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2016年12月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-059-

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 見下ろした一帯は、黒くうねる水の中にあるか、赤い炎に包まれているか。
 絶望を迫るような様相。
『可能な範囲は完了。人命反応無し』
『救助者を避難所へ』
 炎から遠ざかり、高台の道づたいに飛んだら、大きな建物に人が集まっている。
 その時。
『悲鳴多数!学校が津波に飲まれます』
 伝えるセレネの声がそれこそ悲鳴。
『子供達を下ろして急行』
 スロープ部にウィンチはないので引き上げられない。

 

 

『川沿いに避難場所を設定したらしい。そこを飲まれた』
 冷静と言うより冷酷な相原のレポート。タブレットに映っているのはGPSの位置信号を発しながらバラバラに広がって行く携帯電話の一群。
『27名。全員の生体情報を確保した。体温と心拍で追跡を続ける』
『了解。シュレーター。船体を左舷を下に45度傾け。その瞬間に我々は船内に戻る。戻ったら潜航する。アリス、ラング、抜かるな』
『おう……坊主、ちょっと我慢な』
 大男達は抱えた子供達を強く抱き締めた。
 左舷を下に船体を“ねじる”。
 翼のように突き出たスロープはスッと下方に移動し、ぶら下げられていた男達よりも下になる。
 重力で落下し始める男達の下にスロープが入って受け止める。男達は直ちに船内に戻る。
「君たちはこっちへ」
「任せた」
 レムリアは子供達を預かり……生命保持ユニットは満員なので自分の個室に通す。
「他の子供達が海に落ちた。この船で潜って助けるので、その間、ここで待ってて」
『スロープ格納よし。潜航可』
『潜航を許可する。片っ端からすくい上げろ』
『アイ』
 アルゴ号は飛行時、光の圧力で形成したチューブの中を進行する。超高速で移動するので“障害物を避ける”時間など無いからだ。この原理を援用し、光で水を押しのけて潜航が可能である。なお、推進には、光子ロケットでは高温高圧で水蒸気爆発を起こすため、離着陸時の風圧発生システムと同じ原理で水を吸い込んで噴射する。フォトンハイドロクローラと称する。

 

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天使のアルバイト-090-

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 医師は図解した。なお、以下の説明は、文章で書き並べても良いが、正確性に重点をおき、図を併記とする。
 母親が頷いた。
Hla1
「はい」
「そして…HLAの場合、これよりも複雑です。まず、情報枠は14になります。両親から7つワンセットを1つずつもらい、14になるのです。情報枠が多いので、それぞれの枠に名前が付いており、A座、B座、C座、D座、DP座、DQ座、DR座と呼ばれます」
 医師は図解した。
「ちょっと待ってください」
 止めたのは母親。
「はい」
 医師は答え、書く手を止めて振り返った。
「とすると、例えば血液だと“A”の一文字で済むものが、その免疫の型だと14文字になる…」
「その通りです。そして」
 医師は枠の下にこのように書き足した。
“一つの情報枠につき、情報は10種類以上。”
「血液なら、枠は一つで、枠の中に入りうる情報はABOの3つです。これに対し、HLAでは、枠は7つで、一つの枠に入りうる情報は少ないところで7種。その他で10種類以上です。例えばA座という枠に入る情報としては…」
医師は書き並べた。
A1,A2,A3,A9,A10,A11,A19,A23(A23が9種類),A24(9),A25(10),A26(10),A28,A30(19),A31(19),A32(19),A33(19),A34(10),A68(28),A69(28)……
Hla2
「こんなに?」
「そうです。他の枠も同じ調子です。そして、こうした多くの情報から、それぞれ、一つずつ選択されるわけです。ですから、HLAの型の種類としては、数万通りになります」
「数万……」
 両親は絶句した。
 そして、少しの後、父親が。
「では……その……何万分の一かの組み合わせが一致しないといけない。ですか」
「そうです」
 医師が再びゆっくり頷く。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-058-

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 そして、子供達はアニメのそれと理解し、行われる救助方法を一瞬で見抜くであろう。応じた行動を取るであろう。
 相原はそこまで計算ずくなのだとレムリアは理解した。ちなみにこの一連の動きは、
・救助方法には事前に幾つかパターンを用意しておくこと
・一言で全員がフォーメーションを取れる訓練が重要
 これが示唆されよう。テレパシーという超常の手段を経たこと自体に真の意味はない。
 なお、アルゴの活動、及びレムリアが従前属していた団体では“コード201”など、簡単な暗号で事態や対処法は分類・周知・訓練していた。
『各員、行くぞ!』
 取り囲む炎の壁へ向かって船が動く。
 彼らの着衣は一見ウェットスーツのようだが、真空に出られる性能を備える。もちろん、耐火耐熱。
 炎の壁を突っ切って船は進んだ。
 その昇降スロープから、頭を下に上下逆さでぶら下がる大男三人。
 炎の壁から現れた有様に子供達はすぐに気付いた。気づいたことをレムリアはテレパシーで知った。
「掴まって!」
 レムリアは叫んだ。そして子供である自分がここにいて声を出す意味の強さを知る。
 子供達は、大男達に飛び込むように身を預けた。
『良し』
『もう大丈夫だ』
『全員確保』
「上げて下さい!」
『アップトリム90。レムリア下がれ』
 シュレーターの物言い、船首を空に向けて上昇するから船内に下がれ。
 船内の回廊壁面には、応じて使える取っ手の類いが幾つも。
「OKです」
 レムリアは取っ手の一つに取りすがり、足をかけ、船が垂直の事態に備えた。
『光圧上昇1G。炎を出る』
 船尾エンジンが放った光束はその圧力で津波を押しのけ、船体を中空に押し上げた。
 光の帯が伸び、周囲に広がり、津波と炎を蹴散らし。
 その光の故に周囲の状況を照らし出す。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-057-

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 中から派手目の音。幾らか壊している。閉じ込められているので、最短距離と救出空間の確保のため。
 イヤホンにピン。
『救出成功。意識あり』
 船をそのまま屋根ギリギリまで降下させ、スロープを延ばす。
 主婦らしい女の人を二人でリレー。まず、アリスが屋根に出、ラングが穴から女性を押し上げ、アリスが抱き上げ、そのままスロープへ。
 ラングが穴から出て来、スロープへ移り、救助完了。
「光圧解除。次地点」
『了解』
 船はそのまま水面を滑った。
 2階建てアパートの屋根の上3名。しかも、子供達だけ。学習塾とある。
 ところが。
『周りが火の海だ』
 火に取り囲まれている状態。火の海文字通りである。しかも、その火の海がどんどんかさを上げて行く。ここで、これまでと同じ船からの爆風では、子供達が吹き飛ばされるリスクがある。男達が降りて、スロープを横付けし……もどかしい。求められるのは“一瞬・一回”。
 そう考えている暇すら惜しい。
『すり抜けながらかっさらえ!』
 日本アニメの著名なセリフを言ったのは相原であった。
 レムリアはその意を理解し、副長セレネにテレパスで伝えた。副長は更に意識を船へ伝えるシステム(普段は要救護者の“心の悲鳴”が発せられたポイントを同定するのに使う)を使い、レムリアの意識をCGで可視化。
 全員がビジュアルで作戦確認。ここまで5秒。
『了解!』
『おう!ドクター操舵頼む。私も行く』
『操舵権受領アイ』
 斯くしてスロープに現れた双子と船長、大男計三名。
 レムリアは彼らの腰にワイヤを繋いだ。フックはスロープにセット。
『準備良し。シュレーター!』
 男達はワイヤの力を借りてスロープから天地逆さにぶら下がった。
 船で通過しながら抱き上げようというのだ。その著名なアニメのワンシーン援用である。

 

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天使のアルバイト-089-

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 エリアもショックの度合い自体は両親と同様である。今にもそれこそ頭の血が引く脳貧血を起こし、昏倒しそうだ。
 しかし、彼女には、そうなることなく意識の正常性を支え続ける、確たる理由がある。確かに、再生不良性貧血には症状に各種の表れ方があり、由紀子の場合、その最も重篤かつ急速なものであろう。
 でも、それでも治療法は存在するのだ。
 唯一つだけ。
 そこで、母親が勇気を振り絞るように口を動かす。
「でも……治る……ですよね」
 医師はゆっくり頷いた。
「ええ、ただ、薬では……」
「骨髄移植」
 エリアは言った。それが唯一だが、容易ではないことも知っての上で。
 両親と担任がエリアを見る。
「そうです」
 医師は言った。両親の目に生気が戻る。
「由紀子さんの症状の場合、治療に有効なのは、こちらの彼女が言った骨髄を移植し、新たに定着させる方法です」
「移植……ですか」
「そうです」
 両親の顔に笑みが浮かぶ。
 しかし医師は笑みを見せない。
 その理由をエリアは知っていた。
「HLA、ですね」
「そう」
 エリアの言葉に医師が頷く。
 説明を求めるように両親が身を乗り出す。
 医師は少し考えて。
「血液に型があり、型が一致しないと輸血できないことはご存じですね」
「はい」
 と、父親。
「骨髄の場合も、体の中に他の人の細胞を入れるので、同様の型合わせが必要になります。この場合の型は免疫に起因するもので、ヒト白血球抗原、英語の頭文字を取って略してHLAと呼びます。ここまでよろしいですか?」(Human Leukocyte Antigen)
「はい」
 父親が返事する。医師は頷いて続ける。
「血液型の場合、そうですね。情報枠が二つあります、子どもは両親からそのうち一つずつをもらい、二つ持ちます。そして、二つの情報が揃ったところで、一つの血液型として確定します。この時、枠に入る情報はAかBかOの3種類。すなわち、3つの情報から1つをもらいます。
 これより例えば、AとAをもらえばA。BとOをもらうと、Bの性格が強く出てB。AとBをもらうとABです。よろしいでしょうか」
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-056-

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 Tシャツ短パンに着替える。外が寒いのは承知。それよりは機動性。
 ウェストポーチも予備を巻いて中身を移し替え。ベルトを留めて準備完了。
「準備できました」
『苦しいかも知れん』
 船長の重々しい声に甲板へ飛び出す。
 完全に水没した二階建て家屋。
『水のせいで赤外線センサ、心拍探知が働かない』
 でも、だからって死は意味されない。
「燃料ありますか。光圧でさっきみたいに排水を」
『船長……』
『やれ』
 シュレーターの逡巡は即時却下された。
「ファランクス。屋根吹き飛ばして」
 そこで相原が割り込む。
『屋根だけ水から出せばいいだろう。まずセンサーだ』
『了解』
 船から光が吹き下ろし広がり、津波に上から穴を開けて掘って行く。
 屋根が現れた。その瞬間。
『対人センサ感あり!』
『座標特定した。行け』
 甲板から飛び降りる大男二人。
 ラングレヌスがプラズマ銃で屋根の一部を溶解させ穴開け。
 即座に飛び降りる。
『2階感なし。対人センサは本当か?』
『ラング。下だ。1階で生きてる』
『マジか?』
 そこで相原からピン。
『その家を赤外線スキャンした。浴室に行ってくれ。水圧で扉が開かず逆に生きてる』
 レムリアは首に下げたタブレットに家屋のデータが送り込まれたと知った。
 大男達はメガネ型端末を着けているが、こっちの方が画角が広く、見やすいだろう。
「見取り図ここ!」
 レムリアは甲板から声を出し、端末をストラップから外してフリスビーのように投げた。
 屋根の穴から腕が伸びて捉える。
『日本語で助けるから下がってとはどう言えばいい?……ああ、出た』
 それは端末が彼の意をくんで、文字列で表示したのだろう。
 ピンチアウト(端末の画面上、拡大したい部位に指二本をあてがい、その指間を広げる動作で拡大作業が行われる)で拡大してデカい文字見せれば良い。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-055-

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 それは泳ぐとか、何かに掴まるとか、身を守る行動を取る以前に、急速に体温が奪われるであろうと冷静に認識している。なお、レムリアの服装は遊園地に遊びに来た中学生、そのままである。
 水没したら静かに身体が浮き上がるのを待つ。セオリーに従ってみる。そして、津波の水は体内に入れてはいけない。病原菌はもちろん、油の粒に代表される廃液や、汚水の類いが多量に混じっているからだ。折角救い出してもそれらに気付かず、追って病気や呼吸器疾患で亡くなる人もあるほど。津波関連症候群という。
 津波は複合災害である。
「お姉ちゃん!」
 女の子の声が聞こえた。
 顔が水面に出ており、目前に彼女が部屋から持ち出したクマちゃんが降ってきた。
 つかまれと言うことだろう。抱きかかえると、なるほど浮力を感じる。次いで甲板からロープが降りて来た。
 ロープ先端の輪に手首を通したところでアリスタルコスに持ち上げられる。
「ありがとう」
「そのまま次とか言うなよ。せめて着替えろ。お前が風邪引いたらかなわん。津波は様々な毒劇物も運んでいるはずだ」
「はい」
 この船は彼女にとって移動別荘と言って良い。数日暮らせる衣類は持ち込んである。
 ただその前に保持ユニットを覗いて行く。すると中から少しの笑みで副長セレネが応じ。
 及び、
「ああ、レムリア、さん」
 慣れぬ名を呼ぶ男性。背後で心電図が脈打つ。
 蘇生したならそれで良い。
「一通り助けたら病院へ寄ります。それまでは目を離さず。何かあったらそのボタンを押して下さい。副長、もう大丈夫です。お疲れ様でした」
「判りました。ね?言った通りでしょう?」
 セレネは長い装束をふわりとさせ、立ち上がると、男性に微笑んで背を向けた。
 レムリアはそんなやりとりを見届けると、操舵室2個隣、自分用に設えられた個室に向かった。ちなみに個室があるのは女の子だからという配慮。

 

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天使のアルバイト-088-

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 しかし、ココロと身体が勝手に反応してしまい制御できない。その病気は知っている。そして、医師がこうして呼びつけるからには、症状の重篤性と。
 今後どうなるか、予後(よご)を、“考慮しておくべき”であると推察できる。
 医師が両親に目を戻す。
「ご説明させてください。再生不良性貧血とは、血が足りない状態から再生しない貧血。文字通り、血が足りなくなる、病気です」
 医師は、ゆっくり、言った。
「え……」
 両親の顔色が変わって来た。
「少し詳しく説明します。人間の血液というのは、全身にあるいろんな骨の中心、骨髄で作られます。そして古くなった血液は脾臓(ひぞう)に運ばれ、壊されます。この間、成分によって違いますが、約2週間から6ヶ月くらいです」
 医師は背後にあるホワイトボードに図解した。
「再生不良性貧血は、この骨髄が、血液を作る機能を失ってしまう病気です。すなわち、新しい血液が作られない」
 医師は図解中の“骨髄”に大きく×印を付け、ペンをボードの下に置いた。
「そして……ですね」
 言いかけて再びの躊躇。
 息を詰まらせ、目を伏せてしまう担任。
 その仕草に両親が担任を見、表情に不安を浮かべる。
「そして……由紀子さんの症状の度合いなんですが」
 医師は、意を決したように口に開く。
 明言を避けて不安を煽るよりも、きちんと話した方がよい。そういう意識が佐藤医師の中で働いたのだとエリアには判る。
 両親が目を医師に戻した。
「由紀子さんは特発性、すなわち突然発症するタイプです。そして重症であり、しかも症状の進行が著しく早い、極めて稀な症例です」
 両親が目を見開き、息を止めた。
 誰も言葉を発しない。
 担任はうつむいて、息を殺したまま。
 両親も目は医師に向いているが、焦点が合っていない。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-054-

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 レムリアは言った。アルゴ号は光子ロケットを動力とするが、その“光の圧力”を女の子の部屋ガラスに与えて震わせ、ガラスからスピーカーのように音を出そうというのだ。
『いいぞ』
 操舵手シュレーターの声。
「助けます。隣の部屋から入ります。少し下がって下さい」
 レムリアは言った。これで自分の声が彼女に聞こえたはず。
 果たして、女の子はハッとしたような反応を示し、ガラスから少し距離を取った。
 船の昇降スロープをベランダにかけ、レムリアはそこを滑り台よろしく滑走してベランダへ。
 次いで、船からレールガン発砲しアルミ塊一閃。隣室ガラスを粉々にする。
 波の水が入り始める。共にレムリアは走り込み。隣室へ入り、女の子を抱きかかえる。
「怖かったね。もう大丈夫」
 そのタイミングで、今度は女の子のいる部屋のガラスが破壊される。
 但し銃器は使っていない。転がり込んできたラングレヌスの巨体がそこにある。彼は自らの身体を肉弾としてガラスを突き破った。
「さぁ」
 すると女の子は机の脇の大きなクマのぬいぐるみを抱えた。
「くまちゃんもいい?」
「もちろん」
『急いで、波高が上がります』
 セレネの警告を聞き、ラングレヌスは女の子を抱きあげ、ベランダに掛けたスロープに載せた。
 次いでレムリアを抱き上げて載せる。
 そして自ら這い上がる。
「出せ」
 スロープを出したまま、船は浮上しようとした。
 その船底に、何か巨大なものが接触した。
 ぐらりと船は傾き、その衝撃でレムリアは船外へ放り出される。
 津波の中へ。水面上を漂うおびただしい数の油の粒、およびその黒さが、異様なまでにハッキリ見える。
 水しぶきと共に着水、その冷たさはすぐに判じた。および、僅かに水面下に頭が入っただけで、もう何も見えない。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-053-

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「この方はあなたのお母様ではないの?諦めるとか何事ですか」
 吸引用パイプを鼻から気管へ挿入。
 吸引開始。心臓マッサージ継続。
 レムリアは小柄である。心臓マッサージは全体重を印加して行う必要がある。
 それは見る者に“こんな女の子が大変なことを”という印象を与えるようである。
 イヤホンにピン、及び室内スピーカーから声。
『レムリア、次の地点着。ここは子供さんです』
「判りました」
 レムリアは答え、男性を見た。
「少しの間お願いできますか?」
 言いながら除細動装置のボタンを押す。心電図に波のような物が2~3拍見え、しかし、横一線では無くノイズに変わる。
 ノイズ波形。それは心室細動が起きていることを示す。すなわち心臓に“動こう”とする変化。この“細動”を取り除き、リズミカルな心拍に戻そうとする装置が“除・細動”装置である。
 男性の目の色が変わった。
「判りました」
「ドレナージ(吸引器のこと)が終わったら、ブザーが鳴るので、この青いボタンを押して下さい。酸素吸入、呼吸補助に変わります。私が戻るまでマッサージを継続して下さい。副長、申し訳ありませんが……」
『向かいます』
 心臓マッサージは一人で続けるには要する力が多大すぎる。セレネと交代交代で。
 レムリアは甲板へ出た。
 2階建て家屋の2階ベランダを波が洗っている。そのベランダから覗く窓の向こう、室内に女の子。小学校低学年くらいか。
 目が合うとガラスをバンバンと叩く。かなりのパニック状態。このままだと割ってケガをするのみならず、そこから波が入る。
 いや既によく見ると室内足元は幾らか水に浸かっている。
「隣の部屋から入ろう。操舵室。光圧でガラスに振動を与えて音圧に変換したい。準備完了したらピン下さい」

 

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天使のアルバイト-087-

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 医師が続ける。
「意識不明の直接の原因は高熱です。しかし、鼻腔(びくう)や皮下から出血が見られたため、別の可能性が浮上、検査を行いました」
 医師が書類を出し、机の上に置く。横文字と数字の羅列。
 エリアは横目でそれを見る。ヘマトクリット(総血液量に占める赤血球の割合)、血小板、etc……血液中の成分量のデータだ。いずれも“数が少ない”旨のデータであり、特にヘモグロビンの数値4.5に赤丸がしてある。もう一つは骨髄穿刺(こつずいせんし)のデータで、顕微鏡写真が貼ってあり、“形成不全”との所見。
 少しの沈黙。
「よろしいですか?」
 医師が問う。それはエリアを待っている……見終わるのを待っている、ということ。
「あ、はい」
 エリアはデータから目を離した。
 医師に視線を戻す。
 すると、医師は躊躇するかのように一瞬何か言いかけて止め、次いで息を詰め。
「単刀直入に申し上げます。由紀子さんの病気はアプラスティック・アナーミア…特発性の再生不良性貧血です」(aplastic anemia)
 振り切るように、医師は言った。
 肩をすくめるような担任。
 そして、エリアは目を見開く……もちろん驚愕で。
 身体がびくりと震え、頭から血の気が引く感じ。
 しかし、
「ひ、貧血……ですかぁ?」
 母親が頓狂と言えるほどの高い声で言い、父親と顔を見合わせる。
 両親に浮かぶ安堵の笑み。
 続いて母親が笑い飛ばすかのように。
「貧血ならあの娘小さい頃から……。先生、深刻な顔して、しかもあんな大袈裟な施設……いやですよぉ」
「その貧血ではありません。……ああ、あなたは知っているのだね」
 医師はエリアを見て言った。
 両親がギョッとした表情を見せ、エリアを見る。
 エリアは反射的に頷く。自分が目に涙を浮かべているのが判る。それはいけないことだと判っている。しかし。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-052-

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『プラズマで海水を水蒸気爆発させて吹き飛ばせ』
 相原であった。そして今、プラズマガンを持っているのは。
「私が吹き飛ばす」
 呼応してレムリアはスロープ上で足を前後に開いて長銃を肩に構え、タンク直近の海面めがけて発砲した。
 雷のような音がし、反動で身体が少し回転したが、電磁力で反動補正を受けた火の玉が水面突っ走ってタンク至近に着弾。ボンと音を発して白煙が生じ、タンクが文字通り吹き飛ばされ、空中へ舞い上がる。
 そこへレーザ一閃。タンクは真っ二つの輪切りとなり、若干の火の玉は生じたが、ガスの拡散の方が早く、燃焼が持続するには至らなかった。
 長銃を船内に投げ出し、屋根上へ女性の様子を見に行く。呼吸も脈もない。
 体表も濡れて冷たい。背後に大男達の気配。
「保持ユニットへ」
「了解」
 ラングレヌスが抱え上げ、アリスタルコスが心臓マッサージ。
 任せ、その間を利用し、保持ユニットへ先に走る。
「ベッド・保温・AED・人工呼吸」
 走りながら音声で指示。AED自体はベッドに内蔵されている。これでコンピュータが彼女の声を認識してコマンドを飛ばし、電源入ってヒーター温度が上がって待機。
 AEDの電極パッドのシール剥がしたところで女性が運び込まれて横たえられる。
「二人は次へ。後は私が」
「おうよ」
 男達が去る。
「操舵室、一人収容しました」
 報告し、和服の胸をはだけてシールを貼り、電極をあてがって心電図確認。
 微細な揺れ。心室細動。
 除細動動作。すなわち電気ショック。……反応無し。
 強心剤注射。再度除細動動作。……反応無し。
「あの……」
 大男二人に入れ替わり、毛布を羽織った男性。
「もう、母は、随分になります。なので……」
「呼びかけなさい」
 レムリアは男性に叱るように言い、心臓マッサージを始めた。
 女性の口元から水が溢れる。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-051-

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「皆さん、申し訳ありませんが少し離れて下さい。この船は離陸時に暴風を出します」
 レムリアは周囲に声を発した。
 すると、漁船から降りた男性が。
「ねえちゃん」
「はい」
「ありがとうな。また行くんか。“おやしお”はどっか捨ててけ。邪魔だろう」
「でもこの船は皆さんの宝物……」
「エンジンボロボロ、エレキは水被ってパーだよ。むしろモールスで信号もらってありがたかった位だ。ボロ船よりも、それよりも、一人でも多く助けてくれ」(※エレキ=エレクトロニクス。無線など電気備品のこと)
 男性の顔には微笑み。
 ならば。
「はい!」
 レムリアは頷いた。
 そして、船は一陣の風を起こし、雪舞う猛火の海の向こうへ。ここまでで救助計96。犠牲6。

 

 

 春とはいえ北国の3月は夕暮れの訪れ早く、雪という天候もあり船の照明を要求した。
 男達とレムリアは、それぞれに武具を抱えて甲板先端に立った。
 以下、5世帯7名の人々の救助の記録である。
 川沿いの2階建てでは、波間に僅かに出ていた屋根の上、年老いた女性と男性が待っていた。女性は横たわった状態。
 船を横付けし、昇降用スロープを延ばして屋根に下ろす。
「こっちへ!」
 叫ぶレムリアに対し男性は困惑の表情を返した。テレパシーが教える『女性の呼吸がない』。
「ファランクス」
「おう」
 大男二人が応じ、武具を背中に回して甲板から飛び降りる。水面は2階のその屋根ギリギリ。
 一方その間にレムリアは船内を経由して保持ユニットへ回る。
「OK来て!」
 運んで良い。レムリアが言った時、流れに乗って何かが来た。
 イヤホンにピン。
『家庭用プロパンガスのタンクだ。栓は壊れてガスが出ている。危ないぞ』
「レーザ」
『熱で着火する』
「レールガン」
『着弾で一気に高温になる』
 船長の否定語に。

 

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