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2017年12月

【大人向けの童話】謎行きバス-06-

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 バスが動き出す。ゆっさゆっさと左右にゆれて、バス停をはなれ、広域農道をギアチェンジしながら加速し、真っ直ぐに西へ。
 見慣れた景色が後ろに流れ、だんだん、あまり見ない景色へと変わって行く。
 しばらく走る。となりの学区。知らない中学校。花見のニュースでよく見る桜並木。
 左折、右折、国道を横切る。高速道路をくぐって、鉄道のふみきりを渡(わた)って。
 適当にゆれながらバスが走る。そのゆれと、背後からの日差しが心地よい。今の雄一は、連日の早起きでちょっと寝不足(ねぶそく)。そして、バスに乗れてひと安心したところ。
 心地よいのに任せているうち、雄一のまぶたが下がって行く。
 
 
「ぼく、ぼく」
 呼ばれているのが自分で、かたをゆさぶられていることに、雄一はようやく気付いた。
 いっしゅん、置かれているじょうきょうが、理解できない。
 自分をのぞきこむ、シワとしらがのおじいちゃん。
 えーと。
「終点ですよ」
 謎行きバスに乗ったことを、ようやく思い出す。
 がばっと身を起こす。自分はどうやら、横長5人がけの座席に横たわり、くてんくてんになって、ねていたようだ。
「あの……」
「気にしないで。センター長がお待ちですよ」
「センター長?」
 よく分からないが、終点ということなので、とにかく降りなきゃならない。
 乗った時と同じドアから降りると、目に飛び込んできたのは、考えてもいなかった景色。
 おおいかぶさって来るような木々、木もれ日。夏の名残のセミの声。
 ツクツクボウシが輪唱している。
 その中の、細い道に止まっている、布引バス。
 目の前には、小さい学校と言っていいような、建物と運動場からなるしせつがあり、『木の実センター』と木のカンバンに書いてある。
 センター前のセンターは、これのことか。
 そういえば。
「あの料金は……」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-05-

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 他に、だれか乗っている感じはない。
「お乗りになりますか?」
 左手よりの声に雄一は少しおどろき、体をびくりとふるわせた。
 見ると、制服にぼうしの男性。自分の父親よりずっと年上。おじいちゃんと言ってもあながち外れてはいない感じ。運転手さんか。
 雄一を見てニッコリ笑うと、顔中にシワ。
 その表情に、雄一は亡くなった自分のおじいちゃんを思い出した。夏や冬の休みに遊びに行くと、新幹線のホームでこんな笑顔でむかえてくれた。
 似た感じ。優しそうな感じ。
 どこかへ連れて行かれる、〝謎行きバス〟という感じではない。
「あ、はい」
 雄一は思わず答えた。ジャージのポッケに入っている五百円玉を、ぎゅっとにぎりしめる。
「そうですか。ではどうぞ」
「はい」
 乗りこむ。ステップを上がるコツコツという自分の足音。自分の重さで、バスがわずかに左右にゆれるのを感じる。
 少しツンと来るにおい。油というか、ペンキというか。……ちなみに、ゆかの木の板にぬられた、ニスのにおいなのだが、雄一はそうとは知らない。
 乗客の姿は無し。
 プシューと音がして、前のドアが開く。
「お好きな席へどうぞ」
 やはり運転手さんである。男性は、開けた前のドアから乗り込みながら、雄一に言った。
「はい」
 雄一は一番後ろの、横長シートの窓際に、腰(こし)を下ろした。この席は、カーブやデコボコを通ると、グワングワンゆれるのでオモシロイのだ。シートの下からブルブル伝わってくる、エンジンのしんどう。
 運転手さんがイスに座る。
 前のドアがプシューと閉まる。
『センター前行き発車時刻です。本日はご利用ありがとうございます』
 スピーカーからの声が聞こえ、プーとブザーの音がして、後ろのドアが閉まった。
『発車します。次は終点センター前です』
 え、と雄一は思った。
 次は終点?
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-04-

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 ふと思う。自分が体の小ささをウンヌン言われて傷つくように、彼女も、体格のことをとやかく言われて傷ついているのではないか。他の女子より大きくて、連中が言ったように、もうおっぱいがおっぱいと分かる。
 自分が、〝女にたすけられているヤツ〟と言われ、気にしているように、彼女も実は、自分を助けるたびに何か言われて、それをイヤと感じているのではないか。
 できれば、自分を放っておきたいのではないか。
 それなのに。
 彼女は、自分を、助けてくれようとする。
 強くなりたい。雄一は思った。せめて弱虫と言われないように見返してやりたい。
 だったら。
 
 
「とびきり早起きして走る」。翌日から、雄一はそう言って朝の4時に家を出るようになった。
 有名なプロ野球選手が、「強くなるには走りこむこと」と、言っていたからであるが、目的はもう一つ。
 例のバスに乗ってやろうと思ったのだ。
 分かるのは時刻だけだから、毎日通うしかなかったのである。
 そして始めてから10日目。土曜日の朝であった。
 もやの向こうに、赤いランプと、ガラガラというバスのエンジン音。
 雄一は近づいて行った。バスは白い車体に青いストライプ。バス停にあったように〝布引バス〟と確かに書いてある。パッと見、ごくふつうの路線バスと変わらない。
 そばまで行く。バス停の前に確かに止まっており、車体の真ん中にはドアが開いている。ガラガラっとスライドして開くヤツだ。他に、前の方にも、折りたたみ式のドアがある。
 ドアから中をのぞきこむと、木のゆかに、色あせた座席が並ぶ。それは「昔の」という言葉がピッタリというか、かなりくたびれた、古びた感じを受ける。入り口ステップ左側には整理券発行機があるが、白い塗装(とそう)がはげはげで、アカンベェみたいに出ているはずの券も見えない。動いてないのか、始発だから券を出していないのか。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-03-

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 それが、どうしてこういう展開になったのか、全く理由が分からないのである。今は9月だから、始まってちょうど1年過ぎたあたり、になるか。
 雄一のかたを、ポンとたたく手があった。
 ふり向くと、一学年上かと思うような背の高い女子、堀長(ほりなが)。雄一はクラスでも背が低い方なので、その高さはひときわ強く感じる。
「あんなのほっとけよ。すっげー評判悪いんだぜ」
「う、うん」
 雄一はためらいがちにうなずく。この堀長という女子は、家が近くて小さいころから顔なじみだから、であろうが、こうやって自分をかばってくれる。ありがたいと思う部分もあるにはある。しかし、実は堀長には悪いのだが、そういう気づかい、雄一としては少々困るのだ。
 
〝女にたすけられてるヤツ〟
 
「おー堀長雄一!」
「らぶらぶ~。それともお母さんかな?」
「堀長、小さなカワイイゆう君に、おっぱい吸わせてやれよ」
「うるせーぞてめーら!」
 堀長はどなって、教室の後ろのドアへとズカズカ歩いていった。
「うわ!プロレスラー恵(けい)がおそってきた!」
 連中が何事か、堀長をはやしたてながら逃げて行く。堀長はどなるが、追いかけるようなことはしない。
 ちなみに、雄一の名字は花村であって、堀長ではない。
 連中は、雄一が堀長と結婚(けっこん)し、名字を変えるという意味でそう言っているのだ。なお、堀長恵は堀長のフルネームである。
 ここで自分が、〝弱虫〟でないなら、堀長に対して、〝オレのことはほっておけ!〟と言うのが、カッコイイのだろう。
 でも、雄一は、堀長が口調と外見はさておき、性格そのものは、全くふつうの女の子であることを知っている。そんなことを言えば、彼女は、多分泣いてしまう。実際、小さいころは、自分の方が彼女を良く泣かせた。
 

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