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2017年7月

アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-119-

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『落下衝撃注意!』
 ダクトは件の鉄骨が食い込んでいたようで、その辺の接続が外れた。結果、ダクトにぶら下がっていた状態だったユニットバスは、支える物がなくなり、底が抜けたように甲板へ落下した。
 大きな音と衝撃、振動。女性は転倒した。とっさに抱きかかえたがどこか打ったか。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
 弱い頷き。
 ならば連れ出すのみ。但し、今度は甲板に落ちたため、切り落とした部分は甲板によって塞がれている。
 ならば壁面をぐるり切って穴を開けるだけ。
『状況』
「無事です。続けます。意識ありますが低体温。直ちに病院へ。船の設備だけでは困難と思われます」
「私だ。外で待機している」
 医師の声が壁越しに直接聞こえた。レムリアはレーザー銃を連続照射とし、ファイバ部分を手に持ち、カッターナイフのように扱い、ユニットバス壁面に穴を開け、映画のように蹴破った。
 レーザガンを甲板に放り出し、女性の腕を肩に回して連れ出す。担架が据えてあるので女性の身体を横たえる。低体温も度が進むと温かい物をあてがう程度ではダメで、心臓への負担をリアルタイムで観察しながら血液・リンパを温めるという必要が出て来る。
「電話借りてるよ」
 医師は言うと、アリスタルコスと共に担架を持ち上げ、女性を保持ユニットに搬送しつつ、首筋に触れたり、眼前で指を鳴らす動作。ちなみに“借りている”のは彼女の衛星携帯電話なのだが、手に持っているわけではないので、PSCを用いているよう。
「……突然のお電話すいません。派遣医師の佐橋と申します。ハイポサーミアで対処をお願いしたいのですが……いえ機材だけで、施術は私が行います」
 保持ユニットに到着し、担架のままベッドに載せ、心電図、体温、毛布。

 

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「天使性」~天使のアルバイト・あとがき~

●あとがきの冒頭の能書き
 
1999年のクリスマス商戦。
東京駅八重洲口・大丸デパートでは、その販売促進ポスターに、きたのじゅんこさんの「遠い音色」という絵画作品を使っていました。要するに天使の絵なのですが、天使が売り上げアップに一役買ってるというわけで、「天使のアルバイト」と私個人は呼んだわけです。
「天使のアルバイト」
そのフレーズは即座に「本当に天使がアルバイトすることになったら?」という発想に結びつきました。
物語インスピレーションの到来です。すぐさま冒頭のシーンとストーリーの断片が幾つかイメージとして浮かび、制作に着手しました。こうして生まれたのが本作品「天使のアルバイト」(そのまんまやんか)です。当初流れのままにストーリーを追いかけ、とりあえず完結を見ましたが、スカスカで密度が薄い印象があり、いつか充実させたいと考えながら5年が経過、そこでようやく再度のインスピレーションを受けて手を入れ、科学的知見の最新化などを行い最終バージョンとしています。
 
●天使性
 
天使には神のそばに使え、神に近しい姿をするものもあれば、人に近似のものもあり、更には堕天使もいます。このことは少なくも、彼らが“人間型生命体”の仲間であり、しかし光と闇の狭間に存在している、とは共通項として書けるでしょう。すなわち人間にも同様の光と闇の揺らぎが存在し、それは否定するものではないことを示唆します。人は己の邪悪さに気づくと自己嫌悪を抱くことが、まま、ありますが、天使達の存在はその邪悪性を逃げる必要も、嫌う必要も、ないのだ、と教えてくれます。「ある」からあるのだし、「必要」だからあるのです。もし、邪悪さのかけらもない人間型生命体があるならば、その「人」は多分「人間くささ」もかけらもないことでしょう。そして、そんな人に守護する天使は必要ない。
あなたはあなたを見守る天使が、いた方が良いですか?それとも、必要ないですか?
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-118-

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 船長の声に答えると、緑色のレーザが出て、横一線の形状。プレゼンテーションでよく見る線状モードの如し。その位置を船長の指示に合わせ、若干上へ、右へ、時計回りに回せ。
『座標を設定した。ゴーグルは付けてるな?』
「しています」
『宇宙遮光モードにセットし、発砲する。指示あるまで動くな』
 ゴーグルをかぶると内側に文字が出る。発砲待機、宇宙遮光。ちなみに、宇宙では太陽の光が大気介さず届くため、非常に強力かつ目に悪い。このため、宇宙服は極めて濃いサングラスが内蔵されている。
『照準固定。極力動かすな。発砲まで3,2,1,0』
 向こうが見えなくなる。が、横一線と同じ位置が一瞬、バッと光ったのが判った。
 ごとん、と落ちる音がし、視界が開かれる。
 右肩あたり、目前に樹脂成形物が転がっており、切断面がどろりと溶けて煙をあげている。三角形のインゴットと化したユニットバスの一部である。
『標的の切断を確認。レムリア要救護者にアクセスせよ』
「はい」
 アタッチメントをベルトに引っかけ、そのまま仰向けで身を捩り、足で蹴って近づく。匍匐前進の腹と背が逆である。ユニットバスに手を掛け、中に頭を入れる。
 白すぎる肌は血行の低下を意味したが、目は意識の光持ってレムリアを見返した。
 和装の寝間着にはんてんを着た女性である。
 レムリアはゴーグルを外した。
「今お助けします」
 アタッチメントをずるずる引っ張ってレーザー銃を引き寄せ、中に持ち込む。
「船長レムリアです。ダクトを切断したく。引き続き照準および発砲願います」
『承知した。先端部の位置を目標に合わせよ』
 緑のラインに沿って切れることは判ったので、ラインを切断面に合わせる。
 自分が盾になって女性の視界を遮り、女性を束縛しているダクトパイプを上下2カ所で切り、落とす。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-117-

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 光ファイバの故にぐにゃぐにゃ曲げて設置できる。これを自分が持ち込め。
『レムリアに持たせろと?何度になると思ってんだ?』
 切断・焼き切るエネルギを持った光束である。光ファイバは反射を繰り返して光を送るが、多少の損失は発生する。それは熱になり、応じて温度が上がる。
「耐熱服を着ています。多少なら……」
 レムリアの物言いに相原の定量的な言葉が被さる。
「レールガンの先端は真空断熱構造になっている。1ブロックを外してそれぞれ両手に持って、それでファイバを挟んで保持。10秒15秒耐えればいい」
 レールガン。電磁射出だが、その銃口はジュール熱で1000度を超える高温になる。応じた断熱構造。そして電磁気力であることを生かし、弾道を変えて照準修正が出来るよう、多少だが先端が動く。更に、弾道に弾丸材料のアルミが溶けて溜まるため、メンテナンス用に外すことも出来る。それを使う。
『判った。言う通りにするぞ。オレは知らんからな』
 レムリアが一旦這い出すと、ラングレヌスが立っており、レーザ用の遮光ゴーグル、穴の開いた金属の塊、とぐろに巻かれた黒い蛇状の物体を渡された。金属の塊はレールガン先端部であり、とぐろは石英ガラスの光ファイバである。金属塊をタマゴ割るように二割し、出来た凹部にキラキラ輝くファイバの先端部を挟む。
 これを胸に抱いてとぐろを伸ばしながら、再び狭いところをユニット構造トイレットまで進む。先端をトイレ下端部へ向け、とぐろの反対を銃口にセットしてもらえれば、光ファイバの見ている画像が操舵室に投影される。
 イヤホンにピン。
『ファイバアタッチメントからの画像を確認。船体レーダの画像と照合、補正完了。予備スキャンを行う。左右に広がるビームが出るから私の指示に合わせて動かせ』
「はい」

 

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天使のアルバイト-119-終

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 しかし、その追放が、自分にあった“甘え”のよりどころを取り払うこととなり、自分の裡に秘められていたもの……個性の範疇に属する超絶レベルの力があることを、顕在化させた。

 

「それからですね」

 

 リテシアが苛立った声で続ける。

 

「あ、はい」

 

「あなたの申し出のことです」

 

「申し出……ですか?」

 

 エリアは首を傾げた。気がついたらここにいたので、リテシア様に何か言った記憶はないが。

 

「『常にそばにいる』のでしょう?『ずっと一緒』なのでしょう?」

 

 エリアは目を見張った。確かに、それは、可能であればお願いしようと……え?

 

 聞き届けて下さると?

 

「承認します。彼女が生き延びたのはあなたの責任、彼女の担当はもういませんからね。仕方ありません。今後、彼女の担当はあなたとします」

 

 エリアは思わず笑みを作った。

 

 由紀子ちゃん!

 

 由紀子ちゃん。また、あなたのそばにいられるよ!

 

「本当……ですか?」

 

「そうする、と宣言してきたではないですか。自分で反故にするのですか?天使族の沽券に関わりますよ?」

 

「いえそのようなつもりは……申し訳ありません。でも、ありがとうございます。というかその……」

 

 お詫びと感謝を一度に伝える言葉ってないものか。

 

 リテシアは笑みを浮かべた。

 

「いいのですよ。その代わり、彼女の今後の人生は全くの白紙です。全て彼女が作り上げ、あなたがそれをサポートするのです。人ひとりの人生。大変ですよ。よろしいですか?」

 

「はい!」

 

 エリアは元気良く頷いた。

 

 リテシアがくすっと笑う。

 

「どうかなさいました?」

 

「しかしすっかり板に付きましたね。そのスーパーの制服姿」

 

「そうですか?」

 

 エリアは、ちょっと照れた。

 

 そう。母親も言ったが、彼女は病室から直接ここへ転移したため、スーパーの制服を着たままなのだ。

 

 その後、“シンデレラ服”が再支給されたが、彼女は結局、制服のままで過ごした。

 

 天に地の服、地に天の服。

 

 

 

 あなたには、レジ打ち娘の姿をした、天使が見えますか?

 

 

 

天使のアルバイト/終

 

 

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-116-

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『中の方はどうしておられる』
「判りません。声を出せる状態ではありません」
『SAR』
 船長が指示し、タブレット液晶に表示が出る。甲板上物体へのレーダ探査であり、詳細に見て取れる。
 ユニット構造のトイレであった。
 天井換気扇と、そこから繋がる排気ダクトが上からの力で押し込まれ、床面近くまでダクトが突き刺さっていた。そのダクトと壁の間に人体が挟まれている。何時間経過しているのか、洋式便器の上に立っている状態。
 それは苦痛であろう。しかし見方を変えると、一体型の狭い空間とダクトの故に強度が保たれ、生存空間が確保され、ダクト経由で空気の供給が持続し、生き延びた。このことは、例えば家一軒の耐震補強はムリであっても、就寝空間やリビングの一部などにそうした構造を取り入れ、サバイバルゾーンとする方法が有効であることを示唆しよう。
『要救護者の対角線上を斜めに切り取れ。そこに力学的負担は掛かっていない』
 船長の指示。ユニットバスを四角形で表現するなら、要救護者はその右上隅に形。
 対する左下を斜めに切り取って救助空間を作る。この狭い空間でそれをやるのは?
「レーザーを下さい!」
 レムリアは言った。光の刃で切り落とす。
『入らねぇぞ』
 アリスタルコスの指摘。
「私が入って撃ちます」
『そうじゃねぇ。銃がデカい』
「ファイバアタッチメントを使え」
 相原が言った。知らない名前にタブを見るととぐろを巻いた蛇のような機器。見たことがないが、相原は船のマニュアルを事細かに読んでおり、本来乗組員である自分よりも情報量が多い。
 何に使うのか。彼の意識をテレパスでスキャン。
 蛇のようなものは光ファイバの束。レーザガンの銃口に光ファイバの束を取り付け、直接届かないところへビームを送り届けるアタッチメント。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-115-

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 ただ、貫通はしていない。
「甘かったか」
 相原が歯がみする。そこでアリスタルコスがFELの銃口を再度振り向け、マシンガンモードで発砲。
「もう一度やりゃいいだろ」
『作業を繰り返せ』
 船長の指示を得て、レーザによる穴開けと火の玉によるくりぬきを連続的に実施する。
 プラズマ3回目で火の玉が向こう側に抜け、木の幹に空洞が生成された。
「作業完了」
『本船を沈降させる。貴殿ら……』
「適当にどいておくよ」
 男三人は浮遊してきた漁船に移った。その間に船は一旦水面下に沈み、再び浮上してきた時には、マストを家屋二階に貫通させ、吊り下げた状態。
 ザァザァと家屋から水が流れ出、鉄骨に串刺しされた一階部分が姿を見せる。本当に生存者がいるのかと思う。
 家の中からラブが出て来た。びしょ濡れの身体をぶるぶる振って水滴を飛ばす。レムリアは甲板へ出て来てラブから情報を受け取った。
「トイレのようです。様子を見てきます」
 レムリアは言い、家屋の下で仰向けになると、ラブを先に行かせ、後から小柄を利して入り込んだ。基礎や骨組みをジャングルジムのようにかいくぐってラブについて行く。
 少し空間があり、凹んだトイレドアパネル。
 ユニット式のトイレの上にはその鉄骨。重みでドアが上から押さえ込まれて開かない。逆に言えばそれゆえ気密性が保たれ、水の浸入が防止された。排気管が伸びており、空気自体はここを介して確保できたか。
「救助隊です。声が聞こえますか?」
 僅かな声と、ツメで引っ掻くような音。リズムを刻んでおり、人の手による音。
「今助けます。もう少し頑張って下さい……操舵室及びファランクス。映像見えてると思います。どうしましょう。ムリにドアを開ければ重みが一気にという気がしますが」
『底を抜け』
 船長の意志は明白だった。後は方法。中に人がいる。綺麗に底をどうやって抜くのか。

 

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天使のアルバイト-118-

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「戻って参りました」
「戻したんです。あの姿のまま、人間世界にいることは許されません」
 呆れを含んだ声音で、リテシアは言った。
 日頃の厳かさからは想像も付かない“人間くさい”トーンであり言い回しである。エリアは思わず目を瞠った。
「はあ。申し訳ありません……」
「謝る必要はありません。わたくしが力不足だっただけです。全く……まさかと思いました。あなたは、いえ、あなたに隠されたものを引き出してしまった、ようやく出てきたと言うところでしょうか」
 少々苛立っているような、悔しがっているような言葉。
「あの……?」
 エリアは首を傾げた。
 隠された?ようやく出て来た?
 自分に何か変わったという自覚はない。またやり過ぎて今度は連れ戻された。
「判りませんか?」
「はい」
「では教えましょう。ひとつ、あなたの素質は通常のカリキュラムで見いだせるものではなかった。わたくしどもも型にはまったカリキュラムにこだわりすぎて、直接知覚する努力を怠った。もうひとつ、わたくしの能力が不足しており、恐らくは、彼女……由紀子ちゃんを救いたいというあなたの気持ちが、わたくしの封印も破ってしまった」
「え……」
 エリアは驚いて息を呑んだ。
 リテシアと自分の、いわゆる“超能力”の差は厳然たるもので、同じ土俵で比較する必要すらないほどという認識。
「あなたの彼女に対する友情、或いは命への強い気持ちは、上位の方々へ聞き届けられ、上位の方々が手をさしのべて下さるレベルだった、ということです」
 リテシアは“観念した”そんな気持ちと共に言った。
 それが“思わぬ結果”“ひょうたんからコマ”的な認識であることをエリアは知る。超感覚が教えるところによれば、まず、自分は今回、本当に半分追放の形で地上に落とされた。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-114-

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「君のフィアンセ氏はいちいち突拍子もないことを思いつくようだな。会社では煙たがられるか、歓迎されるか、極端ではないかね?さておき名案だが、どうやってくり抜く」
 難題。レムリアは思った。しかし相原は一瞬の逡巡もない。
「入らないタッピングはまずキリで穴を開けますね。レーザで幾つか穴を開けて」
 そこで船長は唇の端に笑みを浮かべた。
「プラズマ撃ち込む、か。穴だらけならプラズマ数発でくり抜けるな。そこまで考えていたか」
「おっしゃる通り。マカロニを作るにはまずレンコンですよ。流木が水面上に出るまで上げて下さい」
「了解した。ラング、私の銃を持ってアリスと共にレーザ照射」
「アイ」
 大きな穴を開けるとき、沢山の小さな穴を開け、境目のもろくなった部分を折る・割るなどして穴同士を接続し、大きな穴にする方法がある。
 相原が提案したのはそれである。レムリアは舌を巻いた。そして気づいた時には、未来の夫はプラズマガンを背負って操舵室を後にしていた。
 命令が飛んで船が動き、甲板に家を載せ、そのまま少し海面上に押し上げる。帆柱が海面に顔を出す。
 一方男達は倒した帆柱の上に立ち、まず、大男二人がそれぞれ銃器でレーザ光線を照射。アリスタルコスの機体がレーザガンであり、出力最大の紫色を使って穴を開ける。
 一方ラングレヌスはひときわ長身の銃器を両腕で支えて差し向けている。FEL(Free Electron Laser:自由電子レーザ)マシンガンである。任意波長のレーザ光線を生成する。ここでは紫外線レーザを使用。FELは電波からガンマ線までまで作れるが、木材に穴を開けるという観点で高温貫通力を重視。
 2216個の穴が開いたとかで相原が火の玉を放つ。今度は最前のリングとは真逆で小型高温のエネルギの塊を作る。木の幹に撃ち込むと、燃焼と溶解の中間のような様相を示す。水分は湯気となり、部分的に発火して小さく炎を発し、そして焦げ臭い。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-113-

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 シュレーターが喚呼し、船が水中に潜り、応じて水面が画面を下から上へ動き、暗くなって照明が点灯。状況を映し出す。
 1階部分が水没した家屋。と、漂う……犬の亡骸。
 首輪にリード……逃げられなかったに相違ない。
「ああ」
 子供達も見てしまったが仕方有るまい。
「これマータだよ」
 落胆の声があった。ラブの犬友ということか。
「スキャン完了。内部はガレキが密集し取り除きながら到達の要あり。鉄骨2.7トンと推算。現有人力、ウィンチ力では対処困難」
 アリスタルコスが淡々と。
「甲板に家ごと載せて持ち上げろ。外から壊せ」
「水圧と浮力で保持されている部分もある。持ち上げると全荷重が1階部分に加わって崩壊の危険あり」
 シュレーターの指摘。
「帆柱2階に突っ込んで吊れ」
 相原が言った。船のコンピュータが動画に起こしてシミュレーション。しかし1階天井裏に刺さっている流木があり、これを抜かないと帆柱の耐荷重を超過し吊れない。そして、流木があるからこそ2階の荷重を受け止め、その底が抜けるのが抑止されている。
「何キロ落とせばいい。全部じゃないだろ。流木の端や真ん中切るなり燃やすなり出来るだろう」
「200キログラムだな。しかし家屋からはみ出ている部分を切り落としても70キロ不足する」
「なら真ん中を切り落とせ」
「だから真ん中を切ったら折れて元も子もないぞ」
「言い方が悪かった。真ん中をくり抜け。マカロニみたいに」
「木の芯を抜くの?」
 レムリアはようやく合点が言った。“真ん中”の意味が違った。
 コンピュータでシミュレーション。幹の太さ平均47センチに対し15センチくり抜けば良い。
 これを見て船長が呆れたような、笑いとも取れるような、短いため息一つ。

 

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天使のアルバイト-117-

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 医師は言い、心電図装置の電源を切った。
「後で最後にもう一度検査して、退院だ。片づけに来させるよ」
 医師と吉井看護師が部屋を出て行く、
 の、途中、医師は立ち止まって振り返った。
「彼女は、美しい翼を持っていたよ」
「え?」
 由紀子は首をかしげ、そして瞠目する。
「エリカ、見えるよエリカ、あなたの光の翼。いいえ、エリカじゃない、エリア……」
「あら、そういえば彼女、スーパーの制服着たまま行っちゃったんだ」
 母親は、笑った。
 
20
 
 懐かしいと言って良い雰囲気が彼女の周辺にあった。
 静かな部屋。ふかふかの絨毯による吸音。高い天井。
 重さを感じない自分。
 戻ったのだ。彼女は別れの寂しさと、帰郷の安堵が綯い交ぜになった複雑な気持ちで、そうした造作を視界に収めた。
 次いで自分を見回す。急ごしらえの肉体ではない。それは病院で光の塊と化していた“天上の身体”であるが、今は光ることもなく、普通の人体のような姿を見せている。
 それはここ……天界が、地上の人間世界と次元を異にすることを意味する。言うなれば“空間の圧力”が違う、と書けようか。水は気圧が高いと100度を超しても沸騰しないが、逆に気圧が低いと手で触れられる温度でも沸騰する。同様にここでは光の振る舞いが抑えられ、身体が人間同様に見える。しかし、人間世界では光を抑制するエネルギーが不足し、輝きを放ってしまうのである。
 気配が生じた。
 彼女はそれが誰か知り、ベッドを降り、片膝をふかふかの赤い絨毯に突いてしゃがみ、手を胸に当てて頭を下げた。
 音もなくドアが開く。
「エリアさん。顔を上げてください」
 言われて、エリアは恐る恐る顔を上げる。気配の主、物静かな感じの年上の女性がそこに立っている。
 守護天使リテシア。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-112-

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 相原は自らのゴーグルをラブの頭に乗せた。
「レムリア、これで行かせろ。……操舵室。船体を若干潜航。ワンコを送り込む」
 救助犬にカメラを抱かせるという発想。
「はい」
 レムリアは理解し、意思でラブに指示。載せられたものを落とさず、おばさんを探して。
『船体を1メートル30沈める。昇降扉および生命保持ユニット強制ロック。総員船外への移動を禁ずる。シュレーター』
『アイ』
 やりとりがあり、船がそのまま水面下へ沈むように甲板高さを下げて行く。甲板が水面近くになったところで、ラブが待ちきれないとばかりにジャンプ。
 ガレキを飛び歩く。2階建ての2階部分だけ水面に出ている。
〈水でいっぱいだよ〉
 ラブの思いを中継する。
「2階から下は水没の模様」
『SAR併用。生命反応位置との整合を試みよ』
 意味、ラブのゴーグルと船のレーダを使って探査を行え。レーダに人体らしき反応が出た場合、生命反応と照合。
『水面下1.2メートル。空間がある』
『生命反応一致』
『トイレと思われる』
『潜航する。総員船内に戻れ』
「了解。ラブ……」
 レムリアはラブを呼び戻そうとしたが。
『いや、戻さなくていい。ちょっと出かけると伝えろ。水面に残るのは彼だけだ。ゴーグルをウオッチしておきたい』
「判りました」
 レムリアはその旨伝え、甲板から船内に下がった。
 操舵室に戻る。今この大きなモニタに映る犬のカメラが全ての情報源。首を振って探しているらしく、大きな画面がぐらぐら動き、“酔い”を誘発しそうである。
「総員に告ぐ。光圧シールドが使えないため本船実力による潜航になる。万一に備え各居室は気密ロックを施す。室内から出ることを禁ずる。潜航モード。帆柱を船尾方向に倒せ。深度3.6メートル」
「帆柱は倒しました。潜航3.6メートルアイ」

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-111-

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 甲板に相原の声があり、帆膜が少し傾けられた。滑り台の様に滑って甲板に向かう。
 降り立とうとして足がまともに甲板を捉えず、相原に抱きかかえられる。
 気がつくと足が操り人形のそれのようにガクガク震えている。
 しがみつく。
「大丈夫か。ケガしたか」
「いいえ……腰が抜けただけ」
 自分に言い聞かせるように声を出し、身も心もようやく落ち着く。実際には後頭部とかコブだらけであろうが、耐環境ウェアを着ているせいか、キズは出来ていない。
 両の足で甲板を捉え、遺体袋から出てきた二人と対面。犬のラブも無事。
「お疲れ様でした。危険なことをさせてごめんね」
「平気だよ。姉ちゃんこそ大丈夫か?すっげぇぶっ飛ばされてたけど」
 晴人君が指さす。家屋は燃えてはいないが、家屋であると判る姿をしておらず、波間で白い煙を上げている。
『煙は化学反応による。火災の兆候と判断される高温領域無し』
「了解。……大丈夫、空を飛ぶのは慣れっこだから」
 レムリアは環境ウェアのフードを外し、笑って応じた。
 ラブがワンと吠える。
「どうした?」
『生存反応。方位224距離70メートル』

 

15

 

 但し微弱、と聞いた途端、傍らで相原がプラズマ銃を担ぎ上げた。
 両眼スコープを眼鏡の上に被せ、走って船首へ向かう。「当該方位へ回頭」と言い、やおら水面へプラズマを発砲し始める。
 発射された火の玉は水面近くで目映い光球に結実し、次の瞬間爆発音を発して湯煙とガレキが飛ぶ。
 水蒸気爆発を起こさせ、ガレキを除しているのだとレムリアは理解した。
 船行く道が作られる。
 男の力任せ強引そのもの。
〈誰かいる。知ってる人。マータのおばさん〉
 それはラブの認識。ラブは船首へ走って行き、相原は傍らにラブが来たと知り、発砲を停止。

 

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