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2020年4月

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -31-

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 相原学は冷静に答えている。でもそうやって論理的に一つずつ潰して行くと、批判が難癖に変わってくるんだろうなあ……彼女は思う。
「どうやって証明するんだよ」
「ですので検出装置で調べられます」
「機械は絶対なのかよ」
 言わんこっちゃない。
 認めたくない人は、理論と論理で主張されると、最後は“嘘だ”と言い張るのである。
 何か言おうとする相原学を彼女は指で触れて制した。
「ラムサール条約って皆さん知ってますか?」
「何の関係が」
「いいから、柴崎さんご存じ?」
 彼女は学級委員であるその娘に振った。それは“優等生のプライド”……何でも知ってるをくすぐる行為でもあった。
「環境保護の……」
「その通り。“水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約”です。で、そのラムサールの意味はご存じ?」
「地名じゃなかったか」
 これは辰野君。そして、気づいたのであろう、ハッと目を見開いた。
「相原さんの言いたいことが判った。ラムサールって世界で一番放射線の量が多い街だろ」
 教室中がどよもした。
 環境保護の象徴たる地名が最も放射線が強い。普通、両者は結びつかない。
「日本の平均的な被曝量の10倍から1000倍に達することもあります。温泉地で、放射性物質のラドンが多く、ここからはアルファ線が出ます。ラジウム温泉って聞いたことのある人いると思いますが、街全体がそういう温泉になってるような場所です。ただ、温泉として長いこと存在していることから判る通り、ここにいて健康に問題が生じるわけではありません。放射線を浴びること自体は、たった今私たちの身体を宇宙からのガンマ線がバシバシ通過して遺伝子を壊していますが、そういう害の側面と、この温泉のようなむしろ健康に良いとされる薬の側面と両方あります。ただ、放射線ごとの毒と薬の境界線は科学的には未知です」
「それ見ろ!」
「だから、放射線はゼロでなくてはいかん、という見解を取られるなら自由です。ゼロまで避けるには厚さ30センチの鉛の箱に入ってなくちゃなりませんけどね。でも、福島に滞在したこと、福島から来たことで、放射性物質による害毒を受けるという認識は理論的に全くあり得ず、甚だしい誤解だと断言出来ます。従って、彼に今後そのような言動態度を示す必要はありませんし、許しません。言いたいことはそれだけです。よろしいですか」
 少し静かになる。環境保護と放射線の接点が効いたようだ。
 が、反駁のきっかけを必死になって探していることは容易に想像できる。
「でも……」
「だから、たった今アナタをブチ抜いてるガンマ線は気にせずに、彼が福島にいたことをギャーギャー言うのはナンセンスだと何度言ったら判るんですか?」
「そいつがいると今あるよりも増えるだろ!」
 なんじゃそりゃ。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -52-

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〈みんな、大丈夫です〉
“声”が聞こえた。
 振り返る。蓋石の板の上に“女の子”が立っている。
 白い光が一人の少女の姿をしたものだが、実際には7人分の人格である。
 言葉は要らない。直接交感できる。彼女たちは言うまでもなく封じられた少女たち。帰りたかった。故郷へ戻りたかった。
 でも、欲望の権化である人格がそれを許さなかった。彼女たちをこの地に封じ、再びの“彼女たちを使った遊び”を求めた。
 確かに、過去には悪霊的存在になり、この地に来る若者を呼び寄せ、憑依の形で結界をくぐり出ようと試みた、こともあったという。依り代を求め、宿を覗き見たこともあったという。でも、自分たちを弄ぶ者に頼るような行動を取る気にはなれず、踏み切れなかった。
 そこへ自分たちが訪れた。
 彼女たちは、自分たちが、“冒涜への怒り”を抱いたことで、安心感と親近感とを持ったという。
〈嬉しかった〉
“彼女”は言った。
〈勝手に怖いと決めつけられる。勝手にお化けに、悪霊にされる。晒し者にされ、興味本位で覗かれる。私たちはただ帰りたいだけ。なのに、どうしてこんな仕打ちを受けなくちゃならないの、って悲しくてしょうがなかった。
 でも、皆さんは違った。皆さんは私たちをちゃんと人格と見てくれた。そう判った瞬間、もういい、って思った。一つ訊いていいですか?〉
 理絵子は頷く意志を示した。言葉は要らない。
〈同じような場所、いっぱいあるんですよね〉
 それは“心霊スポット”と称され、肝試しの対象にされる場所のこと。
 ネットで検索すれば、1日で見切れないほど出てくる。テレビで占いだ何だ頻繁に放送されていることもあり、ブームと言っても過言ではない。
〈今って、“死”という現象を面白がる時代なんでしょうか〉
 理絵子はドキッとした。
「殺す」「死ぬ」
 この種の言葉が軽々に口にされ、実行に移される。確かに、そんな出来事がとみに増えている気がする。
 特に……それこそ話のネタじゃないが、これから社会を支えて行く自分たちの世代に。
 そのことと、昨今の心霊現象ブームは決して無関係ではない。この彼女は、そう指摘しているのではあるまいか。
 どっちも、“命”を軽んじているのが背景にあると。
 であるならば。
 あなたの言うことは間違ってはいない。それが理絵子の答え。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -51-

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 だから対峙したくなかったのだ……言葉にすればそんな感じの意識を向坂から得る。いや、蛇の方であるかも知れぬ。恐怖でも何でも、理絵子を失神させるだけでなく、とにかく“しゃべることが出来る状態”に、しておきたくなかったようだ。だから意識精神へ揺さぶりをかけた。
 その意図に理絵子は首をかしげる。念動すら使える者が何故?念動を持たぬ自分を、念動で攻撃することをわざわざ避けた?
 嗚咽する。
「うう。ううっ。もういいよ。怖いよ」
 そこで理絵子は仲間を気遣う。みんな事態を驚いて見てはいるが、心の状態は冷静であると知る。
“見えない仲間”が安心を与えているゆえに。清流の趣を仲間達に与えている故に。
「それ、悪役の常套手段」
 竹下が、言ってのけた。
 図星で、あった。
 人が“狂う”その瞬間を、8人は目撃した。
 突如凄まじい絶叫を発し、髪の毛を逆立て、歯をむき出した口から涎を撒き散らしながら、タガネとハンマーの男が飛び上がる。
 異様な跳躍力である。火事場の馬鹿力よろしく、まっとうな脳の制御を外れたのである。バッタのように中天高く飛び上がる。
 この領域は、もはや理絵子の対応範囲ではない。
 不動明王真言。
 バン!という、爆発というか、直近に雷が落ちたような音と光が、一帯を包んだ。
 理絵子も思わず目を閉じ、顔を背けてしまう。
 しかし理絵子は“感覚”で全てを見ていた。その光の中で四阿が分解し、柱を失い落ちた屋根が某を直撃したこと。四阿の結界が解除されたこと。そして、包んだ光は男の太い腕の形に形容でき、その腕が失神した某の内部に入り、意識のヘビを握り潰すが如く捉え、まさに強引に連れ去ったことを。
 蛇が捨て台詞を自分に寄越す。“だからこの娘とは……”
 ゴロゴロという残響が山間にこだまする。
 残響が消え入り、せせらぎの音があるだけとなる。
 某も、仲間達も、その場に横たわっている。
 不動明王真言が、意識精神に直接作用するエネルギーを引き込んだことは確かである。神経系への大きなショックは失神に至らしめるからだ。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -30-

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 疑義の声が上がった。女子生徒で成績が良かった記憶がある。
「ガンマ線って原爆とか」
「よく分からないから、レントゲンは方程式と同じで謎のXとしてX線と呼んだ。追ってガンマ線の一員に含まれることが判った。それだけですよ。続けますね。放射線に被爆すると遺伝子を壊される。これがヤバいんで大騒ぎになるんですが、放射線にはそこらを元々飛んでいるものと、さっき言った放射性セシウムや放射性ヨウ素を体内に取り込んでしまって、体内で放射線を出される場合の2パターンがある。体内に取り込むと、ずっと同じ位置にいて、ずっと同じ細胞に放射線を浴びせ続ける。なので、ヤバいんです。で、ヨウ素は甲状腺に取り込まれやすい、セシウムはカリウムと性質が似ていて、血液に乗って全身を巡る。存在量が半分になる半減期はヨウ素が8日、セシウム137が30年。セシウムは土の中や動物の体内にも溜まるので30年が重くのしかかる。以上ですが、諏訪君が福島にいたから何だって?」
 沈黙と困惑が教室を支配する。が、数秒。
「それって放射能持ってきた……」
 そこで相原学が小さく手を上げて説明する。
「高度に汚染された地域には行っていませんし、移動に際してはセンサで放射性物質の付着が無いことを確認しています」
 それはまるで伝染病対策の問答である。ちなみに実際そのような“イメージ通り”の放射性物質の付着が起こるとすれば、高度に汚染された地域……核反応が生じている直近になる。無論、そんなことはあり得ない。
「センサはこれです」
 と、相原は宙に掲げて一同に見せる。片手で抱えるサイズのジュラルミンケース。
 中を開くと虫眼鏡の親戚のようなセンサ部と、ケーブルでつながった液晶の数値表示部。
 取り出して電源を入れる。ちなみにこういう“非日常”のキカイが出てくると男の子が幾らか興味を持つ物だが、この場は逆に避けるような雰囲気。
「ふーん……それで諏訪は良くても、その病院にヤバい奴がいて吐く息とか汗とかに付いてるかも知れないだろ?」
 別の声。もはやウィルスのキャリア扱いである。逆に言えばそういう認識が“放射能・放射線”に対する一般レベルということであろう。
 レムリアだけに届いた相原学の心のため息。
 が、相原学は眉根ひとつ動かさず、
「菌のようにうつったりはしません。仮に、呼気や汗を介して付着したとしてもクリーニングやエアシャワーで除去可能です」
「クリーニング程度で落ちるのかよ!」
「ヨウ素は気体として、セシウムは液体で存在し、それぞれガスや微粒子として浮遊しています。従ってエアシャワーにより容易に除去が可能です」
「食い物や飲み物に入ってるんだろ?」
「汚染された飲食物は摂取していません。そもそもありません」

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -50-

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“ここ”
 呼ぶ声がし、理絵子は蓋石に触れる。
 蓋石の下は石室。
 石室の中には骨壺。
 それから。
 姿無き仲間。
“助けます”
 理絵子はその意を解した。
 超常のベクトルが、理絵子をアシストした。
 細い理絵子の手指で、100キロに近い蓋石が動く。
「うぉっ!」
 男を乗せたまま、蓋石が動く。
 重々しいその音は、さながら何かの開闢(かいびゃく)の砲声。
 石室の蓋が開いた。
 現れる。
 それは白き光の塊。
 それこそ“すばる”を思わせる、高輝度の恒星に似た白い輝き。
 ただそれは、理絵子にのみ恒星状と見える。特異能力を有しないのであれば、“何かの存在”は感じるかも知れないが、視覚化することは出来ない。
 輝きは次々と蓋石の下から出、塚を囲む女の子達個々の肩の上に座した。
 結果、放たれた念動の歪みは、女の子達に達することなく、洗面器の中の波紋のように、波源である男へと跳ね返された。
「……!」
 男が苦しげに胸をかきむしる。
「お前は何者」
 理絵子は問うた。問うたが、答えは、姿無き仲間から、先にもたらされた。
 欲望の権化。
 鉱山の時代、金による“酒池肉林”は、関係者にとってこの世への未練となった。未練は念としてこの地に残り(それこそ「残念」である)、やがてそれのみで構成された人格である亡霊となったが、金銭のもたらす贅沢は、肉持つ身でしか味わえず、ゆえに、憑依できる人間の登場を欲した。
 霊媒詐欺師向坂。
「向坂。あんたは最早ただの依り代」
「黙れっ!」
 向坂が腕を振り下ろし、再度、“歪み”を放つ。しかし恒星の描く星座のネットワークに跳ね返され、逆に自分が四阿から放り出される。
「……!」
 もんどり打ってひっくり返り、ショックで勝手に飛び出したような、意味をなさぬ声が向坂より発せられる。胸か背中をしたたか打ったようである。
 怯えが向坂の内部に芽生える。敵わないと判り卑屈になった。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -49-

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 刹那の後、見えない帯と表現できよう力が、理絵子の身体を締め上げる。
 しまった!という失敗の感覚、身体を拘束される感じ、首を圧迫される苦しさ。
 彼女を螺旋に包み、束縛する、実体無き大蛇があった。
 理絵子は異次元の生命、邪悪が具象化した蛇の鎌首を眼前に認めた。昨日のアオダイショウとは位相を違える、獰猛な毒蛇の目がそこにあった。それは金属製かと思わせる冷徹な目線であり、捉えた獲物に与えるものが“死”のみであることを象徴した。
 蛇の口が開く。
 哺乳類の犬歯に当たる毒牙が、非生物的にぬぅっと伸びる。
 開いた蛇の喉の奥が、邪悪の住まう暗黒世界であることは明白であった。それはイメージ的に、ブラックホールの奥底という言葉と彼女の中で一致した。すなわち。
 入り込むと永遠に出られない、虚無が支配する宇宙の落とし穴。
 宇宙の。
 理絵子の意識に想起された、漆黒の宇宙空間に、輝く星のイメージが出現したのはその時であった。
 淡いガスの中、まばゆい光を放ち寄り添う青白の星の集団。
 賢治の著作において、“プレシオスの鎖”と呼ばれるその星団を、彼女は知っていた。
 メシエ番号45、星団名プレアデス。和名を“すばる”。
 煌めきが理絵子の意識を満たす。瞬間、彼女は400光年を隔てた、満ちあふれる光の世界に、確かに身を置いた。
 意識がブラックホールからすばるへ向いた。
 それは、危機を呼び込む元凶である“恐怖”が、彼女の意識から離れ去ったことを意味した。
 同時に、すばるのイメージは、今この塚の中で自分を見ている、少女達自身であると理絵子は知った。
 理絵子の経験、“怖い気持ちは怖いエネルギーを引き寄せる”。それは恐怖が萎縮する性質を持つことに起因する。言ってみれば磁石の反発力が弱くなるのだ。恐怖が恐怖を呼び込み、つけ込み、しまいに恐怖という名の不可視の大蛇が意識精神を食う。
 少女達は、理絵子が宇宙をイメージしたタイミングを計り、自分たちの存在を星の姿で投影したのだ。
 理絵子は自分が恐怖の虜であったことを知った。仲間への攻撃を恐れる故に、つけ込む隙を与えたことを知った。
 しかしたった今、自分がそれを克服したことを知った。
 果たして大蛇の束縛力が喪失した。
 即座に大蛇は対応に出た。理絵子の意識精神に対する攻撃が失敗したと知るや、物理力で実力行使に出たのだ。実際に優位性を有する念動力の攻撃を仕掛ける。“歪む感じ”が生じ、四阿の屋根が割れ、柱が折れる。
「おのれ」
 再びの歪む感じ。念動力サイコキネシス。
 その時。
 超感覚。エクストラ・センサリ・パーセプション。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -29-

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「返事は!それともクラスまるごと国連レベルで告発していいのか」
「てめぇさっきから聞いてりゃ何様のつもりだ!」
 それは日直の男子生徒坂本である。
「姫様だ。文句あるか。全員教室入れ。他のクラスの邪魔だ。さてどうやって説明しようかね」
 レムリアは言いながら校内へ戻り、衆目を引きちぎりつつ階段を上り、廊下を歩いた。この際柴崎母娘がやかましくわめき散らしながら彼女を恐らく全速力で追いかけているつもりなのだろうが、何故か追いつけない。
 それは他の同様な目的の生徒も一緒。男子の脚力なら容易なはずなのになぜか女の子に追いつけない。
 ガラッとドアを開けて教室へ入った。
 黒板へ歩みより、まず落書きのピカを消す。
〈知恵貸して〉
 相原学にテレパシーでヘルプ。
〈好きにしてくれ〉
 それは彼の“脳内ノート”の開示。
 教卓に仁王立ちする。生徒達は不承不承という表情で、しかし彼女に食ってかかるようなことはせず、めいめい自席に座る。
 彼女は全員が座ったことを確認して、教卓に手をついて身を乗り出す。
「放射線は“目に見えない光のようなもの”を見つけた昔の人たちがそう呼んだのが始まりです。レントゲン、ベクレル、キュリー夫人、そうした人たちの一部、命がけの研究成果です……」
 以下、表により分類し、箇条書きでも良いのであるが、彼女の言ったままを記す。中学生なりの咀嚼された内容になっていると思われるためだ。
「原子力発電はウランやプルトニウムと言った連中に“中性子”という小さな粒子を衝突させ、ウランなんかの原子核を割ります。このとき出てくる莫大なエネルギーを発電に利用しています。で、ウランが割れると、その原子量235の概ね半分で、割れやすいサイスの物質に分かれます。ここに、セシウム、ヨウ素など、自然界では存在しない、放射能を持っていて、なおかつ、人体に吸収されやすい連中が含まれています。この放射性セシウム、放射性ヨウ素は、セシウム、ヨウ素としての振る舞いは同じだけれども、放射線を出す、これが厄介なのです」
 一息置く。
「これら放射性物質から出てくる放射線は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の3つが主です。放射性ヨウ素の場合、ベータ線とガンマ線を出してキセノンに変わります。ベータ線というのは電子ビーム、ガンマ線は強い電磁波です。レントゲン光線のX線もガンマ線です」
「え?」

(つづく)

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