« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »

2017年4月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-093-

←前へ次へ→

 

13

 

 天候に恵まれ応じた電力も得られ、機関復旧作業は順調に進んだ。船のエンジン自体、複数の冷凍機で絶対零度近くに保つのだが、その温度が目標に達すれば稼働可能と判断された。目標は午後4時だ。とはいえ摂氏200度以上温度を下げる。応じた時間が掛かる。
 自衛隊から急。子供だという。
『佐橋です。受け入れます』
 潮が引き、浜辺になった北側にヘリコプターを下ろしてもらう。
 担架に乗った男の子。
「ついでで申し訳ないんですが」
 大男二人が担架を船に運ぶ間、相原が砂浜の首塚について説明。手元の端末で動画を見せる。
「不当逮捕!差別!」
「やかましいわコソ泥どもが。殺されないだけありがたいと思え!」
 袋詰めのまま引き渡す。
「確実に警察に」
「よろしくお願いします」
 ヘリコプターが去って相原は船に戻る。
 操舵室に入り、レムリアの隣席で次々と機器を操作。画面を立ち上げ正面スクリーンの画像を入れ替え。
 耳の穴に通信機。
「ドクターシュレーターそろそろと思いますがどうでしょう」
『おお相原か。接続中だ。そこで取れる計測値を教えてくれ』
「GMサイクル1から4番運転電力、ヘリウム入出力温度、圧力、流速。いずれも管理値内。反水素ユニット内部温度2.8ケルビン維持。主加速コイル温度センサ160、100、78ケルビン」
『接続OKだ。しかしコイルは偏りがあるな。壊したか。回ってないだけか』
「どっちもあり得ますね。ただ、ハイドロならハーフカット駆動で十分かと」
『速力が確保できんぞ』
「どのみち出せませんから……ガレキや、ご遺体を傷つける」
『なるほど。コイル冷却配管とSC線の仕切りが出来るか?』
「やっておきます」
『それなら1時間繰り上げだ』
「了解。総員、主加速コイルを25パーセント出力で駆動する。最大速力は20ノット。3時には航行可能」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-107-

←前へ次へ→

 
 しかし。
「わ……」
 エリアは目を円くし、思わず声を出す。
 人相が変わってしまっているのである。むくんで膨れた顔。血の気のない肌の色。
 むくんでいるのは抗生物質の副作用。
 その時。
 計器がピーという無機的な電子音を発し、赤ランプを点滅させる。
 何が起こったか、訊くまでもなかった。
「吉井君」
 医師が一行を先導してきた看護師を呼ぶ。その傍ら、由紀子の腕を取って脈を見、次いで布団を取り、浴衣姿の由紀子の胸部に手のひらで触れる。
 呼吸と鼓動の確認。
「心肺停止」
「反応ありません」
 医師が言い、看護師が計器を見て続けた。
 医師は頷いた。
「電気」
「はい」
 その声に看護師がベッドの下から何やら取り出す。小型クッションと、そこから伸びたケーブル。
 電気ショック(除細動装置)の電極パッド。
 二つのパッドを浴衣の下へ入れ込んで肌に貼り付ける。更に付属ケーブルを伸ばし、心電図が表示されている装置に接続。
「完了しました」
 看護師が報告。
「了解。1回目」
 医師が喚呼し、装置の大きな赤ボタンを押す。
 ビーというブザー。
 電気が流れたのだろう。由紀子の身体が大きく跳ねるように動き、心電図の波形が大きく乱れる。
 しかし鼓動を示すリズミカルな波形には戻らない。
 看護師が手動ポンプを由紀子の口にあてがい人工呼吸。
「2回目」
 医師の声に看護師が少し離れる。
 再度ブザー。波形の乱れ。
 変化なし。
「……最後です。3回目」
 医師は目を閉じ、息を詰め、両手で、ボタンを押した。
 ブザー。
 そして波形の乱れ。
 由紀子の身体が跳ねて、止まる。
 ベッドの脇から腕が垂れる。
 垂れた腕から輸液管が抜け、液が床にポタポタ。
 波形。
 横一線。
 少しの時が流れた。
 医師は、再度呼吸と心拍を確かめ、次いでペンライトを取り出し、閉じられた瞼を開き、瞳を照らした。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-092-

←前へ次へ→

 

 彼女はその怯える目を一つずつ睥睨し、
「黙ってろ。お前らもこうするぞ……船長終わりました」
『了解。相原君、彼らは特定の国からの侵入とみられるが、こんななのか、彼らは』
「こんなですよ。カネのためには手段をいとわず良識や恥という概念は通用しません。うそつき、泥棒、乞食です。ウチの会社にも2倍で買うとか言って取引持ちかけて来ますが、こことのビジネスは外為法を盾に片っ端からお断りしてます。すると仕舞いに直接会社まで押しかけて脅してきます。ワタシ闇に通じますって教えてくれるんだからありがたい。だから殺せってんですよ。非常事態だどうせ捜査なんかされやせん」
 巨大な銃器を担いで「殺せ」と言い放つその男の瞳は冷酷であり、平和な国日本の男、自分を愛す穏和な男の姿では無かった。ただ、この銃器達は救助用であり、人体センサーによって“殺人”はできない。
 私は彼をそこまで変えたか……彼女が見ていると、冷酷な瞳は鈍く光るような笑みを刻んだ。
「ショックか?でも父親って家族のためなら殺すぜ。自分の家族と服役、どっちを選ぶよ」
「サムライ、か」
 大男ラングレヌスの指摘にレムリアはハッとした。
「それはどうでしょうか。ただ、お前はオレの女だ。やれることは皆やるさ。さてエンジン復活させるべ。発電機の燃料がそろそろヤバイ」
『相原それなら大丈夫だ。船のソーラから電力回してGM運転してる』
 これはシュレーター。
「了解。多分夕刻には動けるようになると思う。医師、警察か自衛隊と組んで近場で病院船が欲しそうなところを探すんだ」
 レムリアは相原をじっと見、途中で自分への指示だと気付いてハッと我に返った。
「は、はい」
「笑顔で行こうぜ」
 ニヤリと笑う。唇の端に含んだ強気は模した顔文字そのものである。
 そして理解する。日本が過去数千年、起きたであろう類例大災害を越えて国家国体を維持し続けていられる理由。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-091-

←前へ次へ→

 

『第1マストで蓋をしろ』
 船長指示で大男二人が銃を置いて動く。二人がかりでマストを抱きしめるようにして持ち上げ、帆膜の向きを変え、甲板柵の上から船外へ捨てるように投げる。マストは倒れるが、帆膜が風圧を受けるため、ゆっくりと傾く。すると、動きがもどかしいのか男達はその上に飛び込んで自分たちの体重を使って加速し、最後一陣の風を起こして帆膜を一帯にかぶせてしまう。
 薄いがそれなりの質量と“気圧”のため、並の人力で帆膜を持ち上げるのは難しい。押さえつけられた状態となり、人の形がもがいているのが判る。文字通り“一網打尽”である。
『7名を捕獲』
『遺体ザックに入れて首だけ出して埋めておけ』
 アルゴ号は救助が目的だが、当然、間に合わず、という場合はある。そうした時に備えて人体を包むザックを幾らか保有している。
 後は力任せの大男達の仕事。帆膜を縮めながら、出て来た順に袋を被せ、手足を拘束すれば何も出来ない。レーザガンを使って底を切り開き、頭だけ出す。
 帆膜の折りたたみが完了し、男6女1の砂に埋まった生首状態である。
 レムリアは首だけ女の前に立ちはだかった。異国語で何か喚くのを平手打ち。内容上は蹴り飛ばすに値したが。
 もっと怖いこと出来る。
〈全部追跡していると言ったはずだが?〉
 テレパスで叩き込んでやる。女は絶叫した。
 否発狂した。泣き喚き、首千切れるかと思うほど振り回し、地面に打ち付ける。砂地なので傷つくことは無いと思うが、繰り返せば砂が呼吸器に入って窒息しよう。
 それ以前にやかましい。
 大男に頼んで振り回す首っ玉拘束してもらい、額に手のひらを当てて失神させる。むち打ち症用のカラーをあてがい、今度こそ文字通りさらし首。
 男6は殺したと受け取ったようである。詰め込まれた袋の中で失禁している。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-106-

←前へ次へ→

 
 そして右へ左へ走ること30秒。“賃走”状態を解除。
「はいどうも」
 顔にしわの目立つ運転手は、車寄せに止めて言った。
「どうも」
 母親が機械的に金を払い、二人はタクシーを降りる。
 とはいえ周囲は当然真っ暗、無人。
 タクシーが転向して去り、少し離れた夜間出入り口の鉄ドアがキィと開いた。
 父親。
「急ぐんだ」
 急ぐ……その理由を、二人は絶対に聞こうとしない。
 小走りに父の元へ向かい、院内に入る。白い壁、白い蛍光灯、直角と直線の廊下の作り。文字と矢印だけの看板類。古く素っ気ないデザインは、こちらの建物が古い証。
 エレベーターを呼び、すぐにドアが開く。
「11階じゃ……」
 父親が8のボタンを押したのを見て、エリアが呟いた。
「違う。一般病棟に移った」
 父親が言う。でも、理由は言わない。
 言わないが、エリアには判る。
 それはすなわち。
 
“家族に会わせる”のに、ICUでは不向き。
 
 直面する現実に涙が溢れ出そうになる。背中が寒い。突如極北に放り出されたように背中が寒い。胴震いが出、歯が勝手にガチガチ鳴り出しそうになる。しかしエリアは歯を食いしばり、筋肉の勝手な動きを押さえつけようとする。それでも顎が動こうとするので両手で覆う。
 ご両親の方が、自分なんかより、もっと、ずっと、つらいはず。
 ううん、それよりも、由紀子ちゃん自身が。
 着床を告げるチンというチャイム。
 開くドア。待っている女性看護師。
 一行の顔を確認し、しかし何も言わず、ただ、会釈だけして足早に先導する。
 一番端の部屋。
 狭い部屋であり、中にはベッドがひとつだけ。心電図関係の計器があり、医師が傍らでそれをじっと見ている。
「どうぞ」
 医師のひとことで一行は室内に入る。ベッドの上に、いつもの眠りのように仰臥している由紀子。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-090-

←前へ次へ→

 

「おい姉ちゃん凜々しいな!」
 恥ずかしいというか、こんなもの扱い慣れてしまった自分はそれでいいのか看護師。
 それ以上に扱い慣れの域に達した日本のサラリーマン相原学。そうさせたのは、自分。
 だが、そんなのは後でいい。
『モードチェンジ』
 船長の声でイヤホンにピン、及び合成音声“FCS移譲”。
 銃器持つそれぞれが完了の喚呼とピン。FCS:Fire Control System。
『トリガせよ。以下、私が御する』
 船長は言ってみれば“電波で会話できる人間”である。
 現象としては以下となった。漁船が陸に上がり、“警官”たちが降り、本当の警官ではあり得ない“いきなり拳銃を手にする”状態になったと同時に、プラズマが発射(レムリアが持っているが、支えているだけで、トリガは船長の“思念”)される。火の玉が尾を引いて走り、漁船のエンジン部分を破壊。燃料が爆発し、きのこ雲が立ち上る。
 逃げる手段を断ち、“警官”たちが驚いて振り返った数瞬、不可視のX線とブルーのレーザが駆け巡り、各々手にした拳銃がドロドロに溶解。
『レムリア催眠。穴を見せるな』
「はい」
 レムリアが催眠術を使ったのはこの瞬間である。プラズマで地面に大きな穴をうがつ。それを認識させない。なるほど、落ちてしまえば術の効き目などどうでも良い。
 “警官”集団は、燃える漁船と手指の熱さにパニックになったが、逃げる余裕は与えない。散り散りになる前に、レールガンのアルミ塊を爆弾さながら周囲でドンドンと派手に破裂させ、盛大な土煙。
 避けるように逃げれば、追い立てられれば、プラズマがこさえた穴の中。
 パニックになっているので術はすぐ解け、中でもがく。ただし、もがけば周囲の砂が崩れて自らが埋まるだけ。
 ちなみにプラズマが穿った穴は井戸のように狭く、深い。落ちれば這い上がることはまず困難である。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-089-

←前へ次へ→

 

 だから、この女追い出すにも催眠よりは恐怖心を与えたつもりだったのだが。
 すると。
『数分も効けば充分だ。目の前の穴さえ感じなければいいんだ』
 それなら。
「わかりました」
 レムリアは頷いてピンを送った。
 すぐに船長から全員へピン。
『乗船者を操舵室へ案内し施錠せよ。銃器は甲板に据え、固定トリガで船の迎撃システムに任せろ』
「了解」
 船の内外にいた人々を避難させるのはわけもなかった。武装した強盗団が来る。の一言で足りた。パニックにならず、サッと順序よくスムーズに動いてくれるのは国民性か。
「おら達も手伝うか?」
 漁師だという男性が一言。
「いえ、今回の相手は銃器です。我々にお任せを」
 14の娘が背よりもデカい機体をガチャンコ言わせて答えるセリフかどうかはさておき。電源オン、使用者認証、視線照準同期中……。
「そう言うとは思ったけどよ。おめえさんたち、ずっとここにおられるわけじゃあるめ?おら達はおら達自身で守るよ」
 だから、今後に備えて相手を見ておきたい。見張りの位置検討や死角の洗い出しも必要。とのこと。
 聞いていたであろう船長からピン。
『拳銃弾くらいなら手持ちで避けられるだろう。レムリア、案内を』
「わかりました」
 武器庫にあった取っ手の付いた透明アクリルの盾を持ってもらい、甲板へ。
「おお、このプラスチックで防弾かい?」
「映画みてえだな」
「撃たれます。あちら向きにして背を低く」
「おお、すまん」
 その間に乗組員は銃器を並べる。船首にFELとプラズマ、レーザ、レールガン。いずれも甲板柵上に並ぶ柱の頂部、一見すると意匠の一部に見える球体が銃座になるので、そこに銃底をドッカとはめ込み、手先を添えて支えるだけ。
 質量のあるFELとレールガンは大男二人が、レーザは相原が、プラズマはレムリアがトリガを持った。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-105-

←前へ次へ→

 
 再び走り出す。堤防を駆け上がり、ドアの開いたタクシーの後席に身を折り曲げ座り込む。
「すいません道草しちゃって」
「何してたの?」
 少しきつい調子の母親の声。
 運転手が出発の可否を尋ね、母親が車を出すよう依頼する。
 車が走り出す。
「あの子が自殺しようとしたから止めてた」
 エリアは弾む息を落ち着かせながら、それだけ言った。
「え?」
「線路に立ってて電車が来て……どうにかなった」
 母親はまばたきを止め、しばらくの間エリアを見た。
“まただ”、母親がそんな感慨を抱いていることがエリアには判る。
 しかし、しかし今は、そんなことはどうでも良い。
「あの……それで……」
 エリアは意識を切り替え、恐る恐る訊いた。
「危ないらしいのよ」
 母親はボソッと事実だけを述べた。
 エリアはまぶたがピクリと震えた。全身の血が止まるような……これは、恐怖か。
「え……」
「一度心臓が止まったって……頭の中で出血して、血小板って組織をどんどん入れてるんだけど、そのHLAの絡みでうまく働かず、出血が止まらないと。手術するにも脳の下の方で、この首に近いところですごく難しいんだって」
 母親は自分のうなじの辺りを示した。脳底部、である。
 エリアは言葉が見つからない。
 可能であれば非難と糾弾を何者かに浴びせかけたい。抱えた病気の重さに加え、この事態、急坂を転げ落ちるような変化の加速度は何なのだ。
 入院したのはほんの昨日。それから今まで、わずかに一昼夜。
 48時間前。私は確かに彼女とトランプで遊んでいた!
 それが……それが……。
 なぜ?
 なぜ!!
 その後そのまま、二人とも何も言葉を発しない。ただ、タクシーは運転手の手慣れた操作で夜の街を病院へと向かう。
 夜間入場ゲートへ回る。入口の警備員に説明し中へ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-088-

←前へ次へ→

 

 知っていてまた来る?その意図は?
 テレパシーが感じているのは……憎悪……勝利……。
「学!」
『ウチの警戒監視衛星って奴が見てるよ。そっちにデータ送り込んでるから、船内メインに出せ』
 相原の指示は操舵室の大スクリーンのことであるが、保持ユニットの液晶モニタにも同じ画面が出た。
 衛星から超望遠で捕らえた船。乗っている制服多数。
「警官?」
『どこにサンマ漁船に乗って集団で来る警官がいるよ。アルゴ号が一時避難所状態なのは自衛隊経由で周知済みだ。無線持ってりゃ判る』
 相原の言葉より程なく、船の形状認識システムが多数の拳銃を検出する。
『死んだ警官から制服拳銃奪って襲撃だよ……ぶっちゃけ言うぞ、泥棒女の組織の仕返しだ。この手の輩は息の根絶たないと仲間を呼んで仕返しを繰り返す』
 レムリアは納得し、頷いた。実際、大なり小なり災害に乗じて“死亡した警官・自衛官の携帯武器を簒奪しての武装化”は念頭に置いておくべきかも知れぬ。平和な国日本だからこそ、そういう発想は出てこないが、だからこそ付け入る隙となる。
『オレもそう思うぜ』
 アリスタルコスが言った。二人の導く結論はこう。殺せ。
「でも……」
 論理的・物理的解決にはそうなろうが、殺人は殺人である。レムリアは強い抵抗を覚えた。
 夫となる者を罪人にするのか。
『捕らえておけばいいでしょう』
 セレネ、天の一声。続いて、
『穴掘って落とせ。レムリア。自由に攻めさせるから催眠術で穴が見えないようにごまかせ。その間に我々で穴を掘る』
 船長の即断。
「はい……いえでも月齢が……」
 月齢……レムリアの特殊能力は月の満ち欠けに左右される。満月前後が非常に強いが、半月から程無い今はサッパリ。
 催眠術の場合、“術の効いている時間”として現れる。他に幾つかパラメータが指摘できるが、要するに今は数分が限界。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-087-

←前へ次へ→

 

 なお、クエンチ(quench) とは、超伝導状態維持不可能を意味する。大出力のレーザ装置であり、電気抵抗を抑えるために超伝導状態を使っているほか、装置の冷却のために液体ヘリウムの温度を要求する。その液体ヘリウム温度の保持時間が5分ということだ。
(※当初の:相原は過去この船に乗り組み、秋葉原での不時着に居合わせ、船を現在の勤務先に修理のため持ち込んだ。そのとき外したパーツ等に基づいて復原している)
「GMサイクルは生きてますか?」
 相原はBishamonとロゴされた台車を引っ張り出しながら尋ねた。
1_000000004260
(Bishamon・参考)

 

「止めてある。再起動して最終温度がヘリウムに達するまで半日はかかる。それまでこのユニットは……」
「持ちます。このまま突っ込んでハイドロのコイル動かしましょう。アルゴは遅くても動いて価値あり……レムリア、こっちはこっちでやっておくからいいぜ」
「え?あ、うん」
 レムリアは医師を待ちぼうけにさせていたと気づき、生命保持ユニットへ案内する。
 船の方々をレントゲンでチェック。心肺や内臓の機能を確認。傷のある方には破傷風の予防注射。
 カルテを起こす。
「船の皆さんは健康だ。なるほど。であれば、この船を病院船に使いたいな。あと、姫君は出来れば放射線技師の資格を取って欲しい」
 医師は言った。
「そのためにエンジンを復活させようとしてるみたいです。際してはお手伝い頂く形になるかと。あと、私は正式に日本に帰化しまして、必要な国内資格は取得の所存です」
 レムリアは応じた。
「帰化?本当かね?」
「ええ、甲板の冴えない男がやつがれ……あ、ちょっと失礼」
 イヤホンにピン。セレネ。
 切迫感
「はい、何か……」
『トレーサー001。こっちへ来ますよ』
 遺体や空き家から金品宝石を奪い、体内に隠していた異国の女である。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

天使のアルバイト-104-

←前へ次へ→

 
17
 
 呼び出し続ける携帯電話。
 だけどエリアは受けようとしない。
「あの……電話……」
 女の子が言う。エリアはポケットから、とりあえず出すだけは出した。
 表示されてる発信者は不動産屋。
 内容は判っている。病院に行っている由紀子の父から、待機していた母親に電話があり、母親がこちらに電話したのである。
 もちろん、“何かあった”以外の何ものでもない。
「……まさか!」
 女の子が気付いたようである。
 エリアは頷く。
 そして、諦めたように、通話のボタンを、押した。
「はい……」
『どうしたの?随分鳴らしたのに』
 性急な母親の声。極めてナーバスであることが判る。
「ごめんなさい」
『まあいいわ、あなた今どこ?』
「電車の橋のところ」
『由紀子と会ったところね。そこにいて。迎えに行くから』
「あの……由紀子ちゃん……」
『何も言わないで!……車の中で話す』
 質問を発しようとするエリアの言葉を、母親は強い調子で遮った。
 それはすなわち。
 訊かれたくないこと。
「判りました」
 エリアがそれだけ言うと、電話が切れた。
「あの……」
 女の子が心配そうにエリアを見る。
「私には何も出来ないかも知れない。でも、彼女のそばにいたい」
 エリアは女の子の目を見て言った。
 そう。たとえ電話がそれだとしても、目を背けようとは思わない。彼女の友達と自覚しているからこそ、きちんとそばにいてあげたい。
 友達だからこそ。
「生きるということは、とても素敵なことだよ」
 エリアは小さく笑って、女の子に言った。
 少しあり、路地の間からタクシーがゆっくり走り出て来た。
「エリカちゃん!」
 窓から母親が顔を出して手を振り、タクシーが止まる。
「じゃ!」
 エリアは女の子に手を振って走り出す。
「うん……あの、私……祈ってる!」
 女の子の声がエリアの背中に向けられた。
 エリアは一旦立ち止まり。
「ありがとう!」
 女の子にVサインで応じた。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-086-

←前へ次へ→

 

「陣中見舞いなんかじゃねーよ。アルゴ号自体の救援だい。ドクターシュレーター!」
 相原は左腕で息止まるほど強く彼女を抱え、無線をピンして操舵手の博士を呼んだ。相原も今やこの船の“船長代理”扱いであり、無線機は常時携帯している。
 その間に医師が自衛隊員に抱きかかえられて下ろされ、ヘリが飛び去る。別の病院へ行くという。
「左側に抗生物質やら何やら必要そうなの積んできた」
 相原はこれが組み立て式の倉庫であり、中に色々積み込んで持ってきた、と言った。
 レムリアは医師と共に倉庫左手のドアに向かう。一方、相原は操舵手かつ船の設計者、シュレーター博士の現れるのを待ち、倉庫のドアをレールから外した。
 右側。そこには轟々と唸る機械と、それらとパイプで接続された白い箱。周囲の空気が冷えたらしく、演歌のステージみたいに霧が流れる。
「反水素少し。前のバージョンに合わせたはず、です」
 相原は言った。
「おお」
 シュレーターは倉庫内機器類を見回し。
「初号のパーツか。なら行けそうだ。移設するには冷却装置から外して持って行けばいいが、何分持つ?」
「5分でレーザ発振機がクエンチします。外さずこのまま動かせると思いますが」
「重いじゃねぇか」
「ビシャモン持ってきてます」
 少し説明する。アルゴ号の主動力は光子ロケットである。強力な光を生成し、船尾のお碗型プレートに打ち付け、その圧力で前進する。これにより、地球の裏側まで6秒。宇宙空間では光速の99.975%という空想科学小説そのものの速力を有する。
 その燃料は“反物質”である。詳細は省くが、超伝導コイルで磁場を生成して閉じ込めたり、絶対零度近似の真空にレーザ光で原子1個ずつ保存などの方法で保管する。アルゴ号では当初水素の反物質である反水素(反陽子と陽電子のペアで構成)を使っていたが、保管電力が過大となるため、磁場で御せる陽電子だけに変更していた。相原が持ってきたのは当初仕様の反水素である。

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-085-

←前へ次へ→

 

『佐橋先生。“あんパンの騎士”です。当社でヘリを手配しました。可能であれば先生の病院でピックアップさせていただいて』
『それはありがたい』
 話は決まった。
 小一時間掛かるというので、その間を利用し改めて船内避難者の健康を確認し、名簿を起こす。再確認の意を込め乗船者34名。このうち子供は全員小学生で8名。ここに学習塾が“あった”ことによる。いずれも子供用携帯を持っており、最小限の親との安否確認は済み。
 ただ、ひとり発熱している子がいたので、熱冷ましを飲ませてベッドへ。死線をくぐり抜ける極限のストレスであり、体調を壊すのは変ではない。
 食事を取る。温かいご飯と味噌汁、焼きたらこ。今日この時間、この地域で、こんな充実した食を取れる贅沢はあるまい。
 今日は体力を要するだろう。しっかり食べる。腹が減っては……とは相原に何度も聞いた。ただ、液晶画面とボタンが並ぶアルゴ号の自席コンソールで味噌汁とは思わなかった。
 後片付けしていれば1時間などすぐ経つ。
「ヘリだ」
 プロペラの音がし、船長が言った。船の識別装置が陸上自衛隊だと言って寄越す。機体前後に2つのローターを備えた大型ヘリだ。
 無線のやりとりでは、スペースがないのでホバリングしてロープで荷と人を下ろすという。風よけを兼ねて乗船者皆さんには船内に入ってもらって。
 医師に会うべく風の舞う甲板に上がると、予想だにしなかった作業服姿の相原。及びプレハブ小屋のようなものが下ろされたところ。
「学……」
 張り詰めていたものが一気に解けて、思わず走り出ししがみつく。それなりに気を張り、最高度の緊張感で事に当たっていたと改めて思い知らされる。
「何で来たの?……力が抜けちゃう。頼っちゃう。だめだよ……」

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2017年3月 | トップページ | 2017年5月 »