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2017年2月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-076-

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 降りてすぐの武器庫には、ロックが掛けられることからご遺体を安置している。トリアージ黒札。医師の判断を経ないものは“心肺停止”と表現されるが、逆に誰が見てもという状態の場合“即死”と書かれる。ここに安置しているのは後者である。津波は水によって溺れる、のみならず、トンの単位の物体が複数流される。それらに人体が巻き込まれたら大きな損傷は免れない。遺体の状況は凄惨を極め、身元確認は難しい。津波を描いた過去の絵画はそうした点を強調し、だから、揺れたら逃げろ、或いはそもそも住居を作るなと強く諫めている。
 船がゆっくり動く。津波か、地震か。
 レムリアは子供達のいる操舵室に戻った。
 
11
 
「主コンピュータ電源回復。充電開始」
 シュレーターの声で目覚める。いつの間にか自分のコンソールで突っ伏して眠っていた。
 マストが3枚とも展帆している。モニタに映った船外はブルー。すなわち快晴。気温は0度。消火膜代わりの第2マストの帆も元の位置。男達が戻したのであろう。
 第2マスト頂部にあるカメラを動かす。
「おお……」
 大きな衝撃と小さな声が乗組員を捕らえる。
 引かぬままの水面を埋め尽くす瓦礫と、見え隠れする多数の遺体。
 上空を飛ぶヘリコプター複数。
「アリス、ラング。出来るだけ回収を。データリンクを再開する。相原、鎌倉宇宙機製作所応答せよ」
 船長アルフォンススの声がし、大男達が操舵室を出て行く。
 正面モニタは相原の会社のテレビ会議室を映した。
 作業服着たメガネの男。即応する辺り寝ていないとレムリアは判じた。
『はい相原。アルゴ号の位置と状態は把握している。ウチの連中が反水素貯蔵ユニットを持って出るので航行可能になる。しばし待たれよ。概況を伝える。震源は宮城県沖。マグニチュードは暫定値8.8。最大震度7。津波によりおびただしい人命が失われた。アルゴ号周囲の状態が沿岸一帯で見られると考えていただいて良い。東京でも建物の屋根が落下して人死にが出た。犠牲の全容は不明だが1万では済まないだろう。なお、福島第一原子力発電所が電源を喪失し冷却不能。メルトダウンの恐れが高い』

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-075-

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 ちなみに、遺体から奪い取るという発想自体は、近代日本人は思いつかないであろうとレムリアは思っている。
『畜生はどの文化圏にもいるし、入り込むさ』
 相原が言った。そうだ、という肯定の意が生じ、胸の痛みが潰れるように消える。死という結末は後悔するに値しないであろう。相手の数が数である。まず武器を奪う、無力化する以外に選択肢はあるまい。相手はそれを避けて死んだ。それだけだ。
 それだけだ。サッと結論づけたが自分は残酷な考え方だろうか。沢山の“あっけない”死に接してマヒしたか。
『ラング帰投せよ。膜はそのまま火除けに置いておけ』
 船長の指示にレムリアは我に返る。
 自分の心理などどうでもいい。
「警察力が低下してるわけだね。だったら寝ずの番がいるね。似たようなのまた来るかも知れない」
 レムリアは言った。それこそ無法の地の体験はいくらでもある。体験からのアンサーがこれ。
「それなら俺たちが……って言っても聞かねぇだろうなおめさんは」
 アリスタルコスが隣でニヤッと笑った。
「よくご存じで」
 レムリアはニヤッと返した。そして気付く。ウソでも何でも“笑い”の余裕が出来た。
「だけどな魔女さん。おめぇさんには子供達のそばにいて欲しいってのはあるんだ」
 優しい嘘。レムリアはフッと笑った。本当は少女である自分には戻れと言いたい。されど、子供扱いになる。結果のアンサー。ちなみに救助した子供達はそれこそ安心と疲労の故に深く寝入っている。PTSD的症状が例えば悪夢や不眠として現れるのはむしろ明晩以降。
「判った。戻るよ」
「任せろ。こっちは人生こんなのばっかだしよ」
 レムリアはそれを聞き、大男達を置いて船内への階段を降りて行く。

 

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天使のアルバイト-098-

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 エリアも正直なところ同じ気持ちである。しかし自分たちは、“お願いしている”のだ。文句を言える立場じゃない。
「いいえ、レジじゃ全然……だったし。14枚も持って行ってくれたなんてすごいと思います。助かりました」
 エリアは笑顔を作ると、山のような残りのビラをスーパーのビニールに収めた。
 若い母親がフッと笑い、エリアの手を握る。
「そうね。私の赤ちゃんをあなたが助けてくれたように、あなたのお友達を助けてくれる人がきっといる。私はそう信じる」
 エリアは握られた母親の手に、心からの温かさを感じた。
 その手を強く握り返す。寒空の下、二人とも素手である。理由……ビラを持って行ってくれた人に、握手で謝意を表したいから。
「明日また配りましょう」
「はい。ありがとうございます」
 エリアは答えた。正直言って、今日の14枚が直接事態の解決につながるとは思えない。
 ただ、少なくとも、手をこまねいているよりはマシだと思える。
 もちろん、それは単なる自己満足なのかも、何かしている“つもり”でいたいだけなのかも知れないが。
「じゃあ」
 ビラ配りの許可をくれた駅事務室に一礼し、二人はそれぞれ家へ向かった。ちなみに、赤ちゃんは母親が実家から出て来て面倒を見ているとのこと。
 エリアの場合、家へは線路沿いの田んぼのあぜ道を歩いて行くのが近道である。当然街灯など無く、一般的には若い娘が夜歩くべき場所ではない。しかし、そんな懸念は元よりエリアにない。
 最も、知っていたとしても、彼女はそこを通っただろう。なぜなら彼女の思惟は“由紀子を救う方法はないか”それ一点に占領されており、その他の行動は全て自動的に近い状態で行われているからだ。
 正面から光芒。電車である。都心へ向かう上り最終が接近し、轟音と共に行き過ぎる。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-074-

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 ラングレヌスは帆柱基部に自らの腰部安全ベルトのフックを掛ける。
 帆柱を根元から外して持ち上げ、その腰のベルトに載せる。
 質量は80キログラム。
 そのまま、右舷まで歩き、柵を倒して立つ。
「レムリアくれ」
 プラズマ銃のこと。
 渡したら、彼は帆柱担いだまま宙に身を投げ、同時に銃を地面に向かって発砲した。
 銃から火の玉が走り、反射的に帆柱もろとも彼の身体が浮き上がる。
 銃の反動を小型ロケットエンジンのように使った。
 雑木林を越えて炎の沿岸へ。“龍神花火”という相原のイメージを知る。
『展帆!』
『アイ』
 空中で帆膜が開き始め、体の良いグライダー。
 帆膜は一気に広がり、炎上部を覆うには十分なサイズであった。帆膜の耐熱性は元々宇宙航行用であり非常に高い。ちなみに一度メルトダウン状態の原子炉至近に閉じ込められ、1000度を超える高温に晒されたが、問題は生じていない。
『帆膜センサが高温警告……消えた』
『了解。対人反応あるかどうぞ』
『管制システムが検出したのは16。現在確認ゼロ』
『俺のセンサも反応しない』
『わたくしです。火事場泥棒はいずれも火炎やガスの吸引、水没による窒息、心臓マヒ等で絶命しています』
 セレネの報告。つまり強盗団はいずれも死亡。
 レムリアは少し胸が痛んだ。しかし。
『おいおい』
 強盗団の船を覗いたラングレヌスから報告。
 それは凄惨な内容であった。宝飾品・金歯の類いを遺体損壊の上、奪ったらしい。
 フラッシュバックがレムリアの脳裏を走る。それは以前在籍した救助隊で何度か遭遇したことがある。“人間の尊厳”が存在しない、価値観が違う地域はある。蓋し。
「日本なのに……」
 呟かざるを得なかった。強盗団は人道に関わる葛藤は捨て去ったか、元々ないか。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-073-

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 火が壁となり小島に迫る。何か火を避ける、封じる方法はないか。
 現在津波は僅かに引き波。
 すなわち湾内から小島へ向かう方向。火の壁が波に乗り近づく。
「学!」
 レムリアは叫んでいた。
「学、助けて!」
 解答は無いかも知れぬ。しかし他に手は無かった。
『帆膜でフタしろ!海面を覆え』
 意に反し、相原からの学は即座であった。
『宇宙航行サイズに広げて蓋をし、酸素の供給を絶て』
 タブレットに画像が投じられる。それは天ぷら火災などの際、広げて被せれば良いという、膜状の消火器具であった。
 帆膜で同じことをしろと。
 アルゴ号の帆膜はサッカーコートのサイズに広がる。
 その状態で火の壁を上から覆え。
「レムリア、持って降りろ」
 ラングレヌスが上からプラズマガンをベルトでぶら下げて寄越す。
 レムリアは受け取る。ずしりと来る荷重。ベルトで肩から下げる。
 意図は判じた。そして、心配だが止める気は無い。
 彼にしか出来ない。
「船長。俺が持って飛ぶ。第2マストの固定解除と、俺の合図で展帆願う」
『許可する』
 二人の会話を聞きながら、レムリアはマストのハシゴを下りて行く。途中から滑り降り、更に甲板に飛び降りる。
 肩から下げた銃がガチャリ。
 その横にラングレヌスがどん、と音を立てて着地。
『船長いいぞ』
 ラングレヌスは不死身である。身体が粘土のような耐衝撃吸収性を有し、刃物弾丸の類いは食い込まない。水中でもそのまま溶存酸素を呼吸できる。熱に対する感受性も低い。ただ、真空の宇宙に放り出されたらどうなるかは知らぬという。
 その身を活かして今彼はマストてっぺんから10メートル超を飛び降りて平然としており、続いて帆膜を自ら炎の上に下ろしに行くのだ。彼はレムリアを見ると、親指を立てて見せた。レムリアの顔が心配で歪んでいるのであろう。実際その旨言いたい。が、それでも何も言わなかった彼女に感謝。の意だ。

 

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天使のアルバイト-097-

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 ただ、表情にあの頃の軽薄さはあまりない。
「そんな、いいですよ。元気になって良かった」
 エリアはいつもの笑顔で言った。そんなこと気にしない。赤ちゃんが助かった。それが嬉しい。
「それで……」
 母親が口ごもるように続ける。
「はい?」
「……聞いたんだけど、このビラ、配るの手伝わせてくれないかなって」
 母親は手にしたビラを指差した。
 エリアは息を呑む。
「え……」
「赤ちゃん助けてもらったし、何て言うんだろ、命がどんなものか、よく判ったから……」
 言葉が出ない。ただ、なんて素敵なんだろうという、陳腐な表現を使えばそんな思いが心臓の辺りに風船のように膨らんでいる。
 彼女に抱きついてしまいたい。
「ありがとうございます!」
 エリアは気持ちを抑制してそれだけ言い、勢いよく深々と頭を下げた。でも、声が大きくなってしまって衆目が集まる。
「じゃ……残りも持って行っていいね。駅で知り合いが働いてるから配らせてもらう」
「はい。はい!ありがとうございます。私もあとで行きます」
 エリアはもう一度頭を下げた。
 少し前までの、塞ぎ込んでいた自分がウソのように思えてくる。
 門が開いた。上り坂の向こうに真っ直ぐな道が見えた。そんな感じ。
 大丈夫だ。と思う。
 努力は必ず実を結ぶようにできている!
 
16
 
 結局、エリアは閉店までいたあと、着替える時間すらも惜しく、スーパーの制服を着たまま駅へ走った。北風があり、正直寒かったが、何か着るでなく、若い母親と深夜0時近くまでビラを配った。
 持って行ってくれた人は14人。
 途中「自分もバンクに登録している」と手伝ってくれた人がひとり。
 もちろん、余った枚数の方がはるかに多い。
「もっと持って行ってくれると思ったんだけど……」
 若い母親は缶コーヒーを飲みながらつぶやいた。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-072-

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『発砲!』
 ラングが声と共に引き金を引き、タブレット画面が一面真っ白になった。
 レムリアは画面の中を見、操舵室を出、舷側通路から甲板へ駆け上がり、更にマストへ昇って行った。
 画面では情報が限られる。目で見て把握すべきと思ったのである。
 駆け上がると照明弾は火の玉となって空中にあり、タブレットにはマスト頂部のカメラ画像が映し出されていた。ここは小島の状態にあり、船のある側は砂浜。真ん中は小高く山脈のようになっていて木々が見え、向こう側、すなわち反対側の海岸は、ガレキが多数漂着しており、海と地表との境目は見えない。
 その海上には漂う多数のガレキと、縫って走る数隻の小型船があり、その船上に腹ばいになり、身を潜めているように乗っている男達。ラングレヌスの報告通り。
 レムリアは最も高い第2マスト、ラングレヌスの足下に達した。超常の視覚を使う。舟艇の中は慌てている。照明弾を確認し、何事か身振りを交えてやりとり。
 船の針路が変わる。
「逃げます」
『させるか』
 アリスタルコスの声があり、船の前寄り、第1マスト頂部からレーザ光が幾本走る。人体攻撃は不可能だが、その手にした武器類に正確に照準することが可能である。
 驚き、であろうと思われる声が船の方から上がり、人影が次々船から這い出て海へ入る。“あろうと思われる”のは日本語ではないから。
 散り散りになって逃げる気だ。……思った瞬間、予想外のことが起こった。
 照明弾が海面に落下し、覆っていたであろう油膜に着火したのだ。
 厳密には可燃性の気化ガスが表面を覆っていたのかも知れぬ。炎は意志持つようにさーっと馳せて広がり、
 火事場泥棒の者達に悲鳴を生じさせたのみならず、火の壁がこの離れ小島に迫ってくるという事態を生み出した。
 者達の乗っていた漁船が次々に火に包まれ、遅れて爆発する。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-071-

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 ロクなことじゃない。ベッド下から這い出したレムリアのイヤホンにピン。同時に、操舵室最上部、船長席にLEDランプ点灯。
『レムリア。何かあったか』
 船長が通信機経由の小声で寄越す。
「ダンナから。本船に外部から船が近づいていると」
『ハッキリ言う。火事場泥棒。武装盗賊の懸念あり』
 かぶせてきた相原の言葉にイヤホンにピンが2発聞こえ、船長が動き、ピンが2発返ってきた。
 返してきたのは甲板上の大男二人である。徹夜の監視だ。
『私だ。相原より入電。内容につき真偽確認願う』
 即座に船長が指示。
『聞こえた。甲板からは山林のため見通し不良。第二マストより確認する』
 アリスタルコス。
『シュレーター。ビーコン動かして良いか?』
 続く船長の問いかけに、ピン2発が割り込んだ。
 ラングレヌスだ。レムリアの液晶にも彼の目線カメラ表示。
『船長。舟艇を確認した。一見漁船だが腹ばいになって乗っている者あり。全身黒ずくめ。刀剣類所持。明らかに避難者でも救援者でもない。方位324より上陸と推定』
『上陸拡散されると手間だ。上がる前に仕留めろ』
『アイ。ドクター火器管制許可願う。多点ターゲティング使う。プラズマ照明弾用意』
 火器管制。それは武器と照準、妨害装置のコントロール。
『許可する。レムリア、保持ユニット機能制限良いか。灯火管制』
『いずれの機器もレベル1以下で使用。大丈夫だと思います。ユニットは船内に格納されており灯火漏洩無し』
 現在、大電力を消費して動いている機械はない。正確に言うと心電図モニタをしているお年寄りがあるが、薬を投与して落ち着いてきたのは見えていた。
 問題あるまい。
『防御せよ』
 タブレットに赤文字が出る。防御モード。火器管制。

 

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天使のアルバイト-096-

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 引き替え、両親の強さはどうだ。
「……ごめんなさい」
『怒鳴ったりしてごめんよ。あんたの気持ちも判ってるんだ。でも今は頑張る時。信じること、そしてあきらめないこと』
「うん」
『それじゃね。人様には“関係ないこと”なんだから、無理言わないの。いいね』
「はい」
『午後も頑張って』
「はい。すいません」
 電話が切れた。
 エリアは下唇を強く噛んだ。
 全く持って言われた通りである。くよくよしたところで、状況が変わるわけではない。
 由紀子も頑張っている。自分も頑張る。出来ることは、ただそれだけ。
 そして、仕事は仕事で私事とは別のこと。ご両親がお店のお客さんに泣き言を言っているわけがない。
 この店にいる間は、それはそれ。これはこれ。
 その時。
「エリカちゃん」
 同じレジ係の22歳フリーター娘から声がかかった。
「はい?」
「お客さん。受付のところ。……ねぇ、ちょっと今日大丈夫?変だよ」
 顔を上げたエリアに、フリーター娘は用向きを伝えると、心配そうに表情を変えた。
「大丈夫。気の早い花粉症だから」
 エリアは言うと、コップ一杯の水だけ飲んで社員食堂を出た。
 通路を通って店内に入る。
 小走りで店の入口、受付へ。
 と、そこにいたのはベビーカーを押した若い母親。
 そして。
「あ……」
 エリアはその赤ちゃんを見てすぐに気付いた。
 あの時の子……真夏の車中に置き去りにされ、瀕死の状態でエリアが救い出したあの赤ちゃんである。
「そうか~、元気になったんだね~」
 エリアは思わずしゃがみ込み、赤ちゃんに指先を出した。
 赤ちゃんがはしゃぐように笑って手を伸ばし、エリアの指先を掴む。
「あの……助けてくれたのに……お礼もしないで……」
 若い母親が恥ずかしそうに小声で言った。
 エリアはすっと立って母親を見た。相変わらずの濃い化粧に金髪、厚底サンダル。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-070-

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 前を向くのだ。今はただ前を見るのだ。
「みんなも。ちゃんとお父さんお母さんのところへ送って行くから」
 レムリアは“怖い考え”の連鎖パニックを心配した。
 が。
「うん」
「お腹減ったよ。おばちゃんまだ?」
 子供達は想像以上に強かった。
 そして、温かいそばめしが出来上がった。“お椀”という食器は船に無いので、近隣および漂着物の持ち寄り。
「ああ」
 あちこちで漏れる安堵の息。
「温かい。生き返る」
「生きてる……生きてるね……」
 人々のそれは実感であろう。延々たる地震動の後、何も持たぬままここを目指し、情報から隔絶されて事態の深甚さに気付かぬまま、巨浪に翻弄され。
 目の前で知己が流されるなど耐えがたい体験をし、それでも、人の手で調理された温かい食事が取れる。
“人間らしさ”を再認識したとレムリアは感じた。“同船者”34名。このうち子供は小学生で8名。
 
10
 
 深夜二時。操舵室。ほぼ真っ暗。
 毛布で雑魚寝。電力削減のため船のコンピュータは副長席パソコンだけ作動。副長席はひな壇を少し登った一角で、観葉植物に囲われてベッドがある。通常の救助活動ではこのベッドに副長セレネが横たわり、テレパスを全力で発揮して要救護者の“心の悲鳴”を拾うのであるが。
 現在は雑魚寝不可能な女性二人に貸し出し、その様子見も兼ねてベッド下に副長とレムリア。
 彼女の携帯電話に着信する。レムリアはむしろテレパスが感応し、バイブレーションより数瞬早く目覚めた。
 相手は相原である。胸騒ぎ。彼ではなく自分に。何だろうこの“気配を消している”感じ。
「何かあった?」
『救助を呼んだか?』
「いや。船で対応できる範囲だから特には」
『レーダに感あり。小型船舶4隻接近。真方位322(しんほういさんにーに。ほぼ北北西)パトライトや声かけなど救助隊の可能性あるか確認せよ。関連する無線はこちらでは検出できない』

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-069-

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 何かあったのか。以下コンピュータによる自動邦訳をカッコ書きで付す。
「(はい、みんな元気?)」
「(魔法のお姉ちゃん今どこにいるの?日本が、日本が大変なの。助けに行ってあげたいの)」
 幼い女の子であった。現地のニュースで流れたのであろう。レムリアは納得した。
 一方、これに強く反応したのは今ここにいる小学生達。
「え?」
「魔法?」
「あのね……」
 レムリアは相手先を説明した。余興で手品をやるので魔法使い。
「こじいんって?」
 コンピュータに翻訳禁止し。
「ご両親に出会えない子供達が共同生活。この地震がニュースで流れたらしいの。で、日本に住んでるみんなのことを心配して、私に助けに行けと」
 すると、
「どんとうぉりー!」
 先ほど、涙流した男の子が強く言った。
 彼の中で、ある種の計算が行われたと、レムリアは理解した。
 ここにいる子供達は、少なくとも親を失った子はない。彼のように他の親族の状況不明はあるのだろうが。
 結果、庇護されるべきは電話の向こう。それが彼の結論。
 自分のことは後でいいから。
 サムライだ。レムリアは感嘆した。
「ミス・リリー」
 レムリアは幼い声に呼びかけた。
「はい」
「今の声は日本の男の子です。私は既に日本に来て、こうして子供達と一緒にいます。でも一度に全部は難しい。だからお願い、祈って下さい。神様に祈って下さい。日本のお友達を助けて下さいと祈って下さい」
「判った。みんなでお祈りする。あ、お姉ちゃんそれじゃあ忙しいんだよね。切るよ、バイバイ」
「うん、バイバイ。……カットオフディスカス」
 レムリアは通話を切って人々を見た。
「世界中が、日本を襲った状況を知り、動き出してくれているようです。……だから、私たちもこの夜を越えましょう。そして、出来るだけのことをしましょう。本船にそれなりの蓄えはあります」

 

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天使のアルバイト-095-

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『ずっと輸血。だけど、血球の減少が止まらないんだって。かといってあんまり強い薬使うと逆に感染症にかかりやすくなるらしいの……先生も悩んでらっしゃるみたい。人によって症状や副作用が違うんだって。だから本来は幾つか試して一番効果の高いものを選ぶそうだけど……』
 母親が言葉尻を濁し、自分も言葉も出ない。一体、どうすれば、どうすればいいの。何か私に出来ることはないの?
 由紀子ちゃん!
「じゃあ……意識はまだ……」
『まだ。熱が下がらない。40度近くあるって。感染症の影響だって。抗生物質が徐々に効いてるとはおっしゃっていたけど。これが収まらないことには次に進めないって』
「おばさん……」
『泣いちゃダメ。由紀子だって必死で頑張ってるんだから。あんたがそんなじゃ、あの子泣くよ』
「うん。判ってる。判ってるけど……」
『あなたはあなたに出来ることをやってくれればそれでいい。お医者に出来ること以上が私達に出来るわけないんだから。私達は、あなたのこと、すごく、すごく感謝してるんだから』
 母親の言葉が沁みる。何か言いたいが涙が止められない。
 すると。
『エリカ!』
 電話の向こうの怒鳴り声。
『いつまで泣いてるの!由紀子は死んだわけじゃないんだよ!私達だって我慢してるんだから!いつまでも泣いてると怒るよ』
「!」
 エリアはハッとした。
 そう。一番泣きたいのは、多分ご両親。
 それでもお店の日常業務をこなしているご両親。笑顔でお客さんを迎え、生活を維持するために働いているご両親。
 
「信じることあきらめないこと、これが技術以前の治療の基本です」
 
 団体の代表は両親とエリアにそう言った。
 確かにその通りだ。エリアは頷いた。同意した。しかし、つけ込んでくるような不安を押し返すまでには至らなかった。そのまま迎えてしまった今日がこの結果だ。
 

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