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2020年3月

【理絵子の夜話】圏外 -48-

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 果たして某の形相が一変した。もう、仮面をかぶる必要はないというところか。
「やはり、その手の者であったか」
 岩がゴロゴロ動くような、おどろおどろしい低い声。
「だとしたら?自作自演さん」
「いつか、おのれとは、対峙せんならぬと思うておったわ」
 口調が時代がかり、二人同時に喋っているような感じになる。口がニンマリと開かれ、それこそ般若の面のような形をなす。
 ぼうっとしたものが衣冠束帯の背後に立ち上る。陽炎のごとき揺らめきであり、なにか形をなす。
 竜、或いは蛇。どちらにせよ古いものだ。
「お前憑きもの……」
 理絵子が、超絶の視力の焦点を、背後のそれに合わせたその瞬間。
「やかましい!」
 男の木靴が理絵子の腹を狙った。
 蹴り上げられる足。しかし、理絵子は男が蹴ろうと思った時点で、そのことを察知している。わずかに体をかわして足を避ける。
 横殴りに打ち込まれるハンマーを、身を屈めて回避。
 そして、しゃがんだついでにまんじゅう型の塚石を手に取り、振り下ろされるタガネを受ける。
 耳に痛い鋭い金属音がし、火花が散り、タガネの刃が欠けた。蹴る、殴る、突き立てる。いずれの攻撃も理絵子は避けた。
 その時だった。
 仲間だ。女の子達が1分経過したので走ってきたのだ。
 塚を取り囲み、それぞれのケータイが、白色発光ダイオードの照明を点灯させ、シャッター音が間断なくこだまする。
 男の目が炎のように赤い光を放った。
 意識が自分から女の子達へと向けられる。
 ぐにゃり、と、空間が溶けて曲がるような感覚。それと知らずに遊園地の落下遊具に乗せられたような不快感。
 念動。超能力サイコキネシス。
「消えたぞ!?」
「電源入らねー」
 彼女らの携帯電話に異常が生じたようである。
 次いで、四阿の屋根がみしみし音を立てた。
 実行力のある念動力。その認識に、理絵子は背筋がすぅっと冷えるような感覚に囚われた。これが彼女たちに向けられたら、と、思ったのだ。
 そう、理絵子は仲間を気遣った。仲間達に意識を向けた。
 それは超絶の目線を、憑きものから外したことに他ならなかった。
 錬磨の憑きものには、その一瞬で充分だった。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -47-

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「1分どうやって測る……」
「手に持つキカイはナンデスカ?」
「あ」
 そう、携帯電話にはすべからく内蔵時計がある。
 窪川機の時計が2時12分に変わった瞬間、理絵子は動き出す。
 遠慮は要らぬ。超感覚を全開とする。無線機の感度を最大にするようなものだ。それ用のセンサーがあれば、理絵子を取り囲むバンアレン帯のようなものが見えよう。
 雰囲気を殺す。相手の同様な“磁界”と触れ合わないようにする。具体的にはやや難しいが、全然関係ないことを考えながら、相手に近づく。
 流れを出、河原の砂利を歩き、塚に登って四阿の中へ。某は作業に集中。理絵子には気付かない。衣冠束帯にタガネとハンマーを所持し、必死になって大きな石板を叩いている。
「今度は蓋石を傷つけますか」
 理絵子は言ってやった。
 しゃがんでいる状態の某が、驚いて身体をぴくりと震わせて動作を止め、次いで理絵子を仰ぎ見るまで0.6秒。その間に理絵子は塚の構造を把握した。
 まず四阿の屋根裏、各方位に御札がある。昼に感じた通り、ここ全体が結界の中である。
 盛り土の上には石板があり、蓋の用途である。某がタガネを立てたので傷が付いている。
 塚自体は古代の石室墳墓に似せた作りである。蓋石の重さは100キロは優にあろうか。某がタガネを立てたのは、蓋が動かせないからに相違あるまい。蓋を割るという冒涜を行う気なのだ。最後に、周囲にはまんじゅう型の石が多数転がっており、それは本来、石板の上に積み上げられていた塚石と知る。“蓋を開けることのないように”というおまじないだ。イタズラの演出のため、某が蹴散らしたのであろう。
 元に戻る。某は驚愕にびくっと震えた後、次いで怨嗟の目で理絵子を見上げた。
「お前は……」
 何か言い出そうとする某の口が、開かれたまま固定される。
 巫女がそこにいる。
 凛として、闇に浮き立つ白い巫女装束をまとって、理絵子はそこにいる。
 理絵子はそう、巫女装束を身にまとってここに来たのだ。
 そのビジュアル的インパクト、心理的プレッシャー、その辺を考慮して。
 しかし、実際にはそれ以上の効能があることが、この男と対峙して理絵子には判った。
 まず、衣装の本来の用途ゆえ、自分の背筋がシャンとする。
 次いで、そう、理絵子は知った。おばあちゃんとの無意識レベルでの交感で受け取ったものの正体。
 それは、おばあちゃんから託されたもの。のみならず、代々これに袖を通した聖なる娘達の真摯な想い。
“使命”
「がんばれ」……この装束を通して過去から応援してくれている気がする。後押ししてくれている気がする。
 理絵子は一歩踏み出た。
 対し某は一歩下がる。『悪い奴お前直視出来ない』。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -28-

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 それでも構わず近づく一行に、
 柴崎綾乃が絶叫した。
「キャー!来るな放射能キチガイ!」
 これに。
「キチガイはどっちだ!この馬鹿娘が!」
 絶叫を上回る大音声を発したのは果たしてレムリアであった。
「え……」
 文字通り驚愕したらしく、皆の行動にストップモーションが掛かっている。
 レムリアは王族の娘であるからして、往年の“城の塔から国民に触れを出す”習わしに従い、応じた発声訓練を受けている。肺活量の全てで全身の筋骨と空洞を共鳴させて相当なボリュームを一瞬で放つことが出来る。
“狂”が芽生えた者には尋常な物言いじゃダメで、驚かして正気に戻す。
「原発事故と影響を科学的に理解していない方が大勢おいでのようで。先生、説明したいので学級会の枠もらってもいいですか」
 レムリアは言った。そしてウェストポーチから小冊子を取り出す。
 放射線管理手帳。
「……自分の?」
 担任奈良井は丸い目で問うた。それは放射線被曝が生じる職業に従事する場合に、被曝量を自主管理し、必要に応じて診断を受けるために所持するもの。
「レントゲンなぶりますし」
 実際には例の空飛ぶ船の推進装置がガンマ線を放つからなのだが、まぁ、趣旨さえ伝われば良い。
「アンタも……放射能……」
「だまらっしゃい。ちなみに今アンタのナイスバディを宇宙から来たガンマ線や中性子線がガンガンぶち抜いてるがそういう認識はお持ち?」
 柴崎綾乃はキョトンとなった。意味不明の呪文を突如聞かされたような面持ち。
「あれ?学校で放射性物質のこと習うのって……」
 レムリアは自分の頭の上に目線を向けて訊いた。
「高校だろ。中学では原子爆弾とその被害、のみだろ。だから放射能、放射線という言葉に対して怖いという先入観を持つ。そのままこじらせて全て忌避するヒステリーがいっぱいいるけどな」
 相原学は皮肉っぽく応じた。
 レムリアはため息をついて。
「つまり何も知らないのにわめいてるだけね。今から説明しますから聞きなさい。内容を理解せず福島に滞在していただけで差別的な対応をすることを私は許さない。それでなお差別をするならありとあらゆる法的手段を駆使してその者を告発する。よろしいか」
 レムリアはドスを効かせて言ってみた。もちろん、クラスにはあまりの展開であろう、誰からも何の反応も無い。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -46-

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「あのね」
 理絵子は言いながら脱力した。確かに意味はそうかも知れないし、『あいるびーばっく』と言いもした。
「でも、そういうことでそ?」
「サイボーグか私は」
「あれの“まごの手”大阪で売ってるんだよ。メカメカしいまごの手に私は惚れた」
「うちには“まりも”まごの手と、ほれ、アニメの黒毛玉、あれのまごの手あるよ。どう見ても色を……以下自粛」
「それ言ったら“どこどこへ来ています”ってお菓子も、製造元は……以下自粛」
「何かそれ系のくだらないエピソード話に入れられないかなぁ」
「あ、それいいね。双方田舎があって、それぞれ買ってくるんだけど、開けてみたら名前違うだけで同じモノ」
「でも彼女厳格な家庭でしょ?」
「家出半分で飛び出させりゃいいじゃない。彼との出会いによってどんどん家がイヤになる。それが強調できる」
「あ~いいかも」
「てなわけでりえぼー追加して」
 いつも通りの彼女たちの脱線に、しかし面白いので笑ってしまいながら、どう言い返してやろうかと理絵子は思った。人をダシに話を作った上、結構神妙な話なのに、あのガイコツ似のサイボーグのイメージがくっついてしまった。私の涙を返せ。
 でも同時に、彼女たちのおかげで、“伝説の少女”のプレッシャーが消滅したことにも気付く。
 おばあちゃん。私がそれかどうかは判らないけど、向坂は放っておけない。
“彼女”達のためにも。

 

12

 

 丑三つ時。
 彼女たちは塚へ向かった。
 全員が手に手に携帯電話を所持している。理絵子のは録音モード、そして7人はカメラモードだ。内蔵カメラであらゆる角度から“現場”を撮影してやろうというのである。一気に7人でシャッターを切れば、隠すことは出来まい。
 とはいえ、先んじて悟られることが理絵子には見えている。あいつも“力”を持っているのだ。判らないわけはない。ただ、少なくとも、それがプレッシャーとして作用することは有益と見る。
 流れを歩く。乾いた音が聞こえてくる。かっつんこっつん。理絵子の判断に狂いがなければ、それは本来石工さんの作業だ。塚に何か小細工をしている。
 ワサビ自生地到達。
「あいつの気を引く。1分したら来て。みんなで塚を取り囲んで激写」
 理絵子は言った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -45-

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 理絵子の両肩に手を置き、愛おしそうに、理絵子の頬から両腕を撫でさする。
 それはそう。まるで孫を愛する祖母のように。
 上体がぐらり。
「おばあちゃん!」
 理絵子は反射的に抱きかかえた。
 軽い身体。何という軽い身体。
 骨粗鬆症…及び身体を動かさないことによる筋力の低下。
 溢れてくる。理絵子の目から涙が、突如とめどもなく溢れてくる。
 理絵子は抱きしめた。おばあちゃんの老いた身体を、そうっとであるが腕一杯に抱きしめた。理由は判らない。ただ、ただ単にそうしたくなった。いたわりの気持ちというか、愛おしい気持ちというか、そういう言葉では表現しきれない、おばあちゃんを包んであげたい気持ちが理絵子を満たした。
 ここでおばあちゃんの台詞に補足しておく。壱与は卑弥呼の後継として邪馬台国の女王となった13歳の娘である。漢字には様々な当て字があるが、ここではこのように表記しておく。また、台詞の最後はどちらかというと仏、弥勒菩薩(みろくぼさつ)真言である。救い主を崇める内容であるので、記しても問題あるまい。
 しばらく時が過ぎた。
 理絵子は床の上にぺたんと座り込み、えぐえぐ泣きながらおばあちゃんを抱いていた。
 おばあちゃんは腕の中で眠っている。その頬は、その腕は、ほんのりと赤みを帯び、表情は昨日の“鬼女”がウソのように穏和そのもの。
 測定したわけではないが、血圧も脈拍も、おそらく平穏な値であると確信する。
「おば……」
「眠られました」
「え!?」
「そういう意味ではありません。抱えていたものと、求めていたものがおありだったのでしょう。安心なさっての眠りです」
 理絵子は言った。何らかの“交感”がおばあちゃんと自分との間に生じたことを知る。
 詳細は判らない。無意識のレベルで、互いに何かを送り、受け取った。
 新生児と母親のアイコンタクトのように。
「昨日な」
 と、主人氏。
「あんたの巫女写真、もらったろ?今朝ばあちゃんに見せたんだ。そしたらいきなり、『この子だ、この子だ』って涙ボロボロ流してな。なんか巫女時代に言い伝えがあったらしいんだ」
 主人氏は、おばあちゃんから聞いたという、その言い伝えを話した。
 それによると、代々の巫女は“継承者”であって、いつか遣わされる“最終解決人”が来るまで、塚を守るのが使命であるというのだ。ジャンヌ=ダルクのような、“伝説の少女”がやってくる。
 それはすなわち。おばあちゃんは、最終解決人を……
「ターミネーター」
 竹下のひとことが雰囲気をぶっ飛ばした。今さらであるが、この娘は映画好きである。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -27-

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 相原は言うと、一旦公園内の四阿に立ち寄って銀色のアタッシェ・ケースを手に取りぶら下げ、学校へ向かい歩き出した。
 距離200メートルほど。程なくし、校門を飛び出してくる何人かの姿。ジャージ姿にホイッスルをぶら下げた学年主任の体育教諭、クラスメートたち。
「おーい。大丈夫か……そちらは?」
 学年主任がが走る速度を緩め、相原を見る。
「相原学……姫子の兄のようなモノです。母親が手を離せないので参りました」
「ああ、そうですか、わざわざ済みません。担任の奈良井ですが、今……」
「どこぞの親御さんに噛みつかれていると伺っております」
「ええ……はぁ、まあ」
「クラスで説明しますわ。こちらお収め下さい」
 相原学はケースを一旦足下にゴトリと置き、名刺を差し出して渡した。
「鎌倉宇宙機……ああ、人工衛星とかの」
「そうです。放射線測定器なんかもやってますので、まぁ、保護者様に誤謬である旨の説明はできるかと」
 連れだって校門をくぐると、物凄い勢いで飛び出してくる“おばさん”あり。
「近づくな放射能!」
 それは諏訪君らに「近づくな」と言い放った柴崎綾乃の母親であった。傍らに当の柴崎綾乃が立って睥睨している。
 これでレムリアは事態をようやく掌握した。原発事故の起こった福島にちなむ全てを“放射線被曝汚染物”と定義し、忌避しているのだ。類例の典型が原爆被害者を罵った“ピカ”と関連付ける物言いだ。原爆がピカッと光ってドンと爆発した……という表現に基づく。広島と福島という語呂まで合わせた悪質な“駄洒落”である。
「私の家族と友人に何か」
 相原学は防空識別圏とでも言うべき距離を置いて問うた。
「話しかけるな。出て行け!」
 ケンカを売るおばさん。
「理由をご教示いただきたく。家族友人を侮辱する意味なら聞き捨てなりません」
「ガンがうつるからに決まってるでしょ!」
「悪性新生物とひっくるめて呼ばれる病気のガンのことですか?」
「そうよ!」
「ガンはうつりませんし、ここにガンを患う者は一人もおりませんが」
「違った。放射能よ。放射能が移ってガンになるのよ。いちいちうるさいわね早く出て行きなさいよ」
 すると、
「お断りします。帰ってきたので」
 レムリアが呆れたように言い、諏訪君の手を引いて歩き出す。
「あ、あ、あ」
 おばさんが二人を押し戻すように両の手を広げながら後ずさり。

(つづく)

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