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2018年11月

【大人向けの童話】謎行きバス-54-

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「ああ、ごめん、ごめんね。あのね」
 なみだをふきながら、由美さんはけいたい電話を取り出した。
 メールの画面。
〝みんな方法はちがう。でも、目的は全部いっしょ、生きるためです。どいつもこいつもムチャクチャ一生けんめい生きようとしてるんです。〟
 どこかで聞いたような……あれ?
「これって……」
「そう、君の大えんぜつ。センター長がメールで送ってよこしたの。だから私、君が帰る前にと思って早めに切り上げて帰ってきたわけ。君と話したくてね」
 由美さんはけいたい電話を閉じて、ポケットに入れた。
「ぼくと?」
「そう。センター長ものすごい興奮して電話してきた。これだ、これだよ、由美ちゃん見てやってよって。で、長いメールがどーん。君は、すごいね」
「すごい?そうかな」
「そう」
 由美さんは言うと、少しの間バドミントンの弟たちを見た。
 そして。
「このしせつ、5年生が一人いるけど、その上があたしなのね。大きな子がいないの。みんな、親が連れもどしに来たり、自分から出て行ったりしてね。大きいから、自分で行動できちゃうわけよ。
 でも、その後の経過は警察から教えてもらうの。聞きに行くわけじゃなくてね、警察の方からわざわざ来るの。何でだと思う?」
 雄一は首をかしげた。ただ、由美さんの悲しそうな表情から、ろくでもない答えであることは、予想がついた。
「亡くなりました。くわしい話を聞かせて下さいって」
 雄一はびくり、と体をふるわせた。
「親の虐待で手おくれ、ってのもあるけど、多いのは自殺なの。ここは自分に合わない。相性が悪いと言うかな。かといって勢いに任せて外へ出ても、受け入れてもらえないし、自分自身、そのかんきょうが受け入れられない。
 その結果、行く先がないって思うんだろうね。自分で自分殺しちゃう。センター長、大泣きするんだ……」
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -21-

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「子どもがいたずらで入り込んだのかと。でも、行ってみると誰もいないんですよ」
「ありがちだよな」
 優子が感想を述べる。確かに“心霊体験談”なんかで良くある展開。
 問題は昼日中ということ。普通、そういうのは怖さ増幅を狙って夜に出る。
「夫とおかしいと話していたら、エレベータがチーンと。電源は入れてないんですよ。でも行ってみると、確かにエレベータがドアを開けている。さすがに怖くなって退散しました。
 それからです。庭で子どもの声がした、と思うと誰もいなかったり、窓ガラスをノックするような音がして誰もいなかったり。そして」
 思い出した恐怖に、祖母の体温が下がり始めるのを、理絵子は感じ取った。
 すぐ手を握る。これで大丈夫。
「安心してください」
「あ、はい。夜中にどうしても眠れませんで手洗いに起きました。そしてドアを開けたら……いたんです。女の子が」
 その、祖母が見たという女の子の映像が、理絵子の意識に浮かぶ。強い印象を伴っているので、記憶の映像を超感覚で感知したのである。
 女の子は小学校3年生くらいであろうか。赤いミニスカートをはき、髪の毛はゴムで留めている。顔はぼやぼやしていてよく判らない。
 その子は隠れんぼで見つけられた時のように、逃げるように走り去った。
 理絵子はその印象を祖母に伝えた。
「そう、そんな感じですね。それからはもう頻繁です。女の子と男の子。男の子はもっと幼いです」
 男の子は祖母の印象では5歳くらい。鼻水を垂らしており、手も顔も服も薄汚れている。
「男の子は動かず、ただ物欲しそうにじっと見てることの方が多かったですね。座敷童みたいに、ふり向くとそこにいる。でも、見えたと思った瞬間、見えなくなる。そんな感じです」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-53-

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「なるほどね。私がその場にいたらビンタだね」
 雄一は目をむいた。
 さっきの、こわかった由美さんを思い出す。
「だって、女の子っていつかお母さんになるわけでしょ。当然どこかでおっぱいふくらんでくるわけじゃない。当たり前のことだし、本人にはどうしようも出来ないこと。それをまるで欠点みたいに言われたら傷ついて当たり前だよ。その子、恵、ちゃんだっけ?じっとがまんしてるんだと思うよ。家で一人で泣いてるかも知れない」
「やっぱり、すごくひどいこと……」
「そりゃそうよ。君だってそのうち、おちんちん毛が生えてくる。知ってるでしょ。大人のおちんちんテレビに出しちゃいけないの。あーゆーのになるんだよ。でもそれを、放送禁止!きたねー!とか言われたら、どう?」
雄一はさっきの大きなヤツを思い出した。
「さっきのあいつ……マルカメムシ手でつぶしたんだ。それで多分気持ち悪くなったんだと思う。で、ゲーってなったのに、きたないって言われた」
「それと同じよ。だから私、あの子の腰巾着(こしぎんちゃく)がきたねーって言ったのおこった。しせつの子がね。言われるんだ。似たようなことを、良くね。
 だってこの子達、私もそうだけどさ、のぞんでここに来たわけじゃない。他に行くところ無くて、ここに来たんだから。ここしかなかったんだから。それをさ……」
 由美さんはいきなり涙声になり、雄一に、がばっと、だきついた。
 だきしめられた、と言うべきか。雄一は首筋に熱いしずくがじゅっと落ちるのを感じた。
〝家で一人で泣いてるかも知れない〟……じっとがまんしているのは、他でもない由美さんもそうなのかも。
やわらかくて、温かくて、こきざみにふるえている……。
「由美さ……」
 由美さんは体をはなし、起こした。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -20-

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 理絵子は言った。すると、何者かの、独鈷杵に注目するような意識の動きあり。
 試しに独鈷杵を手に取り、視線を感じた部屋の隅の方へ向けてみる。
 ミシッ、という、大木が強風に吹かれたときのような軋み音。
 オカルトのマンガでラップ音と書かれる音である。
 そして、音と共に、注目していた連中は遠ざかった。
 これを、独鈷杵を恐れている。
「今の音それのせいか?」
 優子が訊いた。
「ううん。ちょうど柱が軋んだだけ」
 居間の方から声。ご飯だよ~。
「は~い」
 優子が答え、理絵子は独鈷杵を片手に居間に向かう。これから祖母に不思議な経験の詳しい内容を聞くので、念のために持って行くのだ。
 鉄アレイさながらにゴテっと卓上に置き、新鮮そのもののお刺身をいただく。終わってヒアリング開始。
「あのマンションにまつわるひどい話を聞いてからですね。変なものが見え始めたのは」
 祖母はうつむき加減に言った。
「相当あくどいことして地上げしたらしいです。元々古い借家が数軒建っていたのですが……」
 その借家は金儲けというより半分慈善事業的だったようである。金銭的に困難な人々に極めて安い値段で貸していたという。
 しかし、ある日突然、大家がいなくなり、がらりと変わった。
 祖父が補足する。
「又聞きなんでどこまで本当か判らないんですがね。借家は壊されマンションに変わった。でもいつまで経っても誰も入居せず、やがてバブル崩壊ほったらかし。勿体ないと思っていたら、売り出ししてるんで我々が」
「で、売れない理由は判りました。恨みを買ってるかも知れない。いやだな怖いなと思ったんですよ。でも建物の手入れは怠るわけに行きません。設備の動作を確認しに行きました。その時ですね。最初は」
 祖母が言った。部屋に入り、電灯類の動作を確認していたところ、上の部屋を子どもが走り回るような足音がしたという。
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-52-

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 ぽーっと顔がほてって来る。自分がおそらく、〝耳まで真っ赤〟なのだと、自分で分かる。
 最も、そんな事を言うつもりはなかった。本当は、やっぱり見られるのはイヤだよね、とか言いたかったのだ。なのに、思ったままが口をついて出てしまった。
「へ……」
 由美さんはしゃがんだまま、雄一を見上げて、目をぱちくり。
 雄一はそっと、由美さんに目をもどした。由美さんが、おこらなかったせいもあるだろう。
 多分、このお姉さんならちゃんと話してくれる。教えてくれる。そんな気が強くしたのだ。
 だから。
「あのね」
 雄一は言った。声がかすれる。のどがギュッとしめつけられるような感じがする。
「はい?」
「その……教えてほしいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「その、由美さんって、小学校の時とか、男子とかから、おっぱいのこととか、言われるの、やっぱり、いやだった?」
 雄一の質問に、由美さんは目をいっそう開いて、雄一の顔をじっと見返した。
「クラスでそういうことが起こってるの?」
 雄一はうなずいた。
「ぼくの近所の、小さいころからいっしょだった……幼なじみ、ってやつ?」
「……そうか。ちょっと待ってくれる?」
 由美さんは言うと、部活用であろう、スポーツバッグからバドミントンのシャトル(羽根)と、ラケット2本を取り出し、弟たちにわたした。
「使っていいよ」
 ラッキー!と、弟たちがそれを受け取り、クズのない場所まで走って行く。
「あの子たちに聞かせるには早すぎるからね。まぁ、ここ座って」
 由美さんは、ラケットのカバーをクズの上にしくと、雄一にも座るようにと、そこをぽんぽんとたたいた。
「その子、おっぱい大きいんだ」
「うん……」
 雄一はこしを下ろしながら、堀長恵が自分を助け、そしておっぱい飲ませてやれ、になる、いつものパターンを説明した。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -19-

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 理絵子は説明した。
 祖母がスイッチ入ったかの如くガバッと体を起こす。
「あら私ったらお客さんの前で失礼なことを」
 失神の時点で意識の時間が止まっていたのだろう。やっと現状認識ができたようである。慌てて居住まいを正し、布団の上で正座。
「えーっと、その……」
「黒野理絵子と申します。奥様がお倒れになったと伺ってお邪魔した次第です」
「ああ、優子の友達の霊能者の……」
「ええ、はい」
 理絵子は少しためらいながら答えた。やっぱりテレビ雑誌の霊能者と同列に見られるのにはどうにも抵抗がある。ただ、そういう概念が祖母の安心感を生むのであれば、わざわざ訂正する必要はない。
「そう、こいつはインチキじゃねーよ」
 優子が言う。自分に対し感じる依存、安心。優子の信頼。
 気づく。こういうネットワーク的につながっている心に、あーいう連中が入り込む余地はない。“絆の強さ”とはよく言ったものだと思う。
 ただ、だからといって、この家自体に存在する“吸い寄せる”感覚まで消えたわけではない。
 連中は居続けている。まだマンションに出向くには早い。
 自分がいなくなる時を狙っているのだ。
 
 
 夫婦の様子見をかねて、二人は午後をのんびりと過ごした。
 そのマンションは、6畳間の窓から見える風景の右方に建っている。12階建て。桜井家宅より海に沈む夕日を眺めるに際しては、目障りこの上ない物件である。従って逆にマンションからの眺めは最高であろう。敷地が海岸まで広がっているので、プライベートビーチを持っているという。“バブル経済”の産物。
 後ろで優子の声。
 「何お前、これ持ってきたの?」
 振り向くと優子が独鈷杵を持っている。拝み屋氏に託されたあの大型独鈷杵だ。
 「困ったときの何とやらってわけ。真言も多少は知ってるから、まぁ」
 

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【大人向けの童話】謎行きバス-51-

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 優しい声。
 きれいだ。きれいなひとだ、と雄一は思った。
 女の人を、ステキだ、と思ったのは、これがはじめて。
 なんだか心臓がドキドキしてくる。ステキな女の人……。
「まだ鼻痛い?」
 ティッシュを取りかえる。
 その動作のいっしゅん。
 由美さんの、持ち上げたうで。
 わきの下の、むこうに見える、白いレース。
 雄一はぎくり、とした。それが、「ブラジャー」と呼ばれる、おっぱいをかくすというか、おおうための下着であることは、すぐに分かった。
 おっぱい。
 堀長の顔がうかんだ。いじめるやつを追いはらう姿も、あの幼なじみの彼女につながる。
 傷つけられてるかも知れない彼女。
 何か、彼女に関して、大きな宿題をもらっている気がする。
 由美さんはティッシュを一枚、お茶でぬらして、大きなヤツの鼻の根元にぺたっとのせた(冷やすためだが、雄一はそうとは分かっていない)。
「そろそろ血が止まると思うけど、おうちに帰ったら……」
 そこで、大きなヤツはとつぜん立ち上がり、自転車を置いたまま、何も言わず走り出した。
 にげるように。
「あっ……」
 由美さんが立ち上がり、しかしそのまま追うことはなく、大きなヤツを見送る。横向きになった由美さんの向こうに太陽。
 横から見ると、かたの所からおっぱいがもりあがり、白い夏服のセーラーが、すーっときれいな曲線を作っているのが分かる。
「まぁ、何も言いたくはないか。さ、これで大じょうぶと。……んで?」
 由美さんは雄一をふりかえり、雄一がどこを見ているか気づいたようで、真っ赤になった。
「きゃぁ。なに?なに?」
 両うでで、自分をガバッとだきしめるようにして胸をかくし、しゃがみこむ。
「あ、ごめんなさい……」
 雄一はまず言った。
「その……きれいだな、って」
 そして、今度は雄一が真っ赤になって、うつむいて、言った。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -18-

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 自分は拒否されているのだ。いきなり中枢に乗り込めば、相手は激しく反応するだろう。
 それが祖母にどんな影響を与えるか。
 天使か妖精か、人格だけの存在に依頼し、直接交渉できれば早い……か?
 否、力任せに強引にやれば向こうは逃げるだけ。
 むしろ、“武力”を持たない自分の方がいいのかも知れない。
 超感覚の囁き。
「放す」
 理絵子は囁きをそのまま言葉にした。
「えっ?」
「お……」
 祖母が目を開く。
 人格が解放されたのである。そのまま“人質”に取っておくのは不利益と判断したようだ。
 この者の目的……仕返しは、桜井家を困らせること。苦難を与えること。
 なのに自分が来たことにより、優子や祖父の困惑は消滅し、依存と安心が育ち始めた。
 それではお呼びでないのである。しかも、祖母を乗っ取って自身の人格を出現させたところで、自分に発見されるだけのこと。
 そのまま祖母の人格を帰還不能にするだけの能力もない。しょせん憑きもの。恐怖で縮こまった心を羽交い締めにできる程度。
 憑きもの。その概念に理絵子は納得した。大した力を持たないことは、自分を怖がっていることからも明らかだ。判明してしまえば何のことはない。
「蛇とか狐とか呼ばれるものですね」
 理絵子は言った。霊的愉快犯、それがこの昏睡事件の犯人であると納得が行く。但し本質ではなく、マンション幽霊とも関係ない。本来無関係な“意識だけの存在”が、恐怖する心を見つけ、つけ込んできたのだ。祖母の人格を活動不能にし、祖父や桜井家の困る様子を楽しんでいただけ。
「といっても、本当にそうした動物の幽霊が、というのではありません。人の気持ちの断片です。つまり、過去に誰かの心から放たれた、憎しみとか、怒りとか、妬みとか、そういう感情が、そういう感情だけの人格に成長したものです。憎しみだけの幽霊、怒りだけの幽霊、そんなのが、おばあさまの心を乗っ取った、そうお考えください」
 

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