« 2016年12月 | トップページ | 2017年2月 »

2017年1月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-068-

←前へ次へ→

 

「でも……」
「いいです。言わなくていいです。安藤さんが責任を感じてはいけません」
 レムリアは崩れ落ちそうになる安藤さんを抱きかかえて抱き締めた。
 明治三陸を上回る波にのまれ、一部家屋の屋根上に逃れたこの人たちを除いて流された。
「安藤さんは可能な限りをされたんです。そして今、こうして調理を手伝って下さる。おかげで食事が出来ます。皆さんもそう。出来ることを、しましょう。生き延びましょう」
 レムリアは言った。言ったが涙が出てきた。現時点、救えなかった命がこの船の中にある。前に判ったら、早く来られたら。もっともっと、呼びかけ行為を続けるべきではなかったか。
「そうね」
 安藤さんは目を開いた。
「美味しく作るから、食べて」
 情報を整理して全員に展開する。史上最大の地震で東日本全体に震動と津波。犠牲は予測が付かず、気仙沼を始め各所港湾で火の海や壊滅などの報あり。
「壊滅……」
 21世紀の先進国日本であるまじき単語。しかし、現実は冷酷。
 津波は今後も余震次第では発生する可能性がある。ここは船なので波自体はしのげる。
 ここから動かないで欲しい。近親者への連絡は請け負って災害掲示板等へ流す。
 人々は息を呑む。子供達の目に涙が浮かぶ。
 想像を絶する大災害という認識が人々を捉えて黙り込ませる。
「おばあちゃん……」
 男の子が一人、ぼろぼろと涙をこぼす。“怖い考え”が彼を捉える。
「おいで」
 レムリアは抱き締める。今この瞬間、どれだけ多くの人々が、幼い心が、同じ恐怖に心痛めているか。
 携帯に着信。相原、と思ったが、テレビ会議システムは繋いだままなのでそうではない。
「call」
 声に出せば船の設備でハンズフリー。
 番号……見覚えがある。オランダ、アムステルダムの孤児院である。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-067-

←前へ次へ→

 

 これに非常に反応したのは子供達。
「すげー。何これすげー」
「宇宙船みたい」
 男の子が興奮してレバーやスイッチをいじりまわす。が、動力断に伴って主幹コンピュータの電源が落ちているので反応はしない。
 そして、この宇宙船的装備で少しでも気が紛れるならそれで良い。
 コンソールとひな壇の間には幾らか空間がある。作戦決定の議論に使う液晶パネルのテーブルがあるが、そこを臨時の厨房にする。

 

Sn3n0024
(CEATEC2010にて)

 

 アルミのシートで覆い、宿から卓上IH調理器を持ち込んで並べ、大きさ不揃い鍋を載せる。操舵室背後の倉庫からそばの実が入った木箱を持ち出して開き、その他食材を各戸から持ち寄り、女性陣が中心に調理を開始。乗組員含め胃袋40満たすだけの一食は確保できそう。
 情報が欲しいという皆さんの求めに応じ、コンソール上のディスプレイ一つに通電し、テレビの衛星放送を拾う。
“沿岸で数百の遺体”
“観測史上最大・M8.8”
 すさまじい数字と言うほか無かった。日本の報道じゃないみたいだとレムリアは思った。
「うわ……」
「結局何が起こったですか」
 人々は、子供達も含め呆然となり黙り込んでしまう。日本人をして空前の大災害なのだとレムリアは理解する。
『千年に一度の、大地震です』
 声の主は相原。
『貞観地震。これは多賀城まで津波が押し寄せたと記録されていますが、そのままの状態が今回仙台平野で見られました。人的被害は明治三陸津波に匹敵かそれ以上になるかと。沿岸部の情報がまだ何も入ってきません』
「ここが沈むくらいだけ、明治よりすごいんじゃろな」
 そば飯を提案した女性……安藤さん曰く、本来の避難所まで遠い。そこで、明治三陸で水没しなかったこの高台が一時的な待避場所に指定され、応じて近隣から集まっていたという。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-094-

←前へ次へ→

 
 翌日。
 エリアも店長に頼み、作ったビラをレジの脇に置かせてもらった。
 ただ、彼女の場合、それしかできない自分が歯がゆかった。自分本来の力があるなら、もっといろんなことができるのに……。
「ちょっと、お姉さん。ボッとしてないで」
「え?あ、すいません」
 エリアは怒りを露わの女性に謝った。これで今日は3回目である。仕事が身に入らない。というか、ハッキリ言って上の空である。
 肩を叩く手があった。
 店長。
「いいよ。食事行ってきな。午後は掃除して総菜の陳列に回って」
「すいません」
「仕方がないさ」
 エリアは一枚も減らないビラに後ろ髪を引かれながら、レジから抜けた。背後で店長が頭を下げているのが申し訳ない。
 自動的な動きで社員食堂に向かい、いったんは食器を載せるトレイを手にする。しかし食事を摂る気にはなれず、そのままテーブルに座って携帯電話のスイッチを入れる。ちなみに、この電話は不動産屋で外回りする際に持って出るものだそうだが、両親ともしばらく外回りは中止ということで、代わりにエリアに貸してくれた。
 電話の回路が着信準備を整え、電波強度を知らせるグラフが立ったところで早速着信。
 不動産屋から。すなわち、昼休み時間を狙って発呼したということだろう。
「はい、エリカです」
『どうだった?』
 母親の声。
「全然。チラとも見てくれない……」
 自分の言葉に現実を再認識させられ、涙が出てくる。
「しかも……ドジばっかりで……店長に迷惑かけちゃうし……」
『泣かないの。こっちもダメよ。先生はとりあえずクラスで説明はしたって』
 反応が芳しくなかったことは聞くまでもない。由紀子の友達付き合いがスムーズでないのは冒頭の通りだ。
「病院の方は?」
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-066-

←前へ次へ→

 

「大丈夫ですか!私たちは救助隊です。医療設備を積んでいます。人工透析が必要な方や、常用薬が切れて困ってる方はいらっしゃいませんか!」
 甲板から夜闇に声が響いて更に人影あり。その家屋、の2階でライトがちらつく様が見え、人々が降りて出て来る。子供がひとり、お年寄り8人くらい。後は40~60代というところ。全員で15人。
「我々は救助隊です。地震の報を聞いて馳せ参じました。エネルギ切れて動けなくなりまたが、中は暖房と、多少の医療設備があります」
 船内は存命19。死亡8。
 ここの15名を加え、総計34名。
「お姉ちゃんお腹減った」
 男の子に言われ、ああ、と思い出す。一番肝心なこと。傍らで母親と思しき女性が慌てるような仕草。まぁ「食い物をくれ」みたいな物言いは先進国水準だと“恥ずかしい”が先に立つだろう。でも、今は非常時。
「待って」
 レムリアは応じてタブレットを操作する。“在庫確認”である。通常の活動は大体一晩なので、サンドイッチとか持って乗り込むが。
 今は無い。その代わり、緊急用の備蓄はある。しかも。
「“そば”でも作りましょうか。問題はそばの実、という状態ってことなんですけど。すいませんそこからどうやって麺に……」
「そば?」
 その母親らしき女性が反応。
「うどんそばのそば?」
「ええそうです」
「ああ、それなら『そばご飯』が作れるわ。鍋はある?」
 女性が笑顔になった。
「お湯と加熱電力は用意できます」
 答えて再度タブレットをスクロール。鍋、鍋、鍋って持ってたっけ……。
「鍋はウチのが多分」
 応じた男性は民宿経営、という。懐中電灯を頼りに濡れた砂浜を宿屋へ向かう。
 道具と熱源と食材が揃った。
 全員に対応するため操舵室を開放する。油圧の切れた扉を開き、大スクリーンとコントロールコンソール。大学講堂のようにひな壇を構成するデスク列。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-065-

←前へ次へ→

 

 瞬時に摩擦熱で高温になり一部蒸発し、“水蒸気爆発”に近い様相を呈した。
 爆発音と湯気が立ち、柱のような水がタンカー右舷を衝撃した。
 アルゴ号は反動で船体が左右に振動した。しかし、ラングレヌスが帆膜を動かしタンカーへ水を当て続けた。それは“滝砲”とでも称すべきか。
 タンカーは右舷に水流を当てられ続けた結果、回転して船尾が高台集落、および打ち上がっているアルゴ号の方に向いた。
『エネルギ消失するぞ』
『一撃で押し出せ』
 アルゴ号はタンカーの船尾に最後の一撃となる水の塊をぶつけ、高台から離れる方向に押し出した。
 その時点で、アルゴ号は全ての燃料を失った。
 津波が次第に高度を下げ始める。
 雪が降っていることに、一同はようやく気付く。

 

 

 錨は一本だけ土中10メートルに達し、アルゴ号は引き波に耐えてその地高台に船底を付けた。ただ、高台は地盤沈下の影響もあってか、水に囲まれ孤島状態。救助を求めるのは簡単だが、来られまい。相原によれば、北海道・青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉まで沿岸はすべからく津波の被害を受けたという。このままこの地で夜をやり過ごすのが多分最善。
 駆動力は失ったが、船内を一晩暖房できるだけのバッテリ電力は有している。帆膜は太陽電池であり、翌日晴れればバッテリ充電には充分。
『ビバークする』
 レムリアはそれを聞くと、甲板に出て髪の毛を雪風に晒した。その肌に当たるつぶて冷たさをしてようやく現実感が伴う。船内にいると外がまるでテレビの向こうのよう。それが“今そこにある危機”に対するパニックを遠ざけるという効用もあるのだが。
 集まって来る人々に顔を向ける。釣り客向け民宿であろうか、舟屋を備えた2階建て家屋が3軒。ただ、いずれもどうにか家屋の外形を留めている、と言った方が良く、傾いでいたり1階部分の窓が無かったり。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-093-

←前へ次へ→

 
 ちなみに断っておくが、再生不良性貧血は、全てが重症になるわけではない。この名が付く病気の範囲は広く、その多くは言われなければ判らないほど軽微なものであり、医師が言ったような薬で治るか、様子を見るだけで済む場合すらある。由紀子の場合は最重症、かつ、症状の進行が早い極端な例と言って良い。
 本来、指定難病のこのような予後“病気の進み方”の記述は、この病気を持っている方の不安を煽りかねず、避けた方が良いのかも知れぬ。ご批判指摘あっても否定はしない。しかし、だからこそ早急かつ確実な治療法の開発、並行して骨髄移植システムの告知と確立が重要であると考え、ここでは敢えてこのような予後が存在することを記述する。ちなみに、同様のことが骨髄性白血病にも言える。
 
 その晩。
 4人は医師から紹介された移植医療の支援団体を尋ね、そこのスタッフと相談の末、パソコンでビラを作り、配ることに決めた。現実は過酷だが道がないわけではないのだ。だったらその道を必死になって歩むしかない。
 両親は店にビラを置き、担任は担任で学校で話すという。ただ、骨髄移植の場合、献血のように善意と少しの時間で済む話ではないので注意が必要であり、その旨は明記するよう言われた。
 すなわち、
 
・骨髄提供のために数日入院が必要である(仕事・勉学が制限を受ける)
・骨髄は全身麻酔の上で腰骨から採取する。このため麻酔に関わるリスクを有する。
 
である。つまり、提供者(ドナー)側にも、ある程度の制限と危険が生じるのだ。このため、骨髄移植のドナーになるには、勢いではなく“真剣な”勇気が必要とすら言う人もある。真に理解した上でお願いしたいというわけだ。安請け合いされて、その場になって辞退、では困るからである。なお、実際のドナー登録に際しては、説明用のビデオを見た上、最終的な承諾というステップを踏む。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-064-

←前へ次へ→

 

『レムリア』
 船長がその一番右画面を見て呼んだ。
『はい』
『本船はこれより津波で切られて離れ小島となった集落に接岸、衝突が予想されるタンカーを残燃料全てを投じて押し戻す。その後電源は非常バッテリのみとなる。衝撃と不測の電源遮断に備えよ』
『現在電気器具使用者はいません。AEDバッテリは充電完了しており非常対応も問題ありません。……みんな、船が海岸に打ち上がります。何かに掴まって』
『よろしい。総員衝撃に備えよ』
 大画面に戻る。二軒並んだ家屋の屋根に避難した人々。
 驚いて見つめる彼らの東側、積み上がったがれきにアルゴ号は船首から衝突して乗り上げる。
『投錨!』
 水鉄砲の反動対策。
 錨は左右両舷より2発ずつ。自律型ロボットになっており、自ら“土”を認識し、潜り込んで10メートルの位置に星形の足を展開し、摩擦を増やす。
『非常遮断ステップ2、3実行、超伝導クエンチ。加速コイル露出状態です』
『第1第2マスト水中浸漬。電界準備良し』
『タンカー衝突まで10秒。錨状態確認』
『掘削中、固定未完』
『時間が無い。電界全力』
『了解』
 船尾カメラがタンカーを捉える。右舷側をこちらに見せて接近してくる。
『カウント3。0で磁界最大』
『アイ』
 コイル出力は船の速度を司るスロットルで変化させる。一方、帆膜に与える電圧は帆膜をアンテナとして使う場合のボリュームダイヤルを用いる。
 操舵手のシュレーター。エレクトロニクスの監視と操作を行うラングレヌス。
 ラングレヌスが電界出力を最大にし。
『3、2、1、0!』
 シュレーターがスロットルハンドルを開いた。
 電界と磁界を直交させると、そこに導電物があれば電流が流れ、導電物を動かす力が生まれる。フレミングの左手の法則。
 水は、1立方メートル辺り1トン。従い、100トンになろうか、恐らく音速を超えるスピードで、船体下から海水が射出された。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-063-

←前へ次へ→

 

 主機関、その主役である主加速コイルは、超伝導ドライブの電磁石である。燃料である反物質“陽電子”と、空間にある電子を吸引、引き合わせるのに使う。陽電子と電子を衝突させると応じた光エネルギが得られる。それを船尾のお碗型反射板にぶつけて推進力とする。
 一方、ハイドロクローラはその光エネルギで気体液体を加速噴射して駆動力を得る。
 相原の提案はこれらと異なる。海水に大電流を流して磁界を加えると海水自身を動かすことができ、これで推進力を得る。電磁推進と呼ばれ、主として秘密行動を目する潜水艦の動力源として開発が進められている。
 アルゴ号では機関に異常が生じ、高いエネルギが制御不能に陥った場合、最後の手段として当該部位を切り捨てる機能を持つが、切り捨て、ではなく、その前段階の遮蔽板解放、コイル露出の状態を使えないか?と言うのだ。
『検討に値すると思料する』
 シュレーターは前置きし、
『電界はマストを使って励磁電流を回せばいいだろう。理論だけで保証は無いが。船長、いかがか。但し当然、燃料の消費が激しいため、実行後行動不能に陥る』
 出来ることと、その後を述べ、船長の断を問うた。ただ、もう答えは判っている印象だ。
『実行せよ。シュレーター、本船を着岸させよ。アリスタルコス、非常解放プログラムに割り込んでマニュアルステップ実行を行え。ラングレヌス電路切り替え可能か』
『アイ』
『マニュアルステップ準備完了』
『電路切り替え可能です』
 正面スクリーン状態は以下の通り。メイン大画面は外景で、激しく波に洗われる木造家屋数軒。アルゴ号のライトに照らされている。下部小画面は、左から赤画面に白文字で機関損傷、および燃料残0.0006。2画面目は当該解放プログラム画面でステップ2のレディ(指示待ち)。3画面は電気回路接続グラフィック。一番右は生命保持ユニット内部カメラ。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-092-

←前へ次へ→

 
15
 
 HLAの検査に要する時間は約1時間である(21世紀初頭)。
 しかし、4人の誰も合致する者はなかった。
 HLAは前述の7つの情報(座と呼んでいる)から構成され、両親から1セットずつ、計2セットを受け継ぐ。
 このため情報は14になるが、21世紀の初頭現在、各セットの情報のうち、A、B、DRの3つさえ合致すれば良いとされる。しかし、それにしても2セットとも合致している…すなわち3×2の6つの情報が合致している必要があり、その確率は10万人に対して10人未満、と言われる。
 医師が看護師を伴い、カンファレンスルームに戻ってきた。
「バンク登録ドナーの方で合致する方は現在いないようです。しかし、由紀子さんの場合、症状が重度で進行が早いこと、年齢面、骨髄性白血病への遷移の可能性等を考慮、移植を第一と考えます。当面の対処ですが、まずは輸血し、感染症を治した上で、薬を使って進行を抑えます。これは造血機能を回復させるためのものです。が、楽観は許せません。どうか、皆さんの方でも、ドナーになっていただける方を探していただきたいと思います」
 医師は要約するとこのような内容を言い、最後に、この病気の“治療の手引き”と題されたレジュメを配った。
 両親が深々と頭を下げる。
 医師が退室し、引き続き看護師と入院やバンク登録に関する書類手続き。
 エリアは痛いような喉の渇きを覚えながら、もらったレジュメに目を通した。医師の言う、早急にドナー(提供者)を探してくれ。それが意味するところは、明確に言葉にはしなかったがひとつである。
 それは、昨日まで元気だったのが信じがたい状況ではある。しかし再生不良性貧血は免疫力が低下するため、感染症にかかりやすくなり、細菌感染から高熱を発したり、一気に進行して倒れる。といったことが少なくない。また、この病気は、緩やかに症状が進行することが多いが、日単位、時間単位で急激に進行したり、他の病気を併発したり、他の病気に移行したりというパターンも存在する。由紀子の場合、気付かずに重症化したか、発症後急激に重症へ進行したか、が、可能性として考えられるが、現時点ではどちらとも言えないという。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-062-

←前へ次へ→

 

 赤いランプが通路のそこここに点いた。そんなのは初めてである。つまり、過去経験の無い異様な事態が生じた。
 タブレットを見る。赤バック白抜き文字で“リフレクションプレート破損”。
 船尾はタマゴの殻の様にパカッと開き、パラボラアンテナ状の反射パネルを形成する。そこに光ビームを当て、船は前進するのであるが、それをタンカー衝突で損傷した。
 光子ロケットエンジンを失う。すなわち。
『空中推進能力喪失』
 妙に冷静な操舵手シュレーター博士の声。しかし船長は次善を提示。
『了解。以後ハイドロで海上を推進する。燃料節約のため衝撃抑制は不可能。総員衝撃に備えよ。相原、近場に避難可能な場所はないか。乗船中の方々を送り届け、本船も待避したい』
 問いかけに相原から応答は。
『そのタンカーはそのまま流されると津波で孤立した集落に打ち上がる。若干高台になっていて、応急避難所にしていたらしい。集落には携帯電話の位置情報が数件存在する。取り残された方がいると見られる。現在浸水高1メートル。救出およびタンカー回避可否検討願う』
 ここで普段なら、それこそエンジン使って押しのけてしまえば良いが、そのエンジンは使用不能。
 船長が言う。
『シュレーター。漂着予想地点に先回りせよ。総員、残った燃料全てを投じて危機を排除せよ。手段あるか』
 そこにピンで割り込み。相原。
『僕だ、加速コイルとハイドロ推進用電界付加ユニットを水中に出せ。電磁加速水鉄砲だ』
『は?相原、言いたいことが判らんのだが』
『暴走時非常切断を中途半端に使う……』
 船長の問いに相原が答えようとし、シュレーターが続きを言った。
『言いたいことは判った。主機関を露出してフレミング条件に整えて海水を電磁加速しろと言うことだな』
『そうです』

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-061-

←前へ次へ→

 

「お願いします」
 レムリアが頼むと相原からピン。
『津波症候群に注意』
「承知」
 レムリアは即座に返し、船長副長には、無事な子にもタグを持たせるよう依頼する。
 津波症候群。書いたように異物有毒物を含む海水であるため、飲み込むことにより呼吸器や内臓に後から疾患を生じる場合がある。このため、手術や洗浄が必要となる。
 その可能性があるとしてタグを持ってもらう。
『21番』
 意識の無い女の子。
 地道に救って行く。タブレットには船の燃料僅少を示す警告が出っぱなし。
 意識ある割合は3割と言ったところか。AED3回で心拍回復せず二人。それ以前のいわゆる社会死の状態の男の子ひとり。損傷が激しい。
 船のコンピュータがピン2回。……燃料がありません。潜航可能は2分。抑制モード移行……。なお、抑制モードは燃料消費を最小限に抑えるもので、推進は人力操舵のみ。他の機能は照明空調以外全てオフとなる。
『あとは?』
「ひとり」
『水面上に感あり』
 浮き上がる。もう日が落ちて真っ暗である。照明を点けると、漂う漁船とタンクの間に瞳のきらめき。
「がんばって!」
 背後からレーザ光線が空中を伸び、タンクを照らす。識別用に船長が放った物である。果たして海上の瞳、9番の男の子は反応した。
 浮き輪を投げて掴まってもらう。スロープを出して、引き寄せて。
 スロープの上から浮き輪を掴む。
『後ろ!』
 相原の警告。
 振り返り超視覚が捉える流されてきたタンカー。
 レムリアはかろうじて男の子と共に船内に転がり込み。
 今、アルゴ号は男の子を救うため、光の圧力を弱めていた。抑制モードであり、探知システムも感度を落としていた。
 ブザーと共にタブレットに表示が出るが手遅れ。大きな衝撃がアルゴ号を捉える。レムリアは通路を突き飛ばされて何度も転がる。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-091-

←前へ次へ→

 
 両親は困惑したように互いに顔を見合わせた。そんなこと言われてもどうすれば……エリアには二人の共通の意識が判る。
 父親が医師を見た。
「で、その、移植用の骨髄ってのは、どうやって……」
 掠れた声色に表れる不安と狼狽。否定の恐怖に抗い勇気を振り絞って。
「はい。まずは血縁者の方を調べます。兄弟がいる場合、確率四分の一で同じHLAになります。あとは、骨髄バンクより紹介頂くか、皆様方でお探し頂くことになります。骨髄バンクはご存じですか?」
「ああ、聞いたことはあります」
 母親が言う。そして続けて合点が行ったように。
「あ、あの骨髄バンク……そういうことですか。なるほど」
「その通りです。バンクは、この再生不良性貧血や、骨髄性白血病など、骨髄移植を必要とする病気の治療のために、骨髄を提供してもいいですよ、という方のデータベースです。しかし現状では、何万通りというHLAの組み合わせに対して、登録者数が充分とは必ずしも言えない」
「じゃ、テレビで時々宣伝しているのは……」
「そう。登録数を増やす必要があるためです。既に由紀子さんのHLAはバンクに照会を出しました。ただ、そういう数的な事情がありますから、これで確実に、というわけには行かないのです」
Re_img_flow
(日本骨髄バンク公式より。2017/1/1時点)
 
 そこで医師が沈黙する。
 エリアはその意味を悟って首筋に寒気を覚える。
 医師の言いたいことはこう。つまり、骨髄の提供者がいなければ、由紀子の命は保証できない……。
「あの、私の調べていただけますか?」
 エリアは反射的に立ち上がって言った。このインチキ人間体にHLAが存在するのか。 また、合致したとして移植のドナーになっていいのか。それは判らない。
 ただ、黙っていられない。
 医師がエリアを上から下まで見つめる。
「うーん……どうかなあ。君、親御さんのどちらかが海外でしょう。ご存じと思うが、民族が違うと一致する確率は非常に低い」
「でも……」
「判った。やってみよう」
「あの……私も」
「私も」
「わたくしも」
 両親と担任が立ち上がる。
「判りました。いらしてください」
 医師は、言った。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-060-

←前へ次へ→

 

 潜った津波の中はおよそ人間社会の一部とは思われなかった。
 がれきやクルマと言った人工物はもちろん、流された木々や、海底にあったとみられる岩などが“生き物のように”漂っていた。軽々と、ふわふわと。岩など風船のように上下に舞うが、実際何トンもある。そっと触れるように自家用車の屋根に当たり、屋根がへこみ、ガラスが割れる。
 津波に飲まれた遺体は損傷が激しい場合が多い。その理由はこれらによる。
 すなわち、海中に飲まれた場合、存命の可能性は下がる。
 しかし確率は否定しない。レムリアは目をこらし、全ての意識感覚を用い、船が圧力で押しのける波とがれきの向こうを探した。人体と思しきは直下に船を差し入れ、その部位だけチューブ構成する光の圧力弱める。
『7番』
 ざぁっという水の流れと共に子供の身体が落ちてくる。
 大男が甲板で受け止めてレムリアに託す。番号は把握した27人に識別用に振った物。
 息をしていない。
 心臓が動いていない。
 マッサージを開始する。AEDを繋いで。
『レムリア。皆さんです』
 副長の声に顔を上げると、今さっきすくい上げた人たち。
「手伝います」
 断る理由は無かった。
「お願いします。次々子供達が来ます。AEDは3回まで。それで……ダメならこのタグの黒い部分までをちぎって足首に巻いて下さい」
 タグ……それはトリアージ用の物である。荷札の先端に緑、黄色、赤、黒の4色の帯があり、要救護者の状態に合わせて所要の帯を残して切る。

 

800pxtriage_tags_tokyo_fire_departm

 

(wiki)

 

 黒は死亡。
『12番』
 女の子。大丈夫。生きているし意識はある。
「ここは……」
「救助船です」
「レムリアこちらへ」
 甲板への出入り口に副長セレネ、船長アルフォンスス。
 二人とも足元に毛布を積み上げている。ちなみに、毛布は基本、防寒用ではあるが、“包まれることにより安息感を得る”という効果ももたらす。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年12月 | トップページ | 2017年2月 »