« 2019年8月 | トップページ | 2019年10月 »

2019年9月

【理絵子の夜話】圏外 -22-

←前へ次へ→

 仕方ない。理絵子はストーリー製作の手がかりになれば、くらいの気持ちで、考えてきたあらすじを披露した。
「あのね」
 病弱な女の子が、療養を兼ねて田舎の学校に転校する。そこにいた男の子は、幼い頃将来を誓い合った近所の子だった。
 二人は恋に落ちる。しかし甲子園を夢見る彼は、遠い高校へ行くことに。二人は再び将来を誓い合うが、2度目の再会は訪れないことを暗示して、物語は終わる。
「暗い!」
 田島が一刀両断。
「でも……ときめいて、想い通じて、感動して、涙して、ラブストーリーに必要な要素は全て入ってるな」
「感動しました部長」
 若井が涙目。
「恋愛物お得パッケージになってるのは確かではあるね」
「抱き合わせでエロゲバとアッー!を」
「やめんか」
「だけどラブストーリーって一話完結には向いてますよ。出会いと別れがあるから」
「じゃぁこれをラブコメに改造するか」
 待てコラ。
「まずエンディング。女の子殺すんじゃなくて男の子の方をどうにかする」
「交通事故」
「却下。唐突だしステレオタイプ。いかにもご都合主義っぽくて、“ああやっぱり中学生だな”になっちゃう。それでは面白くない」
「ではアッー!を取り入れて新宿二丁目」
 補足説明。ゲイバーが多い。
「それ行こう。ぜってーあり得ねー位でちょうどいいんだよ。でもそうすると野球アッー!ってのもありきたりだな」
「ありきたりか?」
「甲子園目指して、は、ありがちってこと」
「じゃぁお笑い目指して大阪」
「採用」
「でもそうするとエースに育って行く彼と、彼のカノジョであることに対する周囲のやっかみの処置は?」
「落研(おちけん)にすればいいじゃん。そんで生徒会長になるんだよ。爆笑生徒会長で人気者」
 田島が言った。ちなみに、落研とは落語研究部のことである。
「スランプに陥って炎天下一人練習、熱射病で献身介護のエピソードは?」
「ドリアン早食い大会でお腹壊して彼女が代理落語」
「それだったら闇鍋の方が良くないすか?スリッパとか」
「闇鍋はいいが、“スリッパを食う”という設定に無理がある。いくら闇鍋でもあんな物噛み切れないだろう。確実に間違えて食べてしまって、確実に腹をこわすものでなくちゃ」
「ヘビ」
「かえって健康増進になりそう、却下」
「ゴキブリ」
「無害だと保健所のホームページに……」
「マジかよ」
「ああ、そういうの実際食べて調べるらしいよ」
「カタツムリ」
「寄生虫マジ死ぬからやりすぎ」
「んじゃミミズ」
「それで行こう」
「真剣な議論が続いております」
「どこがじゃ」
「闇鍋なら、真夏の我慢大会ってことにすれば、季節設定変えなくて済みますね」
「いいこと言うね。汗くさい男達って雰囲気も維持出来る」
「さわやかだなぁ」
「しょっぱすっぱ」
「やめい!。でもそうするとクライマックスどうする?彼がとっておきの魔球を披露して大会で優勝。落語じゃ感動クライマックスがない」
「う~ん」
 議論(?)はそこで詰まってしまった。

つづく

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】圏外 -21-

←前へ次へ→

「さ、怖いのはこのくらいにして話創ろ。とりあえず何でもいいから浮かんだフレーズじゃんじゃんキボーン(希望ん)」
 理絵子は言って、まんじゅうをもう一つ口にした。ちなみに“何でもいいから”と言ったのは、最初から“これ”とテーマや方針を決めてしまうと、発想の方向が固定され、思いつきの内容が貧相になるから。
 冗談がポンポン出てくるこのメンバーの場合、言いたいように言わせた方が、豊富なネタが得られると思うのだ。
「まんじう怖い」
 早速、竹下がおちゃらけ、同様にまんじゅうを口にくわえる。
「ああ確かにこのまんじゅう皮固いねぇ」
「それは強(こわ)い」
「落語ネタを更にひねるかこの者共は」
「話かぁ」
 今里が深呼吸する。
「ウチらのテンションなら絶対コメディーだよね」
「ラブコメ?」
「あきたこまち」
「言うと思った、却下」
「農林21号」
「それコメじゃなくてイモだし」
「コメもあるんだよ。酒にすると美味いらしいんだけど、栽培が難しいんだって」
「なんでそんなこと知ってるんだよ」
「父親の実家農家だもん。最近アイドルが米作りの番組やってるもんだから、総合学習の子ども達が結構来るんだって」
「話が脱線してるぞ。以下銘柄は却下」
「じゃコメ兵(こめひょう)」
 補足説明。名古屋を本拠とするリサイクルショップ。21世紀になって東京エリアに出店。
「最近はパソで変換してもちゃんと出るんだよ」
「別にそういう突っ込みは期待してないわけで……」
「コメディーねぇ」
「うちらのこの会話で良くね?ビデオに撮って、パソでキャプチャすれば充分使える」
「誰がそれ作業やるの?動画編集ってけっこう高性能なパソが必要だって父ちゃん言ってたぞ」
「ストーリーは?」
「マジで考えるなよ」
「でも、コメディーって一話完結ものだと難しくないですか?始まりと終わりの処理とか」
 竹下が言った。
 その一言でみんな黙ってしまう。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -15-

←前へ次へ→

「じゃ、空飛んでみる?」
 レムリアは背後の船を指さしそう返した。諏訪君は任して大丈夫であろうし、容態が落ち着くまで少しかかる。
「あの、どういう……」
 女性が困惑の表情を浮かべる。まぁ、自分たちの会話は常識的には非常識だろう。
「これ、空飛ぶんですよ。数分で済みますので、お嬢さんを空の散歩に連れ出してもよろしいですか?私(わたくし)はこういう者です」
 IDカードを見せる。この船に乗り組む前から所属する国際救助ボランティアは世界的な知名度もあり、大丈夫であろう。
「メディア……。え、ちょっと待って下さい。医療派遣団にいる日本語ペラペラの女の子って……魔法の国のお姫様と……」
 そうやって日本の雑誌で紹介された。
「ええ、魔法の国の姫様です。でも、帰化しました」
 女性は目をまん丸に見開いてレムリアを見つめた。
 少し整理する。彼女レムリアの生来の名は前述の通りメディア・ボレアリス・アルフェラッツという。欧州東端の小国で、中世魔女の輩出で知られたアルフェラッツ王国のれっきとした王女である。日本にいて異国の娘と気づかれないビジュアルをしているが、日本語は話せる言語の一つに過ぎない。数年オランダで一人暮らしをし、国際救助ボランティアに属して看護師として活動、縁あって結婚前提で日本に帰化した。なお、空飛ぶ船は更に別途所属している極秘救助チームの所有物であり、レムリアはそちらで使うコールサイン。
「私だけってのは、だめ」
 女の子が両腕で大きなバツ印を作った。
 レムリアは小さく笑った。その意図を判じたからだ。
「私は動けるからまだいい。でもずっと寝たきりの子もいるし、出し抜いて私だけとかイヤだ。魔法なら、全員にかけて」
“魔法の国のお姫様”は驚愕事項ではないらしい。
 そして、志の表出であろう言動は立派の一言。
「判りました。みんなの病室を回るよ」
「じゃぁ、ついてきて」
 女の子は自ら車いすのホイールを回してエレベータの方へ向かう。

(つづく)

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】圏外 -20-

←前へ次へ→

 田島が言う。
「三つ叉沢に行っちゃいけないっていつも言ってたのは、単にそこが深いから危ないっていう意味だけじゃなかったんだ」
「そういうこと。でもみんな、おばあちゃんの話聞いてくれてありがとうね。“肝試し”って、大抵おもしろ半分なんだろうけど、その実、人の“死”を弄んでることだと思うのね。最近若い人が来たかと思うと『三つ叉沢はどこですか?』ばかりでね。おばあちゃん、若いあなた達が来るって聞いて疑心暗鬼になっててね……」
 女将さんが恐縮したように。
「いいえ。よく判りました。その沢の方へは行かないようにします」
「ごめんなさいね。そうそう、あとでとっておきの出してあげる。作業はここ使ってね。食べながらやっていいよ。ちょっとワサビ採ってくるから。綾ちゃん、留守番頼める?父さんもうすぐ戻ると思うし」
「は~い」
 雰囲気を戻そうとしたのだろう。女将さんは声のトーンを変えて言うと、厨房の勝手口からサンダルを突っかけて外出した。
「本物、だったわけだ」
 大倉が言った。
「おいお前まさか……」
「ううん。確かに怖い話は好きだよ。でも本物だってなら話は別。素人の本物相手は身の破滅、これ定説」
「そういや、りえ部長さっき何言ったんですか?」
 竹下が訊いた。真言のことだ。
「あれの文言だよ」
 理絵子は食堂隅に貼られた御札を指差した。
「ある程度勉強しておかないと、そっち方面の話リアルに書けないでしょ」
「なんだそういうことか。あたしはまたあのおばあちゃん急に黙ったもんだから、部長がエスパーかましたのかと……」
「残念でした」
 理絵子は舌をちょろっと出した。
 と同時に、自分たちの会話のテンポが、いつものパターンに戻って来ているのにホッとした。
 これがいつもの自分たちだと思うし。
“怖い”気持ちは“怖い”エネルギーを引き寄せる。
 経験上。

(つづく)

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】圏外 -19-

←前へ次へ→

 しかし、実際には、老女の話は、冷えた麦茶がすっかりぬるくなるほどの、時間を要した。
 それは運転手の言っていた、金鉱山に関係があった。戦国時代、この地で金が見つかり、現代風に表現するなら“従業員住宅街”が形成された。
 増加する富と男手は、やがて遊郭をこの地に欲した。遊女は全国各地の貧農から供出された女の子でまかなった。要するに人身売買市場から少女を買い集めたのである。
 だが、金鉱山という富の源の存在は、当然ながら他国の攻撃目標となりうる。
“彼の国で金が出ているらしい”…そういう噂が周囲に広まっていると知った時の大名は、金山の閉鎖を命じた。この際、遊女達の“処置”が問題となった。
 自由の身とすれば、彼女たちは故郷へ戻るであろう。しかしそれは、全国各地に向かって“ここに金があります”と宣伝しているようなものだ。
「まさか……」
 先が見えたか、窪川が乾いた声を出した。
「その通りさ。鉱夫たちは、この上の“三つ叉沢(みつまたざわ)”に縄で吊った舞台を用意し、最後の酒宴と偽って遊女を全員集め、舞いを踊らせた。そして、縄を切って舞台ごと沢に落とした。娘達の歳は14か15か、そんなもんだろう」
 少女達は息を呑んだ。
 自分たちと同じ年頃の少女達が、欲望のために金で買われ、欲望のために殺された。
「だからこの土地は弔いの地だ。三つ叉沢に行ってはならぬ、奥底を見てはならぬ。塚より奥に行ってはならぬ。塚の石をいらってはならぬ」
 老女はそれだけ言うと、後ろを向き、去った。“いらう”とは弄ぶの意味だ。
「……ありがとうございました」
 理絵子は言った。
 入ってはいけない領域がある……それは、“彼女達”がまだこの地にいるという意味だ。
 御札の意味がよく判った。そして同時に、今、こうして老女に話を聞いたことが、何かの転機になるという気もした。

 少女達を包む空気は一気に重苦しいものになった。
「ごめんねぇ。せっかく来てくれたのに…」
 女将さんは困ったように言いながら、麦茶を新しいものに淹れなおしてくれた。
「ちょっと、ショック」
 窪川が言った。同じ年代の女の子達が口封じのために殺される。それが一体どんな気持ちであったか、容易に想像が付くのだろう。

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -14-

←前へ次へ→

 その時。
「あなたってアトレーユなの?」
 可愛らしい声が傍らから発せられた。
 レムリアは立ち止まり、声の主のたる車いすの女の子に目を向けた。
「ゆみちゃん、お姉さんは忙しいのよ」
 車いすを押している女性が軽くたしなめる。だが、レムリアは諏訪君を医師と大男に任せ、女の子前で膝を折った。
 アトレーユ。長編ファンタジーで知られる“ネバーエンディングストリー”の主人公である。
 実は空飛ぶ船を見られたことが過去何度かある。その場合、大体の反応は“ピーターパン”であった。それならネバーランドだが。勘違い?
「ドラゴン、あの子連れてどっか行っちゃうよ?」
「ゆみさん、失礼ですよ……ごめんなさい。あの、先生の所へ行かれて下さい。この子は……」
 女の子の言葉と付き添いの方から判ることは二つ。
 女の子は良く本を読む。そして、この種の発言を“失礼”とは思わず繰り返している(繰り返してしまう)。
 その結果、多分、女の子の本質に対して様々な誤解を生んできた。
 すると?自分が男の子に見える?
「男の子に見える?」
 レムリアは自分を指さして聞いてみた。
「うん。おっぱいないじゃん」
「これ!」
 付き添いの女性はたしなめるが。
 イコール、付き添いの方にもそう見える。
「あっはっは……」
「あとね、強いから。絶対に信じてるから。ヒーローのように」
 それはレムリアの苦笑を真顔に戻させることになった。確かに、“とりあえず逃げる”という心理は芽生えたことがない。それら情動と、諸々の“女の子らしくない”部分が男の子のように感ぜられたか。
 否、自分は真の困難に出くわしたことが無いのかも知れぬ。
「私、歩けないんだ」
 女の子は唐突に言った。
 その足に目をやると細っこく、応じた筋肉がついていないと判る。
「頭もおかしいって」
「これ!」
 付き添いの方はそうやって幾度この子をたしなめてきたのであろうか。

(つづく)

| | コメント (0)

« 2019年8月 | トップページ | 2019年10月 »