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2020年5月

【理絵子の夜話】圏外 -57・補遺-

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以上で物語を了とする。なお最後に、今回、理絵子が封印の石板を動かしたことによって見つかった、“書”の内容を現代仮名遣いにて記しておく。

この書の開かるるは、全てのことの終わりの時なり。
その時の来たるは、雷(いかずち)の轟きにて知らしめん。
光持つ者の遣わされたるを見る。光は星なり。絆にて結ばるる、畢星(ひつのほし)と昴星(すばるぼし)。
かくもけたたましき星の見知らぬ。
白き光の瞬き(またたき)と、切り取る音と。雷の道を導かん。
巨きな(おおきな)印、小さき手にて大きく動き。
星と星との邂逅(かいこう)を得ん。
通じぬもの通じ、しかし封じるもの封じるを得ず。
(不動明王真言)
この書開かるるまで、禊祓(みそぎはらえ)の儀、途切れる事無かれ。
凛として。
天正拾四年壱月

作者註
1.畢星
ひつのほし、ひつほしとも。おうし座の首星アルデバランのこと。記紀での書き方
2.昴星
すばるぼし、すばる。おうし座プレアデス星団。秋から冬にかけ、まず、アルデバランが昇り、次いでプレアデスが昇ってくる。このため、アルデバランがプレアデスを先導する者とする伝説もある。肉眼では5~6の星が見えるが、ギリシャ神話では7人姉妹である。
3.天正14年
「理科年表」によると、天正13年末に中部地方を震源とする大きな地震が記録されている。話中の山津波はこの地震によると見られる。
4.その他
この「書」では、密教の真言と神事の継続が併記されているが、これは、大和時代以降の神仏合習に起因すると見られる。
5.おことわり
この物語はフィクションです。類似の事象伝説が存在しても本編とは関係ありません。

「圏外」/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -33-

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 ピーという機械音。
 相原学がケースから取り出したガイガーカウンタである。液晶表示の上に赤ランプが点滅。
 教室がどよもし、みんな諏訪君から距離を取った。
 しかし、聴診器のオバケのようなセンサが向いているのは柴崎の母親。
「は?何そのふざけた……」
 センサを指さすとまたピー。
 衆目が柴崎の母親に。
 相原学が口を開く。
「失礼ですが、何か、宝石を使ったアクセサリを身につけてらっしゃいますか?」
「は?何の関係が」
「人気のある色を人工的に作り出すため、放射線を浴びせた宝石ってのが流通してましてね。キャッツアイとか」
 すると柴崎の母親はギョッとしたように己の手を見た。
 指輪がはまっている。
 そこへ。
「新聞で読んだことありますね。クリソベリル(chrysoberyl)に放射線を当てて色を変えた……でしたかね」
 しわがれた低い男の声。
 ギョッとしたように生徒と教員の人垣が反応し、モーセの海分けの如くサッと左右に分かれ、道を作る。
 すっかり頭髪のはげ上がった小柄な男性。
「校長の笹塚(ささづか)です。特定の生徒に出席停止を命じるのは校長判断です。お控え下さい。それと、わたくしは母の胎内で広島の原爆投下により被爆しています。あなた様の発言、娘さんの認識は非常に心が痛い。ケロイドを揶揄され、ピカがうつると言われた、聞いただけの話が我が身に降りかかると、それがどれだけ人を傷つけるか、よく分かります。ちょっとよろしいですかね」
 校長は……その“放射線ジュエル”の記事であろう画面を映したタブレット端末を柴崎の母親に渡すと、代わりに嵌めていた指輪をスッと抜いた。
「ちょっ……」
「ピカがピカを持ったところで何を今更ですよ」
 ニヤッ(と、彼女レムリアには見えた)笑いを浮かべ、ガイガーカウンタのセンサに近づける。
 赤ランプが付いてビービーガーガー。
 相原学はやや演技じみたため息をついて。
「どこで買いました?これ。日本国内の鑑別会社ではこの手の奴は鑑定書出しませんが……」
「海外からネット通販……」
 渋々、という口調で答える母親。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -56-

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 安堵の気持ちがメンバーから伝わる。しかし田島は一人浮かない顔。
「あのね、それはいいとしてね。一つだけ。PTSDかなぁ。あの男のあの錯乱顔が頭から離れんのよ」
 田島は言った。PTSDというより惨事ストレスという方が正確である。残虐や凄惨を目の当たりして精神的ショックを受けるものだ。これは人間の“死”及び“非正常”に対する恐れに起因しよう。ちなみに、惨事ストレスが後を引いた状態がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である。
「それは……」
 理絵子はちょっと考えて。
「みんな隣にいた、その“誰か”を想像してみて。どんな女の子で、どんなことが好きで……」
 理絵子は言った。自分の場合最後に“喋った”娘。七五三であろう。精一杯着飾って、村人の祝福を一杯に受けて。
 次こそは花嫁に……うん、そうだね。
「あ~なんか桜吹雪な気持ち……」
 若井が言った。
「お前いいこと言うな。うん、そんな気持ちだ。すーっと蒸発して行くよ。すーっと」
 田島が言った。
 この件、解決。
 すると。
「りえ部長」
 今度は竹下。
「はい?」
「単刀直入に伺います。部長、あれにエスパーかましました?」
 竹下は言った。一昨日も同じ事を訊かれたが、この娘は理絵子がそれではないかと心の奥底で考えているようだ。
「いいえ」
 理絵子はゆっくりまばたきしながら否定した。
 嘘ではない。自分は真言を口にしただけ。
「女の子達は恐らく本物の幽霊さんです。でも、私たちの投げた石が男に命中したこと、神棚のお塩やお酒があの男に降りかかったこと。そして飛び上がった男に雷が落ちたこと。その全ては自然科学で“偶然”と処理される出来事です。ちなみに、45億年前のある日ある時、ある角度から、ちょうど良いサイズの星が地球に激突し、飛び出た破片で月が出来たのも、奇蹟のようですがやはり偶然です」
「じゃぁもう一つ」
「はい」
「部長。本当に巫女さんじゃないんですか?」
「今日だけだよ」
 理絵子は立った。
 巫女装束。言うまでもあるまい。おばあちゃんの強い希望もあり“最後の”神事を頼まれたのだ。
 女将さんが手をぱんぱん。
「部長さん」
 階下から呼ばれる。
「はい」
「そろそろ、お願い出来る?」
「判りました」
 理絵子は、りぼんを結び直した。
 仲間達が装束を整えてくれる。
 理絵子は前を見る。
 凛として。

(本編完・付記事項あり)

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【理絵子の夜話】圏外 -55-

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 かくて、“霊感詐欺師向坂逮捕”を持って、塙夫妻の村八分は幕となった。
 昨日の嫌がらせ攻撃とはうってかわって、宿の1階は多く人の声でざわざわし、女将さんが忙しい。
 田島が麦茶をお盆に乗せて2階に上がってきた。
 文芸部全員着席。
「さてと」
 グラスを回す。
「事態を整理させてね。りえぼ。多分あんたが一番詳しいとして見解を聞きたい。あれに雷が落ちた時、私たちはそろって、この辺に誰かいる気がした。あれは何か」
 田島は“この辺”と自分の左前辺りを示した。
「みんなが思ってる通り」
 理絵子は言った。
「……ということは、や、やっぱり?」
 と大倉。
「うん」
 理絵子は頷いた。別に隠すこともない。隠したところで“ここだけの話なんだけどさ”で、いつの間にか広がるだけのこと。
「やっぱりか」
「に、しては“怖い”って感じじゃなかったな」
「そうそう、そばにいてくれる。みたいな。なんか部長とアレのやりとり、妙に冷静に見てたな」
 理絵子はちょっと笑って。
「それは、彼女たちがむしろ、私らの味方をしてくれたと言うこと。彼女たちは何百年、あの塚に閉じこめられていたわけでしょ。これは、その時代の動機が関連すると思う。恐らくは、『いつか、故郷へ帰してあげられる日が来る。それまでは秘密にしておきたいので、どうかここで静かに』……そんな感じじゃない?昔は死んでも滅んだ訳じゃなく、“霊という形”で生きている扱いだからね。霊であっても戻られちゃ困るわけよ。口寄せされて『どこそこに金がある』と言われる、そこまで考えたんじゃないのかな?そして時を経て、私たちが来た。待ってましたと。幽霊さんと言っても怖いばかりじゃない」
「なるほどね。でもそうすると私たちは彼女達を帰してしまったことになるわけ?」
「そういうことだね。おばあちゃんのおっしゃった伝説の少女、やっちゃったわけよ。でも、最早誰も文句を言う時代じゃないでしょう」
「いいのかなぁ」
「いいんじゃない?ここって心霊スポットとしてネットに出てるってことでしょ?それなのに何を今さら。それよりは」
「そうだね。ずーっとここにいたんだもんね。帰りたいよね」
「いいことをした。でいいのかな?」
「うん」
 理絵子は頷いた。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -32-

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 彼女は自分の顔が悪者のそれになっただろうなと意識しながら。
「増えるわけねーだろ。むしろ耐放射線完全防御の箱の中にいた分、ここにいた君たちより浴びた放射線は少ねえ……わよ」
 性格修正。 
「なんでそんな箱に入ったんだ?ヤバいところ行ったってことだろ」
 これには相原学が応じる。
「弊社では宇宙機を製造している関係で、宇宙空間の放射線に耐える飛行機械を幾らか所持しています。その中で放射線が観測されないならば、想定通りの機能を発揮しているという証拠ですからね。商売用の道具です。今回、嫁の……失礼、姫子の要請に応じ、急を要すると考え、自分の裁量で手配出来る自社の飛行機械を派遣しました。福島に行くから、ではなく、利用出来た飛行機械がそれだった、だけです」
 ここで口を開いたのは柴崎の母親。
「原発利権の手先の物言いが信じられるものですか!」
 こりゃだめだ。彼女は思った。そう判断するアナロジーを経験から誘導出来る。
 宗教だ。いつだったか、伝染病対策でボランティア活動をした際、男の子に言い寄られたことがある。すると“異教徒にたぶらかされた”として、男の子は父親に爆殺されてしまった。
 父親は自分を罵って去った。
「相原さん」
 諏訪君の小さな声。
「ありがとう。でも、もういいよ」
 その時。
「良くねぇだろ」
 ドスの効いた、この教室で過去に聞いたことの無い、野太い男の声がした。
 柴崎とその母親の前にのっしとばかり立ち塞がり、睥睨する、大柄な体格。
 平沢である。
「聞いてりゃ勝手ばかり。相原さんは理論で説明してるのに、あんた感情論ばっかじゃんか。いけないことと間違っていることがあるなら、何がどう違うのか説明してみたらどうだ」
「なにあんた生意気な。放射能はごめんだって言ってるだけじゃない。バッカじゃない?」
「だから諏訪君は持ってきてないし、うつらないし……」
「ずっとあそこに居たんでしょ?だったら来るなって言ってんの!」
「今、降って……」
「うるさいわね!あんたも一緒に出て行きな!」
 柴崎の母親は横暴を展開し、平沢、諏訪君、そして彼女らを指さした。
 その瞬間。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -54-

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 時が来たと知る。彼女たちが形而上の世界へ旅立つ準備が整った。
〈さようなら。時を隔てたあなた達。いつか、友として同じ時代を生きることを、私達は望みます〉
 言葉と共に白い人型に変化が生じる。人型の背後に光が噴出し、羽のような形に広がる。
“天使化”と理絵子は認識した。今彼女たちは単に“死霊”と呼ばれる存在から、ワンランク上の霊的存在に進化したのだ。
〈信じていました。いつか、きっと、って。皆さんの会話を聞いているのは楽しかった。飛び交う優しさに安らぎました。ありがとう。信じていて、良かった……〉
 羽ばたいて、と記した方が直感的に理解できよう。彼女たちは光の身を持つ天使となり、スパイラルを描きながら天へ、強き電光の腕の出でた天空へと舞い上がり、去った。
 夜が戻る。
“ロックが外れる”感じ。
 理絵子は知った。仲間の意識が回復する。
 女の子達の携帯が、一斉にピロピロと着信音を鳴らした。
「え?」
「なに?」
彼女たちが順次起きあがり、それぞれに機器を操る。
「メールだ」
「あたしも。なんで?圏外……」
「あ」
 彼女たちは見た。
 そのメールにはタイトルも差出人もない。ただ、塚石を蹴散らし、蓋石にタガネを立てる某の姿が添付されている。
 メールに念写!。理絵子は感心した。時代を超えても、女の子達が、その時その時の“最新”を求める姿勢は変わらないのだ。

13

 夜が明けた。
 向坂は住民達が見守る中、両脇を私服警官に支えられ、パトカーの後部座席で旅荘塙を後にした。すなわち彼女たちが向坂を宿に運び込み、朝まで寝かしておいたのだ。
 向坂は逃げようと思えば逃げられたかも知れぬ。しかし、精神力を極限まで行使した疲労か、警官に起こされるまで一度も目を開かなかった。この間、理絵子は向坂の精神的な破綻の発生(要するに気が触れる)を心配し、ずっとそばにいたが、向坂はまるで胎児のように身体を丸め、時折怯えるような声を出すだけであった。“不動明王”(と、しておく)により、よほど怖い目にあったのだろう。
「あの娘が霊力を……あの娘が……オレは判っていたんだ。なのに……」
「はいはい……署で聞こうな」
 しゃくりあげながら警官に訴えるその様は、文字通り悪夢を見た子供である。ちなみに、当然の事ながら、警察でその辺の話をしても聞き流されるのは、前述の通り。

(つづく)

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【理絵子の夜話】圏外 -53-

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 対して、彼女は頷いた。
〈肉の身を持って生きている。だからこそ判ること、だからこその楽しみ、喜びだってあると思うんです。現に私たちは、この水の冷たさ気持ちよさ、おいしいおやつをお腹一杯食べることを知らない。触ろうとしても、みんなすり抜けてしまう。ただ、ここにいるだけ。
 うまく言葉に出来ないけれど、ここに遊び半分に来る連中に限って、人間としては薄っぺらいような気がする。そういう連中にこそ、“死”とは何なのか伝えてやりたいんだけど、逆に絶対に真剣にそんなこと考えない、そう思う〉
“手遅れ”な若者が増えている。彼女の言いたいことはそういうことだと理絵子は理解した。確かに、“命の大切さ”を教えようという働きかけが生じて久しいが、それが奏功しているとは思えない。
 言葉や想像で、“死”は実感できないという気がする。“かけがえのないものだ”と実感できる“体験”がなければ、死を、そして生きていることの素晴らしさが判らないのではないか。
 例えばゲームにおける“死”は、敵キャラクタの消滅でありポイント加算を意味し、そして自キャラクタの場合は“一つ減る”に過ぎない。
 永遠に戻らない現実の死ではない。
 父親の言葉の重さを再び思う。死が身近にあるということ。
〈あなたは死を知っている〉
 彼女は言った。
〈でも、あなたのような人はとても少ないのだと思う。だから、私たちと同じように、取り残され、見せ物にされ、悲しい思いをする子達が今後も増えて行くんじゃないか。それが私の心残り〉
 理絵子は彼女を抱きしめたくなった。悲しい思いを抱えながら、未来を考え、憂いを抱く。本来形而上の世界で安らかな日々を過ごしているはずの彼女たちに、そこまでさせてしまった自分たち“後世の人間”を恥ずかしく思った。
 彼女の抱える憂いに応えてあげる術はないのか。
〈理絵子さん〉
 彼女は改まった。
「はい」
〈400年を隔てたあなたと私が、こうしてここで意志を交わしたこと。そして何より、あなたにその“力”があることは、何か大きな意味があるはずです。人に出来ない何かをせよという意図の介在を感じます。どうか大切に。私はあなたを、そして私たちを大切に思ってくれたあなた達を忘れない〉
 白い手が出される。握ることの出来ない手が。
 だから理絵子は、その手を包んだ。
 手のひらに感じるかすかな暖かさ。

(つづく)

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