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2019年7月

【理絵子の夜話】圏外 -13-

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 バスは川べりの橋の前に止まった。橋のたもとには、“旅荘塙に行くには橋を渡れ”旨、看板が立っている。バス通りとはここでお別れ。
「ありがとうございました。とっても楽しいバス旅でした」
 理絵子は紙幣を手渡しながら言った。距離と人数があるので、結構な額になり、料金箱に紙幣はNG。
「こちらこそ。久々に面白かったよ。帰りも会社に連絡くれれば、当日の担当にココに止めるよう言うよ。あーこんなにいらない」
 運転手は500円返してよこした。
「え?」
「君たちは100円の回数券を5冊買いました」
 1冊当たり1枚分、すなわち100円サービス。5冊で500円サービス。
「どうもすいません」
「いいえ。良かったらオバケ情報教えてね。会社のホームページからメール出せるようになってるから」
「は~い」
 バスが走り去る。手を振る彼女たちに、運転手はクラクションを2回鳴らして応え、カーブの向こうに消えた。
 静かになる。橋の下のせせらぎだけ。
「さすがに涼しいね」
「これだけ山奥だとね」
「あとどのくらい?」
 理絵子は田島に訊いた。
「歩くと10分くらいかな。いつもは車で来るから見当つかない」
「まぁ10分ならいいか」
「出発~」
 川を渡ると車一台やっと通れる道である。アスファルトもひび割れてボコボコであり、もう何年も修復していないのが一目瞭然である。両側から樹木が覆い被さり、木のトンネル状態。
「確か“赤毛のアン”にこんなシーンがあった気が…」
 竹下のその台詞に、そばかす娘の中井がすかさず反応する。
 道の真ん中に立って。
「まぁ、なんて素敵なのかしら。私、ここに名前を付けたわ」
「現実はそう素敵でもなかったり……」
 中井の台詞を今里が遮った。
 立ち止まって行く手を指差す。道路を横切るロープ。
 否、ロープ状の生命体。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -11-

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「ごめん、諏訪君を窓際へ。救助を来させる」
 この言葉に反応した級友があった。
 去る3月、遠足で訪れた遊園地で首記した“救助”を目の当たりにした、同じ班だった娘達だ。
「姫ちゃん、救助って」
「お察しの通り。保健室で救急車待つとかまだるこしい。……その黒板の文字が何なのか後で聞かせて」
 “その”を顎をくいっと傾けて示した刹那、テレパス一閃。
-レムリア!大丈夫ですか!状況は把握しました。船を下ろします。
 その女(ひと)は、名……コールサインをセレネという。
「はい。お願いします」
 声に出すが、出す必要は本来ない。ただ、変化が起きるという予告のためだ。
 ドアが開いて担任の気配。
「ケンカと聞きました。どうし……」
 瞠目したままその動きが止まった。
 突如、轟と唸って風が舞い、教室の中を吹き抜けていろんな物をバサバサと飛ばす。
 突如の暴風は悲鳴と恐怖を惹起する。窓から逃れる、焦って転ぶ級友も。
 その風を吹き出す正体。窓の外に浮かぶ船体。
 超高速救助ボランティア“アルゴ・ムーンライト・プロジェクト”が所有する飛行帆船アルゴ号。
 風圧で中空に静止する。伴う暴風である。薄茶色の船体側壁が接近し、甲板高さが窓に合わされ。
 大男が歩いてきて、大ぶりな木の板……生徒である彼らは跳び箱で使うジャンプ板を思い出した……を船体と窓枠の間に渡した。
 金髪碧眼で、やや紅潮させたようにも見える顔色の男がニヤッと笑う。
 コールサインを“アリスタルコス”。
「どうした」という英語。
「友人が喘息で強い発作を起こした。病院へ行く」
 レムリアは諏訪君をおんぶする動作をしながら言った。風に向かう短い髪が暴れ放題。
「待った。この……船に運べばいいんだな」
 背後からのそれは平沢。
「ええそう」
「任してくれ……なんかすげえな。映画みたいな」
 平沢が諏訪君をおぶって、風圧に目を細めながら窓際へ歩く。
 大男アリスタルコスがしゃがんで諏訪君を抱え上げる。
「身体を寝かさないように。腫れた気道が潰れるから」
「オーケイ」
 片腕で抱きかかえ、レムリアが乗り込むのを待ち、空いた手で教室に渡した板を外す。
「どこへ……」
 平沢が尋ねる。この状況でそれしか言葉が見つからなかった。そんな感じ。
「諏訪君が入院してた福島の病院。ありがとう。離れて。また暴風が吹きます。副長乗船しました。発進願います」
 この間にアリスタルコスが耳栓装置PSCの新しい物をレムリアに渡した。
『了解』
 セレネから声があり、ピン、と耳に甲高い電子音。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -12-

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 閑話休題。実際、バスの行く手はそこから上り坂がきつくなり、道も狭く、カーブも急になった。
 軽薄そのものだった運転手だが、ハンドルさばきとギアチェンジを間断なく要求される区間とあって、顔つきが厳しくなった。前方に、そしてミラーに気を配り、バスを進めて行く。プロフェッショナルそのものである。
「こーゆーの見ちゃうとクラスの男子達ってガキだよね」
「エロさとタッパ(身長)だけはオトナだけどね」
「エロい。ほんっとエロい。イヤになるくらいエロい。死ねって位エロい。尻と乳ばっか見てんじゃねーよおめーら、みたいな」
「でもオヤジに聞いたらさ、その歳でエロくなかったらそれはそれで問題だと。男性本能が目覚めていないか欠如しておると」
「腐女子大好物か」
 田島が内股の姿勢を取り、右手の甲を左の頬に添えた。
「うん。でもってエロいはエロいで基本的に頭の中そればっかなんだって。だから、中学生で純粋な恋愛なんか無いものと思えと。『男子本懐の男子本懐たるは押し倒せ』」
「言い切り?」
「すごいオヤジさんだな」
「現にオレもそうだったと。いかに言葉巧みに誘い出して押し倒すか、そればかり考えていたってさ。だけど女の子は見透かすなぁとも」
「しかしそうすると何、中学生の男の子ってエロゲバか腐女子好物のどっちかってこと?」
「それで、『男女交際は二人きりにならないように』と生徒手帳にもございますわけですな」
「幻滅してきた」
 口さがない会話に理絵子は苦笑した。おたく少年土崎がエロゲバや腐女子大好物系には見えないし、別の男の子は、詩人の感性なのだろう、“風の音が聞こえるか?”と理絵子に訊いてきたことがある。男子すなわちエロゲバか腐女子大好物系と決めつけてしまうのは正直どうかと思う。
 運転手が咳払い。
「コホン。ハタチ過ぎて現役エロゲバよりご案内申し上げます。このバスは間もなく“旅荘塙(はなわ)”前に停車します。荷物は忘れても良いですが、運賃はしっかりと徴収しますのでご用意ください」
「はーい」(8人一斉)

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -11-

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 ちょっとした広いスペースでバスは5分停車となった。スペースの中心に“乗り換えターミナル”と看板があり、別路線のバスの到着待ちとか。とはいえ、名前こそターミナルだが、バス停一つ、屋根付きの待合室一つ、自動販売機1台。仮設トイレ1機。以上。
 女の子達が柔軟体操などしている間、運転手は寝ころんでバスの床下に潜り込んだ。そして、カナヅチでトンカンして再度調べた後、納得の表情で出てきた。
「問題ないわ、石踏んで、石は川に落ちたってとこだろ」
「爆弾はなかったわけだ」
 竹下が言った。随分前、バスに取り付けられた爆弾を、ヒーローがこのように潜り込んで外すという映画があった。車輪付き台車に寝そべって、走りながら。
 運転手は自販機でペットボトルを2本買った。
 炭酸飲料を彼女たちに投げてよこす。
「はい、迷惑代。悪いけど安月給なんでみんなで回し飲みしてくれ」
「おーし。酒盛りするぞ野郎共!」
「お~!」
「プハ~。夏はコレだね」
「くぼっちリアルすぎるんだけど」
「大丈夫、ハタチになったらスパッとやめるから」
「逆!」(7人一斉)
 と、そこでバスの中から無線の声。
「おっ?」
 運転手がバスに戻り、何やら喋る。
「出るよ」
 運転手はドアから顔を出して言った。
「隣町でイノシシが走り回ってて交通規制なんだと。客もいないし先に行けと」
 要するに待ち合わせている乗り換えバスが動けないのだ。こっちから乗り換える客は当然なく、従ってそのバスの到着を待つ必要はない。
「は~い」
「しかしなんか路線バス乗ってますって感じじゃないよね」
「知り合いの兄ちゃんとどっか行く、みたいな」
「ヘルシンキ症候群だっけ。立てこもり犯を怖がるあまり、好きになっちゃうっていう」
「ストックホルム症候群。映画で見た」
「オレは誘拐犯か?」
「コーラ1本で女子中学生は釣れねーべよ」
「わたし、黄色いケースに入ってるバッグ買ってくれたら、考えてもいい。それなら、もし、おつきあいがダメになっても、ネットオークションに出せば、現金になるじゃない?」
「それってエンコーと大差ないんじゃ…」
「オトナが中学生とおつきあいするとインコーでタイホだよ」
 運転手が笑う。
「ガキは勘弁。高校生なら考えてもいいけどな」
「あ、聞いてしまった。理絵子のお父さんって確か…」
「警視庁組織犯罪対策部、世間で言うところの“マル暴”におりますが何か?」
「……間もなく発車します。この先カーブが多いため、お立ちのお客様はお座りになるか、握り手等におつかまり下さい。なお、わたくしは警察につかまりたくはありません」
「おかしい、スマホの録音機能いつスタートしてたんだろう」
「わーっ!」
 運転手の負け。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -10-

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 “福島のピカ”
 黒板に大書きされたその文字を、レムリアは理解出来なかった。
 ただ、諏訪君に対する最大限の揶揄であることはすぐ判った。
 なぜなら。
「あ……あ……」
 諏訪君が浅く短く呼吸し、咳き込みはじめたからである。喘息の発作だ。

・喘息で呼吸困難等の「発作」を起こした時の対処
1.医師から処方された所定の薬があればそれを使う
2.壁にもたれさせるなど楽に呼吸がしやすい姿勢をとる
3.学校なら保健室、一般的には病院へ
4.チアノーゼや意識混濁は危険兆候。1.2.3.全て実施
5.何か飲める状態であれば紅茶がよい

「薬は?発作に備えた薬は持ってないの?」
 訊くも、彼は目が中空の一点に止まって小刻みに震え、恐らく聞こえていない。
「誰か保健室へ走って!。運ぶから手伝って!」
 カバン放り出して叫ぶ。が、みんな自分たちを遠巻きに見るだけで何らアクションを起こさない。
 レムリアは眉根を吊り上げた。
「……彼を殺す気!?」
 とりあえず腰を下ろさせようとする。が、彼は小柄とは言え男の子である。しかも発作によって身体はこわばっており、少女の力では無理がある。
 そこへ。
「相原さんどうした?大声が聞こえたけど」
 平沢であった。
「諏訪君が発作起こした。悪いけど保……」
 諏訪君が空気嚙むように口を動かし、その口元に持って行こうとする手指に紫色の変色。
 チアノーゼである。こうなると保健室では手に負えない。救急車を呼んで処置を待つとかもどかしい。
 最速の手段は一つ。
 ウェストポーチに手を伸ばす。取り出したのは一見、白銀色の耳栓。
 中身は無線機。しかも“人体に装着していては起こりえない変化を捉えると緊急信号を飛ばす”。
 その機能を使おうというのである。窓から投げ捨てればよい。突然の速度と高度変化。異常の条件を満たす。
 問題は自分の力で外まで投げられるか。投げると言えば日本へ越す前、フィアンセがアムステルダムに来た際、暴漢へリンゴを投げつけた姿が印象深い。野球の投法。
 野球。
 レムリアは平沢の意識にアクセスした。
 テレパシーである。この種の力を彼女は使いこなす。
 彼の意識にある遠投フォームをなぞり、真似する。振りかぶって、足を上げ。
 開いてる窓に向いて。
 屋外へ投げる。
 指先がブンと音を立て、血が集まって痛くなり。
 そして耳栓……正式名称PSC(Psychology-direct-reflection Synchronization Control-unit)はシュッと風切り音を立てて指先から発射され、春風の校庭へすっ飛んで行った。
 運動エネルギを乗じた円弧の一部を成すように舞い踊る髪の毛とスカートの裾。
「すげぇ……」
 呆然と言ったのは他ならぬ平沢。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -10-

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 理絵子の台詞のこの後は、書いてしまってはつまらないので書かない。興味ある方は調べて入手して頂きたい。ちなみに、優子とは理絵子のクラスメートにして友人の桜井優子(さくらいゆうこ)である。風体動作いずれもいわゆる“不良少女”であり、留年の2年生であることから、クラスでは疎外されている。しかし、であるがゆえに、理絵子は彼女と懇意にしている。マックスコーヒーは、優子の親戚が千葉に住んでいることに伴う。なお、あらかじめ申し上げておくが、本編に彼女は登場しない。
「綾が気に入ったって言うから半ダース上げました。で、今日ペットに入れて持ってきたと。綾、ちょっと大倉に飲ませてあげて」
「味確認するだけだよ」
 田島がペットボトルを差し出す。ゴクゴク飲まれないかと目を光らせながら。
 運転手が戻ってきた。
「今、『ぬお~』って断末魔のマンモスみたいな声が聞こえたけど」
「いえ、かわいいナウマン象の雄叫びです」
 大倉が応じる。ぬお~の当事者は彼女である。
「……なるほどマックスだわ。あんたが好きな理由、よく判る」
 大倉は驚愕の目でペットボトルを田島に戻した。
 運転手は無線で何か会社と話しをしている。
「あと1ダースあるわけです。消費が進まないわけです」
 理絵子は言った。
「え?だったらちょうだいよ~」
 と、田島。
「ダメです。理由を説明します。スマホをお開き下さい」
「え?あ、うん」
 理絵子に言われて、田島はポケットから取り出した。
「便利機能のメニューに電卓があるでしょ」
「……うん」
「体重の数値を入れるべし」
「え?あう」
 田島は数字が見えないように、手で隠しながら入力した。
「入れたよ。で?」
「身長何センチ?」
「155」
「では体重を1.55で割りましょう」
「割った」
「もう一回1.55で割りましょう」
「……割ったよ」
「25以上ならあなたはへこまなくてはなりません」
「何で?」
 そこで運転手が無線のマイクを所定に戻す。無線通信は終わったようだ。
 そして振り向きざま一言。
「肥満。だな。BMI25」
「びーえむあい?」
「走りそうな……」
 運転手は首を左右に振りながら続けて、
「そりゃBMW。BMIってのはボディ・マス・インデックス指数と言ってね。体重を身長で割ってるわけでしょ。答えの数字が大きいほど、身長の割に体重がでかいことになる。25以上なら肥満。会社でも24以下にせぇ言われてるからね。太い奴が乗るとそれだけ燃料を食うからって。我ながらせこい会社だよ」
 果たして田島は通路に座り込んだ。
「えーえーどうせ燃料消費少女ですよ。いいんだ。私なんか夕暮れの材木座(ざいもくざ)に裸足で座って、サーファー眺めながらひとりマックスコーヒー飲んでればいいんだ。彼氏も出来ず、みんなにデブデブと後ろ指を刺され、ほめられもせず、苦にもされず、サウイフモノニ、ワタシハナリタヒ」
 いじいじと通路に“の”の字を書く。ちなみに彼女が援用したのは、言うまでもなく宮澤賢治の“雨ニモ負ケズ”である。
「賢治は太ってません。むしろ1日に玄米4合と味噌と少しの野菜の食事を貴女にお勧めします」
「なんでいきなり湘南の海辺で千葉のコーヒー飲む設定なわけよ」
「そっちの方だと“マイコーヒー”ってのがあるらしいですよ。マックスとの対決をネットで見た気が……」
 若井が言った。
「はいはい発車しますから、ばばっちい椅子に座って下さいな」
 運転手がエンジンを掛けた。
「結局何だったんですか?」
「それが判らん。石もないし道に凹みもない。見て回った限り異常なしなんだよ。それでちょっと会社に指示をね。リコールとか車の欠陥でもなさそうだ。まぁいかんせん中古だからね。動かすよ」
 バスが走り出す。別段異常はないようだ。でも理絵子は心理的に引っかかった。
 心霊ネタを喋っている時に、起こったからだ。

(つづく)

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