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2016年10月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-041-

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『了解。第1マスト前方へ転倒90度、左側展帆(てんぱん)。第2マスト左舷側へ転倒90度、左右展帆。第3マスト後方へ転倒90度、左舷展帆』
 船の帆はソーラセイルである。すなわち、宇宙空間で恒星が発する光や粒子線を受けて動力とする。太陽電池機能も持っており、併せて、補助の電源・推進装置である。ただもちろん、地球上で風を受けて進むことも可能で有り、どころか、広げて翼として滑空も出来る。すなわち、応じた強度がある。
 外観上は四角四面の工業製品。しかし広げればサッカーコートくらいのサイズになる。適切な広さと強度は確保できる。
 3本の帆柱をそれぞれ各方向へ倒し、必要な方向へ展開し、屋上のフェンス幅いっぱいの大きな膜とし、横付け。
「全員来て!」
 レムリアは帆膜の上に立って叫んだ。
 足下の水を跳ね、一斉に駆け寄ってくる子供達。
 屋上フェンスをよじ登る。
 同時に大男二人が帆膜の上を走って屋上に入り、小さい子をひょいひょい抱える。
 応じてか、教員も同様に低学年児童を抱いて帆膜へ。
「上がった子は後から来る子を引っ張ってあげて」
「はい!」
 自力で上がり、そのまま帆膜を走り、甲板へ飛び降りる子。
 とどまって他の子と共に手を引き、避難を手伝う子。
 水が腰まで。
「上がれなくてもいい。掴まって!」
 船体から帆膜を斜め下に伸ばし、フェンスの内側に差し込む。
 その状態で帆膜にしがみついてもらう。各々の帆は完全に広げたわけではないので、多少の柔軟性を有する。展開収縮には空気を使うが、少し気圧を下げればシワが出来、手で掴むに適す。
「全員いいぞ」
 大男の声。これは行ける……レムリアは直感した。
「離すな、いいか離すなよ。操舵室帆柱を起こせ」
 水平だった帆膜が僅かに持ち上げられ、甲板側へ傾斜を作る。

 

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天使のアルバイト-081-

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 そして今日も、子供達はエリアの顔を見るとニコッと笑う。
「ふーん。不思議よねえ。何でこんなにあなたには懐くのかしら」
 母親が乳飲み子にエリアを見せる。エリアが手を出すと、ニコッと笑って小さい手を精一杯伸ばしてくる。
 電話が鳴った。
「おーいエリカちゃん」
 父親が声を出す。手が離せないから電話にでてくれと言う意味。
「はーい」
 エリアは答えると、小さな手を離し、電話へ向かった。
 そして受話器を取ろうとし、
「!」
 気付く。ロクでもないこと。
 そう直感したと同時に、エリアの心の中が伝わったか、子供達が泣き出した。
 エリアは一瞬躊躇する。しかし単なる気のせいだったら困る。
 エリアは受話器を、取った。
「はい……沢口不動産……」
 刹那、相手が沈黙。
 そして。
『あの……私、県立……』
 相手は大人の女性であり、高校の教員である旨名乗った。
『由紀子さんの、お母様で、いらっしゃいますか?』
 その声は、意図して、ゆっくり話していると判る調子。
 エリアは通常の用事ではないと判断した。さもなければ、授業中であろう2時過ぎに、教員が電話などして来るものか。
 もちろんイタズラという危惧はある。しかし、それならそれで、学校に問い合わせれば済むこと。
 父親に繋ぐ事にする。
「私、電話番の者でして……お父様ならいらっしゃいます。……由紀子ちゃんに何か?」
 エリアのセリフに父親が席を立つ。
「お待ち下さい」
 歩いてきた父親に受話器を譲る。
「お電話変わりました。沢口由紀子の父でございます。あ、樋口先生、由紀子がいつも……あいつまた何かしました?。は?はあ。え?……」
 父親の目の色が変わる。
 エリアはゾッとして父親の顔を見た。
 予感は嘘ではなかった。イヤな言葉が意識をよぎる。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-040-

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 黒い水が階下から2階へ吹き上がってきた。
 限界である。船は車ぶら下げて浮上し、宙を進み、高台の学校とおぼしき人々集まっている場所へ向かい、クルマを下ろし、次いで着地。
「車中に閉じ込められているのでお願いします」
 瞠目の人々にお願いする。続いて舷側のゲートを開いて。
「さ、君も。そこから下に降りられる。お母さんと弟を守るんだぞ」
 ベランダのお兄ちゃんの頭をぽんぽん。
「あの……」
 するとお兄ちゃんはとんでもないことを言った。
 自分の小学校にまだ児童らが沢山いるはずだというのだ。
「なんで?」
「親が迎えに来るまで待機なんです。僕は近いし、母がこんなだから帰らせてもらえて……」
「学校はどこ?」
 タブレット端末のマイクを向ける。

 

 

 

 彼の口にした小学校はタブレット画面上にすぐさま表示された。
「ここの屋上?」
 3階建て校舎の屋上に集まっているという。海抜と建物の高さ、現時点の津波の高さを勘案すれば。
 送り込まれたシミュレーションCG画像は残り時間1分。
 行くべきはたった今。
『行け!』
 船長が言い終わるより早く船は走り出した。母と幼子のみを下ろし、ゲートを閉じ、大男が船内へ。船内4名。
 レムリアは男の子と甲板上。
 この地方に雪が舞い始めたのはこの時である。街全体が黒い水に覆われ、様々なものが浮かび漂い、火災の煙が方々に上がる。
 街と生活の全て破壊された光景の中を船は走る。
「あそこだ!」
 男の子の指さしたその場所は、黒い水がほぼ3階校舎屋上に達した状態。
『78名』
 合成音声。船がカウントしたのであろう。問題はその次である。救う、すなわち船に乗り移らせる。
 78名をどうやって短時間で。
 イヤホンにピン。
『帆を使え!』
 相原であった。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-039-

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 強大な磁力でクルマを吸い付けるというわけだ。具体的には船底をクルマに押しつけ、機関出力を上げる。
 ゴツン、という鈍い音と軽い振動。
『そのまま高台へ動かして下ろせ』
『レムリア個人宅が波にのまれます』
 セレネからの報告。が、クルマを動かしていると時間が足りない。
 相原からピン。
『そのまま海面を走れ』
「任せろ」
 シュレーターが答え、船は車を磁力でぶら下げたまま、黒くうねる海面の僅か上を滑走する。高度を取ることすらもどかしいのである。フェリーやタンカー、中小の漁船が波間を漂う。
「人的反応は?」
 通過しながらそれら船舶をサーチ。
『探知範囲になし。船の動力や電源、レーダ、エコーも検知せず。画面内各船はいずれも係留中に流されたものと判断』
『今は目前に注力で良し』
「了解」
 船は港を越え、街路だった地域を抜け、
 今まさに、黒い水に飲み込まれんとする、2階建て住宅を視野に捉える。
 住宅の2階ベランダに幼い子を抱いた母親、その前に両腕を広げる男の子。母と幼子を兄として守ろうというのか。
 甲板にはレムリア。両脇には大男二人。
 双方長大な銃器を抱えている。アリスタルコスのレーザガンであり、ラングレヌスのFEL(自由電子レーザ)マシンガン。立方体をいくつも重ね合わせ、長い銃身を伸ばした無骨なスタイル。要はどちらも強力なレーザ。
 母子が宙に浮かび近づく船に気づき、レムリアは母子と目を合わせた。
「ベランダを焼き切ります!少し下がって」
 レムリアは叫び、応じて母子は室内に下がった。
 赤と新緑の光束が空を切り、ベランダのフェンスが切り取られ、倒れた。
 切り欠いたそこへ舳先をくっつける。水深が上がって1階の屋根に達する。
 残された時間は一瞬。
「こっちへ!」
 レムリアが言うよりも早く、大男が乗り移って母子を甲板へ移動させる。船内6名。車1台。

 

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天使のアルバイト-080-

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 コップ片手の指摘。そのコップに店長が燃料補給。
 由紀子はきょとんとした目でその言葉を受け取り、自らを見回し。
「……言われてみれば……そう、かな?あたしはあんまり変わったって気しないけど」
 そう言って、再びモチをくわえて伸ばした。
「その食欲!あんた、エリカちゃんに感謝しな。彼女来てから前よりいいのは確かなんだから」
 母親が言った。
 すると由紀子は微笑みを浮かべて。
「あひはほ」
 モチをくわえたまま。
「ほほひはひはひへ」
 エリアは同様にモチをくわえて答える。そして、心から思う。私達、このままうまくやって行けたらいい。
 でも、秋のあの日、高原で感じた“終わりが近い”感覚は、今もなくなってはいない。
 一体何が……。
 
13
 
 新学期。
 金曜日であり、スーパーのシフトの関係でエリアは沢口不動産の事務所に来ていた。
 こちらでの彼女の役目は雑務……古典的表現をすればお茶くみである。ただ、しばらくいれば商売の内容も判るもので、例えばお客さんが待っているときなど、エリアが応対し、挙げ句に捜している物件がどんな感じのものか、聞き出したりすることもある。この点で、スーパーでの接客経験は極めて役立ったと言える。
 しかし、今日はどちらかというとヒマ。父親は店の奥で事務のパソコン叩き、母親はお客と物件を見に行っている。店内には母子連れ二組。但し客ではなく、保育園から子供を引き取って帰る途中の近所の人たち。
「ねえ、エリカちゃんってさあ」
 母親の片方が尋ねる。
「はい?」
「保母さん……ああ、保育士か。って、やったことあるの?」
「ないですよ」
 エリアは答えた。“スーパーの金髪の娘に子供を会わすとおとなしくなる”は、もはや近隣に知れ渡っており、スーパーにはもちろん、こうして不動産屋の方にも時々母子連れが遊びに来る。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-038-

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 津波は、現象としては海からの洪水であり、果てしなく水位が上昇して行く、と書けるであろう。足下にさーっと水が流れ来、次いで水深が上がって行く。その水深の上がり方が“あっという間”。恐らく、水に濡れて気づき、逃げようと思った次の瞬間には身動き取れない。卑近な比較としてあなたは風呂の中で“スタスタ”と歩けるか。まして逃げるなど。
 “1メートル”の津波でも水は胸まで来る。
 そんな過程を経たのであろう、人の姿が波間に漂う。
「人です」
『把握。今助けます』
 船は助けに来たと音声を発しながら、波間に漂う人に近づいた。
 振り返った口ひげで男性と判じる。船体から縄ばしごを下ろし、大男がそこからぶら下がり、男性を抱き上げた。
 そこで別の心の悲鳴を拾った。が、一瞬で消えてしまった。家の2階で津波やり過ごすと安心した次の瞬間、家ごと、といった所のようだ。それは過去認知……ポストコグニションの物言い。でも、エスパーで判っても何の役にも立たない。
 能力の限界であった。“全ての人が”“事前に”知っておかないと何の意味もない。確実な広報、広報に基づく全員の確実な行動、全員の移動手段、この三点を担保するのは永遠の課題であろう。いずれかに制約があるなら、最初から安全な場所にいるしかない。高台居住や避難タワー等である。
『思うな!』
「はい」
 一喝を受け、引きずられるような悔しさをレムリアは振り払った。今救える目の前を救って行く。それ以外何が出来る。
 救った男性が保持ユニットに運び込まれるのをタブレットで確認する。作業にはその佐藤さんが手伝ってくれる。現在、船内には3人。
 そのまま任すことにし、津波に目を戻す。乗用車が流されており。中に人がいる。
『主加速コイルを使え』
 船長の指示。船は粒子線を制御して動力を得ており、そのための電磁石を内蔵している。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-037-

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 イヤホンにピン。船長から『デイケアセンターのサーバをハックして登録者住所を全部吸い上げた』。つまり、佐藤さんに何か言ってもらう作業は不要になった。
 無論、違法であり非常処置である。本来は行政が無線通信手段を持たない世帯に対し、通信途絶の可能性を把握し、応じた警報器の設置などを推進すべきであろう。なおここで、携帯端末操作を義務づけるのは本質ではない。高齢で不慣れのみならず、病気その他で端末を扱えない可能性は誰にもありうる。

 

 必要なのは確実に伝えることだ。一方的な放送・広報で良い。ただし、全員に確実に。

 

「了解。では各世帯回って広報しましょう」
 レムリアは返した。
『おばあさまは保持ユニットへ。準備できています』
「了解。佐藤さんも一緒にどうぞ。ここも危ないというのがウチの連れ合いの見立てです」
 佐藤さんの手を引き歩き出す。
「ちょ……」
 佐藤さんには躊躇があったが、家屋の前の川の流れを見、それは解消された。
 衝撃を受けたと知る。黒い水が逆流しているのである。津波のエネルギが既にこの小さな流れまで達している証左であった。
 そして、黒い水の来る方向、川下には土煙。
 港湾部は山のかげになる。その方向より濛々たる土煙が舞い上がり、家々を覆って行く。所々に火柱の姿も。
「これは……」
「ご家族が市街地におられますか?」
「いえ、私は独り身ですので」
「では乗って下さい。これはここまで来ます」
 船腹から下ろしたスロープより佐藤さんを押し込む。
『乗ったか。波際から順次助けるぞ』
「了解」
 船は2人を乗せ、浮上し、津波の先端へと向かう。
 レムリアは甲板船首に立った。そして、山向こうから回ってきた、その様相を目にした。
 上空から見たそれは、巨大な黒い液状の生命体であった。海から浸潤し、街を食らうかの如くであった。

 

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天使のアルバイト-079-

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 母親が店長におせちの重箱を渡し、代わりにハガキを店長から受け取る。そしてその脇を、一升瓶片手の父親がいそいそとすり抜ける。
「えー……あらエリカちゃん。こういうの……どう言えばいいのかしら」
「え?」
 モチをくわえてびよーんと伸ばし、由紀子とその長さを比べて遊びながら、エリアは答えた。
「というと?」
「いや、あのヤクザ屋さん。肝硬変と糖尿病が見つかってそのまま入院だって。あれでもたった一人の息子です。入院させていただきどうもありがとうって」
「……はあ」
 エリアはモチを飲み込んでからそれだけ言った。あの時内臓疾患と感じたのはやはり正しかったか。
「全く、これで彼女に命救われたの何人目だい」
 店長が言った。
 エリアは店長が何を言おうとしてるか悟り、すぐさま唇に指を当てて“しーっ”とやった。
 しかし、店長は液体燃料が既に奏功(?)。
「全く不思議な女の子だよ」
 店長は洗いざらい喋ってしまった。加えて巫女のバイト中、境内の迷子を全部世話したことも喋ってしまった。
「ホレ、ウチの店で、泣いてる子に彼女が微笑みかけると泣きやむって話しをしたろ?同じなんだよ。迷子を彼女のところに連れて行くとおとなしくなる。安心して寝ちゃうんだぜ」
「由紀子も元気になったしね」
 母親が付け加える。
「……そうかな」
 疑問を呈したのは由紀子。
「こうやって風邪引いてますけど」
「そうは見えないね。……熱測ってごらん」
 母親に言われ、由紀子は耳穴用の簡易体温計を耳にあてがう。
「36・2」
「それごらん」
「うそ……だって朝まで8度……」
「あんたのは恋煩いだよ。エリカちゃんに恋してんの。だから彼女が来たら治ったのさ」
「はあ?」
 と、そこで父親が。
「でも…由紀子は確かに元気になった。ちょっと前までとてもドライブなんか行ける状況じゃなかったからな」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-036-

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大好きなおばあちゃんへ。
美由紀です。ものすごい津波が気仙沼へ来るそうです。
逃げて。お願いだから逃げて。
友達が助けに行ってくれるというのでこのメールを書きました。
 
「判りました」
 果たして老婦人はゆっくりと頷いた。
「お願いします……佐藤さん」
「え?あ、はい。ちょっとあの」
 が、佐藤さんに手伝ってもらう必要は無い。既に大男が二人背後にいて、直ちに車椅子を運び出す。
 ひときわ大きな音が南西、港湾方向より聞こえ、一同の目を奪う。
 土煙。
 津波がこの町にも到達し、破壊し始めた。
 レムリアは感じる。一つ一つ、命の悲鳴が上がっているのを。
「こちら、他にお住まいの方は?」
 表情を変えずに訊く。消えて行く意識、恐怖と後悔、叫び。
 一瞬一瞬で消えて行く命が胸を打つ。ゆえに多くテレパス使いは精神の正常を保てない。
「いえ、さゆりさんお一人です」
 地鳴りと地響き。家屋のがたつき。
 余震ではない。津波で破壊された構造物が瓦礫となって波の先頭に集まり、更に他の構造物を破壊しながら進行し、振動と音を発する。
 “ひとり”を促す間に失われて行く命の多さよ。相原が星空の下で言った言葉を思い出す『ブラックホール至近の一瞬は宇宙の果てでは永遠に等しい』……似たような時間の流れのずれを感じる。
 そして、だからこそ、一人一人が意識を持ち、自分の力で逃げることが大切。
「これは余震?」
「津波が町を破壊している音です。佐藤さんが近隣で他に担当なさっている方がおいででしたらこの端末のマイクに向かって『大津波が来ます逃げて下さい』とお話し下さい。佐藤さんの声を使って避難を促します」
 なお、レムリアがこの作業をしている間、大船渡と同じく携帯メールの通信に介入し、逃げろ、と、来るなの周知を図っている。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-035-

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 デイケアサービスの方だと判じた。このあたりテレパス。
「彼女の同級生で相原と申します。津波が来ます。直ちに避難を」
 ストラップで首から下げたタブレット端末を使い、送ってもらった彼女の写真を女性に見せる。次いで衛星“ガイア”がたった今捉えている津波データをCGアニメ化したもの。
 そこには、映画のような壁の如くそびえ立つ波が押し寄せる姿はない。だが、今まさに川を遡る流れは見える。
 相原からピン。
『言い伝えを見つけた。“大島が3つに割れる大津波”が来る。そのまま』
「大島が3つに割れる程の大波とも予想されています」
 レムリアは言った。しかし佐藤という女性は首を傾げる。レムリアは気付く。一般に古い伝承を若い人は知らない。
「佐藤さんや」
 奥方、家屋より声があった。おばあさまであろう。
 レムリアはすかさず声を出した。
「狩野さゆりさんですね。私、田立美由紀さんの同級生で相原姫子と申します。救助脱出を依頼されて参りました。大島が3つに別れる大津波と言われます。呼吸補助、透析の設備は私どもの船に装備して御座います」
 佐藤さんを納得させている時間は無いのだ。レムリアは背後の船を指さして佐藤さんに見せ、門扉より庭へ入り込んだ。
 遠雷に似た大きな音が聞こえ始めたのはその時である。
 相原からピン『気仙沼津波監視システム損壊』
 それは港湾部より津波が市街地へ流入開始したことを意味した。
 もちろん、非常な大規模で。
 気仙沼市街地とこの地域とは数キロの距離がある。それは津波において数分の差を意味する。
 数分。それを最大限活用し、一瞬でも早く、この約束を果たし、街中へ救助に行かねばならぬ。
「ちょっとあなた……」
 追ってくる佐藤さんに目もくれず、レムリアはタブレットの画面を車椅子の老婦人に見せた。もらったメールの文面と、写真。

 

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天使のアルバイト-078-

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「なんかもう、そのために生まれてきたって感じ。まさに神様の使いというか、天職。そう、天職だよそれ」
「そうかな」
 エリアは自分を見回した。実際問題として“聖職”は嫌いではない。また、この巫女装束もこれはこれでよいという気持ちが強くある。大体この手の衣装や道具、更には呪文の類は、精神状態をそれに適した状態に持って行くために選ばれ、吟味され、洗練されていった結果のはずなのだ。最適化というヤツである。エリアは装束に腕を通し、そのことをひしひしと感じた。
「いや実はね」
 声を発したのは店長。
「今日、もう少し早く来るつもりだったんですよ。ところが彼女大人気でねぇ。オヤジも『もう少し、もう少し』って結局今まで。しかもそれでも引き留められたんで、無理矢理引っ張り出してきた位で……」
「人気者エリカです」
 エリアは少しおどけて言った。
 すると母親が、
「ふーん。どうでもいいけど、こんな寒い廊下で話すことないでしょ。エリカちゃん、お雑煮出来てるよ。店長はエタノールね」
「エタノ……おお、液体燃料ね。いただきますいただきます」
「私もお雑煮いただきます」
「由紀子は?」
「エリカが食べるなら食べる」
「……エリカちゃん。この娘あなたにあげる。仕えの娘にでも使ってやって」
「あはははは」
「ホラ、早く早く。お餅が固くなっちゃう」
 促されて、客人二人は部屋に入る。
 そして、こたつに収まったところで、店長が思いだしたように、葉書を取り出す。
「エリカちゃんに沢口の奥さん」
「女王様とお呼び」
「はいはい女王様。そういえばいつぞやのヤクザ屋さんのお母様からこんなおハガキが」
 例の股裂きの目にあったヤクザ氏の母である。
「……お母様!」
「そう」
「へぇ」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-034-

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「直ちに船に収容だろう。その後は大島とか沿岸部へ行ってくれ。観測波高が上がってきた。理屈は後だ。直ちに」
『はい』
 レムリアは答えた。
 雲をくぐってアルゴ号は所定地に降下する。夏期ならば田園が広がるのであろう、枯草色の平坦地。東側に集落。本流から分かれた細い川があり、パニックであろうか魚たちが暴れ、泡立つように見える。
 画面が指示する一軒に船のカメラがフォーカス。そして船は帆を広げ滑空し、道路上に降り立つ。
 その間レムリアは操舵室から船内通路を走り、船体左舷、海行く船なら喫水線の下に位置するドアを開いた。
 重い音を立て舷側扉のパッキンが外れて音が聞こえる。びょうと音を立てて風が吹き、彼女の髪を揺らし、視界を横切る数本を彼女は指先で払う。ドアはプラグドア方式であり、1段船内側に引っ込み、横にスライドする。差し込む光に混じる風花、
 石油の臭い。
 地鳴りのような音と表現すべきか、音と振動の境目のような空気の揺らぎを身体で感じる。船底が地を打つ感があり、彼女はアスファルトに飛び降りた。地割れ多数走り、冬枯れと見えた田んぼ各所に噴砂の痕跡(液状化)夥しい。背を向けて家屋は平屋建て。生け垣に囲われ庭を有する。膝高さの開き戸があり、ポストの表札を確かめると“狩野”とある。もらったメールには祖母殿の名は狩野さゆりとあり、恐らく間違いない。
 犬の吠え声。続く甲高い女性の声。
「タロ!どうしたタロ。もう怖くねっから。もう大丈夫だから」
 それはおばあさん……というには若い。否、それ以前におばあさんは動けないと聞いた。
「ごめんください。田立美由紀(ただちみゆき)さんのおばあさまのお宅はこちらでよろしいですか?」
「どちら様ですか?」
 問うと誰何の声があり、縁台からサンダル履きで降りて来たのはメガネの女性。着用しているエプロンに施設の名前と佐藤という縫い取り。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-033-

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 気仙沼市。人口7万5千(2011年初時点)。内陸の一関市より東方へ45キロ。仙台より北北東およそ100キロ。三陸リアス式海岸の一部をなし、良港を得て漁業・水産加工が主な産業である。沖合至近に大島を有す。
 東北地方太平洋沖地震においては震度6弱を記録し、15時15分から20分ごろより津波が襲来、川に沿って内陸4キロまで遡上、15時35分までに市街地、沖合の大島が広く浸水したほか、漁船燃料、プロパンガスタンクなどを火元とする大規模な火災が発生、湾内が一晩猛火に覆われるという事態に至った。地震、津波、それらから派生する災害が次々と市域を襲ったのである。とりわけ、“津波火災”については、火を消すべき水が逆に炎を広げたという点で人々の想像を絶し、この未曾有災害の凄絶さを象徴する事象のひとつである。人的犠牲は、市のウェブサイトによれば、1,353人(内訳:直接死1,015人、関連死107人、行方不明者231人)。
 アルゴ号が到着する。テレビ会議の画面に現地空撮。15時18分。曇っているようで市街地は明確で無い。一方で津波の浸水なども見えない。
『市街地に来てる。指向性音波使って一人一人広報中。沖合5メートルって情報もらったけど……5メートルなら大丈夫じゃないの?』
 レムリアは相原に訊いた。川沿いに堤防が配されているが、いずれも数メートルの高さはあり、浸水してもさほどでもなさそう、に見える。ちなみに、沖合5メートルは海上検潮装置のデータである。
「だめだ。街の形をよく見ろ。奥へ向かってVの字になってるだろ。押し込まれた水はその勢いで盛り上がるんだ。お友達の親族の住所は?」
 空撮に画鋲型のアイコンで住所がプロットされる。港湾部より南方、沿岸から川沿いに4キロ。なお個人情報を辿ると病院の診察記録に行き着き、足が不自由で人工透析必要。
 

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