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2017年10月

【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-03-

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 一方、妖精は基本的に虫と動物の相談相手。人間さんとコミュニケーション取ることは本来禁止。
 但し、命に関わる話なら別。
 ……と、勝手に拡大解釈しまして。
「歌うことがイヤなのかと心配した」
「ううん。そんなことはない。歌うのは嫌いじゃないよ」
「なら良かった。……てなわけでヒバリさん。彼女は喉の調子がいまひとつ。ハチミツを分けてあげたいので、また後で……でいいですか?」
 私はヒバリに問いました。
〈いいよ。後ででいいよ。また来るよ〉
 空高くへ上がって行きます。
〈あの、巣へ行っていいですか?〉
 ヒバリとのやりとりを待っていたミツバチが訊いてきました。
「ああ、ごめん。いいよ。あそこだっけ」
 私は少し離れた雑木林の方を指さします。
〈そうです。木の穴です〉
 野生のミツバチは木の穴に巣を作ります。だから似たような構造の人家の軒下や屋根裏にも巣が出来ます。
 雑木林まで草むらを横断して行きます。200メートルはありましょうか。
「風がおいしい……」
 涼は髪を抑えて言いました。
 女に属する私が言うのもあれですが、絵になる女の子いるものです。青空と、草むらと、女の子っぽい仕草の女の子。
 アイドルにしたいというビジネス側の気持ちも納得できます。
「変?」
「ううん、写真に撮りたいなって」
「そういうことか。楽しいけどね、怖いよ、ビジュアルばかりって。私の外見があれば中身どうでもいいってことでしょ。そのうちCGで適当に作られるようになるんじゃない?」
 それは恐らく、彼女を宙に舞わせた一因を示唆しておりましょう。
 テレパスであれこれ拾って言うことは出来ます。でも、多分、自分で考えて結論出すのが本来のあり方のはず。
「だったら、私みたいな翅持ちと出会う機会なんか無かったと思うよ」
 私はそれだけ言いました。涼は目を見開きます。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-13-

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 ブレーキシステムが発する金属の焼けるような臭い。
 10両編成の7両ほど行きすぎて、ガクン、と電車が止まった。反動で後ろへ車体がしゃくり、中で乗客が大きく振り回される様が見える。
 その乗客らが体制を立て直し、窓越しにこちらを見ている。
「こらっ!」
 電車の後尾、乗務員室から声がした。
「やべっ」
 低い声が短く言い、理絵子の手を引いて走り出す。
「あっ。待てっ!」
 線路に下り、砂利の上を走ってくる音。
 理絵子は手を引かれるまま走る。線路の砂利や枕木などの造作は思ったよりも大きく荒っぽく、こけつまろびつ。ただそれは乗務員氏も恐らく同じ。
 踏切から街路に出、住宅街を右に折れ左に折れ、細い路地に入り、小さな神社の境内へ。
 壊れかけた祠の裏へ回り込み、しゃがむ。
「ここまでは来ないだろう」
 低い声が、息を弾ませながら言った。
 理絵子はそこで初めて顔を上げ、声の主を見た。
 とはいえ、誰だかは知っている。桜井優子である。
 ジャージ姿で肩で息をし、理絵子を見るその目はまるでお姉さん。
「まだ何も言うな」
 桜井優子は言うと、あたりの様子を探ってから理絵子の腕を解いた。
「あの手紙、騙しだったらヤバいなと思って、来てみたんだ。どうしたよ」
 桜井優子はそれこそ妹に問い掛ける姉のように言った。
 理絵子はその目を見た途端、自分の涙腺が開放され、温かいものがまぶたを乗り越え、とめどなく溢れ出してくるのを感じた。
「怖かった。怖くて……」
 理絵子は言うと、続けて一気に、迸るように全てを話した。
 自分の能力のこと、そして出会ったものの正体。
 桜井優子なら判ってくれる、そう思って全てを隠さず話した。
 そして。
「死神か……」
 理絵子の話が終わった後、少しの間を持って、桜井優子がつぶやいた。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-02-

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〈こんにちは、エウリディケさん〉
〈こんにちは。彼女はだいぶん疲れが溜まってる。ハチミツが欲しいんだけど〉
 この辺の会話はもちろん音声ではありません。意志と意志との直接交流……人間さんの言うところのテレパシー。
「え?あ?こ……」
 涼はどこからともない“声”にキョロキョロ。彼女の意識には私が送り込んでいるのですが、恐らく、イヤホンで聞いたように、脳が声に結像したはず。
「ハチミツを分けてくれるそうです。一緒に」
 私は手を伸ばし、涼の手のひらを取り、引っ張って歩き出しました。
 足元の草むらは、足を下ろすたび、なにがしかの虫が飛び、緩く風があって、遠く雑木林の木ずれがサワサワと聞こえ、青い空にはヒバリの声。
〈エウリーさんだ、エウリーさんが人間の女の子を連れてきた〉
 そのヒバリたちが(心の中で)騒ぎ立てます。
「はいはい。彼女は歌手ですよ」
〈歌手はどんな歌を歌うの、どんな歌を歌うの〉
 童話に出て来るお喋り小鳥そのものです。そしてそんな印象を持ったのでしょう。涼は立ち止まってクスッと笑うと、空を見上げました。
「♪~」
 ケルティックな楽曲。ただ、それは、涼がテレビで歌うポップスとは違います。
〈妖精さんの誰より上手い〉
「失礼しちゃう。でも、そっか、涼はアイドルは不本意なんだね」
「うん……」
 出来ることとやりたいことと、現在受け入れられていること、一致すれば幸せですが、そうならないこともありましょう。不本意から始めて最終的に本来の目的、という方もいれば、求められることを仕事にすることで妥協、という方もいます。
 対して、彼女は、人生を途中で断とうとした。
 本来、そういう心には人生アシスト役の天使さんが気づくはずです。ただ、“天使の考え”を強制する権限は無いので、人間さんがその声を聞きに行かないと、聞こえないまま。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-12-

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 と、その思惟に呼応するように、髑髏の顎(あぎと)が開く。
 ニンマリと笑うかのように、Vの字に裂けて開く髑髏の口。
 髑髏が動く。瞳なき目で自分を見、自分に向かって接近を開始する。口を開き、自分を食らう意思を明確に、ゆっくりと、確実に、自分に、接近する。
 理絵子は気づいた。
 これは。
 この存在は。
 太古より髑髏の姿を持って描かれる、破滅の象徴。
 
 死神。
 
 今ごろ気づいても遅い。死神が嘲笑したように思えた次の瞬間。
 状況が変化したことに理絵子が気づくまで、刹那の時を要した。
 迫り来る白く明るい二つの光。
 カンカンという踏み切りの音。
 続いてファーンという電車の警笛。
 それは、踏み切りの真っ只中に立っている自分に向かい、2つのヘッドライトを灯した電車が接近してくるという現実。
 その時、理絵子は死神の嘲笑を本当に声として聞いたような気がした。
 そして、罠に落ちた彼女を、悔恨を抱く彼女の心理を、その“声”が嘲り笑う。それは死神の意志表示であると気づく。
 曰く、“ざまぁみろ”。
 だめだ。理絵子は思った。
 電車の押す空気が、風として理絵子の髪を流した。
 その次の刹那。
「りえぼー!」
 良く知る低い声が掛かった。
 女の声。強い声。
 声の出現と共に、死神の嘲笑も、そのイメージの残像も、電源を抜かれたテレビのように、忽然と掻き消えた。
 次いで彼女の心理を温かく包み込むものがあり、
 同時に彼女の小柄な身体が、強い腕にしっかりとホールドされた。
 電車のライトが視界から大きく逸れる。
 その瞬間、電車から発せられたバシャーッという空気の吐出音と、ひときわ長い警笛。
 非常ブレーキである。車輪とレールが擦れてキーと音を立て、火花が散る。
 理絵子は目の前を電車の床下機器が行き過ぎてゆく様を見ている。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-01-

 
 目の前を女の子が落ちて行きます。
「いやいやちょっと待って待って」
 私はひとりごちて飛び出し、落ち行く長い髪を追います。
 追いついて、両腕で彼女を抱き締め。
 一気にブレーキ。地上アスファルトまであと少し、そんなところで静止に成功。
 彼女が私に気付きました。
「あなたは……天使……」
「いいえ」
 意志込めて私は彼女を見返します。確かに着ている装束は天使に見えるかも知れません。toga(とが)というギリシャ神話でおなじみの白い布をまとっていますし。
「あなた翼がある……」
「これは翅です」
 私は残ったあと少し……を羽ばたいて降り、翅を止めました。
 背中に翅の生えた女。
「妖精、です」
 言って腕から彼女を解放すると……何のことはない、清涼飲料水を手にしてニッコリ微笑む彼女の姿が後ろのビルの広告看板。
 アイドルとして知られる……そうですね、仮の名を涼(りょう)、としましょう。彼女です。
 飛び降り自殺を図ったと知れます。ええ妖精ですから超感覚の類いは一式持っています。
「大丈夫、警察に届けたり事務所に戻したりしません……でも死ぬ必要があるとも思えない。そこで提案、少し姿消す、失踪或いは誘拐。いかが?涼」
「どうやって……」
「テレポーテーション。秘密の呪文はリクラ・ラクラ・シャングリラ」
 もちろん、口にしたので呪文は効力を発揮します。ビルの谷間が背景チェンジ。その変化の仕方はさながら映画かテレビのドラマか。
 湿原に変わります。彼女の右手、丘の上には古代ギリシア風の白い神殿。
「ここは……ギリシャ?」
「いいえ。私のような生命体の住む国。幾つかありますが、ここは妖精が主体なのでフェアリーランド」
 私は言い、近づいてきたミツバチに右手を伸ばします。
 

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妖精エウリーの小さなお話【目次】

●妖精エウリーの小さなお話集

~手のひらサイズの翅娘のお話を、あなたの手のひらで~

All llustration by TAC.(TAC's DDDD)

デジタルNew(11/11 完結)

-06- -07- -08・終-
-01-05-

魔法のりぼん

若きフェアリーテールの悩み

枯葉の森の小さな事件

命のバリア

昆虫界の大異変

もう一人の私

すて犬物語

大河のように

蛇の道は。

僕に魔法を

翅のちぎれたちょうちょの物語

人魚と出会う

私が怒ったこと

プレゼント

瑠璃色の翅は青い空に

クモの国の少年(目次)

闇を齎す光(全8回)

花泥棒(全20回・目次)

つばめは人家に巣をかける

けだもののそんげん(全32回)

アイドル(全7回)

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【理絵子の夜話】差出人不明-11-

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 謝りたい。理絵子は切に願った。叶うものなら彼と会い、全てを謝罪したい。
 時間に遅れたこと。
 そして、決して軽んじたわけではないが、真摯だったかといえば、そうではない、ということ……。
 そこで内なる者が口を開く。-楽にさせてやろうか。
 理絵子はハッとして意識を傾ける。-お前の稀有の力は、既に身を持たぬ存在とも意識を交わすことが出来る。それは知っているな。
 理絵子は頷いた。いわゆる霊的存在……意識だけの生命と彼女はコミュニケートできる。
 気づいて顔を上げる。トンネルを思わせる暗闇の中に白い部分がある。それは“蠢く靄”と形容できようか。
 行け……促されるまま、理絵子は立ち上がり歩き出す。その白い靄から感じる自分への視線。
 対峙。
 理絵子が見つめる中、白い部分が生き物のように動き出し、変化を始める。
 次第に薄ぼんやりと浮かんでくる白い形。
 それは大きい。理絵子の身長をはるかにしのぎ、見上げるほどもある。
 顔だ、と理絵子は思う。そう、その白い形は人の顔の輪郭に似ている。
 白い形が更に変化する。顔で言うなら目の位置に、黒い丸い領域が二つ現れ、それこそ目のような形が浮かぶ。
 白い顔に二つの黒い目。
 いや、“目”じゃない。
 理絵子は慄然とした。
“目”の下に現れる今度は鼻に似た黒い形。
 そして、鼻に似た部分の下に、ぞろりと並ぶ剥き出しの白い歯。
 唇も歯茎もなく、根元まで見える歯。
 鼻に見える黒い穴。目に見える黒い二つの穴。
 頭部には毛髪も皮膚もなく、ただ白い。
 その姿は。
 
 髑髏。
 
 巨大な髑髏。
 暗闇に忽然と浮かび、自分を見据える巨大な髑髏。
 理絵子は声も出ない。同時に、その髑髏が“彼”などではないことは容易に知れた。
 激しい毒念。憎悪と殺意。
 だまされた。その思惟は自然に意識に浮かんだ。
 

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あとがき~アルゴ号の挑戦~

「前に、前に」書き終えての率直な感想である。何が起こるか知識として知っておき、可能な範囲で予知、必ず出来る直前警報、そしてすぐに避難。これらをすべからく強制的に通知する手段。
「起こってから」一つ一つに対処するのは膨大な時間を失うのである。3分早く知るだけで100人1000人の命が救える。比して事後72時間で救える命は余りに少ない。
東北地方太平洋沖地震では、情報自体はどんどん更新され、流されていたが、現地でそれを受け取る手段が無かった。停電によりテレビは見られず、携帯電話は電波が輻輳。「津波の高さ10メートル以上」これを現地で知り得た人がどれだけいたか。知り得なかったから、あれだけの人命が失われたのである。21世紀になって、先進国日本で、自然災害で2万とか何事ぞ。
実はこれを書いている時点で、ネットで見かける気になる書き込みに以下のようなものがある。明日の天気は?えー降ってきた聞いてないよ。
んなもん、今これを読んでいる多くの人が「調べておけば出て来るし、リアルタイムの情報取得も可能だ」と思うであろう。が、それは多数派ではないのである。「自分で調べる」がアクションアイテムとしてそもそも存在しない人も多いのだ。ネットで人づてに訊く行為は滑稽に映るが、そうした人はネットがコミュニケーション手段でしかないのである。ここに「強制的に押し込む」必要性が発生する。
ただ。
現状、その手段は防災行政無線、携帯電話のエリアメール、程度である。よしんばそれらで危機を知っても「その後どう動くか」プランが何も用意されていない人の何と多いことよ。況んやネットで人に訊くレベルの人が如何なものか、推して知るべしであろう。
さておき、話中で幾つか現在の技術で可能な減災システムの提案を行った。衛星からの一斉送信であり、端末の移動を追跡しての避難方向指示である。また、現況把握にも衛星を用いた。「準天頂衛星」である。詳しい説明は省くが、赤道面に対し斜めに軌道を配することで、日本の真上に衛星を通すことが出来る(気象衛星「ひまわり」は赤道の上空にいる)。これを使った所在把握サービス、緊急警報サービスが実際考えられている。また、本作では“空飛ぶ船”が出てくるが、これを飛行船に置き換えると、上空からの把握と指示、無線中継等はそのまま実用に供せられることに気づくであろう。そう、現実離れした内容では無いと考えている。
ただ、ただ再び。
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例えばこれは仙台空港である。滑走路上から海は見えず、ここが津波に覆われたなど想像しがたいであろう。携帯の位置情報から逃げろと情報飛ばしても、受ける側がそれに対応してアクションしないと何の意味も無いのである。出先の地形と避難所を常に把握することは困難であるから、位置情報に応じてナビゲーションが起動する位は必要と考えるが、その指示に従うかの最終判断は情報を受けた個々人である。「言われた通りにしなさい」という教育が必要で、その根拠として震災で起こった事実の周知が欠かせない。
あれだけの大災害をたかがネットのファンタジー物語に取り込むことを不謹慎と思われる向きもあろうが、その能力を持っても「単位時間当たりに救助できる人数」がいかほどのものかはイメージできたのではあるまいか。本作の趣旨はそこにある。そして、予防保全として、「何が起こるか」知ることと「取るべき行動」を知ることが実際に必要なことである。そこが喚起できれば本作の目的は達する。但し、失われた御霊に報いるのは、「次」に同じことが起こらないという事実を達成できた時点となる。それは南海トラフかも知れない、三陸沖アウターライズかも知れない。富士山の噴火かも知れない。
日本は1944/46年の南海トラフ以降、真に巨大な地震に対峙することなく過ごし、応じた危機意識の不足は否めないであろう。
その不足を補う時間はあまり多く残されてはいない。南海トラフの典型、宝永地震から300年が経過した。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-10-

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 理絵子は、ギクッとした。
 否定……できない。確かに、この手紙が入っていると知ったとき、ああ、またか、と思った。
……断るのが面倒だと思わなかった、とは言えない。
 内なる者が続ける。お前はお前に言い寄る者たちの心の中が見えていない。なぜなら茶飯事で面倒くさいために、表面だけで応じようとしているからだ。その真意の一つ一つを汲み取ることをせず、適当にあしらっているのだ。実際、お前がここに来たのだって、相手が真剣だからとお前は表面上うそぶいているが、その実、死なれては困るからだ。今動揺しているのだって死なれたからだ。彼が可哀想だなんてカケラも思っちゃいない。死なれちゃったどうしよう、に過ぎない。死という結末に困っているだけで、彼にそれを選ばせたことに思いを馳せたわけじゃない。違うか。ごめんなさいではなく、なぜ死んだの?だ。違うか!
「やめて!」
 理絵子は声を上げ、耳をふさぎ、目を閉じてしゃがみ込んだ。
 聞きたくない。決してそんな風には思っていない。だけど聞きたくない。
 理絵子は首を左右に振った。しかし内なる者は容赦しない。
-『そんな風に思っていない』と思い込みたいだけだ。お前は彼の気持ちなどカケラも考えちゃいない。
 そんなことない!理絵子は反駁する。私には判る。彼がどんな思いで私を待ち、落胆し、ショックを受け、そして……。
 理絵子は見た気がした。
 想像力のなせる技か、稀有の力が働いたのか、それは判らない。
 だが、その視点は紛れもなく彼のもの。
 高速で迫り来る銀色の電車を見上げ、ついで一瞬にしてブラック・アウトする。
 そして、その先は何もない。
 死という名の消滅。
 その恐怖をすら上回る、自分に裏切られたショックとはいかほどのものだろう。
 

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アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~【魔法少女レムリアシリーズ】-138-終

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 レムリアはガーゼでゆっくりと新生児の全身を拭う。巻き尺を使って身長測定。
「私の……あなた、生まれました。取り上げてもらいました……」
 それは、この子のために身を挺した夫氏への涙。
「あの、学……さん」
 母に呼ばれた相原は自らを指さしてどぎまぎ。
「え?私ですか?あ、はい」
「ごめんなさい、このお嬢さんがそう呼んでいたもので……あの、この子のへその緒を切ってくれないでしょうか」
「自分が、ですか?」
「ええ、あなたは主人の代わりに私の出産に立ち会って下さった。主人とは両親教室に通って練習しました。主人でも、同じようにしてくれただろうって」
 医師が取り出した鋏。
「学。この子の人生の旅立ちを」
「承知した」
 相原は、大柄な鋏を手にした。
 へその緒は文字通り命綱であって応じた太さと強靱さを有する。鋏が大柄なのは応じた力を出すため。
「おお硬い……切って、痛くは無いのか?」
「神経ないし、もう血が通ってないし」
「判った。じゃぁ力任せに」
 相原は何度か鋏を入れ、そして、へその緒は切れた。
「13時43分」
 レムリアは時計を見て言った。
「出生13時43分。アプガースコア9。身長46センチ。体重2702g」
 医師が読み上げ、データがプリントアウトされてくる。
 出生届に書き写し、医師のサインを入れる。
「まぁ後は私らでやるよ」
 レムリアは相原に言った。
「了解」
 相原は言い、出て行こうとし、イヤホンにピン。ピン2回。
「はい相原……アルゴ号はお産で動かせない。そっちは……ああ、ならすぐ行く」
 あさひ丸である。川を遡りアルゴ号のそばにいるという。
 相原はプラズマガンを持ち上げ、保持ユニットの扉を開いた。
「倒壊家屋にワンちゃんあり。ちょっと行ってくるぜ」
「はい。お任せします」
 3月13日13時50分。
 
アルゴ号の挑戦~東北地方太平洋沖地震~/終

 

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