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2019年11月

【理絵子の夜話】圏外 -31-

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「ああ腹立つ。こうしてやる」
主人氏が玄関先に塩をぱっぱ。
「どう?率直。向坂さんの印象」
女将さんが訊いた。
「私なら“さん”付けで呼びません」
理絵子は言った。見知った修験者みたいな厳しさと謙虚さはカケラもない。
形ばっかり。
「……そうか。私でもヤだもんね。年頃の女の子だと尚ヤだよね」
女性は本能として“危険な男”を察知する能力を持っている。女将さんが言っているのはそれである。
主人氏が愚痴る。
「なんかそぐわないんだよ。急にフラッと来て、ああせぇこうせぇと。この土地は呪われているってな。過去が過去だろ。過疎化が進んで人も減って来てたし、地区じゅうの年寄りがビビりあがっちまってな。先生先生って崇め奉ってるけど、オレにはそうは見えねぇ。嬢ちゃんの方がよっぽど凛として巫女らしいわ」
「……恐れ入ります」
理絵子は照れながら言った。多分、高天原では神々が爆笑しているであろう。いや、八百万の神々は“爆笑”なんてハシタナイことはしないか。
女将さんが安堵の表情。
「さ、堅苦しいのはおしまい。ちょっとの間だけどさ。川に行っておいで。水が綺麗なことぐらいしか売り物無いけどね。せっかくだし。あ、帽子忘れないでね。涼しくても太陽の光まで弱いわけじゃないから」
「はーい」
理絵子は荷物の中から麦わら帽子を取り出した。
「そういえば行っちゃいけないのは……」
「目安はワサビのところ。野生のワサビ見たことある?ってまぁ、今日はそれこそ踏み荒らされてるからね。すぐ判るよ。そこより奥はNG」
「判りました」
理絵子は帽子をかぶった。
宿の裏口からサンダル履きで川へ降りて行く。川と言っても沢に近い。水は少なく、足首ほどもない。
程なく、少し上流の方に遊ぶ、仲間達の姿が見えた。
「りえぼー」
仲間達が自分を発見し、手を挙げて応える。
「どうだった?」
「あんたらだったら、逃げる」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -20-

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「これはミサンガと言います。仲良し二人が付ける時、切れると二人の願いが叶います。その時私が必要であるなら、私はそこに呼ばれます。これではダメですか」
 ゆみちゃんは少しの間何も言わず、ただ、自らの手首を見つめた。
「二人の願い……」
「そう、みわちゃんの願いでもあるし、ゆみちゃんの願いでもある」
 ゆみちゃんはレムリアに目を向けた。
「私の……」
「そう」
 ここでレムリアは合点がいった。
 彼女は、ゆみちゃんは、自分のことは自分でしたい。可哀想な女の子と見られたくない。
 彼女の願い。
「助手を頼める?さっきも言ったけど」
 目を見て笑みを返す。
「いいけど、助手って何を?」
「一人でヒョイヒョイお菓子出しても、それだけで終わっちゃうから、二人で面白いコトする」
 ヒョイヒョイと言いながら、レムリアは自分の手のひらを交互に開閉し、都度お菓子を出してぽろぽろこぼした。
「ああ、こぼれてるよ……」
 諏訪君が拾いに掛かる。
「諏訪君も助手その2で」
「え?」
「あはは、お兄ちゃんなのにその2!」
 ゆみちゃんは笑った。

 館内放送があって程なく、食堂に集まってくる子供達。
「今日はホスピスのお年寄りも見えています」
 小倉医師はレムリアに目配せを交えた。
 入院している子供達と、お年寄りとの交流機会を持たせる医療機関、施設が増えている。相互に刺激になったり、思い出話を通じた過去の伝承など、身体的・知性的にプラスになる面が多いという。
「判りました。あまりビックリするような内容にならないように。えっとね……」
 助手二人に段取り説明。諏訪君は“魔人トンキン大王”。みんなに配ったお菓子を取り上げてしまう。ちなみに病院として寸劇は時々やるようで、小高いステージがあり、ホワイトボードを利用して緞帳の代わりに目隠しされている。
 なので下半身は客席から見える。
「配ったお菓子横取りして歩くの?」
「みんなの間を歩き回るだけでいいよ。これ着て」
 指をパチンと鳴らすと衣服が替わる。黒マントに福岡市の郷土芸能“博多にわか”の垂れ目マスク。

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 みわちゃん爆笑。
「魔王!これで魔王!!」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -30-

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 理絵子は避けていた。やり方は簡単。全然関係ないことを考えればよい。それこそストーリーでも練ればよいのだ。
 しかしそれでは“探られてると判っている”ことが、相手に判ってしまう。
 せせらぎの音に意識を向ける。音からイメージしたせせらぎの映像を心の中に置いておく。ツマラナイから川の音を聞いています……。
 終わった。
「口を開けなさい」
 某が、人の形に切った白い紙切れを差し出す。
 ヒトガタ、である。霊的な依り代。古代は人形であり、更に太古は生身の人間による生け贄であった。
 理絵子が口を開けると、某はヒトガタを理絵子の舌に触れさせた。
 痴漢にでも遭遇したような不快感。
 ヒトガタを何やら箱に収める。
「面(おもて)を上げなさい」
 これで終了である。理絵子の中の“汚れ”がヒトガタに移り、箱の中に封じた。
 よって理絵子は顔を上げて良く、口を聞いても良い。
 理絵子は瞼を開く。“疚しいところがある人にはブラックホールに見える”と言われる瞳孔拡大状態の目で真っ正面から某を見てやる。“たらふく肉食ってるだろおっさん”……そんな印象の男である。脂が滲み出て来るというか、既に滲んでいるというか、ギラギラした印象。陰陽師と称し、超感覚による探りを入れてきた辺り、確かにそれ系の力はあるようである。しかし、同じ力を持つにしても、どっちかというと“餓鬼”に近い。
 おっと見透かされる。
「ありがとうございました」
 理絵子は神妙に頭を下げる。ここまで一連のお祓いのシーケンス。自分の知らない流儀であるが、まぁ、いろいろあるのだろう。ちなみに、生け贄の時代、悪霊を移された生け贄は、当然、悪霊もろともそのまま殺された。
「うむ」
 某は頷き、次があるとかで、それでもしっかりと鯛と酒と祈祷料は持って、そそくさと去った。
 高級車の走行音が聞こえなくなる。
「はぁ。堅苦しい」
「申し訳なかったな」
 女将さんと主人氏が続けて言った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -29-

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 流しそうめんを食べ終わった後、理絵子を除く少女達は川へ降りていった。
 夫婦がその、陰陽師向坂を迎えるための準備を始める。鯛の尾頭、酒を用意し、玄関を清掃して塩を盛る。
 それは、儀式の後に、陰陽師某が“飲んで食う”のが定番になっていることを意味する。
 俗っぽいことこの上なし。
 午後1時33分。
 クルマが宿前の砂利道に入ってくる。ゴムが砂利を弾く音から、そのクルマは重いと判る。
 クルマの左側から下車する。桜井優子宅所有と同じドイツ製の高級車であろう。
 理絵子は断じた。こいつは決してまっとうな陰陽師ではない。
 夫婦が迎えに出る。
「こちらです」
「お待ちしておりました」
 ドアが閉まり、某が歩いてくる気配。理絵子は玄関脇に正座し、頭を垂れ、一言も発しない。見もしない。
“汚れて”いるから。
「お前か」
 映画の安倍晴明の真似か、とでも言いたくなる、甲高い声が上から降ってきた。
 理絵子は頷くのみ。漆塗りの木靴だけ見える。平安装束に身を包んでいるようだ。衣冠束帯(いかんそくたい)というヤツである。ちなみに安倍晴明(あべのせいめい)は、平安期に活躍した著名な陰陽師だ。
「他の者は」
「それが……午前より外へ出ていまして。この娘さんだけ残ってらしたので、部の代表ということで。なにぶん、携帯が通じませんので、どこにいるやら」
 女将さんはこわごわ、という感じで言った。全員呼び戻せ言われるのではないか、というわけだ。
 でも理絵子には判っている。それはあり得ない。
 なぜって時間が掛かるから。その点で携帯不通は説得力有り。女将さんグッジョブ(good job)。
「……よかろう」
 案の定。1人でも8人でも、お金がもらえて飲み食い出来ることに変わりはない。しかも短時間で済めば“時給”も高い。
 では早速、となり、2階に上がって、神棚の前で夫婦と正座。
 儀式が始まる。
 理絵子は、気づいた。
 某が意識をこっちに向けている。それは経験のある方もいるであろう、“コイツ背中でモノ聞いてるな”という印象そのもの。超自然的な感知能力……テレパシーで探りを入れに来ているのである。
 その時もし、霊的なパワーの状態を磁力線のように表すことが出来れば、陰陽師某から理絵子へ向かう磁力線が、理絵子を避けるように迂回し、後ろへ流れる。そんな様子が見えたであろう。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -19-

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 肩で息をし、声が紡げない。相当慌てたと見える。
「……ああ、良かった。びっくりした……」
「ごめんなさい。その、相原さんの手品見逃したくないなって。それから、みわちゃん、どんな。前はこんな」
 諏訪君の質問に医師が頷いた。
「伊藤さん、叱っておくから戻っていいです。……みわちゃんは骨髄移植をしました。姫さんにはCMLと言えば判りますね」
 レムリアは納得した。みわちゃんは透明ビニールシートで覆われ、それは無菌シート。更に呼吸補助装置をはじめ、数々の機器とチューブや電線でつながれている。
 CML:chronic myelogenous leukemia……慢性骨髄性白血病。日本語の字面を嫌ってロイケミアと呼ぶ向きもある。
「今は、眠っています」
 医師は小さく告げた。
「無理矢理起こすのは可哀想だよ」
 レムリアは言った。とはいえ、薬による眠りであるから、起こすという選択肢は存在しない。
「みわちゃんだけ後で、じゃだめ?」
 レムリアは小首を傾げて尋ねたが。
「いつも、みんなと一緒じゃないんだよ。一度くらいみんなと……」
 ゆみちゃんはだだをこねるように言った。
 一緒じゃない。それは、感染症防止のため、が趣旨だとレムリアは理解している。
 ただ、それは、そばにいるのに接触出来ないという状況を作る。
「魔法を使いますかね」
「えっ?」
 驚く声は同時複数。
 レムリアは手のひらを握り、ひらく。
 毛糸のリング。真珠を模した白い球が2つ。
「ミサンガ」
「あら懐かしい」
 それは医師と看護師。これをおまじないとして手首に付けるのが流行ったのは1990年代。
 レムリアは片方を握り、無菌シート越しにみわちゃんの手首を握り、手を開いた。
 シートを越えてみわちゃんの手首にミサンガが装着される。
「どうやって……」
 手首に通したわけでも、解いて結んだわけでもない。
 シートもめくらず。
「手品ですから。まぁ細かいことは気になさらず……こっちはゆみちゃんが付けて」
 同じく握って開けばこちらもミサンガ装着完了。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -28-

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 田島の勢いが急落する。
「りえ……」
「半ダース」
「3ダース!?」
「ちがう!半分ダース!6本」
「ちぇ」
「ほら、綾っぺ」
「は~い」
 マックスコーヒーで買収された田島は主人氏を追い、しぶしぶ玄関から出た。
「しかし部長ってそっち方面詳しいみたいですね」
 竹下が言った。
 理絵子は苦笑した。この方面、そういう経緯から独学の部分もあるが、一般向けにはもう一つの理由の方を話している。
 すなわち。
「どうしてもホラ。父親の仕事が仕事でしょ。仏様がついて回るわけよ。母方の実家が震え上がっちゃってさ。南無阿弥陀仏。否が応でもお勉強してしまうという」
 理絵子は言った。『“死”が日常茶飯事になる。これは怖い』という父親のつぶやきが強く印象に残っている。
「え?仏像持ち歩くんですか?」
 竹下が目を円くした。
「バカ。お亡くなりになったお方のことだよ。死体。シカバネ。ムクロ」
「きゃー!」
 生々しい大倉の台詞に、竹下が耳を塞いで顔を背ける。
 が、その動作でテーブルに身体をぶつけ、麦茶の入ったグラスを倒した。
 テーブル上に麦茶池。
「うわお前バカ」
「絵が、絵が~」
「綾~!」
 今里が田島を呼ぶ。彼女たちは慌てて描きかけの絵やレポート用紙を引っ込めた。
 ちなみに彼女たちが使っている水彩色鉛筆は、“水彩”の文字からも判るように、水彩絵の具的な一面も持っており、水分に触れると溶ける。
 飲み物をこぼすのは致命傷なのだ。
「どうした?」
 田島が勝手口から顔を出す。
「ごめん、こぼした、雑巾」
「ああ、はいはい」
「あ~滲んで行くよ……」
「見ろ、絵がゴミのようだ……」
「言葉を慎みたまえ。君はりえ部長の前にいるのだ」
「それじゃ自分同士」
 描き直し。なお、彼女たちの台詞の2,3は、著名なアニメからの援用である旨付記しておく。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -27-

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 かと言って夫婦の、この宿の立場を悪くする必要もない。
「おばちゃん。この際りえぶに任せた方が良くない?……だってあのおばあちゃんが納得するくらいだし……」
 田島が言った。“おばあちゃんが納得”が、強い説得力を有するフレーズであることは、論を俟たないであろう。なお、“りえぶ”はりえ部長の意味である。
 女将さんはふう、とため息をついた。
「ごめんねぇ。何か巻き込んじゃったみたいで」
 それはすなわち、理絵子にお任せ、に気持ちが傾き始めている。
「いいえ。お世話になるわけですから」
 理絵子は言った。むしろ巻き込んで頂いた方がありがたい。予感のこともあるし、その陰陽師の釈然としない言い回しも気になる。直接会った方が何か得られる。
「じゃぁ今夜はしゃぶしゃぶにしちゃおうかな」
 女将さんのその一言に、メンバーは拍手喝采し、理絵子を取り囲む。
「さすが我らの部長だ」
「いやぁ頼りになるなぁ部長」
「部長」
「部長」
「ブチョー」
 みんなして古代の礼拝の如く、理絵子に向かってひれ伏し座礼を繰り返す。
「もうよろしい下僕共……てなわけでしゃぶしゃぶで売却されました」
 理絵子は言った。ふと思う。自分たちのこの軽いノリは、絶対に事態を深刻にさせない。
 女将さんと主人氏が頷き合う。“それで行こうか”。
「ごめんなさいね。1時半って言ってた」
「承知しました」
「じゃぁ松阪牛を買ってこようかね」
 拍手に送られ、女将さんが再び外出。
 次は主人氏が動く。
「やれやれ。このコンピュータ時代に、と思うよ。綾っぺ。そうめん手伝え」
「えー何であたし?」
「腕力」
 強調するようで彼女には悪いが、BMIという数字で出てしまっている。
「ひどい。レディに向かって言う言葉じゃないわ」
「それも取り柄の一つだと思えば」
「部長が人身御供になって下さるというんだ。我ら下僕共も何か奉仕するのは当然でしょうが」
「そういうお前は何だー!お前は!お前は!お前はっ!」
 田島が一人ずつ指差し、差された側は目を背ける。
「マックスコーヒー」
 理絵子はひとこと言った。

(つづく)

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