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2018年2月

【大人向けの童話】謎行きバス-15-

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 クリを一つ。たしかに、固くてガシガシかみしめる必要はあるが。
 味が〝濃(こ)い〟。お母さんがスーパーで買ってくる〝あまぐり〟とは「格」が違う。
「すごくおいしいです。お店のクリなんか食べられなくなりそう」
「君はこういう野性の木の実なんかは初めてかな?」
「はい…」
 雄一の町は、200万人が住む県庁所在地のとなり。田んぼの中にじわじわ住宅が増えてきたところで、雑木林はない。整備された自然公園みたいなものはあるが、木の実を取って食う、なんて経験はない。
 と、説明すると。
「都会のとなりか。それにしちゃ、虫や動物にくわしいみたいだねぇ」
「小さいころは周りにいっぱいいましたし、おばあちゃんが埼玉(さいたま)の秩父(ちちぶ)の方に住んでいて。それで」
「あのSL走ってるところだな?」
「そうです」
「そうかそうか。それであつかいも慣れてるんだな。さっきの由美ちゃんの虫…何て言うんだい?」
「マルカメムシです」
「カメムシか、なるほどな。そういう、〝そこにいる〟というだけできらわれるのを、不快害虫っていうんだが、むやみに殺さず大切にしたもんな。都会っ子にしちゃ立派だよ」
 立派。言われて雄一はおどろいた。虫のことで立派だと言われたのは初めてだ。それに、マルカメムシだって、ふだんなら、ふみつぶす。あんなもんクサイだけだし、カメムシ…すなわち草木のしるを吸って生きるのだ。特にコイツはマメ科によく付くので、枝豆などを農家の人が育てていると思うと、1ぴきでも少ない方がいいんじゃないか、と思うからだ。
 でも、そういう風に言われてしまうと、殺してやる、という気がだんだん無くなってくる。ちなみに、不快害虫とは、カやハエなどとちがい、ニオイや外見が気持ち悪い、ただそれだけの理由で殺される昆虫や虫たちのことである。その点で、彼らがかわいそうだ、と思う気持ちは、雄一にもある。例えばガはチョウと同じ仲間であるが、方や愛(め)でられ、方や足でふまれる。もっと言えば、同じチョウでも地味で茶色のヒメジャノメや、翅(はね)の形がパピヨン形をしていないセセリチョウなんか、ガとまちがわれてやはり足でふまれる。クモやゲジゲジも同じ。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-14-

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 そこへ佐伯運転士。
「どうかしました?ああ、出ましたか。ほぉ、雄一君はそういうのも大じょうぶなんだ」
 そう言って笑う佐伯運転士を見るや、尚子さんがササッとその背後にかくれた。
「毒はなさそうですよ」
「そういう、そういう問題じゃないです~」
 尚子さんはくちびるが真っ青である。よほどコワイと見える。
 そのまま、佐伯運転士を盾(たて)のようにして、後ずさりしながら退室。
「あらあらあら」
 佐伯運転士も引きずられ退室。
 ふすまがビターンと大きな音で閉まり、ついで、ろうかを走り出す音。
 センター長はゆっさゆっさと体をゆすって笑った。
「尚子さん、あれでも慣れた方なんだよ。ここは見た通り山里でしょ。最初のうちはね、こっちにカエル、こっちにクモって感じで、そのたびにあっちでキャー、こっちでキャー、ってね。悲鳴でどこを歩いてどこに行ったか、分かるくらいだったんだから。おっと、冷めてしまうな。座って座って。ヘビ君もいっしょだ」
 センター長は、座卓の上に、ご飯一式が乗ったお盆(ぼん)を置くと、雄一の向かい側にあぐらで座った。
 そして、その尚子さんが持ってきたカサを、座卓の上にさしかけた。
「これは?」
 雄一はたずねた。部屋の中でカサ差してご飯食べるほど、きみょうな光景はあるまい。
 オマケに、うでにはヘビがいるのだ。
「樹液が落ちるのでね」
 センター長は当たり前のように言った。
「なるほど。……あの」
 雄一は湯気立つ麦ご飯をじっと見た。
 とつぜんの、しかもマチガイ訪問なのに、ちょっと申し訳ない気もするが。
「じゃぁ、いただきます」
「はいどうぞ」
 割りばしを割る。クリ入りのたきこみご飯、おみそしるに、なめこと大根おろしの和え物、シャケの切り身。
「そのクリは山で取ったものだ。固いかも知れないが味はいいはず。なめこはセンターで育てたものだよ」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-13-

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 その座卓の下。いっしょに出てきた、
 ヒモ……じゃない。
「あ~あ~あ~!」
〝あられもない〟という表現は、こういう時使うのだろうか。こわれて勝手に水がもれる水道のじゃぐちのように、尚子さんの口から、悲鳴があふれた。
 
 
「ほお~」
 センター長が〝ヒモ〟をじっと見つめた。
 ヘビ。ただし、大蛇(だいじゃ)ではなく、その長さ雄一のうでよりも短い。赤地に黒のシマシマというか、まだらというか。
 舌をぺろぺろ。元気である。
「わかるかい?」
 センター長は雄一をふりかえった。
 種類は何か、という意味だろう。だとしたらわけない。
「ジムグリ……ですね」
「ヤマカガシでは……」
「じゃぁないですね。ヤマカガシなら赤いほうが斑点(はんてん)になりますし、アゴの下が黄色っぽいです。こいつはジムグリの幼体です」
 雄一は安心してジムグリの幼体、すなわち子どものヘビをひょいとつかんだ。ちなみに、ヤマカガシは先にも書いたが毒ヘビと考えた方がよい。雄一は経験で区別が付くので、平気でつかんだだけ。
 なれない人はまねしないこと。
 ジムグリは最初身をくねらせ、じたばた暴れたが、雄一が首の下に手をそえ、指先でなでるうち、すっかり慣れたのか、右うでにクルクルと巻き付いた。
 左手にナナフシ、右うでに幼なヘビ。
 尚子さんの悲鳴再び。
「む、む、む!へ、へ、へ!」
「虫もヘビもイヤだと」
「あ、はい」
 ナナフシは木にもどす。その間にセンター長が座卓をセット。
 問題はジムグリ。居心地がいいのか知らないが、うでに巻き付いたまま、じっとしている。
「ちょっと外へ行っても……」
 雄一はジムグリを指さして言ったが。
「ああ、まぁいいじゃないか。そのままで。尚子さん、それそこへ置いてもらえますか?」
 尚子さんは部屋に入らず、ろうかから部屋のすみにお盆を置いた。ヘビと同じ部屋にいることすらイヤ。そんな感じ。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-12-

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 ちょっと待て。
 雄一は目を窓際の一点で止めた。
 枝の根元に、すま~した顔でへばりつき、じっと身を固めている、茶色のそいつ。
「何かいるかい?」
 センター長がのぞきこむ。雄一は手をのばし、そいつをつまんだ。
 細い枝を組み合わせて作ったような、〝線状〟とでも書けばいいか、昆虫(こんちゅう)。
 ナナフシ。茶色の個体。雄一につまんで持ち上げられたせいだろう。〝私は枝です〟とばかり、胴体(どうたい)と脚をピンとつっぱって、じっとしている。
Hi380232
(〝私は枝です〟とばかり、胴体と脚をピンとつっぱって、じっとしている@ウチの娘)
 
「良く見つけたねぇ」
 センター長はニコニコ。
「本物初めて見ました……」
 雄一は手のひらにナナフシを乗せた。ナナフシは6本の脚で手のひらに立ったが、それはそれでそのまま動かない。あくまで枝のつもりなのだ。
 センター長は、手のひらのナナフシを、観察するようにじいっと見ると、上の方を見上げた。
「あそこから入ったんだな」
 見れば天井板にも一部穴が開いている。この木の枝は、そこからさらに外へ出ているということか。
「ドングリが熟すとリスも来るよ」
「リスですか……」
 すると、ろうかを歩いてくる足音。
「はいはいお待たせしました。お父さん、座卓(ざたく)出しておいて下さればいいのに」
 尚子さんである。お父さんと呼ぶからには、センター長とは親子、いや、年が近いっぽいからご夫婦なのであろう。手にした四角いおぼんには、朝ご飯一式。
 と、手首には黒い……
 雨ガサ?
「いやぁすまんすまん、ほれ、この子がこれを見つけてね」
 センター長の示した雄一の手のひらを見、尚子さんはまゆをひそめた。
「……あらヤダ動いた。何これ虫じゃない。いやいや。やめて」
「どうもうちの女神たちはダメだなぁ」
 センター長は引き続きニコニコしながら、おし入れのふすまを開け、四角い座卓を引っ張り出した。
 

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