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2017年8月

【理絵子の夜話】差出人不明-5-

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 文面も“伝えたいことがあるので会いに来て”という内容ではある。しかし文面以上にその気持ちが強いことが理絵子には判る。必死を通り越し、泣きながらの、命がけの、強い思い。そんな感じ。
 判ってしまう。
 理絵子には言葉を交わさずとも、文字にしなくても、心の中が直接判る不思議な能力が備わる。
 でも、誰にも言ったことはない。警戒されるに決まっているからである。そしてもちろん、恣意的にその能力を行使することはない。
 心の中を覗く趣味はない。
「……4丁目の踏切ってどこだっけ」
 理絵子は桜井優子に尋ねた。手紙の主は8時に、その踏切に来て欲しいと書いている。
「4丁目?……ああ、あれだろ。例の踏み切り」
「あそこ?」
 理絵子は眉をひそめた。
 その踏切を知らぬ者はこの町内に一人もいない。
 住宅街にあり、人通りが少なく、カーブ線路の終わりに位置する。
 周りに人目はなく、列車の運転士からも見づらい。
 
 自殺の名所。
 
「行くのかよ」
「これじゃ返事も出せないし……そういう場所ならなおのこと」
 理絵子は手紙をちょろっと見せた。
 本文にも差出人の名はない。
「引っかけじゃねぇの?てゆーか一種の脅迫だろ。来ないと飛び込む、みたいな。ひょっとするとそういう脅迫に見せかけて別の目的」
「ならいいんだけど」
 理絵子はため息をついて手紙をカバンにしまった。
 そういう“作戦”ならそうであると手紙から感じるはずである。しかしそうではない。
「しょーがねーな。お人よしというか優しすぎるというか……」
 と言う桜井優子の声をさえぎるように大型バイクのエンジン音。
 校門から中へ入って来るバイクが一台。ライダーはノーヘルメットの茶髪男。
「優子」
 ボーイフレンドである。
「あ、じゃぁな」
 桜井優子は一言残して走り出した。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-128-

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 が、その水しぶきは油分の多さ故に次々着火し、火の粉散らしたようになる。
 ピン2発。
『右方、焼損建造物接近』
『おう』
 ラングレヌスは水面上に顔と腕を出し、流れてきた木造の小屋と思しき焼けぼっくいをレーザで切断した。ガラガラと崩れ落ち、彼は埋まったが、布団の中から這い出るように押しのけて姿を現す。
 水面埋め尽くし炎を上げるガレキの上を歩いて行く。まるで火山の中を歩いているよう。
「大丈夫かぇ」
 漁師さん達には見えない。レムリアはほぼオレンジ一色のタブレットを向けて、
「はい。この炎の向こうに大型船が打ち上げられているようです。その船が盾になって炎から免れています。その代わり、私たちが中へ入ることも困難です」
 ラングレヌスからピン。
 同時に、タブレットに赤文字が流れた。
 生体反応。体温赤外線、筋電力のリズム。
 生きている人がいる。
『無茶を承知で言う。火を消せ。人手も欲しい』
 レムリアはその程度なら何とかなるかもと思った。この船の能力を持ってすれば。
 ただ、具体的な手段が……何か出来るはず。後はどうやって……。
 すると。
『帆膜を敷け。アリス行くぞ。相原、周辺を監視し炎の挙動を読み取れ。接近したら押し返せ』
 そうだ帆膜だ。船長に先に言われた。
『アイ』
『了解』
 アイと答えたのはアリスタルコスである。了解は相原。
 アリスタルコスと船長アルフォンススの大男2人がそれぞれ長銃を肩に甲板へ出て来た。
『準備良し。操舵室、帆膜を広げて振り下ろせ。コンテナを押し広げて移動線を確保』
『アイ』
 シュレーターの声があり、中央、第2マストが展帆しながらコンテナ船へ叩き付けるように振り下ろされた。さながら芭蕉扇だ。
 炎は一瞬、吹き払われた。が、空気中にオイルミストが充満しているようで、空気が着火する。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-127-

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『この向こうか』
『どうする』
『飛べれば……』
 男達の会話をちぎってピン2発。
『レーダスキャン完了。15メートル先コンテナ船座礁。その向こうに半壊家屋。家屋壁面温度107度』
『レムリア意識を探せ。家屋の中に誰かいないか』
 相原が言い、同時にタブレットに画像が出る。
 それは準天頂衛星が上空から捉えた現場。
 火に囲まれて孤立している。コンテナ船があるので家への類焼はかろうじて免れている。だが、火の付いたガレキが順次海側から流れ着きつつあり、放っておけば家屋に達する。
 壁面107度。中は?
「お住まいはまだ大丈夫のようです!」
 レムリアは漁船に聞こえるように状況を伝えた。
「本当かえ!」
「ヤツには身重の嫁さんがあんだ」
 慄然。タブレットが手から落ちるほど身体が震える。しかし現在ただいま、意識・思考の存在は感じない。それは……。
 否否失神しているだけかも知れない。なおレムリアは遠隔視は出来るが透視は出来ない。
 セレネさん、感じませんか?
 足音があり、甲板から炎の海へ歩き出す男一名。ラングレヌス。両手に銃。レーザにレールガン。
「おい、あんちゃんどうするんだ?」
「彼は防火服です大丈夫」
 レムリアはウソを付いた。環境ウェアの耐熱は500度くらい。彼は当然そこに頼ってなどおらず、己の不死身能力のみを信じて様子見を買って出たのである。
「向こうに行くのが面倒くせぇ。相原、どうにかしろ」
『レムリアと同じ要領で帆柱使って投げる』
 間髪入れず答え。中央マストが寝かされ、彼が先端まで歩き、マストがグイと動いて彼をコンテナ船の向こうへ放る。
 ピンがあり、彼の見ている景色がカメラ経由で送られてくる。船上のコンテナを溶かす800度の炎を越え、埋め尽くすガレキの中に盛大に落下し、水しぶきが上がる。

 

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【理絵子の夜話】差出人不明-4-

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 そして自分はそう、まじめぶった優等生で、いつも先生に優遇され……。
 その時。
 まただ。理絵子は自分の下駄箱に手を入れる前にそれと判じた。
「またかよ」
 眉を曇らせる理絵子を見て桜井優子がコメント。
「うん」
 理絵子は下駄箱のふたを開き、靴と共にそれを取り出した。
 封筒。有名な猫のキャラクターを使った可愛い封筒。“黒野理絵子様”……小さなピンクの字。それは“学校中の男子の憧れ”具体化の一形態。
 自分がこれのために妬まれていることは良く知っている。
 但しそれは理絵子の自意識ではない。周りがそう思っていると如実に判るのだ。目で見えるかのように、耳に聞こえるかのように。
 理絵子は声にならないため息をひとつすると、靴を履きながら封筒をひっくり返した。どこのクラスのどなたさん。
「ん?」
 思わず動作が止まる。
 差出人の名前がない。しかも……
「……なんだそれ。焦ってテメエの名前書くの忘れたんじゃねぇのか?」
 桜井優子が覗きこむ。
 理絵子は首をかしげる。違和感。この言い知れぬ違和感は何。
 何か違う。いつものこの手の手紙と違う。
 読まなきゃいけない。中を開かなきゃいけないという悲壮なまでの何かを感じる。
「おいおい開けちゃうのかよ」
 封を切り始めた理絵子に桜井優子が目を大きくする。
「気になることがあってね」
「お前得意の“勘”って奴か?最もお前の場合、勘通り越して殆どエスパーだけどな」
 桜井優子の言葉に、理絵子は一瞬手を止めたが、開封を再開した。
 理絵子には、まだこのクラス唯一の友達に言っていない、秘密がひとつある。
 それは。
 封筒から手紙を取り出す。封筒と揃いのお手紙セットであろう、同じ猫のキャラクターを使った便箋。
 感じる。悲壮なまでの“会いたい”という気持ち。会いに来てという切望。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-126-

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「おーい、嬢ちゃーん」
 聞き覚えのある声。
 確かにお世話になったおじさん達である。無事な姿に涙が出そう。
 だが、感傷は今はいい。
「皆さん良くご無事で!お怪我はありませんか!?」
「おお!嬢ちゃん!ありがとうなぁ。言った通り助けてくれてよ!」
 アルゴ号と漁船は隣接した。
「突然銃が溶けたから驚いちまったぜ、ありゃ何だ?」
 FELはラングレヌスが持っている。
「これです。映画みたいな奴と言うことで」
「そうかぁ」
 少し状況を聞く。乗ってきたその船は知り合いの方の船だという。
「これは方浜(かたはま)さんの船だ。あいつら取りやがったんだ」
 船首に立って周囲を見ていた“聞き覚えのある”男性が言った。名は市川(いちかわ)さん。賊は再三の外国人だったという。言葉遣いで判じたとのこと。
「これがあるってことは方浜さんになんかあったってこった。しかし……どこかわからねぇなこれじゃ」
 見回す湾内は地盤沈下に伴う浸水で海岸線が変わり、夥しい数の家屋や車両の残骸が浮いて流れている。
 タブレットで地図を出したら「家はこの辺なんだが」と指を差された。
 その“座標”に目を向けると、津波に襲われ、現在は火の手の中のようだ。海水で消そうにも逆効果なのは、黒くギラギラした油膜が教えてくれる。
「行こみゃあ」
 相原がぼそっと言った。それは唐突な名古屋弁であり不謹慎にも感じたが。
「ここで考えても仕方ない。その間にも時間が過ぎる。まず現場主義だ。名古屋のロケットメーカーがよく言ってた。行くぞ。あさひ丸さんは牽引します。燃料の節約もあるし、多分我々の方が早いかと。これを」
 ロープを出して船を引っ張る。海岸まで1.1海里。相原が準天頂衛星の画像を拾うと言って操舵室へ戻る。
 火災のエリアに近づき輻射熱が痛い。そこは海というより漂う炎の一帯である。ガレキが入り込めば炎があっという間にそれを包むのであろう。だが今は、炎の中に燃えさかる建造物など見えず、ただ海面を火が覆ってうごめいている。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-125-

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 バウンドし、再度飛び上がる……瞬間に強い腕が伸びて来、彼女の身体は動きを止めた。
 細身に巻き付く筋肉質の腕はラングレヌス。
「良くやった」
 彼はそれだけ言うと、彼女を“お姫様抱っこ”で引き上げ、甲板に下ろし、立たせた。
「レムリアは確保。マスト復位許可」
 了解の旨ピンが来る。程なくマストが動き出し、帆膜を縮めながら元のように立ち位置。
 何事かと見ていた街の人たちから拍手が沸く。そしてめいめい、そもそもの目的地へ向かって歩き出す。
 相原が言う。
『準天頂の画像を見る限り黒ずくめは拘束された。島の皆さんは、黒ずくめが乗って来た船に乗った。すぐ操作できるらしい。あ、モールス入電。“あさひ丸”号より謝礼。お嬢さんありがとう。合流し救助活動参画を許可願う……船長どうしましょう』
『許可する。状況に基づき本船と役割分担して救助継続せよ』
『承知しました。アルゴトランスレーショントゥモールス。あさひ丸……こちら先ほどのメガネ男。救助参画歓迎なるも、現状、要救護者は海上漂流、陸上倒壊建造物内、ガレキに巻き込まれた、等が対象と考えられる。我らは共に船舶であるから、海上漂流者を共同で捜索いただければ妥当と考えるがいかがか』
 相原の声を聞きながら操舵室に戻る。そこでレムリアには一つの迷いがあった。
 この船は救命装置を持っている。このままこの地で臨時の病院にも出来る。
 否。
 動けるなら、動く病院。そしてこの災害の主体は津波、すなわち水。
 レムリアはピンを打って割り込む。
「私も学の提案に賛成です。地の利ある方と共に捜索し、必要に応じ我々の救助救命リソースを投入できれば良いかと」
『共同で海上・海中の捜索に当たれ』
「了解」
 レムリアの言葉はアルゴ号の総意となった。ただちに川を下り、気仙沼湾に戻る。一方島の方からは漂い燃えるガレキを右に左に躱しながら、こちらへ向かってくる漁船。

 

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【理絵子の夜話】差出人不明-3-

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「ババア何か言ってた?」
「出席が、って。他のクラスの個人情報をよくご存じのようで」
「足りないか。しょーがねーな」
 二人は下駄箱へ歩く。
 部活上がりの同級生たちから奇異の目。
 理絵子はそうした視線を受けるたびに、この少女が外見からは判らぬ傷を心にひとつずつ増やして行くのを良く知っている。
 同学年だが1つ年上。外見はいわゆる不良。でも少女は少女であり、薄いクリスタルガラスのような心の持ち主であることに何ら変わりはない。
「面倒ばっかり悪いな。ったく、ババアもこっちに直接言えばいいのによ。口ではえらそうなこと言って。オレってそんなに怖いか?」
「大人が気にするのはまず外見と世間体。自分なんかその典型的被害者」
 理絵子は言うと、スタンダードなままのセーラー服を広げて見せた。
 もちろん、化粧はおろか装飾品の類は一切身につけていない。かばんも学生用の黒い革かばんそのままである。
「あたくしもミニにした方がカワイイかしら、とか思うんだけど、親の仕事があれだから、『示しが付かないことしてくれるな』ってね。しょうがいなから髪の毛だけ違反ギリギリにしてる」
 それは伸ばしてりぼん、の部分。校則では髪を肩より伸ばす場合は“三つ編み”である。聞けば昭和40年代からだとかで、当然、ブーイングの嵐。
 桜井優子はフッと笑って、
「お前ってホント面白いな。しかし警官の娘が不良のお守ってのもなんだかな」
「自分が名前で呼ぶのは優子だけだよ」
 理絵子は笑って応じた。
 楽しい。この少女とお喋りするのが本当に楽しいと思う。そして、恐らくはここまで通じ合えるのは、クラスの中で二人の立場が似たようなものだからだという気がする。
 この少女はその外見と“同学年だけど年上”であるが故にみんなから距離を置かれている。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-124-

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 体が軽くなる。上へ向かう速度が落ちて来、“てっぺん”に達しようとしている。
 彼女は超絶の銃に力を込める。20キロを持ち上げるのではなく、向きを変えるだけ。
 更に言うと、この銃は人工衛星と同じ姿勢把握制御システムを内在しており、“だいたい”の方向に向けさえすれば、自分で適当に首を振り、向きを保ち、照準に任意波長のレーザを撃ち込む。
 12キロ彼方の標的に選んだのはX線レーザ。レントゲン撮影に用いる放射線のレーザである。
 銃を構える。銃自身が、上昇から静止し、落下に転ずる動きに合わせて、銃口を引き上げる。
 銃身と、銃自体のスコープと、自分のゴーグルとが一直線を成す。
 ロックオン。
 引き金を引く。銃が自ら左から右へ銃口を振り動かす。自分は手首に加わるその反力を、モーメントを相殺する。
 6名14の照準ポイントへ向かい、ほぼ一瞬で不可視のエネルギが投じられる。
 14の照準ポイントで次々火の玉が生じたり発煙したり。
 黒ずくめの者どもが、各々の得物の異変に気付く。
 しかし、彼女は者どもに続くアクションを許さない。
 ビームモード、メーザ。すなわちレーザと同じ性質を備えた電波。
 それを用い、今度は右から左へ銃を動かす。
 黒ずくめそれぞれ所有の携帯電話、クルマの電波鍵等の電子機器が煙を噴いてポンコツになる。警棒もアルミ合金製ゆえにメーザを受ければ灼熱化。
 島のおじさん達が者どもを襲った変化に気付き、逆襲に転じる。及び、自分の役目は終わった。
 落下に遷移する身体を、そのまま万有引力に任せる、大の字に手足を広げ、超銃を手から放す。
 轟と音を立てて我が身は落下し、柔軟でしなやかな膜に受け止められた。
 一旦沈み込み、膜が反発して跳ね返り、再度飛び上がる。風が吹き、風が止まり、逆方向の風になって再度膜に落下する。

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-123-

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 レムリアは言い、ゴーグルを目の位置にセットした。銃把のスイッチをスライドし、ゴーグルの裏に文字列が走って協調完了。相原が舷側に退き、自身の活動服の腰ベルトをワイヤーフックで柵に接続。
 相原は頷いた。
「行くぞ」
「はい」
「操舵室。甲板準備良し。第1マストを船首外へ伸展と共に船体アップトリム90度。マスト先端見張り台の水平座標を維持せよ。真下から突き上げる。見張り台位置加速度3G。カウント3から」
『指示内容確認ヨシ。水平維持制御につき船体コンピュータ理解。カウント始める。3、2、1、アップトリム90度マスト船外回転。見張り台水平のまま加速度3G』
 船体はハイドロクローラを用いて周囲に風圧を生じ、先端を天へ向け起こした。
 一気の噴流であり、応じて至近の落雷のような重く大きな音がし、風が猛と起こって周囲に吹き広がった。
 彼女は風となって真っ直ぐ天へ向け持ち上げられた。轟と音がし、我が身が空気切り裂いて“打ち上げられる”ことを実感する。
 大きなステップラ(ホチキス)を開くように、船体とマストは口を開け、“く”の字から一本線となり、先端にいる彼女を中空へ打ち上げた。
 足が見張り台を離れ、風の中でみるみる視界が広がり、そしてお世話になった島の、山向こうが目に入る。
 ゴーグルは瞳の凝視を捉えると銃器と相互通信し、索敵(さくてき)照準モードに入る。
 超常の視覚すらも船体のシステムが把握することは過去に経験済み。脳波を読むらしい。
 12キロ向こうの現象を彼女の千里眼は捉えた。
 砂浜に乗り付けられた漁船と、降り立つ複数の黒ずくめ。
 超常の視力は捉える。彼らの手に警察官のものと見られる拳銃や警棒があるのを。
 照準システムが反応し、それら得物に四角いマークが付いて追尾が始まり。

 

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【理絵子の夜話】差出人不明-2-

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「すいません。数学で判らないことがあって二人で唸ってました」
 理絵子は立ち止まって答えた。その一方で左手を小さく振り、クラスメートに“行って行って”。
「じゃあお先に」
 クラスメートがそそくさとその場を離れる。
「あ!……もう、数学なら佐久間(さくま)先生にお尋ねになれば」
 志村教諭は小走りで去る女生徒の姿を、階段まで目で追いながら尋ねた。
「彼女は塾なんです。ええ、おっしゃる通り、先生にお伺いしたいのは山々ですけど、手取り足取り聞いてしまっては自分で考えたことになりませんし、考えて答えを出さないと身につきません」
 理絵子は真顔で言った。
 すると、志村教諭は“負けました”と言わんばかりのちょっとあきれた顔。
 理絵子が自分をうまく言いくるめたと自覚しているのだ。
「なるほど、ね。あ、そうだ。あなたのクラスの桜井優子(さくらいゆうこ)、さっき屋上にいたわ。何が“見舞い”よ。ったくウソばっかり」
 この言葉の通り志村は理絵子の担任ではない。見回りで通りがかったのである。
「あら、そうでしたか。でも私はそう聞きました。それに、彼女のお父様が病気なのは本当ですよ」
「それは判るけど……言っておいて。出席時間危ないって。このままじゃ、また」
 担任ではないが、そうした“懸念行動”は把握している。
「判りました」
 理絵子は答えると、志村教諭に一礼し、教室を後にした。
 階段を降り、1階昇降口に出ると、その桜井優子がいる。
 年齢不相応に濃い化粧をした少女であり、セーラーは襟元を改造、スカートはひざの上までで、ぺちゃんこのかばんを背負い、靴はかかとを潰したスニーカー。
「よぉ」
 男のように喉をつぶした低い声で理絵子に話し掛け、ガム風船をぷかり。
「やっと帰るよ」
 理絵子は立ち止まって笑顔で応じた。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-122-

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 レムリアの作戦イメージ。マストを倒して前方に突き出させ、そこに自分が立ち、船体を90度起こし、その勢いで空中に放り出してもらう。
 さっき自分は“飛んだ”。だからこその発想であり、だからこそ怖くない。
 一番軽い自分なら、一番重い銃を持っても、最も高く飛び上がれる。
『了解した。船長許可を。但し、直上突き上げとしたいのでマストは内側へ』
『許可する』
 相原とアルフォンススのやりとりがあり、果たして船に駆け戻ると、超銃器FELを手にして相原が甲板に立っていた。大男らと同様、ウェットスーツ似の船外活動服を着ている。
 マスト最上部は見張り台になっている。それが眼前に下ろされている。
「君のイメージは遠くへ投げる動作だ。高く飛ばすには下から突き上げる」
 相原は砲丸投げのフォームで、しかし腕を真上に突き上げた。
 折りたたまれた腕を真上に真っ直ぐ伸ばす動作。
 マストは甲板側へ畳まれているが、これを180度反対側、船から船首方へはみ出す方向へ回転させつつ、船首を直立まで起こす。この際、見張り台は位置はこのまま、下から上へ動くように制御する。砲丸投げのフォームで言うなら、肩から肘までは船体の立ち上がり、そして肘から手首まではマストの役目。
 レムリアは見張り台に乗り、相原から質量20キロの粒子加速器を受け取る。
 そのままでは重くてとても取り回せないが。
「銃口を下にして、台の上に立てて。君は倒れないよう支えるだけでいい。打ち上げて、てっぺん付近で重力ゼロになる。それまでスコープとシンクロさせて待て。銃が軽くなったら、照準スキャンして、撃て」
「はい」
 傘を手にしてバス停で待つ如く、レムリアは超銃を見張り台に突き立てた。これで質量20キロは見張り台に託し、自分はトリガに手を掛け支えておくだけで良い。
「いつでも」

 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-121-

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 ピギーバッグにお米や野菜を載せた男性が言ってくれた。
 子供達を中心とするこれまでの救助者を下ろす。
「自衛隊かえ?」
「いいえボランティア」
 低体温の女性はストレッチャーへ。
 一帯は津波被害の爪痕深く、しかし病院はかろうじて免れたという。距離はここから600メートルほど。
「ストレッチャーがあるなら私が引き受けよう。君はこの船でもっと多くの人を助けて欲しい」
「判りました先生」
 医師の申し出に応じ、女性を託す。
「お姉ちゃんまた行くの?」
 会話を聞いた子供の一人が訊いた。
「ええ、できる間、できる限り、繰り返します。みんな元気で。お年寄りとか参っちゃってると思うから、声を掛けてあげてね」
「OKだぜ」
「みんなありがとう。みんなの力で救うことが出来た人たちがいる。どうぞ誇りに」
「うん」
「お姉ちゃんまたね」
 しかし別れのセンチメンタルを認めてはくれない。イヤホンにピン2発。
『トレーサー009緊急信号!』
 シュレーターの声。

 

16

 

『準天頂地表撮れるか?』
 相原の声を聞きながら、レムリアは走って戻る。009は島のおじさん達に渡した番号。
 何かあったのである。
 視界に衛星画像が割り込む。島に船が接近しており、船には黒ずくめが数名。銃器らしき長いもの。
 また、強盗団なのか。どこまでしつこいのか。
『見通し取れるか。船を立てろ』
『島の山向こうになる。船体だけでは高さが取れない』
『レムリア聞こえるか。今、遠距離でレーザ撃ち込むことを考えている』
 相原の説明に対し、レムリアの答えは決まっていた。
 最も軽い自分が、最も強力な銃を手にして“飛べ”ば良い。シンプルな論理。
「FELを私に。マストに載せて飛ばして下さい」
 ビジュアルイメージを起こすと、船のコンピュータが脳波を捉えてスクリーンに出してくれる。最早テレパシーと何ら変わりは無い。

 

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【理絵子の夜話】差出人不明-1-

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 放課後の教室。
 がらんとした室内には、西陽が差し込み、あらゆるものがオレンジ色に染まっている。
 但し無人ではない。室内中ほど、セーラー服の娘が二人。
「なるほど。後々のことを考えると、そうか」
「だよ。そりゃ妥協したくないってのは判るけどさ。それはそれでお母様なりの『最良の選択』だったんだよ。親ってさ、あたしら幾つになろうと、どう成長しようと、いつまで経っても『子供は子供』なんだよ。秘めたる思いを消す必要まではないけど、ここは落ち着くまで低く構えておいて、その間に自分磨いておけばいいじゃん。そのほうが正々堂々と」
「後腐れがなくていいか」
「そゆこと」
「了解!やっぱりそうか。そうだよね。私も頭ではそうと判っていたけど、ココロの中ではすっきりしなくてさ。でもりえぼーに言われてすっきりした。ありがと」
「いいえ。どういたしまして」
“りえぼー”と呼ばれた少女はきらめく瞳で小さく笑った。
 黒野理絵子。14歳。中学2年生。
 幼さを残した小づくりな顔立ちに、きらめく瞳が人目を引く。学校中の男子の憧れ。
 背丈はどちらかというと小柄。陽光の中、少し紫を帯びて見える髪の毛を背中で束ね、緩くリボンで結わいている。
 教室の後ろのドアが無遠慮にがらりと開いた。
「何してるの?早く帰りなさい」
 志村(しむら)という女先生。生徒たちの人気はすこぶる悪く、年齢、容姿、言葉遣い、その他、彼らの評価を全て書き立てれば立派に名誉毀損が成立する。最も、平成の世に生を享けた生徒達にしてみれば、“高度成長期”など預かり知らぬ遠い過去。価値観の相違はいかんともしがたい。
「何時だと思ってるの?」
 教室から出ようとする彼女達に、志村教諭はさらに言った。
 生徒たちが最も嫌う行動のひとつ“余計な一言”である。しかも、理由の如何を問うわけではなく、詰問調、糾弾調。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-120-

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 船は甲板に家屋載せたまま湾奥へ進行を始める。炎と煙は未だ漂い、強い油の臭いは気分を害するほど。破壊された漂流物と船体との衝突が増え、応じた音がゴツゴツと船の各所から聞こえ、船体が左右に揺れる。
「……お手間は取らせません。あ、船で近場まで来ています。よろしくお願いします」
 交渉成立か。画面の隅に地図と行き先表示の赤いピンが表示され、同じピンが船体カメラの捉えた画像にも表示される。
「行って下さい」
『了解。甲板、落とせ』
 電話が終わるのを待っていたようである。木材破損のバリバリという音がし、船体が揺れ、水面へモノが落ちる大きな音。
『両舷全速、許容最大。INS使えない。各員衝撃と揺動に備えよ』
 最大船速22ノット。おおよそ時速40キロ。漂流物とぶつかる音が大きくなり、船体の揺動も激しくなる。INS(いんす)はその手の衝撃を抑える作用を持つが、使用不可能であり、壊れるんじゃないかと思うほどの音がする。乗せている人々から驚く声や小さな悲鳴も。
「まもなく港に着きます!」
 パニック防止に声を出す。それから程なく漁港へ達したが、地盤沈下で冠水しており、船を岸壁に付ける状況にあらず。
「停船できません」
「そのまま川へ。病院は川からアクセスする」
「アイ」
 川を遡って行く。元々そのハイドロクローラを使って宙に浮くことすら可能である。浅い部分へ進行することは難ではない。
 病院至近の国道橋梁に達し、投錨して堤防上にスロープを出す。
 突然の見慣れぬ帆船は行き交う人々の目を引いた。
「突然すいません。助かった方を33名、運んできました」
 レムリアは甲板から誰彼構わず言った。
「……病院ならあっちだ」
 右方。
「避難所は……」
「もう少し奥の高台だ。一緒に行ぐが?」

 

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