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2018年1月

【大人向けの童話】謎行きバス-11-

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「ぼくは、まちがえ……」
「いいのいいの。センター長が『部屋へ来てくれ』と言ったでしょう?ご招待じゃないか」
「はぁ……」
 別にフツーに、〝単なるまちがい〟と言ってもいいと思うのだが。
 背後に足音。
「おお、まだここだったかい」
 丸顔の男性。ということは、この人が、このしせつ、〝木の実センター〟のセンター長。
 一番えらい人。だからであろうか、太陽が高くなり、夏みたいな気温に上がってきているのに、紺(こん)色の背広を着、ネクタイもきちんとしている。
 と、書くと、ピシッとした服装みたいな印象だが、その実背広もネクタイもヨレヨレで、さらに背広は体より明らかに小さく、ピシッではなく、ピチピチ。
 丸顔のセンター長は、クツをぬいで上がった。
「さぁこっちへ。さぁさぁ」
 ニコニコ顔で急かされる。
 雄一は、背中をグイグイおされてろうかを歩き、右に曲がり、一番おくにある部屋へ通された。
 そこは、『センター長室』と、表札みたいに小さく書いてあるが、カタカナの役職とは裏腹に、入り口にはふすま。
 旅館の和室か何かみたいだ。雄一は思った。
 センター長がふすまを開く。
「さぁどうぞ。ここがぼく、木の実センターのセンター長、布引源一郎(げんいちろう)の部屋だよ」
 雄一はぽかんと、口を開けた。
 タタミの部屋に木が生えている。
 見まちがいではない。部屋の角のタタミが丸く切り取られ、そこから木の幹が顔を出し、枝葉がカベに沿い立ち上がり、天井(てんじょう)をおおうように広がっている。
「これ……」
「コナラだよ。建物を建ててから生えてきてなぁ、仕方なく」
 丸顔のセンター長は笑った。
 雄一は思わず見回す。確かにコナラである。クワガタなどがよく見られ、秋にはドングリが出来る。実際、9月とあって、もう緑色のドングリがあちこちで成長中。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-10-

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「気をつけて」
 丸顔の男性は手をふると、雄一の顔をのぞき、ついでバスの運転士さんを見た。
「ちょっとクルマをしまってくるから。佐伯(さえき)さん、虫博士をぼくの部屋へ」
「かしこまりました」
 バスの運転士さんが頭を下げる。
 男性はクルマの窓から顔をひっこめ、バスの横を走って行った。
「どうぞ」
 運転士佐伯さんが先に立って案内する。と、建物の中から聞こえる、大人数の「ごちそうさま」。
 ワイワイガヤガヤとおしゃべりが聞こえ、お皿をガチャガチャ重ねる音。
「食事が終わったようですね」
 佐伯運転士が言い、ほどなく、しせつの庭の方へ、たくさんの子ども達が飛び出してきた。まるで学校の昼休み。
 何人かが雄一に気付いた。
 足を止めて雄一を見る。よそ者に対する視線であり、〝かんげいするよ〟という感じではない。
 佐伯運転士は建物のわき、ふつうの家と同じような形の、げんかんドアを開けた。
「尚子(なおこ)さ~ん」
 佐伯運転士が呼ぶと、おくの方から、「は~い」という、〝おばさん〟の声がし、スリッパでスタスタ歩いてくる音。
「さ、上がって」
 佐伯運転士は自らクツをぬぎながら、雄一に言った。
「はい。では……」
 雄一がクツに手をかけると、前方、ろうかの向こうから、腰に前かけをした女性。
「はいはいはい……。あら、ようへい君は今日じゃないんじゃ……」
「あ、この子はですね……」
「雄一です。花村雄一」
 雄一は名を問われているのだと理解し、そう言って頭を下げた。
 学校名を告げ、5年生だと付け加える。
「あらまぁそれはそれは遠いところ…ようこそ、いらっしゃい」
「センター長の招待でね。申し訳ない。この子の朝食をセンター長の部屋まで」
「あ、はいはい」
 尚子さんというその女性が、回れ右してもどって行く。
 雄一は何で?という顔で佐伯運転士を見上げた
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-09-

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 由美さんが言い、雄一はまたしても、みんなして見つめられる。
 部外者とか関係者以外とか、そんな言葉が、雄一の頭の中をぐるぐる。
 雄一は、いたたまれなくなった。
「あ、あの、ごめんなさい!」
 さけぶように言い、頭を下げる。
「ぼく路線バスとカンチガイして……その、さようならっ!」
 雄一は思い切り走り出す。追いかけられても、つかまらないように。
 しかし、丸顔ぼうず頭の男性は、追いかけるでもなく、クルマの窓からニコニコ笑って。
「まぁ待って待って。走って行ったら何日もかかるよ」
 と、雄一の背中に向かって言った。
「え?」
 雄一は立ち止まってふり返った。
 なに?ここそんなに遠い……。
「君のとこから二つとなりの県だよ。後で送っていってあげる。まぁ、まずは落ち着いてお茶でもどうだい。その前に朝ご飯は食べたかい?ずいぶんと早い出発だったはずだよ?」
 朝ご飯。雄一は言われて、さっき入ったおなかのスイッチが、ぐぅと音を立てて反応。
 由美さんが学校へ行こうというのだ。8時かそこいらであろう。
 虫は虫でも腹の虫が聞こえたようだ。丸顔の男性はハッハッハと笑った。
「家には連らくしてあげるよ。心配いらない」
「そうそう。私に付いた変な虫取ってくれたお礼もしたいしさ。やっぱ男の子は女性の味方でなくちゃ」
 由美さんが、マルカメムシを放したススキの方を指差す。お礼と言うほどでは……。
「ほう、ぼくは虫が平気か」
 男の人は丸い顔がますます丸く見えるニコニコ顔で言った。とにかくずっとニコニコしている。それが雄一の印象。
「……ああ、はい」
「ところで由美ちゃん学校大じょうぶかい?」
「え?あ、大変、行ってきます!」
 由美さんは、うで時計を見て目を丸くすると、あわててしせつの建物にかけもどった。そして、クツにはきかえ、スポーツバッグを背負って、道をおくの方へと、走って行った。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-08-

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 その由美さんからであろうか、何かいいにおい。出かける時の母親と同じような。
 何か、香(かお)りの出るものを、つけているのだろうか。
 そんなんでコイツなんかさわったら……。
「テントウムシじゃないのかい?」
 運転手さんがたずねる。確かに、大きさと形状は似ているかも知れないが、テントウムシではない。
 その虫が紙に脚(あし)をかけたところで、雄一は素早く紙を引き寄せ、その中に包んだ。
 とりあえず、道の反対側、のび始めたススキの葉の上に放す。ふだんなら、1秒も待たずにふみつぶすところだ。でも、今ここではダメだ。
 なぜなら。
「こいつはマルカメムシです。さわったら最後、石けんでこすっても取れないくらいクサイですよ。大じょうぶですか?」
 そんなもん、手でパッパッ、なんてやったりしたら最後だ。由美さんは、指先から悪臭(あくしゅう)をまき散らすことになる。いいにおいどころか、クサイキライと言われてしまう。
 ましてや、つぶすなんてもってのほかだ。一度まちがえて指でやったことがあるが、残りのニオイで飯も食えなかった。
 飯……雄一は自分の空腹に気付いた。何せ家を出たのは日の出前、朝ご飯なんか食べてない。
「そんなにクサイの?」
 由美さんがおそるおそる、マルカメムシの止まっていたセーラーのエリに鼻を近づけ、理科の実験で習ったように、手先であおいで、ニオイをかいだ。
「…あ、大じょうぶ、みたい。ありがと。…で、あなたはだあれ?」
「あ、はい…」
と、そこで、背後からクルマのエンジン音が近づき、クラクションがプップ。
「おーい、どうしたんだい?」
 肉付きのふくよかな、丸い顔でぼうず頭の男性が、大型国産乗用車の窓から顔を出し、こちらを見て言った。
「その子は?ようへいくん?」
「じゃぁないそうです」 
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-07-

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「ん?いらないいらない。このバスは、センターが送りむかえに使うバスさ。路線バス風に仕立ててあるだけ……聞いてないのかい?」
 それはすなわち、謎行き、どころか、路線バスでもない。
 このセンター独自のバス。
 え……え……。雄一は、〝なんかマズイことになってきた〟という気持ちがしてきた。自分は、何か、来てはいけないところに、来てしまったのではないか。
「今度はその子?」
 センターのしきちの中から声がし、夏用セーラー服に三つ編みのお姉さんが、サンダル姿で走ってきた。白い半ソデのその白が、目にまぶしい。
「ああ由美(ゆみ)ちゃん出がけにごめんよ。センター長は?」
「さっき、ようへい君が取りやめってクルマで……あれ?じゃぁこの子は?」
「え?バス停で……。君、かのうようへいくん…だよ、ねぇ」
 運転手さんと、由美さん……というらしいそのお姉さんに、雄一は見つめられる。
 つまり自分は、本来、〝ようへい〟が乗るべきバスに、勝手に乗ってきた……
「あ、あの」
「きゃぁ!」
 実は……、と、言おうとした雄一の声を、由美さんの悲鳴に近い声がさえぎった。
「虫、虫、いやぁ!」
 セーラー服のエリ元に付いた小さな虫を、手ではじき飛ばそうとする。
 その虫は……
「ちょっと待って!さわっちゃだめっ!」
 雄一は、自分でもおどろくような大きな声を出して、由美さんの動作をストップさせた。
「へ?」
 由美さんは丸い目。
「それ、手でさわると大変なことになります。ティッシュありませんか?」
「え?ええ、ああ」
 由美さんは気持ち悪そうに、動き回る虫を目で追いながら、ポケットティッシュを一枚取り出した。
 雄一は受け取るとねじってとがらせ、その虫の歩く頭の前に、先っぽを置いた。
 由美さんはイヤそうな目でえり元を引っ張り、雄一の作業を見つめる。
 

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