« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »

2020年7月

【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-06-

←前へ次へ→

「このedy様は?」
「駅前のドラッグストアで虫取り網と消毒用アルコール買ってきて」
「え~?何であたし?大体さっきからあっち行ったりこっち……」
「部長命令」
 理絵子は言った。最も実際には、今この場で、唯一“仕事”がなくて不満顔をしていたのが彼女だったわけだが。
「ひっど~!」
「まぁそう言わず行っておいでよ」
「見守っているから」
 大倉と今里がけしかけ、ネコも田島をじっと見上げる。ちなみにネコの当番は現在中井が担当しており、居場所も彼女の腕の中。
「みんなひどいわ。どうせわたしはヘルクレス座の女……」
「マックスコーヒー」
「!行ってきま~す」
 理絵子のそのひとことで、田島は不満顔がウソのように、そそくさと駅前へ向かった。
「魔法の呪文“マックスコーヒー”キタコレ」
 中井が抱いたネコの前足を持ち、田島の背中に“バイバイ”しながら言った。ちなみにそれは千葉から北関東で主に販売されている激甘缶コーヒーであるが。
「なんか“ドラえもん”で似たようなのを見た気が」
「あれは“カビン”ですな。教室の花瓶割ったのをバレたくない一心で、“のび太”が“スネ夫”の言うがまま」
 無論彼女の場合は、そのコーヒーが飲みたい一心で、である。ちなみに田島は、部の合宿に、缶4本分計1リットル水筒で持参という武勇伝を持つ。
 少しして、買い物ビニール袋片手に田島が戻ってきた。
「網はないよ。夏だけだって」
「アルコールは?」
「ここに」
 田島が袋から取り出して見せるや、理絵子はカーディガンを脱ぎ、セーラーの上着とブラウスの袖をまくって腕を出し、ギラギラどぶ川のヘドロの中に躊躇なく手を突っ込んだ。
「おぅわ。りえぼーお前……」
「アルコールあるからいいじゃん」
「そうかも知れないけどあーあ汚えなぁ」
「ほい」
 笛を無事に拾い出す。まみれたヘドロの間から煌めく透明。
 それを見た田島が、ため息一つ。
「あのさぁ。あんたの勇気というか優しさというか……そういうことされるとさ、あんたに言おうとした文句とか、相対的にレベルが低くなって何も言えなくなるんだよね。ズルイキャラだなもう」
田島はフグのように膨れると、笛を理絵子の手から奪い、公園の水道まで洗いに行った。

(つづく)

| | コメント (0)

水曜枠について

8月5日スタート、隔週更新

妖精エウリーの小さなお話「デジタル」を予定します。

とりま以上

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-05-

←前へ次へ→

 理絵子はヒモを手に取る。切れ口を観察するように眺めるが、実際していることは、
 サイコメトリ。要するに超常感覚的知覚の一種。
……理絵子がネコの意志を読み取ろうとしているのでは。中井のこの発言は、実は間違いではない。ちなみに、理絵子はこの文芸部の連中には、自分の能力を公言していない。
 理絵子は切り口をしげしげ眺める。ヒモを介し、種々の情報が記憶の映像のように読み取れる。
 の、中に仰天。
 なに?空から落とした?
 というか、その傷や破れも本当は…
「りえぼーどしたの?」
「うにゃ別に……」
 理絵子はそう答えた瞬間、直感の閃きを受け取った。
 それは図書館駐車場から、この公園下へ流れ込んでいるどぶ川。
 引き寄せられるように歩み寄ると、園灯に照らされた水の中に光るものキラリ。小振りなロウソクを思わせる細い筒状で無色透明。確かにクリスタルでできているようだ。
「綾~ちょっと」
 田島を呼び、携帯電話のカメラで撮影させ、王子様に確認に走らせる。
「あ、これです。すいません」
 田島が理絵子の元に駆け戻る。
「行ったり来たり疲れるのぉ」
 王子様の額に絆創膏を貼り終えた中井が理絵子の方へ来、どぶ川を覗き込む。
 その中井を追ってネコも歩いてきた。まるで自分も人間の仲間と言わんばかりの動作である。ちなみに少女達は“ますむらくん”と呼んでいる。
「あ、これかぁ、良く見つけたねぇ」
「何で判ったのさ」
 と、田島が横目で問う。当然の質問。
「キラッと光ったように見えた」
 用意していたありきたりな回答。
「ふーん。……いや時々思うんだけどさ。我らの部長って何か目に見えないもの見えるんじゃないのかね」
「あははははは」
 理絵子は人ごとのように笑って見せた。肯定も否定も致しません。
 すると田島は脱力したようにがくんとうなだれて。
「……なんかこの小娘に小馬鹿にされたような気が。フン、ど~せ発想が荒唐無稽ですよだ。んで?頭およろしい部長殿はこの笛をヘドロの中からどのように?」
田島の指摘もっともである。何せドブ川だ。それこそ駅前商店街などの生活排水の集合体である。水面は得体の知れぬギラギラしたもので覆われ、積もったヘドロは底が知れぬ。笛はそのヘドロに先端を突っ込んだ状態だ。
「文字通り“すくい”出しますよ」
 理絵子は笛から目を離さず、ポケットをゴソゴソして、電子マネー“edy”を取り出し、田島の前へスッ。

(つづく)

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-04-

←前へ次へ→

「“星の王子様”」
 それはテグジュペリの王子様そのものというより、挿絵の王子様に外見上似ている、という意味。
「それや~」
 田島のその声に、男の子“王子様”が気付いたようだ。
 こっちを見る。理絵子は近づいていった。
「何かお困りですか?」
「あ、いや、すいません、こいつのせいですよね」
 振り返ったその声は、まだ声変わりしていない、そんな感じの高いトーン。
 男の子は足下に来たネコを抱き上げる。その口調と、所作そのものは、その辺にいそうな男の子と変わらない。普通の調子。
 でもその瞳はトルコ石のように青く、髪の毛は金色。
 思わず、と言うべきか?宝石を見るような目を向けている仲間が数名。まぁ確かに、文字通り“王子様”の印象を抱いても不思議じゃないと理絵子は(自分は違うが)思う。
「お前はまた……。だめだろ?」
 王子様(と、便宜上書く)がたしなめるように言い、小突くと、ネコは文句を言うようににゃぁと鳴き、ねこぱんち。
 そのパンチ肉球が狙った。王子様の額。
「あ、おでこ……」
 大倉が背後から気付いて声を出した。
「あ、服も、マフラーも」
 これは中井。ようやく、と言うべきか?仲間達の目線が王子様の顔以外の部分に行くようになったようだ。見れば王子様のその服には破れがあり、マフラーにはほつれが、額にはひっかいたような傷があって血も少し。
 冒険心のありすぎる男の子が、闇雲に薮の中に突っ込んでいった後みたい、とでも書くか。
 そこで。
「ちょっとこっちへ」
「マフラーは私が」
「座って、縫うから」
 少女達はそれぞれ、カバンからあれやこれや取り出すと、王子様をベンチに座らせた。
 3人で傷口やほつれに取り付く。
「で?探し物は何ですか?」
 この質問は理絵子が投じた。役目無しで残された田島は少々不満そうにネコの相手。
「あ、ええ、その、笛です」
「笛ですか」
「ええ、このくらいの水晶で出来た笛で、ヒモが切れてしまって」
 王子様は肩幅より狭いくらいに両の手を広げて見せ、自分の首から下がっているヒモの切れ端を見せた。
「ちょっと拝見」

(つづく)

| | コメント (0)

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -36・終-

←前へレムリアシリーズ一覧へ→

 次いで、彼女は相原学を指さし、
「こいつから聞いた理屈の私なりの理解は以上です。でも、反感、不信感、理解したがたい等々あるでしょう。それは否定しませんし、詩織かーちゃんみたいに理屈以前の問題の場合、和解はあり得ません。ただ、闇雲に怖がるよりは理屈知ってた方が安心出来る領域は増えますし、何より指輪みたいな失態は起こりません。さてこれで普通の女の子に戻って普通の授業に戻りたいですが、質問と言っておきたいこと、あれば」
 見回すと挙手したのは校長。
「ど、どうぞ」
「博識にびっくりだ。あなたは放射能が怖くないのかな?」
「誰かが言ってたんですが“正しく怖がれ”だと思います。医学、看護学、生物学に興味がありますが、食べ物に天然物の放射性物質が入っていますし、温泉周辺のラドンガスなんかも放射性同位体があると知識として持っています。そして、そういう環境で生きてきたのが地球生命ですので、放射能自体は多少あっても問題は無い。ただ、毒となる領域はあるので、危険を判断する能力は付けておくに越したことはない。それだけです。飛び降りると危険な高さを知ることと同じかと」
 すると校長はゆっくり頷き、
「なるほど。僕は後から来たから、あなたがどのように説明したか判らないけれども、放射性物質の話は中学生ではすぐに理解出来ないレベルの内容が多いと思うが、どうやったら正しい理解が得られると思うかな?」
「まず、大人が正しく理解することではないでしょうか。ネット広告で変な健康食品よく見ますが、そんなのがはびこるのは“科学する心”が大人達に足りないからだ、とこの人が言ってました」
 相原学を指さす。
「なので受け売りですが同意です。そんなに健康に対する効能があるなら医者が使うって。放射線も同じ。体内に大量に入らなければ問題はない。こういう言い方すると暴言とか言われますが、理論上はそうだと知っておくのが知識だと思います。ただ、この問題は理屈が面倒くさいので、親子で勉強する、というのもアリかと。優等生的な物言いですけどね」
「なるほど、ありがとう」
 校長は笑みを見せると、生徒達の方を向いた。
「さて皆さん、そういうわけで私は“放射能”に基づく誤解と、誤解に基づく差別は今後生じないと信じたいのですが、よろしいですか?」
「はい勿論です」
 と答えた平沢……以外の生徒達に、それでも残るためらい。

転入生担当係/終

→創作物語の館トップへ
→レムリアシリーズ一覧へ

| | コメント (0)

【理絵子の夜話】知ってしまった(かも知れない)-03-

←前へ次へ→

 彼女はそのまま頭の上で喋った。
「りえぼーって妖精だっけ」
「水溶性でしょ」
「そう来たか」
「トイレットペーパーみたいだな」
「んごごー、じゃー」
「あのねぇ、勝手に流さないでくれる?」
 理絵子が首をひねり、悪ノリ仲間に文句を言ったその時、映像が脳裏でフラッシュした。
 男の子が困っているイメージ。
 君が伝えたいのはこのことかい?
 すると、ネコはにゃぁとひと鳴きして、壁の間からピョンと出てきた。少女達の間を抜け、少し行ってから振り返り、再度ひと鳴き。
「来いって……」
「うん。言ってる」
 理絵子は言い、ネコを追う。OKついて来いとばかりネコが走る。理絵子は追う。
「ちょっとりえぼ……」
 唐突に走り出した理絵子を仲間達がバタバタ追いかける。ネコは帰宅する人々の間をすり抜け、渋滞気味の甲州街道を横断し、図書館脇の一方通行を奥へと向かった。しかし、彼女たちは交通ルールを守らねばならず、クルマの間をすり抜けるなどという芸当は不可。
「待ってよ」
 思わず口にすると、ネコはそこで立ち止まり、信号待ちする彼女たちをじっと見ながら待っているではないか。その様は、それで当たり前のような、作り話のような。
 ようやく青信号で渡ると、ネコは図書館の建物裏側へ回った。図書館裏手は公園。正確には川の堤防と、図書館建物との間にある公園である。日が長い時分であれば、アベックがあちこちのベンチを占拠し、二人だけの宇宙を作っているが、このド寒い真冬にそんな酔狂な恋人同士はまずいない。
 その公園に、ネコはまっすぐ駆け込んだ。中には人影があり、堤防下の暗がりで、右に左に動いている。
何か探しているようである。うろうろ見回したり、植え込みを押し開いて間を覗いたり。その所作に一瞬不審さを感じたが、すぐにそうではないと判る。その背格好は自分たちに近い年代の男の子だ。
 男の子。
 確かにそう、男の子…なのだが。
 着ている服が変わっている。ウェットスーツを思わせる上下ツナギの青い服、に、薄茶色のマフラー。
 ネコはその男の子の元へ一散に。
「あ、あのネコ行ったよ」
「なんか不思議な子」
「私もそう思った。変、というか不思議」
 するとメンバーの数人が同時に言った。

(つづく)

| | コメント (0)

« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »