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2019年8月

【理絵子の夜話】圏外 -18-

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 理絵子の超絶の感覚が、敵意と拒否の心理を背後に捉える。理絵子は女将さんと共に、しかし女将さんより一瞬早く、その方向を振り向いた。
「また覗きに来おったか!」
“老婆一喝”とでも書こうか、しわがれ、ささくれだった老いた女声が、彼女たちのポップで華やかな雰囲気を一変させた。
 少女達がびくりと身体を動かし、声の主を見る。
 その白装束は理絵子の語彙では“浴衣”と変換された。和装の白い寝間着に身を包んだ老女。
 乱れた白髪に目は血走り、形相は般若を思わせる。その姿は失礼ながら“鬼女”と表現したくなる。
「おばあちゃん……」
「何が“肝試し”だ。何も知らないよそ者が汚し(けがし)に来おって……」
 困惑する女将さんの声を遮り、老女が罵る。
「罰当たりめ。お前ら……」
「きゅうきゅうにょりつりょう」
 理絵子が呟いたフレーズが、老女から流れ出る罵倒の語をせき止めた。
 陰陽師扱う真言(呪文)である。
 理絵子はこの辺りの知識を有する。彼女が幼い頃の話になる。“見えないものが見える”彼女の能力の正体を見抜いたのは、小学校の遠足で訪れた東京郊外、高尾山(たかおさん)に集う修験者(しゅげんじゃ)であった。修験者は彼女にその能力の何たるかを説き、“力持ちたる者の心構え”を教えた。そして、“力持つがゆえに狙われる”として、身を守る術をも伝えたのである。
 要するに理絵子は真言密教のレクチャーを一通り受けている。関連で密教由来の多い陰陽道の呪文も把握した。これは扱うもの(超自然のエネルギー)が同一であること。及び、日本国内に併存し、相互に影響し合っていることから、持っていて損はないと判断したためだ。
 果たして理絵子を見る老女の目が一変した。髪の毛逆立たんばかりの勢いは失せ、毒気を抜かれた表情で理絵子を見る。理絵子の一言は、“素人の遊び半分ではない”というサインになったのである。
「この辺りに悲しい言い伝えがあるらしいことは、ここに来る道すがら聞きました。私たちの目的はそれではありません。でも、滞在中の私たちが、禁忌に触れる行動を取ったり、行ってはいけない場所に間違って行ってしまわないとも限りません。よろしかったら、何があったのか、そして何をしてはいけないのか、教えて頂けますか?」
 理絵子は言った。女将さんが驚きの目で自分を見ていることが判る。今この時、自分の言動以上に的確な応対は無かったと知る。
 そしてやはり、タブーが存在したことも。
「いいだろう」
 老女は、言った。
「じゃぁおばあちゃんここへ…」
 女将さんが立ち上がり、席を譲ろうとする。
「いいよ。それほど長くない」
 老女は言い、立ったまま、話し始めた。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -17-

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 寝転がって訊いたのは窪川。
「圏外だよ」
「あ~じゃあ全滅だぁ」
 曰く、8人は電話会社も電波方式もバラバラだが、どれも圏外。
「だったら電池切っておいて方がいいよ。圏外の方が電池食うんだって」
 理絵子は言い、率先して切った。圏外だと、電話は電波を最大出力にし、接続可能な地上局を探す。従って、電波が繋がっている時より電力を食う。
 張り込みの多い父親から聞いた知恵だ。
「あ~あ。阪神速報見れない」
「何しに来たのキミは」
 と、階下で女将さんが柏手のように手をパンパン。
「姫君達、酒まんじゅう食べるかい?」
 ぐでっとしていた姫君達は瞬時に身体を起こした。
「はいっ!」(8人一斉)
「じゃあおいで」
「はいっ!」(同上)
 昇る時の3倍くらいの速度で階段を下りて行く。建物がビリビリ振動したが、彼女たちの名誉のために仔細な描写は控える。なお、酒まんじゅうは、この地方ではポピュラーなおやつである。
 食堂へ入る。テーブルに文字通りてんこ盛りにまんじゅうが積み上げられ、グラスに入った麦茶が用意されている。
 甘酒のそれに似たいい匂い。
「おいしそう~」
「朝がおにぎり一個じゃね」
「いただきま~す」
 どうぞと言われる前にぱくつく。この年頃の少女達に“しおらしさ”は無縁である。
「さてと。え~部長さんはどなた?」
 女将さんが訊いた。理絵子はまんじゅうをくわえたまま、右手を小さく挙げた。その仕草は可愛らしく、写真に撮っておけば絵になるだろうが、彼女は怒るだろう。
「一応お約束だからね。宿帳に学校名と代表者の名前を」
「ふぁい」(食べながら)。
「合宿だって?」
「ええ、物語を一つ作るんです」(飲み込んだ)
「あら素敵。どんなお話?」
「それがこれからなんです」
 宿帳に書きながら、理絵子は苦笑した。彼女が用意していたストーリーは純愛ものだが、バス内の会話のおかげですっかりその気は失せた。
 エロゲバだ腐女子大好物だというフレーズが頭に残った状態で、夕暮れの横浜港で初恋が……でもあるまい。
 その時。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -13-

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 女性の声。諏訪君が背中でぴくりと動き、主治医だったと判ずる。
『担当医師の小倉です。今どちらにお見えですか?』
「病院の真上です。降ります」
『はい。こちらも用意を……真上!?』
「ヘリコプターみたいなもんです。お願いします」
 答えながらPSCのボタンを押す。これは船内通知用。許可が出たので下ろして。
 セレネが答える。
『了解。屋上ヘリポート位置に降下……しますが、人がいます。滑空モードで降下します』
「構いません。滑空モードで」
 滑空モード。レムリアはカメラ画像で屋上を見やった。車いすの子供さんとそれを押す付き添いの大人。
 この船は国際レベルの機密だが、暴風は出せない。クローキング……すなわち光学迷彩で姿を隠す機能は持つが、滑空に必要な気流を遮断してしまう。
 仕方がない。
 甲板の前中後、3本配されたマストの帆を広げて風をはらむ。
 水平に近い角度まで広げて船は空を滑る。1回旋回し、応じて影が屋上を横切り、屋上の二人が見上げる。
 驚愕に極限まで見開かれた瞳。
 船はわずかな音を立てて船底を病院屋上に付ける。帆を畳んで、船体の側面、海行く船なら喫水線の下に来る位置にある扉がスライドして開く。
 金髪碧眼の大男におんぶされた男の子、その傍らに酸素ボンベとショルダーバッグを下げた女の子。
「驚かせてしまって申し訳ありません。小倉先生の了解をいただいて諏訪利一郎の診察に伺いました」
 テレパスが感知する。屋上に出る扉が開く。
 車いすと付き添いの二人が呆然としているその奥、小屋のような部分で鉄の扉がギイと開いた。
 風に揺れる桜色の着衣。結んだ髪が背後を流れる。
「信じられない」
「喘息の発作を起こしチアノーゼを呈しました。今はこれの“機動衛生ユニット”の呼吸器を付けています」
 レムリアは大男と主に歩み寄りながら、これ……背後の船を指さした。なお、“機動衛生ユニット”は自衛隊が所有している航空機搭載型のミニ病院である。分かり易いと思いそう言っただけ。アルゴ号の場合“生命保持ユニット”と呼ぶ。
「あと、お願い出来ますか?」
 半ば呆然としている小倉医師の目を見ながら、レムリアは言った。
「え。あ、はいはい。こちらへ」
 スイッチが復帰したように小倉医師が身体の向きを反転させる。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -16-

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 理絵子ははぐらかすようにポケットに手を伸ばした。女将さんが“御札に気付いた自分”に、敏感に反応したことがよく判った。アンタッチャブル、ということだろうか。
 とはいえ、到着の連絡を入れる必要があるのは確かである。折りたたまれたケータイをぱかっと開く。
“圏外”。この山奥では仕方がないか。
「あ、ここは携帯電話だめよ。その電話使って」
「あ、はい。お邪魔します」
 靴を脱ぎ、女将さんに渡し、上がり込む。
 すうっと温度が下がるのを感じる。“御札”より奥へ入ったからだ。
“涼しい領域”がこの宿…家の中に構築されていることが判る。ついでに言うと、涼しい領域は、この宿を囲む形で存在しているようだ。知識として、まず間違いなく、お札は五芒星(ペンタグラム)を描くように配置され、その描く五角形の内側の領域は温度が低い。
 結界、すなわち霊的なパワーの侵入を防止するシールドバリアである。この宿が、何らかのそれ系攻撃に晒されているか、晒された過去がある証左だ。女将さんが触れられたくないと思う理由もその辺だろうか。
 風が吹き込む。沢風の気まぐれといえば涼を呼ぶ表現であるが、結界に気づいた理絵子への、何者かからの応答と書いた方が、この場合は恐らく正しい。彼女が義か賊か探っている、そんな感じ。
 理絵子は電話脇に10円玉を置いて、顧問へ電話した。通話10秒。
「りえぼー。こっち」
 階段上から田島が顔を出す。
「何か言われた?」
「ごくろー。がんばれ。以上」
「あそ」
 階段を上がって行く。上がってすぐの鴨居下に神棚が配置されている。1階のお札が描く五芒星の領域は、そのまま五角柱の結界として上方へ延伸しており、この神棚の位置までが作用範囲。
「この6畳とそっちの8畳使っていいって」
 田島が指差す続きの二部屋では、座卓が4台くっつけられ、作業エリアが出来ている。そして、さすがに早朝からの長旅がこたえたか、女の子達がてんでにぐでっとしている。
 荷を降ろす。
「りえ部長。ケータイつながります?」

(つづく)

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体裁崩れについて

かなりの数のページでココログの改修に伴う体裁崩れが発生し、非常に読みづらくなっているのを確認しました。

「行変え」が「段落変え」になっているのが主要因で、対策としてはネチネチ段落替えタグを消して行くしかありません。

順次やって行きますが時間掛かります。えらいすんません。

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【理絵子の夜話】圏外 -15-

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 フラットな荷物室。
「はいどうぞ。女の子の8人。これだけあれば充分」
 宅配便の荷物のように運ばれるというわけだ。もちろん、違反である。
 8人が同じ思いを抱くが口には出さない。これに1時間より、おもろいバスで正解だった……。
 さて、乗る段となると、女の子とはいえ8人である。小さく縮こまらないと全員は無理。
 いわゆる“体育座り”で全員収まったところで、女将さんがワンボックスをバックのままで動かして行く。けっこうな振動がゴツゴツと尻に伝わる。
「自衛隊のクルマで移動って、こんな感じなんだよね」
「そこでそういう例えが出るか?普通」
 砂利道を下って、ワンボックスが止まった。
「着いたよ。ようこそ、旅荘塙へ」
「部隊整列!」
 ワンボックスの後ろのドアが開くや、田島が言った。“自衛隊”の今度は隊員というわけだ。
 彼女たちはテキパキとワンボックスを降り、横一列に並んだ。
「黒野部長以下文芸部8名。ただいま到着であります。宿営地隊長殿、お世話になるであります」
 このコントに女将さんは乗ってきた。
「元気で礼儀正しく結構であります。部屋は2階の奥です。荷物を置いたら下へ降りてくるように」
「了解!」
 敬礼しあう女性達の上を、青い翼のオオルリが滑って行く。

“旅荘塙”は民宿であって、“宿”と看板が出ていなければ、見てくれは2階建ての民家である。
「おじゃましま~す」
 従って、玄関先で靴を脱いで上がり込む際の台詞は、自ずとこうなる。
「はい~。遠いところようこそ。綾ちゃん、案内お願いね」
 女将さんが改めて頭を下げ、少女達の脱いだ靴を次々下駄箱に収めて行く。
「あ~涼しい」
「こっちだよ」
 田島がメンバーを階段へと連れて行く。
 理絵子は列の最後から上がり込もうとし、鴨居のそれに気付いた。
 御札。陰陽道(おんみょうどう)において封印に使われる札。
「どうかしました?」
「あ、いえ、顧問に到着の連絡を……」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -12-

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 アルゴ号は“光子ロケット”を動力とする。詳細は省くが本来は恒星系間航行用の亜光速宇宙船である。ただ、“燃料”である“陽電子”が容易に得られる段階ではなく、しかし速力が得られることから、全地球規模で活動する救助ボランティア船として運営している。
 都内から福島県、諏訪君の入院していた病院まで数秒で達する。レムリアが病院へ電話する方が時間が掛かるほど。
「先に小児病棟でちょっとお手伝いさせていただいた相原姫子と申します。そちらに3月まで入院していた諏訪利一郎くんが喘息の発作を起こし、チアノーゼを呈しています。主治医の先生に取り次ぎをお願いしたいのですが」
『ちょっと待って下さい』
 応対した女性はこう返した。レムリアの物言いは情報量が多すぎである。
『その諏訪……という方の診察券番号は判りますか?』
「大変な状態で聞き出せないからお願いしています」
 なおこの間に船は病院の屋上、ヘリポートの位置に降りた。
『親族の方ですか?』
「友人です」
『東京へ……』
「その通りです。が、すぐ来られる位置で発作を起こしてしまったので連れてきました」
 彼の制服胸ポケットに手を入れ、生徒手帳をペラペラめくる。緊急連絡先とか何か無いか。
 が、新年度でありまっさら。
『申し訳ありませんが確認が取れないとなんとも……』
 そりゃそうかもしれないが面倒くさい。
 呼吸補助装置が警告ブザー。
『レムリア!』
 反射的にセレネが呼んだ彼女の名前に、強く反応したのは電話の向こうであった。
『レムリア……ひょっとしてあの時の魔女さんですか!?』
 魔女のレムリア……彼女は小児病棟や孤児院でマジックを披露する時そう名乗る。
「そうです。今、諏訪君と同じ学校に通っていて……」
 および。
「……諏訪です。お久しぶりです……綾部(あやべ)さん」
 諏訪君はそれだけどうにか口にして失神した。
 慌ただしくなったのは電話の向こう。婦長か小倉(おぐら)先生は見えませんか?3月まで当院にいた諏訪君らしいです。あの時の魔女さんも一緒です。
 受話器が手と手の間を渡る音。
『もしもし?』

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -14-

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「へ、蛇っ!」
 その爬虫類(アオダイショウである)と認識するや、8人は小さく固まった。恐怖も度が過ぎると声が出なくなる。

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(アオダイショウ。但し幼蛇。まねしないで下さい)

「どうするの?」
「どうもこうもこの向こうだもん」
「まぐ?」
「勘弁」
「おのおの方、うろたえるでない」
 時代劇調なのは大倉。
「一番後ろから何を偉そうに」
「蛇は確か騒いで音を立てると逃げるんだよ。だからみんなで地面をどかどかやってワーワー喚けば……」
 実行に移す。女の子が8人。ガニ股になって四股踏みよろしく地面をドカドカ蹴り、声を限りにワーキャー喚く。
 蛇はむしろ、声よりは大地を伝わる振動に反応する。かくて蛇は動き出し、するすると道の脇に姿を消した。
「ああ、いなくなった」
「誰かに見られてないよね。端から見たらバカ集団だよ私たち」
「何を今さら」
 周囲を見回し、無人であることを確認して歩き出す。緩い上りの坂道であり、左へとカーブしている。
 と、カーブの奥からいわゆるバン、業界で言うワンボックスカーが走ってくる。ドアに“旅荘塙”の文字が入っている。
「あれ?」
 田島が発見し、手を振る。
「おばちゃ~ん」
「なんだよ。言ってくれれば駅まで行ったのに」
 ワンボックスが止まり、運転席から、割烹着の女性が顔を出す。女将さんだ。
「ワーキャー言ったのあんたらかい。熊でも出たのかと思って飛んできたよ」
 8人は互いを見つめ合った。
 恥。見られてはいないが聞かれてしまった。
「……まぁいい。乗りな。少しだけどさ」
「え?でも6人乗り……」
「大丈夫よ」
 女将さんは一旦降りると、ワンボックス後部のハッチドアを開け、中に入って座席をたたんだ。

(つづく)

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