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2018年10月

【大人向けの童話】謎行きバス-50-

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 なさけなくてかっこ悪いと思ったにちがいない。手下達にだけは、自分の味方をしてほしかったにちがいない。
 でも、返ってきたのは、とどめさすような、きたねー。
 どうしようもなかったことを、一番身近な人間に、きたねー。
 自分がみじめで、それこそゲロかウンコにでもされたような気がしただろう。
「全部出しちゃいなさい。無理しちゃダメ、ガマンするともっと気持ち悪くなるよ……」
 気が付くと、由美さんが何らためらうことなく、しゃがみこんで、大きなヤツの背中をさすっていた。
 そしてさすりながら、まるでおこった時の母さんのような目で、後ずさった二人をにらんだ。
 こわいほどに。
「ひどい子たちだね。ピンチの時に助けるのが友達ってもんじゃないの?何があったか知らないけどさ、だれか呼びに行くとか、この子連れて行くとか。最低じゃん!あんたら気持ち悪くなったことないの?。君もこんなのと遊ぶのやめな。友達じゃないよ、こんなヤツら。……こら!見せ物じゃないよ。何も出来ないならあっち行け!」
 由美さんは〝こんなの〟と二人をあごで示した挙げ句、大声で追いはらってしまった。
「キョーボー女!」
 はなれた場所から、片方が犬みたいにほえ、自転車に乗って走って行った。
 しかし由美さんは無視した。
 ゲロをクズの葉でかくし、ティッシュで口と鼻血をぬぐい、残っていた雄一のお茶でうがいをさせる。
 雄一はそうした由美さんの動きをじっと見ていた。
 優しくて、そして、強いひと。
 センターでは一番のお姉さんのはずである。小さな弟や妹たちを……という気持ちは、さっき自分が感じたものより、何倍も大きいだろう。
 由美さんはティッシュをちぎって丸め、大きなヤツの鼻につめた。
「だれにも言ったりしないから。そのかわり、もうウチのしせつの子いじめるのやめてね。ウチの子達、君に何もしてないでしょ?あいつらみたいに君を笑い飛ばしたりしてないでしょ?」
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -17-

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「実はそこのマンションを所有しておるんだが」
 祖父は海の方を指差した。
「県外の業者で叩き売られていたのを買い取ったのだよ。販売8割賃貸2割だったかな。先を考えると畑仕事もきつくなるから、安定した収入源をと思ってね。ところが一戸も借り手が無くて」
 理絵子はその話を理解するのに少し時間を要した。
 買ったのはマンション一室ではない。マンション丸ごとだ。8割の部屋が販売用で2割が賃貸用なのだ。
「管理費用ばかり取られてはたまらない。転売しようと駅前の不動産屋に行ったら、いやあそこは誰も買いません。申し訳ないが買い取ることはできませんと。理由を聞いても言わないので近所で聞いたら…その、幽霊マンションだと」
 つながった。理絵子は思った。
「幽霊マンション?出る、ってこと?」
 優子の問いに祖父が頷く。
 もやもやするものを感じる。それは意識の動き。祖母を乗っ取ろうとしているこの者が、自分たちの話題に関心を示している。
「それでもうこれが怖がってなぁ。それからだよ、女が見てる。子どもが泣いてるとか言い出して、なんだか少しずつ壊れて行くみたいだったよ。幽霊って話があった後でそれですからね。慌てて人づての人づてで霊能者を探して……」
「あのインチキ拝み屋に引っかかったと」
 優子の言葉に祖父は頷いた。
 理絵子は祖母の顔をじっと見た。その拝み屋さんの心臓発作と同じである。祖母の“恐怖”が何かを引き込んだのだ。
「そのマンションって激しくクサイよなぁ」
 優子が言った。
 理絵子もそれは同じ。だがしかし。
「いきなり行っても、多分解決しない。それ以前に、おばあさまを放ってはおけないし」
 祖母の、いや、祖母の向こうにいる存在を見ながら理絵子は言った。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-49-

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 彼は、ニオイの元が鼻の下にあると気付いたのだろう。必死になって、手でゴシゴシぬぐった。
 だがそれは、ニオイの元を顔じゅうにぬり広げる作業そのもの。
 口がへの字になり、まゆ毛が八の字になり、顔色が青くなる。
 手足を地面についてゲホゲホ。ケンカどころではない。
 その時。
「ちょっと何してんの!」
 女の人の声。
 しかも聞き覚えのある声に目を向けると、こちらへ走ってくるセーラー服と三つ編み。
 由美さんである。帰ってきたのだ。少し早いが。
「センターの子じゃない。あ、雄一君。あ、この子らいつもセンターの子をいじめる……どうしたの?あ」
 由美さんが、地面にハイハイの大きいヤツに気付いたその時、そいつは、ゲーっとはいてしまった。
 ゲロだ。
「気持ちわりぃ……」
 かすれた声で言いながら、手下二人を見上げる。『助けてくれ』…そんなところか。
 しかし。
「うげーゲロだ」
「きたねーきたねー」
 なんと、手下の二人はそう言い、にげるようにずりずりと後ずさってしまった。
 しかも、鼻をつまんで手をパタパタという動作。
 それは文字通り〝手のひらを返すような〟。
すると。
「お前ら……なんだよぉ……」
 何ということだろう、あれだけ暴力的に見えた大きなヤツから、なみだがポロポロこぼれ始め、ついには泣き出してしまったのだ。
 しかも、小さい子みたいな、エーンエーン、という泣き方だ。それは、その大きな体で?とこっちがビックリするほど。実際、泣かせた当の本人達……手下ども……も、『まさか』という目だ。
 なぜ彼は。雄一は味方する気はないが、気持ちは分かる気がした。あのニオイではどうしようもなかっただろう。でも、ゲロするなんて一番みっともない姿だ。それを、強がっていた相手に、自分より小さな子に、さらには女の人にまで見られた。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -16-

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 布団に仰臥する白髪の女性。
 優子の祖母である。物干し中にいきなり倒れたとかで、洋服にかっぽう着姿のまま。
「どうです?」
 心配そうに祖父が尋ねる。この部屋に入り、理絵子が最初に感づいたのは、今この人の人格はここにいないということ。
 言ってみれば仰臥しているこの身体は、運転手のいない車状態。
 幽体離脱(アストラルプロジェクション)……オカルトな用語だとそうなるが、果たして。
「突然怒ったり突然泣いたりはあったんですが、今日になって突然倒れまして。医者に診せたら『過労だ』と。あなた様が来ると伺っていたので、とりあえず医者の言うとおり栄養剤点滴して寝かせておるのですが」
 拒否反応。そんな言葉が理絵子の意識に浮かんだ。自分を避けるために、自分に見つかりたくないが故に、祖母の人格を隠し、口を封じた。
 その理由。自分が攻撃するのでは、と思っているから。
 それはすなわち、別の何者かが存在し、祖母の身体を窓口に、何かアクションを起こそうとしている。
 しかも、仕返し、的なニュアンスを持った。
 とはいえ、この老夫婦が、仕返しされるような何かをしたという感じはない。仮に、そんなことをする人物であれば、一見しただけでそれと判る。
 ならば、夫婦の無意識の行動が、他の誰かには恨まれる行動だった?
「いつから、異変が始まったか、憶えてらっしゃいますか?」
 理絵子は尋ねた。敵ではない。原因を知りたいだけ……そんな気持ちで祖母の腕に触れながら。
「ゴールデンウィーク来たときは、別に変じゃ無かったと思う」
 優子が言った。
「その通りだ。6月になってからだよ。変な噂を聞いてな。それでこうなって、その……インチキ拝み屋?を呼ぶことになったんだ」
「噂?」
 ため息混じりの祖父に理絵子は問い返した。それだ、という直感。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-48-

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 そうだ!
 
 とっさの、それはまさにとっさの思いつきであった。
 雄一は手先にあるクズの葉っぱをつかみ、思いっ切り引っ張り上げた。
 複雑にからみあった、周辺一帯のクズのツルが、ごそっと持ち上がった。
 それはちょうど、食ってかかってくる3人の足元に、ロープを何本か、ピッとのばしたような形になった。
「うわっ!」
 勢いこんだ3人は、見事にクズに引っかかって転んだ。
 意表をつかれた上に、雄一がかなり高い位置までクズを持ち上げたせいもあるだろう。連中は、受け身を取れず、顔から生いしげるクズの中に落下した。3人そろって、うつぶせに地面にビターン。
「いてー」
「ちくしょー」
 両わきの手下二人が声を出す。方やアゴをすりむいて血を出し、方や必死になって、口の中に入りこんだ土どろをペッペとはき出している。
 その間に雄一は、手にしたクズをそのままさらにぐいぐい引っ張り、ぶっちぎった。
 ムチのようにブンブンふり回そうと思ったのだ。それはそれで古い映画〝インディ・ジョーンズ〟のまね。
 さぁ来やがれ。
 その時。
「ちくしょー!」
 真ん中の大きなヤツが、顔を上げ、半身を起こした。
 その鼻の下は真っ赤。
 鼻血である。起きるのにちょっと時間がかかったのはそのせいか。
 さらに鼻の下には、巨大なハナクソ……じゃない。
 マルカメムシ。
Dqm_uspvyaeptti
(マルカメムシ:Megacopta punctatissimum……撮りたくて探したわけではない)
 
 クズという草本(そうほん)はマメ科である。マメ科を好むマルカメムシは、当然、このクズにもよく来る。
「っだこりゃぁ!」
 大きなヤツは、鼻の下のマルカメムシを、そのまま指でつぶした。
 ぐちっ。
「あ……」
 何を言おうとしても手おくれだと雄一は認識した。
 見る間に、みるまに、大きいヤツの顔が変わってくる。
「なんだこれ。なんだこれ。おげ……クセェ。気持ちわりい」
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -15-

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 このマイナスの流れには意識して刃向かっていた方がよい……理絵子は自分に言い聞かせるようにそう思った。陰陽師なら結界を張って防御するところだ。
 先に立って歩く優子の祖父が、具合悪そうに咳き込む。さもありなん。
「じいちゃん大丈夫かよ」
 優子が祖父の肩に手を回す。理絵子は一緒になって祖父の身体に手で触れた。
 判る。祖父の身体から“吸い出される”作用が止まった。
「ああ、ああ、楽になったよ」
 祖父が言い、ちょっと笑顔を見せた。
「まずは荷物を置いといで」
 家の奥へ二人を連れて行く。増築したらしく、廊下は複雑に曲がっている。
 柱の色が新しい6畳間。
 部屋の中はがらんとしており、押し入れと窓があるだけ。
 窓からは海と太陽。
「ここを使ってな。お茶を淹れるから居間へおいで」
 祖父は言って歩き出そうとした。
「ちょっと待って」
 理絵子は思わず言った。
「ください」
 付け足す。
 振り返る祖父。
「一緒に行きましょう」
 理絵子は言った。確信があるのだ。自分から離れると体調を崩す。
 この“マイナス”の環境において、祖父は祖母のためにと気を張って頑張っている。だから多少体調の不調はあるが、病気などの症状は現れないのだ。
 だが、自分が来たことへの依存と、恐らくは祖母の状態悪化のせいであろう。疲労濃い表情からも判じるが、気力が萎えつつあるのだ。
 その状態で自分から離れれば、確実に“吸い出される”。しかし自分の周囲であれば、刃向かう気持ちの勢力範囲内であるから、そうはなるまい。
「何か感じるのか?」
 心配そうな優子。
「ううん、全然、ただ、おじいさま具合が悪そうだし」
 理絵子は言った。ウソの理由はこれ“全然関係ないことを考える”。このテの流れは、流れの存在を意識すると、そこに同調して入り込んでくる。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-47-

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 しかし、こいつらの場合、少々、度が過ぎるようだ。
「オレたちの山に勝手に……」
 指をパキポキ、これ見よがしに鳴らす。
 雄一はこわい、とまず感じた。心臓がばくばく音を立て、手足がガクガクとふるえ出すのが分かる。
 いつもの自分であれば、ここで背後から堀長の手がのびてきて……。
 だが今はちがう。この弟みたいな隊員達に対して、一番の年長は自分。堀長の役どころは、自分がなすべき。
 ましてや、極めてひどい言葉で傷つけられたのだ。虫好きをなじるのも、しせつにいるのをなじるのも、どっちも同じ。全然、それが正しい理由など無い。むしろその逆。
 クソッタレが、と思う。そのクソッタレが、体の中で、心臓をばくばく言わせる気持ちと、ぶつかり合う。
 雄一は、おく歯をグッとかみしめた。
 
 そうだよ。自分以外のだれが、この弟たちを守る?
 
 男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある……雄一はその言葉を思いうかべた。それは父親の持っていたマンガに出てきた宇宙海賊(かいぞく)〝キャプテン・ハーロック〟のセリフだ。あの言葉は、たった今の、この自分にこそ、ある言葉なのだろう。相手は3人。ボコボコになぐられ、けられるかも知れない。
 でも、ここで、弟たちを放ったらかして、しっぽ巻いてにげ出すことなんか、できるか。
 この弟たちの中にも、さきちゃんみたいな、ひどい経験をした子が、いるかも知れない。
 自分がにげて、またそんな目にこの子達をあわせるのか。
 それが、男のすることか。
 こいつらにクソッタレなセリフ、言いたい放題させておくのか?
 雄一は、一歩も、引かなかった。
「てめぇ!」
 3人がゲンコツをふりかざして食ってかかってきた。
 そのしゅんかん、雄一は体が反射的ににげようとしたのか、わずかに後ずさりした。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -14-

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 道の両側は畑。
「落花生だよ」
 優子は言った。
「今年も良さそうですね」
 と、運転手。ということは、桜井家の畑ということか。
 やがてタクシーは右折し、畑の中の細い砂利道をそろそろ進む。
 生け垣に囲まれた、大きな平屋の家。
 木造の倉庫。庭先にはニワトリが数羽。
 門柱の前でタクシーは止まった。
「どうも」
 運転手が笑顔で言い、ドアが開く。
 犬の吠え声。理絵子に続き、優子がお金を払わず降りてきた。
「えっ?」
「あとからこっちに請求来るから」
「はぁ……」
 運転手がタクシーを一旦バックさせ、二人に会釈し、元来た道を戻って行く。どうやら桜井家は資産家というだけではなく、この地域にそれなりに名も通っているらしい。
 玄関の引き戸がガラリと開いた
 首にタオルを巻き、顔に深いしわを刻んだ白髪の男性。
 疲れている……理絵子はまず感じた。
「じいちゃ~ん!」
 優子が言い、手を振る。
「ああ、良く来たね。そちらが……」
「霊能者のりえぼー」
「違うって。黒野理絵子と申します。初めまして」
 理絵子は立ち止まり、頭を下げて挨拶した。
 犬が吠えるのをやめる。訪問者が身内であると気付いたのだろう。ちなみに柴犬である。
「やっと思い出したかこのバカ犬が~」
 優子が犬の顔をつかみ、もみくちゃにする。
「ささ、中へ、中へ。妻は今眠っています。時々刻々状態が変わるので」
 優子の祖父は困ったように言いながら、少女たちを屋内に招いた。
「お邪魔します」
 中へ入る。
 感覚が異変を告げる。夏前の昼下がり、純日本家屋である。採光は問題ないはずだが。
 暗いのだ。闇の入り口に建っている、そんな印象を受ける。何か“吸い寄せる”ものがこの家にあり、マイナスの成分を持つものが集まり、光の進入を妨害している。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-46-

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 けいたい電話……いや、間に合うまい。大体、ここがどこなのか、どうやって説明するのだ。
「隊長~」
 半べその隊員達が雄一の背中にかくれる。自分のシャツをギュッとにぎる力の強さが、彼らのおびえぶりを物語る。
 自転車の一団は、探検隊から少しはなれた位置に自転車を止め、降り立った。
 年れい学年は自分と同じくらいだろうと雄一はふんだ。その意地悪そうな顔つきは、自分に何のかんの言ってくる、あいつらのあの表情に似ている。
「お前ら〝きのまま〟学園のヤツらだな?」
 正面にいる、一番体の大きいヤツが、そう言った。
 それはパッと聞いた限り意味不明である。が、センターの子ども達に対する、ひどい悪口であることは容易に予想がついた。
〝木の実〟に〝きのまま〟………
「今日はだれのお古かな?」
 着の身着のまま……そう言う意味だと雄一は知った。
 確かに、あれだけの子ども達だ。衣服に寄付されたものがあり、かなり古くなるまで着ているという事情はあるだろう。
 だが、それは仕方のないこと。そこをつかまえ、バカにしてけなす。
 
 卑怯(ひきょう)とはこういう事かと、雄一は知った。
 
「お前知らない顔だな」
 正面の大きいヤツが雄一を指さす。いかにも自分の体の大きさ、強さににモノを言わせ、こわがらせる、そんな感じを強く受ける。
「あ、おいこいつらカブト取ってるぜ」
 別のヤツが背後の水そうを指さした。まるで大きいヤツに言いつけてる子分か手下みたいだ。多分、こいつらはこいつらで、この大きいヤツの強さ大きさに便乗している口であろう。大きいヤツがいなければ、何もできないタイプにちがいない。
 しかし逆に言えば、何かする時は3人がかり。
「てめぇらだれの許しを…」
 3人してせまってくる。子ども達が、〝ここからこっち側はよそ者禁止〟という、なわばり意識を持つのは、良くあること。
 

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