天使のアルバイト-108-
双方の瞳へ光を当て、瞼を指先で閉じ、ライトを、消灯した。
「残念、です……」
医師は、落胆したように小さく告げた。
3人とも言葉が出ない。今、ひとつの命が終わったことを認識できない。自分たちの娘を、友を、失ったことを認識できない。
父親が、腰が抜けたようになり、床の上に座り込む。
「由紀子……」
母親がベッドの傍らに膝をつく。そして口元をわななかせながら我が子の顔をじっと覗き込む。
医師は何も言わない。ただ顔を伏せ、下唇を噛んでいるだけ。
「由紀子……ちゃん」
エリアは呼んだ。
「由紀子ちゃん。ね、嘘でしょ」
エリアは続けて呼ぶ。由紀子はそこに寝ている。人相は変わったけれど、泊まりっこしたときと同じ、静かな、優しげな顔で。
そして、呼べば彼女は起きた。
「由紀子ちゃん。由紀子ちゃんって。起きて由紀子ちゃん。私だよ。エリカだよ」
返事は、ない。
認識せざるを得ないのだろうか。
否定することは出来ないのだろうか。
時を戻す術はないのだろうか。
夢であるなら、誰かそうだと言って。
全身を覆う鳥肌。
母親が、泣き崩れてしまった。
由紀子の身体に顔を伏せ、聞いたことがないくらいに悲しげな声で泣き出してしまった。
もう、誰も事実を否定することは出来なかった。
由紀子ちゃんが、死んだ。
「いやあぁっ!!!」
次の瞬間、エリアは自らを砕け散らせるように叫んだ。
そしてその時、彼女は、何もかもを、自分の立場も、なぜここにいるのかも、忘れた。
ただ、何より大切な友を失った一人の女の子であり、超絶の力を有する一人の使者に戻った。
エリアは、仰臥する友の身体を抱きかかえに行った。
腕を伸ばし、腕を広げ、ありったけの全てで友の身体を抱きかかえに行った。
医師がそんな自分を止めようと腕を伸ばしたところまでは覚えている。
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