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2019年12月

【理絵子の夜話】圏外 -35-

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 部屋の奥から足音。
「そうだよ」
 おばあちゃん。
「あの塚には、埋めてあるんだ。亡骸がね」
 少女達は息を呑む。
 朝の話には続きがあったようである。すなわち、舞台を落としたはいいが、そのままでは女の子達の遺骸が見える。そこで、上から石をガラガラ落として埋めた。
 後年、地震で山津波(土石流)が発生、遺骸はバラバラになった。さすがに可哀想だという話になり、拾い集めた遺骨を埋め、供養した。それがあの塚。
「なんかあたし腹立ってきた」
 若井が言った。
「塚で花火って、そんな過去のある場所を面白半分で扱うってことでしょ?…可哀想」
「うん」
 頷き合う少女達に、おばあちゃんは小さく笑った。
「あんたらみたいなのだったら、浮かばれるのかも知れんな……」
 おばあちゃんが奥の部屋へ戻る。ちなみに、後で田島に聞いたところによると、おばあちゃんは体調が優れず、洗面等以外は部屋で寝ているという。
「なんか、恥ずかしいわ」
 女将さんが床に座り込んで言った。
「因習というか、古くさい陰湿な部分ばかり見せてしまってる気がして」
「いいえ。私たちが如何に幸せか、しみじみと思い知らされます」
 と竹下。
「そうなぁ、リアルに少女の人身売買って現代でも存在するからな。それに比べりゃうちらは……」
 話が続かなくなる。
 プリンも完食。
「どうも、この話になると、雰囲気下がるわね」
 と女将さん。
「いいえ。そろそろノリだけで時間潰すのやめて、真剣に作品制作にかかるべきだと思ってましたから」
 理絵子は言った。
「そーお?」
「ええ。おい野郎共、行くぞ」
 へ~い。と7人が男の声を真似し、一列でゾロゾロと本来の作業スペースである2階へと上がって行く。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -22-

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「みんなにはお菓子を配りますね。後ろの扉から、助手のゆみちゃん」
 客席後方の扉を指さす。引き戸が開いて車いすに乗ったゆみちゃんと。
 さてここで彼女が変身している正義の味方について、実在の商標名を避けるため仮称を与える。二人ペアで活動するが、“ボレアリス”と“メリディオナリス”とする。
「メリディオナリスだ!」
 女の子達が気づいて声を上げる。
「車いす乗ってんじゃん」
「ケガしたんでしょ」
「ちょっと待て、後ろなんかいるぞ」
「ナリス!後ろ後ろ!」
 番組中ではそれぞれ名前の後ろ3文字、アリスとナリスで呼び合う。応じた子供達の指摘。
 メリディオナリスが振り返る、と、“トンキン大魔王”はドア影に隠れる。
「誰もいないよ?」
 メリディオナリスはみんなに言った。
「違うって。ドアの影に隠れた」
「そう?」
 メリディオナリスはドアを開ける。
 引き戸を開け。向こう側に回り、廊下を歩いて前のドアから戻ってくる。
「誰もいないよ?」
 その背後。
「いるって!後ろ後ろ」
 メリディオナリスは後ろのドアの方へ目を向けた。
「違うよ。背中!背後!振り向いて!」
 やりとりしてる間に“大魔王”は姿を消した。
「んもー!」
 焦れた子が後ろのドアから廊下へ飛び出す。
「あれ?」
「ね?誰もいないよ」
 その時子供達は、看護師や補助の方まで、全員が廊下を見た。
 刹那。
「あ!いた!」
「がはははは。とんきーん!」
 大魔王の決めぜりふと共に、ステージに座らせたぬいぐるみは大魔王に変わっていた。
 お菓子いっぱい抱えて。なお、大魔王は車いすに乗っておらず普通に立っているのだが、その変化に気付いた者はいない。
「大魔王がおかし取った!」
「これは“成敗案件”じゃないすかアリス」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -34-

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「そのタイミングで笑う?おじさん。ひどい…」
「そうじゃない。思わず吹き出したんだよ。君たち本当に面白いなぁ」
「これでも学校ではお嬢様集団で通ってますのよ。ホホホ」
「おじさまもご一緒にいかがです?」
「もうアッー!はいいよ、お腹一杯」
「今里プリンいらないそうです」
「そのお腹一杯じゃなくてさ」
「でもさっきイモリを生でたらふく……」
「食うか!」
「あれイモリじゃないよ。サンショウウオ」
「どっちでもいいよ。キショイ」
「君に言われたくありません。byサンショウウオ」
「ぬ・け・が・け」
 理絵子は先んじてスプーンをプリンに立てた。
「あ、ずるっ」
「せこっ」
「ぶちょー見損ないました」
 少女達が慌てて席に着き、そのままティータイムになる。プリンは通常の20個分だそうだが、彼女たちにはどうという量ではない。
 その時。
「あら?」
 女将さんが裏口に置いた理絵子の帽子に気づく。
「びしょびしょじゃない」
「あ、しまった。すいません、プリンに気を取られて干すの忘れて」
「ん、了解。陽もあるし出しておけば乾くでしょ」
「そういやそれワサビ田の向こうに落ちたんだよね」
 田島が言った。
 女将さんが理絵子を見る。気にする理由は一つ。
「いえ、塚より奥には行ってません。って、あそこを荒らすわけですよね……」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -33-

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 呼応してか、消滅している感覚がある。宿を決めたと聞いた時点より存在した嫌な感じであり、警告だ。田島の顔に缶コーヒーがかかった不思議な現象、それにまとわりついていた違和感も消えた。
 その代わり、たった今感じているのは願い。あるいは思い。
希求。
 風はそう、結界が存在するがゆえに、思いを風に託した結果。さっきも、そして今も。
「りえぼ?」
 一言も発しない理絵子に田島が首をかしげる。不安と不思議が田島の中に芽生え、場所が場所ゆえ、まさかの思いが頭をもたげる。
「なんてね」
 理絵子は笑って振り向いた。“取り憑かれたのではないか”そんな思いが田島に生じたのだ。
 風の思いに応じてあげたいが、仲間の不安を煽るわけにも行かぬ。
「びっくりした……」
 田島は言うと、帽子を取ってうちわのようにパタパタ扇いだ。
「あら綾ちゃん。帽子取っちゃだめじゃん」
 理絵子は自分の麦わら帽子を田島にかぶせる。
 沢水に濡れた麦わら帽子を。
「……!」
 悲鳴が田島の口をついて出、理絵子は逃げ出す。
「待てっ!りえぼー。人が真剣に……」
 あとでね、と思いながら、理絵子は走り出す。そう、ここには再度来なくてはならぬ。
 いや、来ることになる。I'll be back.

9

 お三時の時刻。
 水遊びから帰った少女達を待っていたのは、両腕で抱きしめたくなるような、巨大なプリンであった。
「すっご~」
「バケツプリン。名古屋の方で作ってる店があるらしいって聞いて取り寄せてみたの」
 女将さんがニコニコ言う。とっておきの正体はこれか。
「ば、バケツですか」
「そうあれ。感心したよ。できるもんだねぇって」
 流しの角に小型のバケツ。小さい子が水遊びに使うサイズ。
「……ところでさっき、出来の悪い雑巾が破れるような悲鳴が聞こえたけど?」
「絹を裂くような声ならわたくしが出しましたが」
 田島、姫君の如く気取って言う。
「絹を裂くような声など聞こえていませんが」
「ゴリラが吠えてたなぁ」
「北京原人の生き残りという話も」
「北京原人に失礼だ」
 主人氏が笑った。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -21-

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「次、ゆみちゃんはね……」
 変身ヒロインのうちの一人。車いすのまま衣装をチェンジ。
「え、でも……」
 アニメのそれはバトルアクションがある。
「ヒロインだってケガくらいするでしょ。そこで私が美味しいところかっさらって行くから。所々に手品を混ぜます。セリフは適当で」
「適当て」
 助手二人は顔を見合わせた。
「こういうのってお決まりのセリフあるでしょ。それでいいから」
「ええっと……よろしいかしら?」
 専属の保育士さん。子供達が待ってるんだけど。
「ええはい今行きます。ゆみちゃんこれを配って回って」
 レムリアはゆみちゃんの膝の上にハンカチを敷き、その上で両の手のひらを組み合わせ、タマゴ割るように開いた。
 山のようなキャンディーやビスケットなど、一粒ずつ小袋に入ったもの。
「まず私たちが出て行って、これを配ります。諏訪君は後からコソコソついてきて」
「それってあれか、『後ろ!後ろ!』ってやつか」
「その通り」
 レムリアはウィンクを返し、自らホワイトボードをガラガラ押して舞台を開けた。
 とんがり帽子で魔女の格好。
「だっせー、魔法使えよ」
 観客の男の子の突っ込み。彼は先回自分のショーを見ている。
「使うとHP減るのよ。さて皆さんこんにちは、一部の方には初めまして。私は魔女のレムリア。今日は手品を見せつけに参りました」
 帽子を取って胸に手を当て一礼。すると帽子の中からバラバラとステージに散らばるトランプやら造花やら。
「あらこぼれちゃった」
「だせー」
「タネ見えてやんの」
 ゲラゲラ笑って突っ込みが来る。が、その中にひとつ、明らかに帽子より大きなぬいぐるみ。
 足下に座らせる。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -32-

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 理絵子は印象を語った。
「痴漢か」
「いやそう決めたわけじゃ」
「それっぽいんだろ?それってことじゃん」
「そーゆーの世間じゃ論理の飛躍って言うんだよ」
 理絵子は会話にクスクス笑いながら、流れの中を少し歩いた。
 気持ちいい。水は透明でどこまでも涼やか。
 この上流で悲劇があったなんて。
 風が渡る。
「あっ」
 虚を突かれたような、ゴウッと吹く強い風である。理絵子は帽子を持って行かれた。
 上流へ向かってふわり。流れを挟んだ向こう側。
 理絵子は気づく。それはワサビの自生地の少し向こう。
 女将さんの言う、“いけない領域”との、ちょうど境目くらいか。
“呼ばれた”。そんな言葉が脳裏をかすめる。
 気付く。風の主は、宿に入る時に建物を吹き抜けた、あの風の主と同じ。
 悪意は感じない。
「おいおい」
“禁忌”の領域へ向け、躊躇無く歩き出す理絵子に、田島が戸惑いがちに声をかける。
 理絵子はワサビを踏まないように注意しながら、その向こうへ。
 足を止める。そこが境目。ここにも結界の存在を感じる。
 理絵子は水面の帽子を取り、結界の方を見やる。右手奥にこんもりとした部分があり、屋根が掛けられて一見四阿(あずまや)風になっている。
 四阿の中には石が積んである。供養塚だ。屋根があるのは、川に落とされた彼女たちがこれ以上濡れることのないように、というところか。ちなみに結界はその四阿に張られているようだ。塚への外からの侵入防止か、或いは中から出ないためにか。
 悲劇の起こったという“三つ叉沢”は更に奥であろう。が、川の流れを追うと、塚よりやや上流で左方に曲がっており、そこまで見通すことは出来ない。
 むしろ見えない位置に塚を築き、限界標とした、と見る方が正解であろうか。
 田島達が追いつく。
「あ~驚いた。沢まで行くかと思った」
「塚ってそれ?」
 理絵子は四阿を指差す。結界があり、道から階段で降りて行けるから相違あるまいが、確認。
「そうだよ」
 感覚が何かを捉えている。理絵子はその感覚に集中する。
 自分を呼んでいるのだと理解する。求めているのだと判る。
 悪意はない。底意もない。
 最前まで拒否の念はあった。しかし、自分たちに共通認識…おばあちゃんの話を聞いた感想…が生まれてから、それは消えた。

(つづく)

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