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2020年6月

【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-02-

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 すると。
「ちょっと、りえぼー」
 大倉久恵が壁際から上半身を出して手招き。ショートカットの小柄な娘で、いつも空想しているかのようなぽーっとしているイメージあり。そのくせ時代小説でしかもホラーががったのが好きという感性。
「にゃ?」
「見てこいつ……」
 理絵子が応じると、大倉は著名な漫画家の名を口にした。立って歩き、人語を喋るネコが出てくるファンタジー作品で知られる。
「変なネコとか?」
「うん激しく変」
 その言葉に店の裏へと向かうと、隣接するスナックとの間、壁と壁との文字通り狭い間隙を、中井と今里が覗いている。
「どうよ」
 指さすそこを覗いて、理絵子は思わずおおぅ、と声を上げてのけぞった。
 ネコが後ろ足だけで立っている。
 背中が黒、お腹が白の、パンダ配色とでも言うべきミックス。
 確かに激しく変である。犬でいうところの“ちんちん”状態であり、知性ある二足歩行を思わせるその姿はまさにそのマンガ。最も、ネコがある生理的要求を履行する際に、恐ろしく“息む”と、こういう状態になると聞いたことがある。人間で言うとトイレでしゃがむ行為。
 後ろに影。田島。
「私一人残してひどいわ。乙女は寂しがり……何このネコ、うんこ?」
 身も蓋もない。
 するとネコは怒ったか、鼻白んで牙を見せ、田島を“睥睨”し、唸るようにひと鳴き。
「うんこじゃないってよ」
「ホントかよ」
「じゃぁ何の用じゃ。申してみよそこの者。とか言ったら……」
 それこそ、そのネコのマンガの読み過ぎ?と、大倉は付け足した。
 理絵子は仲間達のやりとりに最初笑ったが。
 ハッと気がつく。ネコかて人と気持ち通じ合う生き物だからこそ、遠くエジプトより人と暮らしているのだ。本当に何か言いたいことがあって態度に出しても不思議じゃない。
 理絵子はそのネコを見つめる。ネコが見つめ返す。
 マンガの読み過ぎ、ではないようだ。理絵子はしゃがんで、ネコの顔をじっと見た。
 試みたことはないが、意志はあるということなので、不可能ではあるまい。
 ネコの大きな瞳孔に、自分の姿が映っている。
 と、中井が理絵子の頭の上で理絵子と同様にネコを見。
「あのさ」
 彼女は理絵子を指差した。
「この状況、りえぼーがネコの意志を読み取ろうとしている、という風に思えるのは私だけ?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -35-

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 柴崎が白目をむいて倒れ込んでしまう。
「詩織(しおり)!」
 母親が叫んで駆け寄り、座り込み、娘の上半身を抱えて、
 諏訪君をこれ以上無いくらいの三白眼でにらみ付ける。
 それは、平沢の体臭問題を知るクラスにとって、“勝手な決めつけ”と判断するに足る動作であった。
 とはいえ、
「詩織さんを保健室に……」
 彼女は頭を切り替え、柴崎に近づこうとした。
「近寄るな!お前も放射能だろうが!」
 母親は彼女に鋭く一喝し、自ら娘を抱き上げようとする。
 しかし50キロは優にあるはずであり、もちろん持ち上がらない。
「いいよ相原さん。引っ込みな」
 女子にしては大柄な部類に属する大桑(おおくわ)という娘が動いてくれる。
「あんたもあの放射能の……」
「保険委員なだけです」
 大桑は柴崎をひょいとお姫様抱っこ。大桑の物言いに方便が幾らか含まれることは説明不要であろう。なお、彼女は転入して程なくこの娘と大げんかをしたが、今はよく喋る間柄。逆に言うと彼女レムリアと対立する側と立ち回りをよく知る立場であって、それを装って、それらしく動く分には実に好都合。ちなみに、大桑派だがレムリアは嫌いという者も引き続き存在し、二人の和解を承服しかねている。
“騒ぎの発信源”が退場した。
“もう一方の発信源”に衆目が集まるのは必然の成り行き。廊下には幾らか隣接する教室の生徒と、校長以外にも教員数名。
 何か喋らんと、コトが収まるまい。
「失神したのは放射線じゃ無くて脇の下想像しただけだから」
「え?そういうことなの?」
 平沢は困惑に眉毛を八の字にした。あちこちで忍び笑い。“誰もがそうだと思ったが、当の本人は気づいてなかった”。
 それは、ちょっとした和みになった。
「さておき、放射線と人体の関係について、科学的に全て解明出来ていない部分があるのは事実です。どこまでは影響が無くて、ひょっとして健康増進に利する部分があって、どこからが確実に毒なのか。ただ、今回の場合、その“毒”は、放射性ヨウ素なりセシウムなりを体内に取り込むことで起こります。それはやがてウンコオシッコで排出されます。仮に、人体から人体へ放射性物質が直接移動するとすればそこですが、触りますか?他人の排泄物」
 反応は待つまでも無い。
「では、諏訪君に嫌がらせする必要は無いですね?ただ、手放しで今まで通りの生活で良いとは言えない部分はあります。ヨウ素は8日もすれば気にしなくていいです。なので4月である今はもう大丈夫。面倒くさいのはセシウム。これは水に溶けますので、水の循環、食物連鎖を通じて、水の集まるところ、食物連鎖の頂点にいる生物に向かって濃く集まる。都内でも浄水場から検出されて大騒ぎになりましたね。類似の事象には警戒が必要です。ざっくり40年。対策としてミネラルウォーターやウォーターサーバーの利用は否定しません。毎日測定データが新聞やインターネットに載ってるので欠かさずチェック」

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-01-

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 中央図書館は駅前の商店街を抜け、甲州街道を挟んだ反対側にある。
「あ~、おなかすいた」
 マフラーをくるりと首に巻きながら、小太りといったら失礼か、メガネを掛けた陽気そうな娘、田島綾(たじまあや)が呟いた。
「はいはい100円ラーメン行きましょ」
 理絵子(りえこ)は同様にマフラーを巻きながら応じた。
 3学期始まってすぐの金曜日。
 文芸部の2年生、部長の黒野理絵子(くろのりえこ)以下、田島綾、中井茂美(なかいしげみ)、今里(いまざと)あかね、大倉久恵(おおくらひさえ)の5名は、授業を終えたその足で、中央図書館まで試験勉強にやって来ていた。3学期最初に行われる、学区内の統一学力試験の事前詰め込みである。学校の成績に影響を与えるわけではないが、この結果を基に受験する高校をある程度絞り込み、3年生になったらそこを目標に走ることになるため、気軽に受けるわけにはいかない。そこで、学校が終わった後、図書館に移動し、5時の閉館で追い出されるまで粘っていた次第。
「みんなは?」
 理絵子は振り返って中井ら3人に訊いた。田島は率先して信号機の前に立ち、赤信号の向こうに見えるその店“超絶満腹亭”の看板を、スタート前の闘牛の如くじっと見据えている。
「いいよ~」
「小腹減ったし」
 100円、という気軽さもあろう。異論はなかった。
 信号を渡って店に行く。入り口脇の換気扇から、もうもうと湯気が排出されている。
「中いっぱいだよ」
 先んじて到着していた田島が、店内に突っ込んでいた首を戻し、言った。この場所は、少し離れたところに有名タレントが通っていた工業高校がある上、その斜向かいにはプロ棋士が通っていた高校もある。時間的に彼ら高校生が寄る頃ではある。
 田島が再度店内へ首を突っ込む。そして、わかりましたぁ、と言って出てくる。
「待ってくれってさ」
「じゃぁ待ちましょ。えっと用事があるとか……」
 理絵子は再度3人の都合を尋ねる。大体、食い気は田島が主導権。そのせいか、彼女は体重計に乗るたび、今度こそ、と、新たなる決意を理絵子に宣言しては、挫折する。
「別にいいよ。早く家に帰ってもぐだぐだ言われるだけだし」
 今里あかねが答え、手持ちぶさた、といった足取りで、店の脇から路地を通って裏へとゆっくり消える。眼鏡で三つ編み、すらっとした、しかし物静かなイメージの娘だ。以下、3人は連れだって店の裏へ向かった。店の前でじっと待っていたら色気より食い気みたいに見られる、それは乙女心が許さない、というのはあるかも知れない。他方、理絵子としては、田島一人を店頭に残すのはその逆の意味で気の毒だというのがあって、3人について行かなかった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -34-

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「この機械は国際放射線防護委員会の基準に基づき、1年間1ミリシーベルトを超える可能性のある放射線を検出すると警告を出すようにしてあります。身につけてられたコイツはそれを越えてます。規制されたので裏で出回りました。海外の安いもの……まぁ、引いちゃいましたね」
 相原学は校長から指輪を受け取った。
「そんな……」
「だから!」
 彼女は会話に割り込んで一喝した。しゅんとした雰囲気で大声を出したので盛大な効果があった。
「よく知りもせず放射線と聞くだけで全て悪いと言いつのるはただの無知。昆虫と言うだけで毒も害も無くても殺そうとするのと同じ愚かな行為。で、本当の危険に気づかない。私の物言いはロジハラですかね。危険を持ち込んで常時ばらまいていたのはどこのどちらさんですかね。節穴は誰ですかね!」
 彼女は責め立てた。その傍らで相原学は機械に付属している金属の引き出しを開け、受け取った指輪を収めた。防護ケース。
 警告表示が消える。
「あのう……」
 恐る恐る、という感じで発言したのは男子学級委員の辰野。
「はい」
 相原学が相対した。
「僕ら、それで被爆したんですかね」
「1年間浴び続ければ……というレベル。こちらさん見えて30分ほどか?レントゲン1回分も被爆してないよ」
 安堵の雰囲気が辺りを包む。
 対して。
「で?放射能キチガイがとんでもねぇ放射線ばらまいてたわけだが、この落とし前はどう付けるんですかねおばさん」
 平沢は“怒れる男”であった。
「オレのみならず、オレの友達までうつるだの来るなだの、あんたの言ったことやってることは“いじめ”のバイキン扱いとどう違うんだい」
 これは母親のみならず、校長を含めた教員の注目を浴びた。
「オレ、みんなより早く声変わりして、脇毛も生えて、ワキゲ野郎ってずっと言われた。あと、ワキガだったらしくて、女子は陰で臭い臭い言って近づいてこなかった。でも、相原さんは違った。ただの個体差だし、臭いはいい薬があるからこまめに塗ってりゃ気がつかないよって言ってくれた。それに何より、普通に友達として喋ってくれる。
 だから、オレは、知識無く理解無く諏訪君にガタガタ言う奴は絶対に許さねぇ。たとえ人の親でも、先生でも、だ。柴崎、お前今度諏訪君に何か言って見ろ。顔に脇の下擦り付けてやる」
 あ、いや、それはちょっと……と彼女は思ったが遅かった。

(つづく)

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「理絵子の夜話」次回について

「理絵子の夜話」は個人運営のホームページ(!)華やかなりしころに書きためた物で、順次ブログ版に解き放っております。「書いた順序」「シリーズ中の時間経過順」それぞれあるんですが、まぁメチャクチャになりましたwでもまぁ、どこから読んでも構わないので、適当に2020年代に応じたアレンジを付けつつ引き続き放流します。

・「知ってしまったかも知れない」

原稿用紙20枚程度の短編。6月20日スタート。毎週土曜日正午更新。

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【理絵子の夜話】圏外 -あとがき-

理絵子の納涼物語。これが第3弾となるわけですが。
読んでお判りの方もおいでと思いますが、今回は異色の経過を辿りました。すなわちどう見てもコメディであり、ホラーの要素が表に出ないのです。
セオリー通りの展開なら、部員の誰かが禁を破り、「彼女」たちが、悲しい存在として現れ、となったでしょう。でも、部員の誰一人としてそんな行動は取らなかった。
一体どうなるのかと作者自身心配したわけですが、そこに物語を書かせる何者かの意図を感じ、そのまま進めました。前半の宿にたどり着くまでの過程も、本来なら省略して構わないのですが、必要性を感じてそのまま書きました。その結果「取り憑かれた」ようになり、会社の休み時間、そして家で、のべつ書いてました。
書き終わって思うに、ハッキリとしていると思いますが“命をもてあそび死を楽しむ”という、とんでもない傾向が世間に蔓延していると思い知らされることになりました。ホラーというのはエンタテインメントであり、テーマ性を持たせる必要はないし、意図してそうしたつもりもないのですが、それがテーマだったと書いて間違いではないと思います。そうすると、冗談を言い合い、下ネタや死を使わない古典的な笑いである“落語”を劇中作に持ってきた彼女たちの姿勢に、現代の“楽しみの対象”に対する強い問題提起を感じるわけです。
大抵、理絵子の話は放っておいても(あらすじや設定をわざわざ構築しなくても)勝手に進んで行くので、物語自体に魂があるのでは…と常々感じるのですが、今回に関しては「恐怖」を介して「笑い」を批判し、その「空恐ろしさ」について「どうよ」と投げてきたものと言って良く、作者ながら脱帽というところです。加えて、細かい伏線や仕掛けがちょこちょこ入っていることは、わざわざ説明する必要もありますまい。
シリーズ物は全体を概観すると総じて何かを言ってくるスタイルを取ってくると見られます。次シーズンの概要も見えており、今回とは逆に心底怖い物になるらしい旨示唆を受けています。
“超常の力を備える”それは与えられた人生が普通ではないことを意味し、すなわち大きな使命を持っていると言っていいでしょう。占い師が跋扈し、奇異な宗教がはびこり、科学的に明らかに疑義ある有象無象を頭から信じ込む人が後を絶たない時代です。このシリーズの総体が何を見せようとしているのかまだ茫洋としていますが、少なくとも、この時代が続く限り、彼女の話を私は書かされるでしょう。
恐怖を幸せに変える娘。彼女との付き合いは、当分、続きそうです。
2005/08/13 朱泥の陶都にて。

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