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2018年3月

【大人向けの童話】謎行きバス-19-

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「これは私の部屋にいた……なんだっけ」
「ジムグリです」
「という毒のないヘビだ。この博士にすっかりなついてしまったらしいんだな。というわけで、今日は特別講師に来てもらった。隅除(すみよけ)小学校5年、花村雄一くんだ。みんな知っての通り、当センターには、あまり虫にくわしいスタッフがいないからね。2つとなりの県から、わざわざ来てもらった次第だよ。そしたら見ての通り、ヘビだって一発で慣れてしまった。どうだいすごいだろう?」
 へぇ~、という、なかば感心のまなざしに、子ども達が変わった。
「今日は先生に園内を好きなように歩いてもらう。みんな質問があればどんどん聞いて。先生連れ出してどこかに行ってもいいぞ」
「え?本当ですか?」
 2年か3年か、男の子が言った。パッと見たところ、「ぜひ!」という感じなのは、そのくらいの学年の子が多い。高学年の子は、あまり気が乗らないようだ。まぁ確かに、同じ学年か、ヘタしたら低学年の自分を、〝先生〟などとは呼びたくないだろう。
「ただしお昼を食べてからな。日暮れまでにきちんと帰ると約束出来るなら」
「はーい」
「はーい!」
「せんせえよろしくおねがいしま~す」
 あっという間に話が決まってしまったことに、雄一はあ然とした。オレ何も言ってないのに。
「というわけで雄一君」
 センター長がいきなり呼んだ。
「は、はい」
「任せるから、まずは君の好きなように、このしせつで虫を探して見てくれないか……ここで君ならどんな虫を探す?」
「そうですねぇ」
 雄一は考えた。野山だ。雑木林だ。まずなんと言ってもカブトクワガタ。それに、プールに住みついているという水生昆虫類も見てみたい。山すそに多いチョウの仲間もターゲットだろう、カラスアゲハにオオムラサキあたりか。
 ただ、雑木林の探検は時間をかけたい。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-18-

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「あ、はい。分かりました」
「ありがとう!いや~子ども達喜ぶなぁ」
 センター長はニコニコ。本当に喜んでいるようである。
 自分でいいのなら。雄一は少しうれしくなった。
 
 
〝木の実センター〟は、元々ここにあってつぶれたスポーツしせつを、センター長が買い取ったものだという。管理人室だった部分に、いくつか部屋をつぎ足したのがセンター長の家。しゅくはくしせつが子ども達の部屋。バスケットとバドミントンのコートがあった体育館がホール。
 庭は元々テニスコートだったそうだが、ほじくりかえして土べたの運動場に。プールは周りを土で囲んでほったらかしにしたところ、いろんな虫やカエル、さらにはイモリまで住みつくようになったとか。カエルがいればヘビが来るし、結果として、人以外の生き物の方が、数が多くなったという。
 午前9時。
 ホールの真ん中あたり、固まってワイワイしている子ども達の前に、雄一はセンター長と共に立った。人数は、ザッと見て雄一のクラスの半分くらいであろうか。幼い感じの子が多く、雄一と同じくらいの子は一人二人、6年生以上はいない感じだ。
 そして、子ども達の後ろには、運転士の佐伯さん、尚子さん、あと、お手伝いの方だろうか、割ぽう着の女性が二人。
 子ども達が自分を見てあれこれしゃべってるのがよく分かる。ちなみに、ジムグリはうでに巻きついたままだ。そりゃ、変だろう。でも、はなれてくれないんだから、どうにもしょうがない。
 ヘビのしっぽが動いた。
「うぉあのヘビ生きてるぞ!」
「信じらんねぇ!かまれるぞ」
「毒ヘビだ毒ヘビだみんな逃げろ」
 わーきゃーと大パニック。
「はいはい大じょうぶだよ」
 センター長が落ち着いた声で言い、さわぎは一発で収まった。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-17-

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 雄一は目が丸くなり、手先がビクッとふるえて、はしを落とした。
「ここは子ども達の家代わりさ」
 それを聞いて、雄一は思わずうつむいた。
「どうしたんだい?」
「ぼくそんなしせつに遊び半分で……」
「あっはっは。気にしなくていいよ。だれかウチの者が、君をじゃま者だ、と言ったかい?それにむしろ遊びに来てくれて大かんげいさ。今君が言ったような気持ちを……みんな思うのかなぁ、ウチに遊びに来てくれる子どもさんがいなくてね。そんなの、それこそ、ウチの子たちが〝かわいそう〟だよ」
 雄一は部屋のコナラのこずえの向こう、運動場で遊ぶ子ども達の姿を見た。みんなこうして見ているぶんには、〝かわいそう〟には見えない。
「それでね」
 センター長の言葉に雄一は目をもどす。
「せっかく来てくれたんだ。雄一君には今日一日、昆虫博士として特別講師をお願い出来ないかな」
 講師……それはすなわち。
「ぼくが先生、ですか?」
「そうさ。ここは見てのとおり山の中だ。虫はそれこそ山のようにいる。子ども達も虫が大好き。でも尚子さんも由美ちゃんも虫がキライでねぇ。私もある程度までは付いて行けるんだが、少しくわしいことになるとダメだし、そう毎日毎日の山を歩き回るわけにも行かなくてね。この体だし」
 センター長は見事なおなかをぽんぽんとたたいてハハハと笑った。
「君のご両親と学校には、私から電話しておく。今夜には無事にお宅までお送りするとね。9時からホールであいさつ会があるんだ。そこにいっしょに出てくれるかい?」
「何か……じゅ、授業するんですか?」
「いやいや。そんな、おぎょうぎのいいもんじゃないよ。子ども達がいろいろ聞いてくるから、つきあってやって。それだけさ」
 その程度なら。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-16-

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 なんてかわいそうな連中だろう。
「イヤなら追いはらえば済む話、殺すことはないと思うんです。人間だって、キライだというだけで殺されたら、たまりませんもん」
 雄一は言い、言いながら、結局自分のしていたことは、不快か、そうでないかの線の引き方が人とちがうだけで、不快だから殺す、そのものだったと気付いた。
「ますます感心だなぁ」
 センター長は、うんうんとばかり、大きくうなずいた。
「最近は何でも店で買えるからなぁ。虫を動くおもちゃ程度にしか思っていない。死んでも使い捨ての電池切れと変わらないんだ。そこ行くと君の虫のあつかい、接し方には、虫も同じ命を持った存在だという尊厳の意識を感じる。尊敬の気持ちを感じるよ。あ、いや、言葉が難しかったかな?要するに君は命を大切に出来る素敵な男の子だ」
「でもみんなには弱虫って言われますよ」
 あまりにほめられたせいか、そんなことない、と思う気持ちが、かくしておいたその言葉を、思わず口に出させた。
 このセンター長が、「どうせ虫」などとは、決して言わない人だと、よく分かったせいもあるだろう。
「おやどうしてだい」
 センター長は座卓の上に身を乗り出し、雄一の目をのぞきこんだ。
 ジムグリがちろっと舌を出し、ひじの内側をくすぐる。ひやりと冷たく、くすぐったい。
「実は……」
 雄一は防空壕の出来事、そして、みんながバスをこわいと思っていること。だからこのバスに乗れば弱虫と言われないと思って……と、全部話した。
「そうだったのかい」
 センター長は、にっこり。
 そして、はしの止まった雄一に食事の続行をすすめながら。
「ウチはね、いろんな事情で、学校へ行けなくなったり、家にいられなくなったり、親がいなかったり。そういう子ども達が暮らすためのしせつなんだ」
 センター長は、言った。
 

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