め主幹から全落としで。繰り返しますが部長指示です」
『恒温槽も?本気か?理由は』
 ラボ室の親分格たる男性は半ば怒鳴るように返した。時間のかかる試験データがリセットされるからであろう。
「部長指示です。余震で何かが落ちたり埋もれたりして、その状況で電気火災が発生したら近づけなくなるからです。さっきのは関東大震災クラスのものすごい地震です。必ず余震が来ます」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-067-

←前へ次へ→

 
 一昨日……普通なら閉店時に引き上げるはずの商品を、担当が間違えてそのまま置きっ放しにし、翌日……すなわち昨日、エリアがそれに気付かず売ってしまったのである。二重のミスだ。
「おかげで仕事にならねえ……判ってるだろうな、店長」
 凄む。但し、体格は店長の方が一回り以上大きいのであまり効果的に見えない。
「診断書などはございますか?」
「何だと?」
 やすやすと恫喝に乗らない店長に、男の額に青筋が走る。
「てめえそれが客に対する……」
「そうではございません。事故品でお客様に健康問題が生じましたなら、もちろん私どもの責任となります。しかし、お医者様の診断書など、金額が明確になるものがなければ………」
「やかましい!。それともてめえ、ウチの奴らにこの店に来られてえのか!?」
 その言動は、そちらが趣旨、であることは論を俟たないであろう。ただ、空回りしている。必死に“怖がらせたい”のだが、通用していないからである。暴力の存在を背景にした脅しは、相手が恐怖を感じない限り、子どもが嘘で大人の関心を引こうとするのと同レベルであり、傍目には滑稽で下劣で、情けない。
「仕事にならないほど入院してても店には来られるの?」
 果たして軽蔑の目のまま、エリアは指摘した。
 店長がギョッとしてエリアを見る、“君は黙ってな”。
 しかしエリアは聞く耳を持たない。暴力を怖がるという神経は彼女にない上、暴力で無理強いするというその腐った性根が気に入らない。
 なぜならそれはこの世で、人間として最も卑怯な行為であると思うからだ。
「聞いてりゃ馬鹿馬鹿しい。単なる言いがかりじゃない。店長もこんなの相手にするだけ無駄ですって。入院必要で、しかもそれが、ふん、お仕事?とやらが成り立たないほど人数多いのに、何で店に来られるって言うの?矛盾も甚だしい」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-012-

←前へ次へ→

 

「遅えよ」
 相原は鼻で笑い、開いたサイトの文字に戦慄した。
 宮城北部で震度7。大津波警報発令。
 気象庁のサイトに入る。北海道から関東まで震度5弱以上を示す赤系の表示で埋め尽くされている。これだけ広範囲これだけの震度の地震、表示されたマグニチュード7.9では済まぬ。
 会社所在地域は最大震度5強と判ずる。
「当地は震度5強。三陸一帯に津波警報が出ています。余震による更なる落下に注意。ムリして元に戻さず。火災はありませんか!」
 相原は言い、ヘルメットをかぶり、両の手を口元に当て、メガホンのようにしてフロア内に声を出す。なお、一般家庭においては自宅は安全に終わっても周辺の火災に注意が必要である。必ず近隣を確認されたい。
「ケガされた方はいませんか。点呼です。開発一課はここにいた全員は無事です。二課お願いします」
「二課……3人、多分、問題なし」
「電子制御」
「全員ラボだわ」
 答えたのは執務担当のいわゆるお局さん。
「材料技術」
「ミーティングじゃね?金曜この時間だし」
 二課から声。
「判りました。各課、ラボへ連絡を取って……」
 相原は言いかけ、課長へ向き直った。
「課長」
「なんだ。終わっただろ、いつまでもそんなもん被ってないで仕事しろ」
「ラボ室の全員引き上げを上申します。余震による重量物の倒壊や落下、可燃物の拡散が懸念されます」
「お前バカか。そんなデカいのが2度も3度も来るか」
「余震が来ますから」
「判っとるわ!そんなデカいのは来ないって言ってるんだ」
「いやでも巨大地震の余震はマグニチュードを1引いた……」
「うるさい黙れ。大体お前はだな。反物質とか夢物語ばかり考えてるから……」
「坂口!お前が黙れ」
 課長の声を遮ったのは部長であった。
「え?は?」
 課長は目をむき、部長を見やった。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-011-

←前へ次へ→

 

 古代、地震は「なゐ」と呼んだ。「地大いに震う(なう)」などと書いた。それはこのじわじわと這い進むような大地の挙動に、縄を「なう」あのじわじわとねじる感じを重ね合わせた擬態語なのではないか。
 この本州という島体の北半分が揃って動いているのであった。
 ユサユサとした揺れが収まってくる。が、船に乗ったような揺れは続く。
 長周期地震動である。この揺れはオフィス内の移動書架を動かした。高さ2メートル幅1メートル。びっしりとレポートファイルの詰まった、明らかに100キログラム超あるキャスター付きのこれが、可動範囲の右端、左端と動き回り、がしゃん、がしゃん、と音を発した。会議室など区画していたパーティションは、合わせ目や天井との接続点に破断が発生した。ただ、関東以北の空港や体育館で多数見られた吊り天井のボードや照明の落下は、相原の職場では起きなかった。また、停電も起きなかった。
 揺れが収まり始める。人々も慣れ始める。書庫の動きもようやく止まる。ピークは過ぎたと相原は判断した。だが、長周期は継続しており、更に次の余震(14時51分)が繋がってしまっていた。トータルで5分間ほどの揺れになった。これは応じた平衡感覚のズレを惹起し、ずっと揺れ続け、翻弄されているような「酔い」の感覚を呈した。
「まだぐらぐらしているみたいで気持ち悪い」
「地震酔いです。無理して立たないで」
 とはいえ相原は立ち上がる。デスク上はあふれこぼれたコーヒーで湖。仕方ないのでボツにしたプリントアウトを並べて吸い取らせ、パソコンでニュースサイトを開く。
 唐突なチャイムと構内放送。『従業員の皆さんにお知らせします。ただいま地震を感じております……』

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-066-

←前へ次へ→

 
 自分に用があるなら、自分が聞くだけのこと。
 母親が目を円くし、手を離す。エリアは頷いて見せ、続いて指で“OK”を作って、ウィンクした。
「お客様、私どもの店員に何か……店内での大声は他のお客様の迷惑になります」
「うるせえ!何モンじゃワレぇ」
 冷静で毅然とした店長の声に対し、やたら恫喝的な男の声。
「当店の店長です」
 店長は冷静さを失わない。
 エリアは男の目をじっと見続ける。
 強いアルコールの匂い。
 依存症だ。エリアは見抜く。しかもその吐息臭から、内臓にかなりひどい疾患を煩っていると知れる。要するに生活習慣がロクなものじゃないのである。自堕落で、退廃的で、貪欲で……。
 とにかく人間としてまともなものではない。
 男が怒鳴る。
「おお!じゃあちょうどええわ!お前んとこの、この小娘が期限切れのタマゴ売ったから見ろ!ウチのモンが腹痛(はらいた)起こして入院したわ!」
 嘘だ。エリアにはすぐ判った。ただそれが、テレパシー能力がチラリと働いたせいなのか、いわゆる“女の勘”の部類に属するものかは判らない。
「失礼ですが、その時のレシートと、その不具合の商品の残りはございますか?」
 店長はあくまで冷静である。何度か似たような事象があったのだろう。
「おおあるわ!。これじゃ!、よく見ろ!」
 男がスーツをバッと広げ、中からまだ残っている“半熟タマゴ4個入り”のパックとレシートを取り出す。そしてタマゴのパックを力一杯床面に叩き付ける。
 がしゃんと卵が割れ、中身が流れる。
「こいつは、この女だろう!」
 唾液を飛ばしながらレシートを突きつける。確かにレジ担当者はエリカで日付は昨日。
 一方タマゴの方には消費期限が一昨日のシールと“100円引き”のシール。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-010-

←前へ次へ→

 

「何だぁ?」
「身を隠して下さい!机の下に!」
 およそあらゆる物が揺れ動く。その音よりも大きな声で相原は叫ぶ。それは船に乗っているようなゆーらゆーらした動きと、従前来のユッサユッサが重畳された揺れであった。双方の位相が重なり、振幅が大きくなった時には、応じて大きな動きになり、位相が逆になった時は、例えば右に動きながら左にも動いているような違和感を与えた。
 コーヒーがマグカップから溢れ出し、机の端から垂れて落ちる。
 重さ100キロの多機能コピー機がキャスターのロックを壊して動きだし、ゴロゴロ動き、スペースを区切る移動壁、パーティションに衝突した。
 その衝撃でパーティション裏側にあった給茶機が転倒し、ドンガシャンと大きな音を発する。この手の落下破壊に伴う音は恐怖心を増幅させる。
「給茶機が倒れただけだ」
 女性社員の悲鳴に相原は冷静に応じた。給茶機はL字金具で床面にボルト止め固定されていたが、繰り返す揺れに耐えきれず、コピー機の一撃でボルトが折損したのであった。
 隣接する茶箪笥が倒れる。ガラスと陶器が甲高い音を立てて割れ砕ける。
 都度、女性社員の悲鳴が上がる。
「キャー」
 揺れは収まらない。
「もうやだ」
「何これ、ねぇ何なのこれ」
 深甚な恐怖とパニックが女性社員らを捉え始める。
「本物の大地震です。潜って身を守って下さい。3分から5分は見て下さい。どうしても耐えきれない時は逆に足踏みするといいです」

 

Eq2
(NS:南北方向のずれ/EW:東西/UD:上下)

 

 相原は机の中から声を発した。四つん這いになっていると床面は明らかに右に左に斜めに傾き、戻り、を繰り返していた。建物の中にいて、建物の構造体を見ているのであるが、生き物の背中のように動くのであった。まるで大地自体が大きなヘビか何かのようにのたうち、這い進むかの如くであった。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-009-

←前へ次へ→

 

 揺れが続く。次第にユサユサが大きくなり、オフィス内の諸々がガシャガシャと音を立てる。机上に積まれた書類がバサバサ落ち、棚の上に並べ広げた図面のファイルが倒れ、振動に少し跳ね飛びながら動き、床面に落ちる。吊り天井のボードが擦れ合ってキシキシ言い、粉塵を煙のように広げ、コピー機やシュレッダーなど、比較的大きなオフィス機器類がガチャガチャと音を立て、接続部を軋ませる。破壊や落下に伴ってキャッ、という女性社員の小さな悲鳴や、おお、という男性社員の小さな驚愕。
 揺れが収まらない。少しずつ大きくなりながら、ユサユサと揺れ続ける。
「長いな」
 落ち着いた声はスペース内奥、観葉植物の傍らに立つ部長であった。深い皺が刻まれ、白髪が目立つその表情には、若干の苛立ちが見える。課長と共に出る予定であり、スーツを着てネクタイを巻き付け中。
「どうなんだ相原」
 部長に問われて彼が思い浮かべたのは2004年、スマトラのマグニチュード9.1であり、古文書から推定したという1707年宝永地震、マグニチュード8.6であった。
 スマトラは7分揺れたという。宝永地震は3~5分は揺れたであろうと言われる。なお、宝永地震の揺動時間は、当然時計の無い時代であるから、何歩歩く間とか、煙草を何回吸う間、といった表現で揺れた時間を記録している。
「これは巨大な、あっ」
 揺れ始めて1分30秒。
 擬音語を使えば“ビシッ”に“ズシッ”が混じったと書けようか。
 ひときわ大きな揺れが東京近辺に来襲する。それは震動モードが別次元に遷移したことを示した。

 

20110311tokyo

 

 これまでに、経験したことの無い、巨大な地震であると、相原は直感した。
 ビシッ、は、建物鉄骨が一斉に応力で変形し、音を発したのであった。
 ズシッ、は、他でもない大地岩盤の空気震わす音であった。
 ズシッと大地が大きく動き、ビシッと建物が応じて歪んだ。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-065-

←前へ次へ→

 
 由紀子のセリフを思い出す。『オトナって頭ごなしが不可能な場合は外堀から埋めてくるんだよね』。由紀子ちゃん、あなたは鋭い。
「そうかあ。そうかあ。いやあ良かった!!」
 店長が満面に笑みを浮かべて言い、母親が満足そうに頷く。
 その時だった。
 入口自動ドアのガラスが、割れんばかりに荒っぽく叩かれる。
 振り向くと否、叩かれるではなく蹴られている。ぐらぐら震えながら、モータドライブでドアが開く。
「オイこらぁ!店長はどこじゃあ!」
 野卑な声ががなり立てた。
 客も店員も動作が止まる。主婦同士のお喋りも、価格を読み上げる店員の声もピタリと止み、多くの目が男の方へ向けられる。
「あ!お前だお前!そこの金髪の女!お前だ!」
 男はエリアを指差した。ちなみに、男の目的が“言いがかりを付けに来た”であるのは論を俟たないであろう。
「このクソ女(アマ)が……」
 男が遠巻きの衆目の中、数語の冒涜の言を吐き、エリアを指差しながら歩いてくる。口ひげを生やし、サングラスをかけ、服装は一見大人しそうな黒のスーツ。しかしその内側には大きな竜の刺繍が入っている。
 俗に“その筋”の者と呼ばれる人種である。低劣そのものであり、暴力を取ったら何も残らない。
 エリアは軽蔑の目で男を迎える。その顔は興奮に赤くなって血管が浮き立ち、サングラスの向こうでは鉛色の目が攻撃的にギラギラ光っている。
 男がエリアの視線……自分を真っ直ぐに見ている……に気付いたのだろう。鉛色の目が大きく開く。敵意(ガン付け)と受け取った。
 交差する二人の視線を店長の身体が遮った。
 店長が男に面と向かう。母親がエリアの手を取り、その場から彼女を引き離そうとする。
 “待って”エリアは振り返り、手のひらの所作で母親を制する。理由、ここで動いても男が追ってくるだけの話。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-008-

←前へ次へ→

 

 上司は怒鳴ったのであったが、相原は己の信じるままに声を発した。
 7秒後、速報システムのマグニチュードは7.7に変わった。
 彼のパソコンモニタを覗き込んだ同僚が「げっ」と叫ぶ。
「通常の宮城県沖よりデカいです」
 相原は来るであろう震動に身構えて足を前後に広げ、自分のパソコンからメールを飛ばした。“massive quake.protect yourself and friends.”向け先はもちろんレムリアである。
 初期微動が達する。
「あっ」
「おお地震だ」
 相原の職場は神奈川県内としておくが、以下時系列は東京の記録に基づく。
 14時47分50秒。速報のMは7.9を表示し、東京に主要動が到達した。
 建屋がギイギイと軋む音を伴い、ユサユサと表現される左右動・横揺れが始まる。窓や什器が固定された枠内で動いてガタガタと音を立て、積み上げた書類などバサバサと床に散る。
 M7.9。それは大正12年関東大地震のそれと値を同じくする。相原は確信した。これは通常の宮城県沖ではない。文献に“過去起きた形跡がある”とされた、宮城県沖と隣の震源域が連動したマグニチュード8超クラスだ。ならば、関東もただでは済まない。東北も関東も“北アメリカプレート”と呼ばれる同じ岩盤の上にある。その“北アメリカプレート”が大きく動くのだ。
「うわ本当に来た!」
「一昨日よりでけえ」
「潜って下さい!机の下に潜って下さい!窓ガラスから離れて下さい!一昨日より遙かにでかいです」
 相原は大きな声で言い(無闇に叫んだわけではない)、自らも机の下に身を潜め、携帯からメールを打った。

 

“warning MEGAQUAKE about 3-5min shake.”

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-007-

←前へ次へ→

 

 さて、表示された画面の表記は当初M7.2であった。地震発生から5秒後にあたる。
 この時点で彼は、9日の余震とまずは思った。だが、15秒ほどで7.6に変わった。
 9日より大きい。これは宮城県沖の本体だ。
 リアルタイムの震度が色で表示される日本地図。東北地方に震度5弱以上を示す赤系が広がり、更に関東へ向かって南下してくる。
 この赤系は関東へ達する勢い。
 動こう。彼は独断した。職場防災隊の類いは良く新人の仕事にされる。なぜなら、マニュアル化された避難訓練が主なイベントであり、知識や経験は必要ない。一方で避難場所を覚えたり、名簿チェックの必要から、職場に溶け込む上で最低限必要な情報を把握せざるを得ないからである。
「地震来まーす」
 彼はフロア内に声を発した。
「え?」
「相原。大丈夫か。何も鳴ってないぞ」
 非難の意を含んだ疑念の目が彼に集まり、3時から本社に出向くというスーツ姿の課長が眉をひそめた。「何も鳴っていない」は携帯電話の緊急地震速報を意味する。
 説明が続くが容赦願いたい。この時点、緊急地震速報は、上記M7.2の時点で、条件に当てはまった宮城県等に流された。だが、実際には地震計のデータが増えることで精度が上がり、速報の要件を満たす範囲は変化する。対して、2011年3月の段階では、リアルタイムで更新される震源情報に対応し、警報を出し直すシステムは備わっていなかったのである。このため、本来ならM値の増大に伴い、速報対象に加わるべきであった関東一円には、警報は出されなかった(NHKのテレビ・ラジオは地域によらず警報が出れば全国の放送に載せるので、他の地域でも判る)。

 

Eq1
(推定マグニチュード・震度・緊急地震速報のタイミング/気象庁特設サイトより)

 

「宮城県地震の本物です。一昨日より大きく揺れます」
「相原いい加減にしろ!」
「各位机の下に潜り、ヘルメットを手にして下さい。到達まで30秒」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »