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2019年2月

【理絵子の夜話】見つからないまま -34-

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 大蛇の意識を読む。
 守護者としての目的意識。裏切り者に対する怒りの意識。
 どうもこの者は、誰かの、“子供たちを守りたい”という意識に応じて出現しており、接近する者を排除する守護者として、ここに居着いているようである。そして、手先として、このクモをはじめ、多くの魑魅魍魎たちをここに引き寄せた。
 幽霊マンションの幽霊たるゆえんである。
-その裏切り者をこっちへ引き渡せ。……大蛇の意識が怒りを帯びる。
 指先のクモが再び脚を振る。
 理絵子は気付く。誰かがいる。
-こっちを見るな襲われる。……鋭い制止の意志。
 その意志で、理絵子はその人が誰か知った。
 それこそ、ろくろ首なる女性である。生前の名は「はな」。
-それを呼び寄せたのは私だよ。ごめんね……はなさんの意志は語った。
「おはなさん!」
 理絵子は蛇を見たまま声を発した。
 蛇が注目をわずかに理絵子から離す。
 その瞬間。
 理絵子の指先からクモが跳躍する。
 見る間に、蛇を捕らえるに充分な巨大グモへと変化し、蛇に挑みかかる。
 蛇が牙を剥く。
 その牙めがけ、クモが尾部から糸を吹き付ける。
 巨大な妖怪同士の格闘。巨体がのたうち、長い脚が入り乱れ、白い糸が乱舞する。但し音はなく、能力のないものには風を感じるだけで見えることはない。
-今のうちに。
 はなさんは言い、理絵子に行き先を示した。
 このホールの海岸方向、廊下の先端、ドアを抜けて前庭。
 理絵子が優子の手を引き、二人して廊下を走る。はなさんの姿は見えないが、確かにそこにいる。
 ガラスのドアに行き着く。石でもぶつけられたか割れているが、こぶし大であり、人は通れない。
 カギを出すため懐中電灯をつける。
 その瞬間。
「うわっ!」
 夥しい数の小さく跳ねるものが、天井からバラバラ落ちてくる。
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -33-

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 何か落ちてくる。
 光の届かない高い位置から何か落ちてくる。
 さほど大きくはない。手のひらから少しはみ出す程度。
 形が見えてくる。小さな人のような感じ。
 人形。
 バタッと床に落ちる。赤いスカートを穿いているので、女の子の人形と判る。
 但し首はない。
「悪趣味極まりないな」
 優子が言う。理絵子の指先でクモが小さな脚を振る。
 何か訴えている。
 後ろ?
 振り返る。
「消して」
 優子が懐中電灯を消した。
 大蛇。
「すげー」
 優子が言う。この吹き抜けホールにまるで合わせたように、下から上までくねくねと身を立ち上らせ、壁に張り付いている大蛇。
 二人に姿を見られるや、大蛇はコブラよろしく口を開き、牙を剥いて飛びかかってきた。本当は理絵子たちが人形に気を取られているうちに襲う計画だったようだ。見抜かれた悔しさを強く感じる。
 しかし理絵子は動くことも、防御することもなかった。
 大蛇が意図する自分たちを“殺す”ことは、できはしないから。
 死が虚無そのものではなく、肉体を失うだけの現象に過ぎないことは、他ならぬこの者たちの存在が証明している。
 それで死を意識させ、怖がらせることなど無意味。
 それに、殺せるほどの力があるなら、昼日中でもできること。
 大蛇の牙が理絵子の顔をかすめ、行き過ぎる。
 一瞬の風。翻る髪。鋭い痛み。
 滴が頬を伝う感触。見ずとも判る。自分の血である。
「りえぼー……」
「かまいたちの実例ってわけ」
 理絵子はハンカチを頬に当て、後ろを向いた。床にとぐろし、首の部分を立ち上げて見下ろす巨蛇。
 妖怪変化そのものであると知る。ろくろ首なる女性にはまだ人の部分が残っていた。
 しかしこれは違う。もう、人であった部分はどこにも残っていない。怨念の権化。
 しばし対峙する。お互い相手を力任せにどうにかする能力はない。しかし引き下がる気もまたない。
Dyi0inivaaa9_ey
(アオダイショウの子供)
 

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【理絵子の夜話】見つからないまま -32-

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 生き物たちが、カサコソ耳で聞こえる音を立て、ドアへ集まる。
「不気味な音の仕組みはこういうことか」
「そう、多分にわざとね」
 理絵子はドアノブに手をかけた。
 と、上からぬっと降りてくる顔より大きな黒いクモ。
 不自然に細長く伸びた8本の脚には、見て判るほど太い毛がびっしりと生えている。
 醜悪そのものの外観。
 クモが顔をもたげる。金色に光る8個の目。むき出された2本の牙。
 曰く、ここより先に行くな。
「案内してよ」
 理絵子はクモの意識と全く逆のことを言った。
「ムダだと判ってるでしょ。どうせ私は見つけるよ。別に君のことどうにかしようとは思っていない」
 理絵子は言うと、クモの背中に触れた。ひやりと冷たく、硬い毛がゴワゴワ。
 敵意は無い。映像が訪れ、過去が見える。大切なものを守ろうとして果たせなかった“無念”の残骸。
「大丈夫、ここで私を行かせても君の失態にはならないし、君が思うような裏切りにも当たらない」
 理絵子は言った。14歳の女の子が、自分の顔より大きな毛むくじゃらのクモを撫でている。それは、見える者には不気味な光景であるし、見えなければ、暗闇でドアに向かって独り言を言っているわけで、それもまた異様な光景である。
 クモから警戒の意識が消えた。
 と、同時に、異様な太い体毛が消え、巨大な姿もみるみる縮んで行く。
「点けてみて」
 理絵子は言った。懐中電灯が照らし出したのは、ドアに巣を張る小さなクモ。
「ごめんねありがとう」
 理絵子は言うと、クモを指先に載せ、巣を払った。
 ドアを開ける。油切れのギイという音がエントランスホールに響く。
 その響き方から相当広い空間だと判じる。ただ、奥行きはさほどでもないので、高さ方向に広いのだろう。案の定、懐中電灯を上に向けると、最上階まで吹き抜け。
 

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3月からの水曜0時

「謎行きバス」終わりましては久々の「魔法少女レムリアシリーズ」

転入生担当係(但し、魔法使い)

を始めます。但し、まだ本体が未完なので、2週間に一度くらいのペースになるかと。まぁ、ゆっくりやらせてちょーす。3月6日開始。

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【理絵子の夜話】見つからないまま -31-

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 その集まるメカニズムは、桜井家の雰囲気変化と同じ。
 中に入ろう。理絵子がそういう意志を示しただけで、壁で押してくるような拒絶反応。
 と、同時に、前方からゆるやかに吹いてくる、驚くほど冷たい気流。
 理絵子は優子の手を握った。
 それは拒絶反応が起こした風。
「幽霊出るときの風は拒否の意識なんだな」
「この場合はね。全部同じじゃない」
「なるほど」
 優子が頷きながら、玄関ホールの脇、管理人室のドアにカギを差し込む。むやみやたらにギシギシ言い、力任せに回すと、ガチャン、と、びっくりする程大きな音で解錠される。
 ドアノブを回し、ドアパネルを体重掛けて押し開く。歯に亀裂が入るようなひどい音。
 それでもどうにか人間が通れる隙間を確保。暗闇に向かい、懐中電灯をスイッチオン。
 が、ランプの明るさほど室内は明るくならない。かろうじて、室内に事務机があるのが判る程度。
 中に入る。室内の什器は唯一その事務机。蛍光灯は灯具だけで蛍光管は入っていない。壁にも何もなく、がらんどう。
 しかし。
「消してみて」
 理絵子は言った。
「え?あ、うん」
 優子が懐中電灯のスイッチを切る。
 理絵子は、自分が心で見ている光景を、そのまま優子に流した。
「すげ……」
 優子が絶句する。それは部屋中の壁に床に天井に、隙間無くびっしりと張り付いた、人が嫌うとされる生き物の数々。
 ワニかトカゲのような爬虫類。クモやムカデを思わせる節足動物。
 ガチャガチャ音が聞こえるほどに動き回っている。テレビでよく見る東京渋谷のスクランブル交差点のよう。あの数多の人間を全てキモチワルイ生き物に置き換えた。
「わざわざ、こういう姿でいるわけ。怖がらせるために」
 理絵子は言うと、事務机の脇を通って、マンション内部へと通じるドアへと歩いた。
 

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