« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »

2016年9月

天使のアルバイト-077-

←前へ次へ→

 
12
 
 元日。午後3時。
 沢口家の玄関呼び鈴が鳴った。
「はい」
 母親が応対に出ると
 ドアの向こうに巫女装束の娘が一人。
「えへへ。明けましておめでとうございます」
 エリアは頭を下げた。袖ちょっと長め。髪の毛は後ろでまとめて白いりぼんで止めている。
「へえ~っ!」
 母親はエリアを見て感嘆の声を上げた。美しく、清楚で無垢。巫女を天職とするために生まれてきたかと思わせる立ち姿である。
「やっと本日のお役ご免となりまして。そこでお披露目。もう身体ボロボロ」
 エリアは首を回してゴキゴキ鳴らした。と、その背後に立つセーター姿の男性。
「ど~も。おめでとうございます」
 店長である。
「あらまあ、とにかく二人とも上がって。お父さ~ん、起きて!。由紀子、エリカちゃん、すっごい綺麗で可愛いよ」
 母親が声を張り上げながら二人を招き入れる。
「じゃ、お邪魔のエリカ」
 草履を揃えて上がる。
「お邪魔の店長も続くとしよう」
 店長も上がり込む。と、階段をゆっくり下りてくる足音。
 パジャマにカーディガンを羽織った由紀子である。母親の話では“年末恒例”の風邪をひき、布団の中で除夜の鐘、らしい。
「大丈夫なの?」
「うわ~っ!!」
 エリアの心配に基づく質問に、由紀子は悲鳴に近い驚きの声で答えた。
 エリアの方が驚いてしまう。
 更に。
「何?どうかしたの!?」
 異常事態と思ったか、一旦居間に引っ込んだ母親が飛び出してくる。
 そして、エリアと二人で由紀子を見つめる。何があったの?
 すると、
「綺麗……」
 自動的に出てきたような由紀子のセリフ。
「そ、そう?」
 エリアは……驚いて損したとでも書こうか、腰が抜けるような感じと共に言った。
 そして、ちょっと遅れて照れくさい気持ち。
「うん。すっごく綺麗」
 由紀子が大きくコクンと頷く。夢見る少女のような、キラキラと輝く瞳。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-032-

←前へ次へ→

 

 相原が頼んだのは、自治体の避難放送を文章化して
 ・企業や学校への一斉指示
および
 ・親族に対して『避難完了したので安心して逃げよ』の指示。
である。これらはデータベース登録しておくことで、各種警報に連動して送出することが可能であろう。また2014年以降、子供に携帯情報端末を持たせる事への要否が盛んに議論されているが、登下校中の子供に情報を届ける手段で最も確実なのは携帯電話である。最もこれは、緊急警報放送の受信専用装置のように、単機能端末として持たせることも可能であろう。
 まず救うべきは子供達だ。この見解においてアルゴ号も相原も揺るぎない。
『2報、3報受信した』
「了解。限界だ。次へ」
『えっ?』
 相原の発言にレムリアは目を見開いた。全員避難できたとはとても思われないが。
 首肯したのはアルフォンスス。
『レムリア、私も相原に賛成だ。ここは全体最適だろう。消防や警察も動いている。我々が出来ることはした。それでも動かぬ1人より、事情を知らぬ100人だろう。できるだけ広報し、尽くしたところで具体的な個々救出に移る。家屋内にとどまったままの方の有無、その座標は同定した』
『判りました。あっ』
 レムリアは唇を噛むような表情を見せ、次いで腰元に手をした。
 大画面に子画面が開かれて“メール着信”。
 田立が送った祖母の画像メールがレムリアのアドレスにようやく着信し、ブラウザメールで船のコンピュータが開いたのである。
『レムリア。中の住所をプロットするかと船が聞いていますが?』
 セレネが訊いた。
『友人のおばあさまです。連絡が取れないとか』
『行け。相原どう思う。妥当か』
「気仙沼と聞いた。直ちに行くべき」
 相原は船のコンピュータがシミュレーションした動画を取り寄せ、いつ、どこに、を見ている。もちろん、ほぼ同時にいくつもの市町村に津波が襲来している。全ては無理である。このことは広報・救助の仕組みをきめ細かく配置する必要性を示唆する。そして船は最も津波到達が早いと見られた大船渡に向かい、そして今、約束を守るために気仙沼に向かうのである。
『座標同定。全速』

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-031-

←前へ次へ→

 

「俺たちにできることあるか?」
「QZから携帯に割り込ませて一斉警報を流したいんですよ」
 相原は彼ら一人一人の目を見て言った。
「請け負った」
 先輩社員達は言い、それぞれノートパソコンの画面を開き、会議システムにLANケーブルを接続。
 相原の机上パソコンから緊急地震速報。ちなみにオフィス中に聞こえるように音量最大になっている。
『マグニチュード、7、推定震度、5弱』
 合成音声。
「余震来るぞ!全員隠れろ」
『学どうしたの?』
「そっちは続けろ。大きな余震だ」
 15時15分、茨城県沖マグニチュード7.6(Mは2016年9月現在)。
 初期微動から主要動への遷移、その揺れ方は本震に類似だが、遷移までの時間が短く、主要動も本震ほどではない。が、震度5クラスなのは確かで、外れかけていたパーティションが再び音を立てて動いたり、片付け途中で不安定だった書類ファイル等が落ちたりした。
 天井の合わせ目は部材が削れて煙をあげ、照明には点滅するものもあった。
 部長が指示する。「片付けたりするのは余震が落ち着くまで待て」
 が、これで乗り切ったと相原は察知した。揺れは残るが机から出る。
「相原、用意できたぞ」
「ありがとうごさいます。アルゴ、大船渡の放送をテキスト化してこっちへくれ」
『了解』
 大画面の片隅にウィンドウが一つ開く。
 それは会議室ノートパソコンにも同様に表示。
「榊(さかき)さん。コピペってQZへ」
「OK」
 準天頂衛星は3万キロ以上の宇宙空間を航行する。小さな携帯電話から衛星への電波送信は遠すぎてむろん不可能である。しかし逆に衛星が携帯端末へ電波を降らせることは可能である。
「送った」
 0.5秒。
『ただいま本船で受信確認。同時に域内の携帯電話も受信していると判断される』
「次だ」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-076-

←前へ次へ→

 
「エリカ」
 母親が呼ぶ。
「はい」
 エリアは緊張する。“異能娘”扱いされるか。
「あなたは、出会う人みんなを、元気にする、魔法があるようだね。うちの子含めて」
 母親は由紀子を指差しながら、ゆっくりと、言った。
「見過ごせないんです。知ってて無視するって、ものすごく後ろめたくて」
 エリアは少しホッとし、目を伏せながら言った。
 そのくらいなら、いいか。
 そこへ父親がようやく到着。
「楽しそうだな。何かあったのか?」
「女の秘密」
 母親がクールに言い、由紀子と連れ立って歩き出す。
「ちぇっ」
 父親が拗ねた子供のように唇をとがらせ、母親からチケットを受け取る。
 エリアはくすくす笑いながら一家について行く。
 美術館は中に絵画、外に彫刻などのオブジェ。毎正時には鐘が鳴る。
 一巡りし、一家が美術館を出てきたのは、夕刻に近い頃。
 太陽はすっかり高度を下げており、眼前にうねり広がる草むらは、柔らかな夕刻の金色に染まっている。
「うわーっ!」
 眺めに引き寄せられるように由紀子が走り出す。風が渡り、金色の草波がキラキラ輝きながら、太陽へ向かって流れる。
「素敵…」
 草の中に立ちつくす。赤毛のアンが詩でも考えてそう、そんな雰囲気。
「姫と姫、こっち」
 父親が少女達を呼び、二人は目線を父親のカメラに向ける。
 シャッターが切られる。
 父親は液晶画面の画像を確認し、
「もういちま……聞いてねえな」
 もう一枚撮りたいらしいが、由紀子らには聞こえていない。
「ねえ由紀子ちゃん……」
 エリアは金の陽射しに照らされる由紀子を呼ぼうとし、ギョッとした。
 
“終わりが近付いている”
 
 それは……こう言っていいのだろうか“予知”の感覚。
 それがふと、心の中に生じた。
 そして、不安が居座った。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-030-

←前へ次へ→

 

 グラフィックが構成され、海を行く津波の姿が3次元で浮かび上がる。ちなみに、外洋にいる津波は、先にも記したが“波”の姿を呈しておらず、キロメートルのオーダで緩やかな盛り上がりとくぼみを有するものだが。
 ものだが。しかし、この津波は違う。小山のような盛り上がりが見て取れる。
 外洋の時点で盛り上がっている。これが岸に近づき更に高くなるのであるから、すさまじい水の壁になろうと推察できる。
「現在地」
 相原は訊いた。スクリーンに定規をあてがい、最初に津波が達する地点を予測する。
『大船渡(おおふなと)。広報開始しました。下からは飛行船に見えているはずです。ただ防災放送と声が被ってしまう』
 それはすなわち、大音量で避難を呼びかける飛行船として、地上の人々には見えている。
「場所はそこで結構だ。被るなら録音して同期して流せ。みんな逃げてるか?」
 相原は言った。
『携帯電話を追う限りは……大きくは逃げる方向ですが、逆に海岸へ近づく動き、動かない端末、いっぱいあります』
「テレパス、近づく動きの意図が読めるか?」
『多くは家族への心配です。年老いた親がいる。学校に子供がいる』
 相原の問いに副長セレネが応じた。テレパスは言わずもがな超能力テレパシーである。船にテレパス使いはレムリアと、この副長セレネ。常時繋がっている他、連携して“心の悲鳴”を検出し、救助活動のトリガとなる。この点、現状の科学技術では不可能なのだが、将来的には、発汗や心拍で“パニック”や“焦燥”は検出可能になると思われる。
 果たして、レムリアの報告に相原は舌打ちした。そして。
「子供を心配している端末の電波補足可能か」
『できます』
「じゃぁ……」
 相原は振り返って走り出そうとし、背後の面々に気付いた。
 同期、および1年2年早い入社の先輩達だ。ノートパソコンやネットワークケーブルなどを持って立っている。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-029-

←前へ次へ→

 

 次に、準天頂衛星とは、名の通り“ほぼ、真上にいる”人工衛星である。Quazi Zenith Satellites.スペルよりQZSと略され、3機の衛星が入れ替わり日本列島の真上に達する軌道を描く。これを使ってGPSに代表される位置情報を精度良く行う他、一方通行にはなってしまうが、QZSから個々人携帯電話への緊急速報を一斉送信する能力を有する(作者註:実際の準天頂は2016年9月現在JAXA「みちびき」1機のみ。また、一斉送信の機能は持たない。本作では可能な上限を想定している。なお、SARによる災害把握はJAXA「だいち」より開始されており、2014年6月「だいち2号」の打ち上げに成功)。
 船からピン。
『相原。接続許可要求が来たがこれは何だ?』
「自分の会社で管制している衛星データのストリーム送信です。ネット経由は遠回りなので衛星からダイレクトに通します。第3パケット目がSARのリアルタイムなので、船のSAR可視化処理に回して下さい。津波が追えます」
 SARを表示していた子画面にアニメーションが表示された。
 アニメ画面上に機械のアイコンが2つ。「Argo」として帆船のイラスト。「QZS」として太陽電池広げた人工衛星のイラスト。
 画面上の双方機械のアイコン間を指でこすると線が引かれ、「Dock」の文字。何とこれで機器間のデータ授受の接続が完了する。次いでQZSとArgoの間に引かれた線を指先でぐいっと広げる。このぐいっと広げるは指先で瞼をこじ開ける動きに同じ。
 すると流れてくるデータの階層構造が表示される。パケット数、パケットの内部構成、暗号モード。更にArgoをタップ(指先でつつく)すると、船のコンピュータが所持するデータ解析システムがズラリと並ぶ。SARの項目に第3パケットを指で引きずって投げ込むように動作(投げ込むのでスローとか言う。呼び方はOSにより様々)。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-075-

←前へ次へ→

 
「ところがさ、やっぱりあの子が抱き上げて、傷口を押さえていただけで血はストップ」
「ホントに?」
「ホント。しかも錯乱してる母親を見て『この子は大丈夫です』だって。その自信と威厳を持った目は天使じゃないかと思ったって」
「ふーん」
「他にも昨日のヤクザ屋さんの話とかさ、小さいことなら幾らでもあるのよ。泣いてる小さい子がおとなしくなるとかね。あの子自身は『気味悪がられるから誰にも言わないで』って言ってるらしいけど、私も聞いたし、たった今あんたも聞いた」
 そこでエリアが立ち上がった。
「ばいばいおねーちゃん!」
 エリアに手を振り、みんなの元へと元気良く走り出す男の子。ガイドと担任がエリアにペコペコ。
「ほらね」
「ほえ……」
 由紀子は少しの間まばたきもせず、男の子を見送るエリアを見つめた。
 エリアが母子の方へ戻ってくる。
「見てました?」
 エリアはいつもと目線が違う母子に向かって訊いた。
 自分が“不思議な娘”と吹聴されていることは、エリア自身よく知っている。口止めしたがムリだったということだろう。結果、特に夏以降、店員や母親など、身近な人物の自分に対する接し方が、やや変化してきたことも判っている。
 その原因が自分の行動にあることは百も承知。でもだからと言って、可能であるのに不可能のフリして無視など到底できない。
 もちろん、“人間として暮らせ”という意志に沿うなら、無視が妥当であるかも知れぬ。しかし、現実には、メカニズムはどうあれ、自分にそうする能力が備わっている(残っている?)らしいことが判った、判ってしまった。だとすれば、人間に助けられた側として、助けられる場合にはその能力を用い、そう動くべきと思うのだが、それは間違いなのだろうか。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-028-

←前へ次へ→

 

 溢れ出した水は時速40キロ程度で全て押し流しながら内奥へ進んで行く。水は1メートル角の立方体で1トンの質量を有しており(1リットルは10センチ角。それが1000個分)、速度を得て応じた破壊力を持つ。この際、破壊され、いわゆる瓦礫と化したクルマや材木など重量物は、津波の先頭で山を成し、瓦礫自体が更なる破壊力となってエネルギ果てるまで進行し続ける。
 高さ1メートルの数値だけ見て侮るべからず。
 部長は頷いた。
「判った。リンクしてその船に送り込めば当社システムを救助に使えるわけだな。日本政府は具体的な動きを見せないし、全貌を把握できていないだろう。よろしい、我々とその船で動ける範囲は動くとしよう。社長稟議は後追いで私が取る。『ガイア』『ゼウス』『タイタン』のパスを東北沖に変えさせる。データサーバのIPは判るか」
 相原は手持ちのメモを見せた。
「よろしい。その飛行船の通信システムは」
「インマルサットがメインですが」
「座標も取れた方が良かろう。準天頂の『ほうおう』『はやぶさ』『つばめ』の空いてるチャネルを割り当てろ」
「はい」
 少し解説が必要であろう。
 空中移動体である船の第一の責務は、極力住民に津波の到達を広報し、避難を促進することである。この際、自力で動けない方は船自体で移送を行う。もちろん、都度都度でどこかに届ける必要は無く、まず全員を船に避難させ、後からで構わない。
 一方、移動中の船は津波のリアルタイムの状況、活動エリア以外の人々の動きは見えない。これらは常に変化し、緊急を要する場所が刻々変わる可能性を示唆する。この辺りをレーダ衛星や携帯電話の動きで把握する。なお、2016年時点、日本政府は津波のリアルタイム把握のため、海底水圧計による測定網の構築を急いでいる。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-027-

←前へ次へ→ 

 

『了解。全部コンピュータに指示として理解させた』
「承知した」
 相原は頷いた。つまり、船のコンピュータが相原の言葉を理解し、自ら津波到達のシミュレーションを行い、喫緊と思われる場所から避難支援を実施すると把握した。
 画面が変化する。レーダの画面が元の位置に戻り、大スクリーンにはビデオの早送りのような画面が流れる。
 高速で移動しているのである。海岸線を越えて市街地。
「相原……」
 これは背後から部長の声であった。
「はい。あ、部長、申し訳ありません。勝手に使っております」
「今のSAR画像は当社のものか?」
「いえ、このシステムで繋いでる国際救助隊のものです。去年アキバに落ちてきたあの船です」
 すると部長は小さく「おお」と言い、
「知り合いがいるのか」
「はい。津波はこの位置で5メートルなら三陸リアス式で30メートルは優に超えようかと。船には救助に向かわせたいので、津波のリアルタイムはウチの衛星で取れればベターです」
 相原は作業服の胸ポケットからペン型のレーザポインタを取り出し、赤い輝点でグラフィック地図の波を示した。
 ここで津波の特質を少し記しておく。“波”という字があるが、海岸に打ち寄せる波とは大きく異なる。海底に生じた高低差が水面段差となって伝搬して行く現象である。深海を進むとき、その波長は“盛り上がった一帯”そのものであって、数キロから数10キロに及び、仮に波の上にいたとしても、波の有する“山”“谷”を感知することはできない。伝搬速度は時速500キロから1000キロに達する。“ジェット機の速度”で進むのである。

 

Cr68bmyuaaa_pte
(学研の図鑑「海」より)

 

 そして陸地に近づくと浅くなり、行き場を無くした水は高く持ち上がる。後から続く水に押されて更に高く持ち上がり、溢れるように陸地へ流れ出す。洪水とした方が実際の説明に最も近い。なお一気に波が高まると映画のように壁を成してなだれ込む。この現象を段波(だんぱ)と呼ぶ。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-074-

←前へ次へ→

 
 男の子は……いた。
「ちょっと待ってて」
 エリアは言うと、母子を離れ、確信を持って歩き出した。バス脇で運転手がタバコをふかし、ガイドと担任であろう、ドア脇でしゃがむ背中に話しかけている。
 屋外オブジェを見ていた由紀子がエリアの不在に気付いた。
「エリカ?……あ」
 由紀子は周囲を見回し、子供の傍らにしゃがんでいるエリアを見つける。
 しかし由紀子はエリアを呼びに行こうとしない。
 母親がチケット片手に戻って来る。
「どうしたの?……なるほど」
 母親は由紀子の目線の先にエリアを見つけ、一人ゆっくり頷いた。
「由紀子」
 母親は呼んだ。
「なに?」
「あの子……不思議な部分があると思うでしょ」
「うん。私もそんな気がして今ちょっと声かけづらい」
「それで……変なこと言うと思わないでね。私あの娘“超能力”みたいなもの持ってるんじゃないかって気がするの」
「は?やめてよ冗談。常識に照らして公正ってのが……」
「あの男の子、多分元気になるよ」
「え?」
 由紀子は母親を見た。
「どういうこと?」
「店長に聞いたんだけどね。この夏……駐車場で車の中に赤ちゃん置きっぱなしって事件があって」
「聞いた。救急車呼んで大騒ぎ」
「あの子、ロックしてあるはずの車から赤ちゃん救い出したのよ」
「……うそ」
「しかも……もう息も絶え絶えだったんだって。茹でたみたいに熱くなってて。そんな赤ちゃんにあの子、『大丈夫だから、絶対に助かるから』って言いながら、人工呼吸して、抱きかかえて、何かずっとブツブツ祈ったって……」
「で?」
「助かった。お医者が奇跡だって叫んだそうよ」
「ふーん」
「他にもある」
「え?」
「カートの子供が暴れて落ちてさ、チラシのホルダー巻き込んで頭バッサリ切ったのよ」
「うえ……」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-026-

←前へ次へ→

 

「お久しぶりです船長。船のメインをメイン画面へ下さい。下4画面はSAR、座標と速度、レムリア、船長で下さい」
 相原は言った。
 会議室スクリーンの画面割りが変わる。大きな画面の下に4つの子画面が並び、大きな画面には海が映示。子画面には左から乱れた波形のような文様画面、高速で動く数字の羅列、レムリアの顔、そして黒檀の肌を持つ船長、コールサイン“アルフォンスス”の顔。
「相原!」
 課長が怒鳴った。相原は一旦下唇を噛み、しかし振り返った。
「申し訳ありません。言葉で説明してもご理解いただきにくいかと。相手先は昨年核ミサイル騒ぎで秋葉原に落ちたあの船です。今般の大地震に際し救助に駆けつけてくれました。応じて当社管制下にある各種衛星、画像記録と伝送サービスの生データをここに集約いたしたく存じます。許可願います」
 相原が喋る中途から課長は首を左右に振る。否定否定否定。
「信じると思ってるのか?貴様いい加減にしろ」
 船からピン。会話要求。
『学……いい?データ取れた』
 相原は課長に答えず、設備に戻った。
「相原!」
「いいよ。結果を話してくれ。狙いを決める」
 4つの子画面の一つ、波形のような文様の画面が大画面に動かされ、大きく展開、何やら補正された。
 それは、コンピュータグラフィックスによる東北地方の地形と、その東側海面構造の立体描像。

 

Eq2
(イメージ)

 

 SAR……合成開口レーダ。委細は略す。雲などの影響を受けずに、肉眼同様の画像情報を獲得できるとだけしておく。
『高さ5メートルの水の壁が時速550キロで西進中……このままだと15分で沿岸に到達……こんな結果なんだけど』
「それが津波だ、沿岸に近づくと遅くなるが、その予測時間までに逃がすことを目標にすればマージンと考えられる。携帯電話の電波を捉えてマップに重ねろ。人のいるいないが出せるだろう。人がいるのが集落だ。波の到達に近い集落から極力広報し逃がせ。その際赤外線で屋内人体を捕捉。独力で動けない人は座標だけ確保して後で片っ端からサポートする。以上第1ミッション実行頼む」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-025-

←前へ次へ→

 

 相原の首からストラップでぶら下がっているPHS端末がピロピロと呼び出し音。外線着信であったせいか、課長は繋ぐ言葉を切った。
 相原は端末を見、しかし会話に出るでなく、ボタンを幾つかいじった。
 すると円盤模型のような機器から呼び出し音。転送したのである。
「どこと何するんだ」
「課長。ウチが管制しているQZS(きゅーじーえす)のポンダ、ガイアのSARリアルタイムをここに回すようにお願いできないでしょうか」
 相原は課長の顔も見ずに言った。
「お前は何言ってるんだ?」
 問いかけに相原は何も言わず、円盤形の機器のボタンを押す。
「オレだ。聞こえるか?」
『学?船に乗った。どうすればいい?』
 機器から声だけ。レムリアである。
「いいか、二つ指示する……」
『待って、具体的にくれるなら船に渡す。……どうぞ』
「OK。まず一つ目の指示、船自体はSARを使って高空から以下の空域をスキャンしてくれ。房総半島沖から北海道沖。一往復して、海面の津波の高さと、往復する間の移動距離から速度計算。もうひとつ、この会話を船のMMIFに回せ。オレの社のテレビ会議システムに接続した」
『了解。ドクター……』
 そこで一旦声が途切れ、程なく、相原がセットしたスクリーンに画像が映った。
 ひな壇状に長い机が並ぶその様は、大学講堂からの中継を思わせる。
 MMIF……マン・マシン・インタフェース。アルゴ号では乗員とコンピュータのやりとりを人語会話形式で行えるようにしてある。そこに接続することでアルゴ号と相原オフィスとでテレビ会議システムが構築できる。
『あっ』
『おお、相原君』
 船内モニタにも相原の姿が映ったようである。なお、言語は船が日英変換しており、相原の会議室には日本語で聞こえている。船は逆。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年8月 | トップページ | 2016年10月 »