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2017年11月

【大人向けの童話】謎行きバス-02-

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 声をかけようとした雄一を見るなり、3人はそう歌ってはやし立て、ゲラゲラ笑いながら、教室を出て行った。
 雄一は悲しい気持ちになった。
 虫好きというだけで、なんで、こうも言われてしまうのか、わけが分からないのである。
 3年生までは仲が良かったのだ。ところが、4年の夏休みからこういうのが始まった。それが5年生になった今も続いている。
 きっかけは、多分、なんだが、みんなで学校の裏山に遊びに行った時のこと。
 70年前、戦争をしていたころに掘られた、ひなん用の穴、防空壕の中に入って、電子ゲームをしようと言い出したのだ。
 確かに穴の中ならすずしいだろう。
 でも、防空壕は古く、いつグシャッとくずれるか分からないので、入ってはいけない、ときつく言われている。
 おまけに、雄一の知識によれば、毒を持つ様々な生物がひそんでいる可能性がある。マムシやヤマカガシといった毒持つヘビ。ムカデにクモに、毒持つガの類。
 ついでに言うと、雄一自身は、みんなと同じようなゲーム機を持っていない。だから、入ったとしても、みんながピコピコやっているのを、ただ見ているだけ、になる。そんなのツマラナイ、というのもある。
 それもあって、やめようよ、と言ったのだ。
 返った言葉が、「お前、弱虫だろ」
「そうじゃなくて、禁止だし、変なのいるかも知れないし」
「やっぱり弱虫じゃねぇか」
「これまで何年もこわれてねーんだ。だからこわれねーよ」
「もういいよ。お前帰れよ。どうせゲーム持ってねーんだし」
「そうだよ。弱虫でゲームも出来ない幼いお子様は帰って結構」
「しっしっ」
 まるで野良犬のように追いはらわれ、翌日から始まったのが、書いた歌である。雄一としては、ツマラナイ、はさておき、、実際問題として危険であるから、そう言ったまでなのだ。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-07・終-

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「え?涼?……涼だ。本当に涼だ……」
 涼の姿を見るなり、男の子は言って小さく笑みました。
「リクエストはこのボク?」
 涼は私に訊きました。
「そう」
 私は答え、手品の要領でバイオリンを手にします。
「やれやれ……」
 呆れたように、足音もなく、言いながら入ってきたのはミレイさん。
 手にはフルート。
 つまり、何のかんの言いつつ、協力してくれる意思表示。
「いつでも」
「え?曲を知って……」
「るよ。何でも」
「涼、『未来へ』聞きたい」
 男の子が言いました。
「え?私はいいけどでもあれ早いよ。ギターと打ち込みだし……」
 BPM148のギタートラック冒頭を私は演奏してみました。
「すごい……」
「足りなきゃピチカート。準備良ければ」
「あ、ちょっと待って」
 涼は少し発声練習。
 前奏無しでいきなりサビのリフレインから入るので涼に合わせて付いていきます。♪信じて開いた扉の向こうは絶望の崖だったなんて生きていれば何度もあること……
 男の子は笑みを見せ、リズムに合わせて首を振りながら聞き入り、やがて幸せそうに目を閉じました。
 そしてCパート、終曲前のリフレインでフッと姿が消えます。
♪朝日が照らす君の未来を。
「……男の子は?消えちゃったけど?」
 汗をにじませ、荒い息で、涼は私に尋ねました。
「安心して、天国へ行ったよ」
「は?」
 言わなくてはならないでしょう。
「ここは、本当の天国に来る少し前、心だけが先に来るところ。大好きと、幸せの中で、心は身体から少しずつ離れて行く。そして、天国へ旅立つ」
「天国へ旅立つって……」
「文字の通りです」
「じゃぁ、この男の子は……」
「大好きな涼の歌を聞きながら、天国へ」
「そんな……」
 涼は口元を抑え、その両目から涙がぽろぽろと。
 そして、叫びました。
「だったらそう言ってよ!もっと、もっと一生懸命歌ったのに。一緒に踊ってあげられたのに!めいっぱい楽しませてあげたのに!」
 良く通る声でそれだけ怒鳴り、次いで涼は私を睨み、そして気付いたように目を見開きました。
 ある種の示唆……天啓の類いが彼女を訪れたと知ります。
「私……歌うことが大好きで、聞いてもらえることが嬉しくて、オーディションに応募したんだ」
「うん」
「でも……なんだろ、そのうち、だんだん、“仕事”になっちゃった。一定時間、その場所にいて、ニコニコしてるだけでいい、みたいな。そういうの、見透かされるよね。自分も判るもんね。あ、こいつ真剣じゃねーなって。嫌ってたくせに、自分がなっちゃった」
 その目に涙一粒。但し意味の違う涙。
 私は頷いて、
「私、翅で人間さんの世界とここを往復して200年」
 それだけ言いました。そして、フッと理解が訪れます。それ以上何か言う必要は無いこと。
 私たちの間に永遠の別れが近づいていること。
「呪文を唱えます」
「はい」
「あなたは再び歩き出す。大丈夫、戻っても誰もあなたを責めない」
「信じるよ」
「ありがとう。じゃぁ、行くよ、リクラ・ラクラ……」
 呪文の最後は、涼には聞こえなかったでしょう。
 
 “鼻につく態度”をスキャンダラスに書かれていたトップアイドルが、深夜、病院を訪れたらしいというネットのうわさ。
 
アイドル/終
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-01-

 

●前書き

 
本作は2007年当時存在した自費出版専門の会社が募集していた懸賞で「奨励賞」をもらったものです。担当氏曰く「1000を越える応募があるので、1回目で奨励賞って相当なものですよ」……そうかいな。まぁ、「本という物体で世に出したい」人は多いわな。ちなみに賞金2万円でしたが、プリウス1台分の価格で出版して下さるとローン返済プランを出されました(そっちがメイン)。イヤちょっと待てよこの長さで本とかペラペラやぞ。丁寧かつ強力にお断りしましたら「ではお帰り下さい」と。あのね本を出したい人、丸善とか大規模書店の自費出版サービスなら50万円くらい、電子書籍にしてアマゾン置いてもらうならもっと安いから。ちなみに出版は宣伝媒体としてのマスコミと分かちがたく結びついているので、思想信条がそぐわない物は門前払いを食らいます。
ではスタート。
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-1-
 
 バス停にはただ『布引(ぬのびき)バス』。
 行き先として、『センター前』。
 発車時刻は、朝の4時37分という、モノスゴイ時間に、一本こっきり。
 しかも。
『運転日はお問い合わせ下さい』
 そのくせ、連らく先は書いてない。
 という、変なバス停は、学校前の坂を下りて、〝広域農道〟を二百メートルほど行った、鎮守の森、鳥居の前にぽつんと立っている。
 分からないことだらけなので、みんないろいろ勝手なことを考えて言う。いつしか付いた呼び名が、〝謎行きバス〟。
「雨の夜に待ってると〝トトロ〟が出てくるんだろ?」
「待ってる人も乗ってる人も見たことないぜ」
 親も先生も、だれに聞いても、何も知らないと言うだけ。
 仕方がないので、〝布引〟と付く交通業者をインターネットで調べると、大昔に短い間だけ営業した鉄道会社が出てくる。でもそこがバスを持っているわけではないらしい。
『センター前』じゃ、ありきたりすぎて何も出てこない。
 情報がなさ過ぎて不気味。そのせいか、変なウワサを立てる人もいる。
「乗せられると変なところへ連れて行かれて、帰って来られない」
「反対方向へ行くバス停も時刻もない」
 そういう、こわいウワサに限って、あっという間に広がり、いつしか、それが事実としてあつかわれる。
 だから。
「あのバス乗ってくるヤツがいたら、〝神〟だよな」
 クラスの男子達はそんなことを言い始める。つまり、神様と呼んでいいくらいの勇気の持ち主じゃないと、あのバスに乗ろうとなんかしないだろう……。
 まるでキモ試し。
「つまり雄一(ゆういち)くんには絶対ムリって事だ」
「むしむしくんと仲良くしてるのが一番いいもんな」
 
♪むしむし 大好き 無視して 泣き虫 弱虫 毛虫 はさんで すてろ
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-06-

 
 山の中腹、ほぼ平らになった部分に広がる一面の芝生。城壁はなく、白い大理石のお城があります。ここはいつも、冷たく冴えた空気が流れ、でも寒くはありません。雲の中ならゼウス様がお住まいかしらと思うようなたたずまい。ここは妖精と人が共に暮らしたギリシャ神話の時代、そのままです。
「うわぁ、本当にお城だ」
 城の前、芝生に降り立ち、涼の手を取って歩いて行きます。天井高い玄関ホールの大理石に足を置くと、冷たさが足の裏から伝わり、私たちの足音が、トン、っと僅かに響いて広がります。
 すると、門番小屋(と、私たちが呼んでいる)小部屋から飛び出してくる私と同じ白装束の姿あり。
「まーた人間の女の子連れてきて!」
 ぷんぷん状態はミレイさん。人間さんの企業・工場なら守衛さんに相当する役どころ……であり、地球の精霊、ガイア様の秘書官。
「聞いてないけど」
〈頼んだ。自分頼んだ。涼に頼んだ〉
 私はホバリングしてそう言うヒバリに手のひらを向け“この通りでございます”。
「エウリーって結構なし崩しにルール破るよね。地上禁止になっても知らないから」
「ガイア様のご沙汰を待つよ」
 文句言いつつ、静止はされません。私たちは中へ入ります。石造りの大きな建物内奥ですから、例えばビルだと照明がなければ真っ暗でありましょう。でもここは、かなり中に入っても、大理石の色そのままにほんのり白く、歩くのに不自由はありません。入り組んで迷路のようになった通路を右へ左へ。
 日の当たるところへ出ました。草むらで、ちょうちょが多数ひらひら舞い飛んでいます。
 ベッドが一つ。男の子が横たわっています。
 6歳位。小学校の体操服という着衣でしょう、白いシャツに名札の縫い取り、黒い短パン。
 まどろむような目で。
 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-05-

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 えーと。
「子どもが、不思議な夢を見る。聞いたことある?」
「ああ、うん。私の今がそうかも、って思ってるとこ」
「あれね、多くの場合、心だけ、ここに来てるんだ。“物心つく”っていうのは、そういうのが不可能な状態になること、と考えてくれればいいや。でね、ヒバリが言いたいのは、そうやって来ている子どもがいるから、安心して欲しいので歌を聞かせたい。それを涼に歌ってほしい。そういう意味」
〈そういう意味、そういう意味。涼、歌って、歌って。涼、歌う人〉
 涼はため息。諦めたような。
「歌う人、か」
 ヒバリがじっと見つめて答えを急かします。涼は小瓶のハチミツを一口、指に絡めて舐めて。
「いいよ。どこ」
〈王宮、こっち、こっち〉
 飛び立ちます。とはいえ彼女は人間。空飛んで付いて来いと言われても。
「ちょっと待って。私飛べ……」
 地上の人間世界なら当然無理。しかしここは。
「大丈夫」
 私は涼を抱きかかえ、背中の翅に羽ばたけ。
 実のところ私の体重は1キロも無いので、40キロオーダーであろう人間さんを飛ばすのは一苦労。
 が、不可能ではありません。遠い遠い昔、人間さんの世界において、妖精の存在が認められていた頃には、その力を使って迷子を送ったり、落下事故に対応したり。ギリシャ神話にあるように人間さんと結婚した仲間すらも。
 しかし今、妖精なんかいないとされています。なので、大いなる意志が認めた場合以外は、人前への出現は許されていません。
 ヒバリを追います。草むらを抜け、高度を上げ、山の上にある白いお城へ。
「腕一本で抱かれているだけなのに、それはとても怖いことのはずなのに、何だろう、この安心というか、癒やされ感」
「それは、ここも天国の一部だからでしょう」
 涼の独り言に、私はそう答えました。
 城に近づき、緑に囲まれた姿が次第に視界を圧します。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-15-終

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「まだあれに見られている気がする」
「かもな。俺が死神だったらやっぱりお前殺そうと思うもん。だってお前いたら悪巧み全部バレバレじゃん」
 理絵子はハッとして桜井優子の顔を見た。
「どうしたよ。俺何か変なこと言ったか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
 理絵子は、自分の力が何物であるか判った時のことを桜井優子に話した。小学校2年、それこそオレンジストライプの電車の終点、国定公園・高尾山(たかおさん)に遠足で訪れた際、滝行の修験者にそれと言われたのである。
「その時言われたのは、決して人に喋るな。なぜなら人は不気味がるから。その力を意図して使うな。なぜならそれは自分のために使うものじゃないから。そして……何のためにその力が備わっているのか、それはその時になれば必ず判る。だから、その時まで言われたことを守りぬけ」
 理絵子は話した。そして今、彼女は思い至ったのである。
 なぜ、この力が自分に備わっているのか。
 そういう存在に引き込まれ、命を失う人が出るのを阻止するためだ。
 合点が行く。彼奴は、自分のこの自覚を阻止するために、今夜のこの瞬間を私に与えないために、私を亡き者にしようとした。
 理絵子は自覚を言葉にする。と、それに呼応するかのように風が吹き渡り、神社の中の森がざわめき、何かの鳥が不気味な声を出す。
「悔しがってる」
 理絵子は呟いた。それはそう、言うなれば彼奴の歯軋り。
 しかし今はもう怖くはない。彼奴が接近を図るならすぐに判ると自信を持って言える。
「線路に立つ子を無くす……それが私のなすべきこと」
 理絵子は言った。
 それは私なら出来ること。
 私しか出来ないこと。
「そうだな。それがお前の力の使い道として最も高貴な使い方じゃないかな。誰にもない力なら、一番高度な使い方をすべきだ。すなわち、愛と命だ」
 桜井優子が言い、そして続けて。
「なんてな」
 照れ隠し。理絵子は思わずぶっと吹き出し、次いで少女たちはあははと笑った。
 木立の間から覗くキラキラと輝く星々。
 理絵子は遠く、そして長い時間が始まった気がした。
 その踏切が廃止され、陸橋が設置されたのは、3ヶ月ほど後のことである。
 ただ、陸橋の下に花束が絶えることはない。

 

差出人不明-終-

 

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【妖精エウリーの小さなお話】アイドル-04-

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「すごい……ことだよね。妖精、だもんね。そうだよね」
「ハチミツはあの辺」
 私は構わず、大きな栗の木、根元の穴を示します。中に大きな、そうマンションとでも呼びたいような、ミツバチの巣。
 ぶんぶんハチたち飛び交っていますが、彼女ら(働きバチはメスです)が、私たちに敵意を持つことはありません。
〈エウリーさんだ〉
〈エウリーさん〉
「ハチミツを少し下さいな」
〈いいですよどうぞどうぞ〉
〈あ、人間さん?人間さんの女の子?〉
「ですよ~」
 私は答え、手品の要領で袖口から小瓶を取り出し、巣の中に手を入れて、紙細工のようなその一部をめりめりっと破って拝借。
 搾り取ったミツは小瓶の半分はあるでしょうか。
「お行儀悪く指でぺろぺろどうぞ」
 渡すと、涼は面白そうに笑い、指先を入れ、そのようにぺろり。
「……美味しい。何これ、全然違う。濃いし」
「混ぜ物無いとそんな感じ。ハチたちありがとね」
〈いいえ~〉
〈女の子さん元気になってね〉
「え……」
 涼は目を丸くし、飛び交うハチたちを見上げました。
「判るの?私の体調」
「生き物は気配を察知出来て当然。気配って、存在感、でしょ」
「なるほど」
 と、答えた涼の頭上にそれこそ気配。
〈女の子、ハチミツなめたか?もう終わったか?〉
 先ほどのヒバリです。そういえば『後でまた来る』と言ってはいました。
「はい、なあに?」
 私は手のひらを出し、ヒバリを止まらせます。ちなみに地上を歩き回る鳥なので、スズメやツバメのように電線や木の枝に止まるような足の構造になっていません。
 ヒバリは降りて来、涼の顔を見つめて目をぱちくり。
〈歌って〉
「え?」
〈天国へ迎える子がいる。迎える子がいる。来られるように歌って〉
 私はヒバリの意図と目的を理解しました。ですが、どう説明しましょう。
 

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【理絵子の夜話】差出人不明-14-

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「およそバカバカしいでしょ。笑って」
「そんなことねーよ。お前の勘というか鋭さはハンパねぇと思ってた。お前がそういう力の持ち主だと聞いて、ああなるほどなぁと納得してるところだよ。やっぱりお前はエスパーだったんだ」
 理絵子は頷いた。
 何度も何度も涙と共に頷いた。
 やっと判ってくれる人が現れた。その思いに満足しながら、安心しながら。
 桜井優子はしばらくの間、片腕で理絵子を抱き、頭をなでてくれた。
 そして、随分と時間が経った頃、桜井優子がゆっくり訊いた。
「それで?死神が?」
「私を、殺そうとしていた」
 理絵子は、ようやく収まった目の下の洪水を拭き取りながら、答えた。
 今にして思えば、あの“意識の内なる声”、「後悔しているのか」と意識の内に問うた者こそ、死神の意識そのものだったのだと判る。誰にでも起こりうる心理的動作……自問する自我……に似せて理絵子の意識に忍び込み、巧みに誘導し、線路に立たせたのである。
 そして、そうしたことが出来るくらいだ。他の人の心にしのび込んでウソ手紙書かせるくらい造作もないだろう。従って当然、“彼”など、ここに来てもいないし、ましてや自殺などもしていない。
 差出人が不明なはずである。
「いつのまにか心を操作されるわけか。おいおい冗談じゃねーな」
 桜井優子は語気を強めた。
 理絵子は頷く。さもあろう。自分の“考え”のつもりが、いつの間にか何者かに好き放題“誘導”され、本来の自分ならあり得ない結論を導き出される。
 自分が自分でなくなるのである。
「よぉ、ひょっとして通り魔とか、よくあるナントカ喪失で無罪になっちゃうひどい事件って……」
「かも、知れない。あれは死を望む存在だから。何か隙間があればそこに入り込む。たとえばあの踏み切りだったら、傷ついた心持つ人が近づくと現れ、その心の傷口から忍び込み、更に追い込み、攻め立て、線路の上に立たせている。そんな気がする。だから……」
「だから自殺が多い」
「恐らく」
 理絵子は言った。
 そして、自分は、その死神に狙われた。
 心に隙間……それこそ思い上がりがあったためか、それとも別の理由か。
 どっちにせよ、あんなのに目を付けられている、ということ。
 

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