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2019年10月

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -18-

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「魔法は一朝一夕で使えるようにはなりません」
 と言って、袖口掴む手を広げ、手のひらで包んで握らせる。
 おまじないを掛けるように指先を向けてくるくる。
「まず、助手をやって下さい」
 指先で握り拳を1回つん。
「開いて」
 ゆみちゃんが言われるまま開くと、マシュマロが一個入った小袋。
「あ!」
「出来た。素質はあるよ。一緒に行きましょう」
 すると、また、袖口を掴まれる。
「ん?」
「隣の部屋。みわちゃん」
 彼女は日曜朝に放映される女児向けアニメが好き。変身して悪と戦う。
「ああ、そのグッズなら少しあるよ」
 レムリアはそのままマシュマロを再度握らせた。指つんで開くと今度はそのアニメキャラの缶バッジ。
 ゆみちゃんは首を左右に振った。
「違う。変身させたい。服があるんだ」
 車いすを動かしてレムリアを先導する。隣室引き戸をノックして、しかし返事を待たずに開ける。
「ゆみだよ。こんちは」
 再度声を掛けるが返事はない。ゆみちゃんは勝手知ったるとばかり、部屋に入ると壁際を指さした。
 ハンガーで変身コスチュームが下げてある。
 誰かいる。
「え?相原さん?」
 ちょっと鼻の詰まったような声だが諏訪君だとすぐに判った。その声の故は鼻の穴に酸素チューブを挿しているから。ベッドの傍ら車いすに座っており、背後に酸素ボンベが立っている。
 彼の目が見開かれた。
「あ、先生……」
「抜け出しは感心しないな」
 少女二人と共に立つ医師が手を腰に怒った表情。つまり、諏訪君は許可無しで病室を出て来た。
 廊下を慌てて走ってくる足音。
「小倉先生!諏訪君がいなく……」
「ここよ」
「え?」
 息を荒げた看護師が飛び込んで来、みわちゃんの病室へ顔を突っ込む。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -26-

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 と、そこで主人氏が勝手口を開ける。
「言えるかいそんなこと。最初っからこの子ら疑ってるみたいなもんじゃねーか」
 主人氏曰く、鮎の時期ではない今頃にこんなところに来るのは、憑いた悪霊に吸い寄せられて来たに相違ない。「お祓いをさせろ」と言われたと。
 少女達は顔を見合わせた。悪霊憑き?私たち……
 理絵子はその向坂なる人物の物言いが気になった。
 理屈に合わないのだ。霊的世界は非科学として否定されてはいるが、体系自体は論理的なのだ。それで行くと、非業の死を遂げた女の子達に、悪霊が近寄って行くというのは、何か噛み合わない。
 新約聖書だったと思うが、イエスの悪魔払いを見た偽善者が、『お前にそんなことが出来るのは、お前が悪魔の手先だからだ』と罵倒するエピソードがある(作者註:福音書にある)が、それに近い。
“彼女”たちが、殺された怨嗟を抱えた悪霊的存在であるとして、悪霊憑きがなぜ悪霊の住処……塚を壊す?
「オレはどうにも気に食わないんだ、あの拝み屋。いいよ、午後はこの子ら川遊び行っちゃって留守にってことにすりゃいい。あんな芝居がかったお祓いとやら、悶々やらせるこたない。カネ払って遊びに来て下さってるのに失礼だ」
「それは……」
 女将さんの表情が曇る。それはそうだが、向坂に刃向かうと後々町内で立場が悪くなる、そんなところか。
「あのう…」
 理絵子は口を挟んだ。
「差し出がましい物言いかも知れませんが、部長の私が代表で、ということでどうでしょう」
「え?でも……」
「そっち系は免疫がありまして。かけまくも かしこみ すめみ おんやかむ いざなぎのみこと(掛巻も畏み皇御祖神伊邪那岐之命)」
「そういえばそんな言い回し聞いたなぁ」
 主人氏が言った。この手の真言は軽はずみに使うものではなく、乱用防止の観点からは明確に書き留めるには向かないが、理絵子が口にしたのは『高天原のみなさまコンニチハ』に相当する部分であり、問題はあるまい。
「でも、時間掛かるし……」
「構いません。聞き流してストーリーでも煉ってます。この子らとやってると骨抜きにされるんで」
「ここでそれ言うかこの部長は」
 理絵子は夫婦にニコッと笑って見せた。実際問題、お経の親戚をメンバーに聞かせるのは苦痛である上に。
 時間の無駄だ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -25-

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「はっはっは。で?ウチのは?」
 女将さんのこと。
「あ、ワサビ取りって」
「そうか。じゃぁちょっと仕掛けをつくるわ」
「は~い」
 主人氏は勝手口から出た。
「そうめんそうめん~」
「いいから描いてね」
「そう言う部長殿はどこまで書いたよ」
「手書きでそんなに早く書けるわけないでしょ」
「エピソードだけ羅列すりゃいいんだって。小説化はあと。どうせパソで合成すんだから。絵に合わせて適切に文章化してくらはい」
「……判ったよ」
 書き物をする音が続く。シャープペンシルであり色鉛筆であり。
「この水彩色鉛筆っていいよな。消しゴムで消えるし」
「汗垂らすとにじむから気をつけようね」
 サンダルを突っかけて歩く音が聞こえ始め、次第に近づいて来、
 女将さん帰宅。
「あ~あ」
 溜め息。
「どうかしたの?おばちゃん」
 田島が尋ね、理絵子は書く手を止めた。
 ちょっと気になる。
「いやあのね」
 女将さん曰く、昨晩何者かが沢に侵入、おばあちゃんの話した塚(慰霊碑)が荒らされており、その際踏みつけられたかワサビがダメになっていたという。
「連中、沢の真ん中まで行こうとしたらしいのよ。そうすると川を歩いて行くしかないわけじゃない。それで……」
 流れの中に自生していたワサビが。
「しかもさ。塚の辺りで花火か何かやったらしいのよね。だからもう向坂(さきさか)さんがカンカンでさ」
「それで町内会……」
 田島が言った。向坂なる人物は陰陽師であり、その塚の“霊的な”管理をしているという。
 ゆえに冒涜行為に怒り心頭。町内会役員を集めて再発防止の徹底を、というところのようだ。主人氏はそれに参加していたのである。
「そう。特にウチなんか宿じゃない。泊める者に絶対行かすなと。そういや、あとで向坂さん来るって父さんから聞いた?」
「え?……い~や?全然?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -17-

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「わぁ」
「あらすごい」
 それはゆみちゃんと医師の感嘆。
 ただ、この男の子にあめ玉をあげるのは困難。
 あめ玉を両の手で包む。開くとずんぐりむっくりにデフォルメされたおもちゃの電車。
「701系とか」
 それは東北地方を走る電車の型式。
 男の子に変化が生じる。それは電車を見ようとし、手にしようとする動き。
「大丈夫。はいどうぞ」
 横たわる男の子の枕元、視界に電車を置く。
 男の子の表情筋が動く。弛緩が見え、笑みを作ろうとしていると判る。
「良かった。じゃぁまたね。みんなの所を回るんだ。短くてごめんね」
 手を振りバイバイ。
「ではお隣へ……どうされました先生?」
 レムリアが隣室への案内を求めて医師を見上げると、医師は刮目、といった表情で見返していた。
「先生?」
「ああ、ごめんなさい。りきと君は電車好きだったんだ。どこで?」
 初対面のはずなのに電車好きと知っている。そこに驚いたらしい。
「いえ、フィアンセの曰く男の子は電車かクルマ出せば間違いないとか」
 握る、開く、あめ玉。握る、開く、電車。握る、開く、ミニカー。
「なるほど……」
 それは嘘では無いが、レムリアは全容を言ってはいない。
 医師は左手首の腕時計を見やり、
「来れそうにない子は24人。諏訪君は気道拡張の処置中。昼休みには間に合うと思う」
「じゃ、みんな回りましょう」
 個室を回って行く。お菓子が大丈夫ならお菓子だし、男の子は乗り物。女の子は。
 アニメキャラクタのキーホルダー、携帯機器用のストラップ。
「作ったの?」
「いえ、市販品。東京駅にこういうの扱うお店が集まってるんです」
「高いんじゃないの?こういうキャラクター商品って」
「フィアンセにたかってますので」
 と、左手の袖口をくいくい引っ張る手指有り。
 ゆみちゃん。
「ん?」
「どうやってるの?」
 手品の種を教えろ。
「そりゃ企業秘密ですぜ」
 レムリアは口の端でニヤリと“魔女の微笑み”を作り、首を左右に振った。
「私も魔女になって何かしてあげたい。いつもされるばっかり」
 そう言われると降参である。レムリアは天使の笑顔を作った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -24-

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「破壊と創造。ブレイクアンドデストロイ」
「壊して壊しまくってどうすんの!」
「でもこうやってるとアレですね。教科書に書いてあった“作文の作り方”って嘘ですね」
 窪川が言った。
「そりゃそうさ。マニュアル通りに物語創れりゃみんなマンガ家小説家だよ」
「あらすじ作って肉付けなんてかったるいことやってられっか」
「でも私たち部長さんのお話に肉付けして作ってる気が」
「ちがう。骨がない!」
「骨抜きにしたのどいつらよ」
 7人一斉挙手。理絵子は脱力。
「くすん。いいけどさ。あのね窪川。私が思うに、教科書の書き方には肝心なことが抜けてる」
「えっ?」
「手順はどうでもいい。楽しく創る。ってね」
「……なるほど」
「おいしいとこ持って行かれたぜ」
「部長ですから」
 理絵子はちょっと澄まして言った。ちなみに、彼女たちはここで“自由な発想を求め、次第に収斂させて行く”という手法を取ったわけだが、これはビジネスの世界で“ブレインストーミング(brain storming)”と呼ばれる、確立された立派な発想・創造手法である。興味ある方は多くのビジネス向け書物が出ているので参考にされたい。
 勝手口がノックされ、ドアが開いた。

 女将さんではない。男性。ランニングシャツにねじり鉢巻き、肩の上には木のタライ。
「おう、よく来たね」
 ここの主人氏である。
「おじゃましてま~す」
「ごめんよ。お客様がいらっしゃるのに主人が留守して。急に町内会の会合があってな」
 主人氏は言うと、肩のタライをドンと降ろした。
 中はかち割り氷。
「お昼は流しそうめん」
 8人から拍手喝采。
「……元気いいなぁ」
「それしか取り柄ありませんから」
「私、脱いでもひどいんです」
「ちっ、先に言われた」
「争うところが違うだろ」
 主人氏は大笑い。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -23-

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 2分。
「優勝に対抗出来るのは爆笑だ」
 田島。
「韻を踏んでいるかどうかの問題じゃ……」
 そこまで来て、理絵子は折れた。
「いや、爆笑で感動って設定、できる」
 半分あきれながら、理絵子は言った。
 もう、いい。出会い、ときめき、別れ、涙。いかにも中学生が考えそうなトゥルーラブストーリー。
 私の考えた物語。横浜までロケハンして、せっかく考えてきたけど、このメンバーじゃ、無理。自由に発想させた私がお馬鹿さん(いつか自分で書く)。
「あのね、老人ホームというか、お年寄りの介護施設で一席打つの。頑固で全然笑わなかった、身寄りのないお年寄りが、ニッコリ笑って大団円」
 お~、とメンバーから感嘆の声。
「素晴らしい。落語でお年寄りなら無理がない」
「高齢化社会という問題提起も入ってるわけですな」
「高尚だなぁ」
「じゃぁ筋立て直そうか。コンテ描こう。文字でゴチャゴチャ書くより、印象深いシーンのイメージをサッと絵にして並べた方がいい」
「あ、でもそうなると“女の子が男の子を好きになる”きっかけどうするの?」
「どうする作者」
「誰がじゃ。ん~……それじゃあその女の子は、厳格な家の育ちって事にしようか。転入生歓迎会の一席で、彼女の家にない“笑い”に触れてホロリ」
「なるほど~」
「そうすると何、私たちがこれから紡ぎ出す作品は、読み手を爆笑させながら、しかし私たち世代に起こりうる家庭教育問題と、将来社会に出て直面する高齢化問題との両方を盛り込むという、極めて高度な作品ということになるわけですね!」
「竹下落ち着け。ぜってー校長賞はありえねー。凝りに凝りまくって大人社会を茶化すんだから。逆に言うと校長賞なんか取っちゃあならねぇ。そういうのは生徒には受けねー。クラシック作曲家の顔は落書きのベース。修学旅行の寺はただ数こなすだけ。違うか?」
「そうそう。狙うのはただ一つ“ウケ”だ。それを忘れちゃなんね」
「ようし固まった」
「絵は私たちが起こすからりえぼー小説書け」
「え~っ?」
「原作者でしょ」
「もう全然違うじゃん」
「どこが。輪郭と髪型と眉と目と耳と鼻と口変えたみたいなもんじゃん」
「何も残ってないじゃん」
「絵は集団で描けるけど文章は一人で書かないと文体が変わるんだよ」
「そう、変態するの。ア……」
「………ーッ!ネタはもう結構!しくしく。自分で創った話自分で壊すのね」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -16-

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 エレベータの扉が開いて先ほどの小倉医師。
「ああ、まだここにいたのね。あら、ゆみさんと一緒?」
「小倉先生。この人、魔女だそうです」
「知ってるよ。王女メディア・ボレアリス・アルフェラッツ。彼女が子供達に笑顔をもたらした時、それは奇跡の始まる合図。だからそう、人は彼女をこう呼ぶ、ミラクル・プリンセスと。当院へようこそ。あなたの御心のままにハイネス」
 それは先回自分がここへ来て以後、何者なのか詳細に調査された結果。
 ごちゃごちゃ説明する必要はない。
「ご快諾いただきありがとうございます。わたくしは子供達に笑顔になってもらうことがライフワーク。お昼休みあたりでどこかでみんなに集まってもらうか、個々の病室を回ることは可能ですか?」
「お昼は食堂ですので、告知して、興味ある子には残ってもらうつもりです。でも、動けない子もいます。そうした子達には……」
「今からでも病室を訪ねていいですか?」
 小倉医師はフッと笑った。
「もちろん。姫君、あなたの言葉には、あなたとの会話には限りないポジティブを感じる。何でも可能になると思わせる強さを感じる。どうぞ」
 小倉医師はエレベータのボタンを押した。
 4人で乗り込み、ケージが降りて行く。
「魔法って何が出来るの?」
 ゆみちゃんが訊いた。
「飛べる?」
「ほうきにまたがるんじゃなくてさっきの船だけどね」
 リンゴーン、とでも表現するか、電子チャイムと共にエレベータケージが停止。
 ドアが開いて声一つ聞こえない。ただ、耳を澄ますと幾らか電子機器の動作音。
 生命維持、呼吸アシスト、そういった機器類。生きることにそうした機器類が絶対必要な子供達。
 個室のドアをノックして訪なう。
「巡回です。こちらメディア王女。2階の笹倉あゆみさん。糸田さん」
 糸田さんはゆみちゃんの付き添い担当の方のこと。
 あゆみ?ゆみじゃなくて?
「先生やめて。私はゆみ。歩けないあゆみなんてシャレにもならない」
「ごめんなさい、ゆみさん」
 その部屋は男の子。ベッドに横たわり、機器類とホースやケーブルで接続され、動けない。
 レムリアは正面に回る。
「こんにちは。今日はマジックショーを見てもらいに来ました」
 手のひらを見せ、握り、開き、あめ玉。

(つづく)

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