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2020年12月

【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -03-

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「姫ちゃんだってお」(だってよ、のネットスラング。2010年代)
「え?お前らデキてんの?」
「事件事件」
「何かあった?」
 冷やかす声を無視して彼女が問うたら雰囲気が一気に変わった。
 真剣かつ急を要する事態という理解が広がる。
「いや、あの、ごめん……」
 彼は動作を切ってきびすを返そうとしたが、
「いいから!。たった今お休みと聞きました。なのに飛び込んできて私に直。私が必要なら動きますよ。何があったの?」
 訊きながら……彼の思惟を探るが、驚いたことにテレパシーが入り込めない。恐ろしく強く固い壁があるのだ。
 まるで心を閉ざしているかのように。
 葛藤は受け取る。一か八かの結果が自分なのだが、そんなことをしてはいけないという強い諫め。
 極めてプライベートな内容なことだけは確か。能力上げれば切り込めるがやりたくない。
「生徒相談室を開けましょうか?」
 奈良井が提案してくれた。
「え、でも……」
 衆目に困惑する平沢。言葉なき「ごめん」のように彼女を見つめる。
 彼女は笑みで返して。
「呼び出して何を今更。遠慮しないで。全世界に様々なツテがあるから、スキルとエビデンスは集まるよ。行きましょう。先生お願いします」

 職員室の二つ隣。
 鍵束から担任奈良井がようやく見つけ出して引き戸を開けると、ホコリすら動いていない印象。
 あまり使われていない。
 いいか悪いかはさておき。事実として。
「どうぞ。オバケ出たりしないから」
 促されて二人はソファセットへ足を進める。ソファは横長の応接卓を挟み、向かい合わせに4脚。
「私、いた方がいいですか?いない方がいい?相原さんは事情を知ってるみたいだけど」
 いいえ全然知りません……ただ、応じた開示はしてくれると思う。
「平沢君次第だけど」
 彼女は水を向けた。
 彼は一瞬、逡巡し、
「いえ、自分で話します」
 しかし強くそう言った。
「そう。じゃぁ終わったら声かけて」
 担任奈良井は言い、ドアを閉めて歩き去った。

(つづく)

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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -19-

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 本橋美砂がクルマから降り立つ。すらりと背が高く、小造りな顔立ちに切れ長の目。“純粋培養”とでも表現したくなるほど肌の色は白い。降車に伴い屈んだ背中に長い黒髪が流れ、陽光を弾いて弧を描く。手足がほっそりしていて長いせいか、立ち居振る舞いは演出しなくてもエレガントだ。ただ、薄幸そうに見えるのは、本人の心理状態もあり、仕方がないか。
 果たして宿主夫婦は目を剥いた。
「うわ~本当に美人さんだわ。息が詰まりそう」
「透き通るみたいだなぁ。天使じゃあるまいね」
「こんな子いるんだねぇ。いや参った。あんた本当に美人だよ。売り上げ伸びるわこりゃ」
「お……恐れ入ります」
 夫婦の破格の誉め言葉にさすがに照れたか、本橋美砂は頬を赤らめてぺこり。
 と、さらりと肩から流れ落ちる黒髪。
「おおすげぇついぞ見たこと無いぞこんな黒髪」
「理絵子ちゃんも伸ばしてたよねぇ」
「え?ええ、まぁ」
 急に話を振られて、今度は理絵子の方が照れながらくるりと後ろを向いた。
 同様に伸ばしているが、校則の関係と、実際問題ダラ伸ばしではいろいろ面倒な場合があり、軽くまとめて白いりぼんで止めている。
「この子巫女装束着るとすっごいのよ。凛としてて」
 女将さんが手のひらをパタパタさせて本橋美砂に話しかける。まるで井戸端会議の『ねぇちょっと奥さん聞いた?』を思わせる仕草だ。
 本橋美砂があっけにとられているのを理絵子は感じる。見知らぬ娘の歓迎会が漫才というのはそう無い。
「おばさまそんな大昔の……」
 理絵子は合宿時の出来事……詳細略……を思い出して赤くなった。本橋美砂の心が、極地を離れた氷のように、次第に溶けてゆくのを意識する。
「凛と……かもね」
 本橋美砂は、微笑みを浮かべて理絵子を見、自らの髪の毛を指でなぞった。
 女の子同士髪の毛談義……それは恐らく、この年上の薄幸の少女には存在しなかった過去。
「何この疎外感。えーえーどうせ私はくせっ毛のデブですよ」

(次回・最終回)

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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -18-

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 夜が明けた。
 本橋美砂が非常な高熱を発したこともあり、そのまま数日、彼女の身柄は黒野家で預かった。その間に田島家とは一通りやりとりし、理絵子はその特異能力を持って、本橋美砂との和解を得た。
 そして、主旨を本橋美砂に説明。
「民宿の仕事は主に朝と夜だから、日中は普通に高校に通いなさい。県境越えるから片道2時間だけどそれは勘弁。学費は田島さんところが保護者として奨学金を申請した。認められて支給されるまでしばらく掛かると思うけど、それまではウチが持つ」
 理絵子の母親はそう言い、預金通帳と印鑑、キャッシュカードを本橋美砂の前に出した。
 本橋美砂は仰天の面持ちで母親を見た。
 何と言っていいのか判らないのである。幼くして両親に先立たれ、兄が泥棒行脚では、期待通りの返事など来ようはずもない。
「ありがとうって受けとりゃいいんだよ」
 母親は笑って言った。
「あ、ありが……とう」
「澄んだ声してるじゃない」
「え……」
 そして冬休み最終日。
 黒野家のクルマには、家族3人および本橋美砂、ぽっちゃり体型でメガネを掛けた田島綾。最近そばかすが出てきたとかで、三重苦だと悩んでいる。
 舗装のひび割れた細い道を通り、民宿“旅荘塙(はなわ)”へ。木造2階建て瓦屋根。若干寒冷地に属し、北側の壁際には大きな灯油タンクが設置してある。
「お待ちしてました」
 出迎えたのは女将である割烹着の女性と、主人である作務衣姿の男性。
「おじちゃんおばちゃん!」
「綾ちゃん久しぶり。で?どこ?その超美少女は」
 女将さんが興味津々。
「目の前に」
 田島綾は自分を指さした……彼女はギャグマンガが大好きである。
「あらまぁ確かに美少・女だわ」
 女将さんが大げさなアクションで応じる。
「どうしてそこで区切るの?ひどいわひどいわぷんぷん。はい。じゃぁ大公開、超美少女なお姉さん。本橋美砂さん」
 理絵子は綾を連れてきて正解だったと今更思った。そもそも付いてくると言い出したの自体は綾本人ではある。「仲介役だから」。確かに、この宿との付き合い始めは、クラブの夏合宿の場所に困っていた彼女たちに、綾が掛け合ってくれたことによる。
 今回は大人同士の契約事ではあるが、理絵子が来て綾が来ないは不公平だろう。
 でも、彼女の徹底的なボケっぷりは、初めての顔合わせや本橋美砂の心境、それらがもたらすであろう“気まずさ”を回避するのに極めて都合がよい。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -02-

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「姫ちゃん」
 呼ばれて、彼女は“目覚める”。音楽聴いたり瞑想したりするのは、ストレス源シャットアウトの次善手段だが、通り過ぎてうたた寝していたらしい。
「仏様みたいだったわよ」
 教壇からキュロットスカートの担任奈良井(ならい)が笑みを含んで言い、クスクス笑いがクラスに広がる。どうやら座ったまま微動だにせず目は半眼……菩薩様の半跏思惟像っぽく見えたと。
「おん・まいたれいや・そわか・きょうの・きゅうしょく・なにか」
 言われたからにはボケ倒す。指を“OK”の形に作り、呪文っぽいのは弥勒菩薩の真言(しんごん)もじり。「56億7千万年後に再臨する救世主マイトレーヤ」は彼女が住んでいたキリスト教圏でもそれなりに有名である。なお、彼女自身の外見容姿は日本の街中歩いていて海外の出自と判らず、幼さの残る“ころん”とした顔立ちと、真っ直ぐな目線の持ち主であり、原宿歩いていてスカウトされたこともある。
「カレーだよ」
「やったぜ」
 目を見開き、両の手を身体の前で合わせてパチンと鳴らす。
 クスクスを通り越してぷっと吹き出す声。
 担任は咳払いして場を改め。
「では学活始めます。連絡事項。昨日の水道水の放射線数値は……」
 そこで彼女は“いつも自分を見つめ続ける思惟”の不在に気づく。
 右斜め後ろ、廊下より。
 見なくても判る。空席だ。
「……えっと、あとそう、平沢君ですけど」
 担任の言及に目を向けると、クラスメートの目も揃ってその空席に向けられ、少しざわつく。野球部で活躍し応じた体躯のスポーツマン。体調不良とは縁遠いタイプだが。
「家庭の事情で今日は欠席と……」
 ガラリ、と、やや性急さを伴って教室の前側引き戸が開けられたのはその時。
 肩で息する大柄で坊主頭。件の平沢である。この中学校の制服はブレザーであるが、ボタンが一つ留まっていないなど、慌てて引っかけてきた風情。
 真剣なまなざし、焦燥を感じる表情、自席に近い後ろドアではなく、前から入ってきた理由。
「姫ちゃん」
 体格なりの野太い声で呼ばれると同時に彼女は自分を指さし立ち上がった。彼が普段、自分に思惟を送る背景は好意に他ならない。公開告白に公開お断り済み。自分には婿の候補者が内定済みでダメだよとは言ってあり、理解は示したが、自分と普通に接してくれる希少な女子が学校一の美少女では、どうにも止まらないらしい。
 そうした経緯でフランクに姫ちゃんと呼んでもいいよとは言い、さりとて彼は恥ずかしがってクラスにあるときは「相原さん」とさん付けを通していた。
 それがいきなり姫ちゃんと来た。自分に強い意志持て伝達したい何かがある。

(つづく)

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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -17-

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 とんでもない能力だと理絵子は思う。人の思い・考えを操って幻を見せるのだ。SF小説そのものである。しかもそれ以上に凄いのは、自分自身は深夜の道を自分の家へ歩きながら、ということ。いや、玄関が施錠されていたことからして、歩いてきたのではないのかも知れない。
 部屋に来る連中は、「霊的なものがうろつけば、痕跡が残るので気付く」と言った。しかし、この方法では痕跡は残らない。
 同じく理絵子も異変とは気付かないであろう。父親にとって幽霊は現実そのものであり、意識を操作されたとは思わないからだ。父親が“違和感”を抱かないならば、父の意識を見ている理絵子にも、違和感は感じ取れない。
「テレパシー使ってマインドコントロールしていたと言うこと?」
「有り体に言えばね。でも、危ない子、なんて思わないで」
 理絵子は母親の意識を読んで制した。
「どうして?」
「だからこそ。穏やかな心でなくちゃならない。彼女はそもそも、身勝手な親の犠牲者。今、私を助けてくれた母さんの力は、包丁に立ち向かう力を与えたのは、私を助けようとしてくれた母さんの思い。それと全く逆の作用で、強い怒りや憎しみが、彼女の強大な力を解き放った」
 理絵子は羽織っていたジャージを丸めて本橋美砂の頭の下に敷き、次いで母親にガウンを脱いでもらい、肩に着せた。
 そして。
「彼女の、父さんが原因だという思いは拭い去ることは出来ないでしょう。だったら、ウチは彼女を突き放すことはできない。しちゃいけない。出来れば、ウチで今後の保証をしてあげたい。そうすれば、後は、時間に任せられる」
「保証って簡単に言うけどどうやって?養子にでもしろ?」
「ううん。綾(あや)のおじさんおばさんが経営してる民宿で、バイト欲しいって言ってたの。住み込みでお願いできるかなぁって」
 綾とは、学校で理絵子と同じクラブに所属している娘、田島(たじま)綾のことである。
「それは無茶じゃない?」
「彼女に必要なのは、両親という存在」
 理絵子の言葉に、母親は頷いた。
「判った。でもそうなると、この子と、田島さんとこと、大人同士の話だ。預からせてもらうよ」
「うん」

(つづく)

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【理絵子の夜話】午前二時の訪問者 -16-

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 自分を殺そうとする少女と、それを止めようとする自分の母親。
 母が危ない!
「臨兵闘者皆陳列在前!(りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん)」
 反射的に、理絵子はそう唱え、中空に手指で碁盤の目状の幾何学模様を描いた。密教の護身の真言(呪文)
 途端、スイッチが切れたように、ブレザーの少女から力が抜け、目玉が上を向き、手足がぐにゃぐにゃになって崩れるように倒れ込む。
 その手からポロリと滑り落ちる包丁。
 理絵子は、中空から自分に向かって一閃に落下してくる包丁の柄を、空中でつかみ取った。
 瞬間、バチン!という、電気のショートに似た鋭い音が鼓膜を撃つ。
“力界”が去った音だと理絵子は理解した。
 どさっと音を立て、失神した制服の少女がくずおれ、横たわる。
 理絵子は包丁を父親のベッドの下へ。
 一安心。母親が激しく息をしながら座り込む。ネグリジェにガウン姿で汗びっしょり。
 午前2時。
「この子は、この子は一体……」
 母が問い、同様に時計を見やる。
 午前2時。それは夢に誘引された魍魎が跋扈する、闇の支配下。
「生霊。つまり彼女は超能力を持ってる」
 理絵子は言った。その年上の少女、本橋美砂の横顔を見る。“霊的な”彼女と裏腹に頬がこけ、肌は青白く、まるで幽鬼のよう。恐らくそれこそ“全身全霊”を込めて父を呪い、自分を排除していたためだろう。でも、切れ長の目元など見るに及び、健康を取り戻せば、霊の姿そのままの美しい少女なのではあるまいか。
「この子が?」
 母親が目を剥く。
「うん。私が同じような能力者、と知ったからでしょう。見抜かれると判断して、私の注意を自分に向けつつ、自らの手で、父さんもろとも私も葬り去ろうとした、だと思う」
「それって、理絵子より……」
「何倍も大きな超能力だよ」
とはいえ超能力現象を扱う超心理学の用語に適切なものはない。
 本橋美砂の額に手をする。彼女はどうやら署内の警察官全員の意識をレーダのように探り、事故時の運転者が異動したこと、及び、兄に対する記憶を持つ父親の存在を知った。そして自責する父を“その通りお前のせいだ”と責めるうち、生き恥……すなわち気狂いとなす復讐を思い立った。そこで、意識に直接働きかけ、白昼の幽霊を見せるようになった。人間の脳は強い電磁波を送り込むと幻影を見るが、形而上的手法で同じことをしたのである。だが、理絵子が乗りだし、本橋美砂にとって父親の意識は霧に包まれたように見えなくなってしまった。ようやく霧が晴れたと訪れたところ、父親の意識の中に理絵子が入り込んでいるのを発見した。後は理絵子の部屋に訪れる“訪問者”と同様、自分自身の身体でこの家を捜し辿り着き、一切合切抹殺を謀った。概略、そんなところになるらしい。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】テレパスの敗北 -01-

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 テレパシー。超常感覚的知覚の一つ。五感を介さず色々と“判ってしまう”能力。英語ではtelepathyと書くが、“tele”は“遠隔”を意味する接頭辞。テレパスはその使い手。
 とはいえ、知りたいと思ったことは当然のことながら、知りたくもない情報まで勝手に入ってくることもまま。それは有利なようであるが、時に“手遅れ”な内容であることも。
 こうした“意のままになるようで、そうでもない”状況は、使い手にとって心理的負担、ストレスそのものであって、精神を病む能力者が少なからずいる、というのも納得出来る。“判る”ことを振りかざすのではなく、必要なもの以外は排除する(気にしない)スキルを獲得してこそ上級者なのだというのが最近の認識。ことに“学校”という組織にいれば尚。ここで短い2年生3学期と、3年生になって1ヶ月過ごして判ったことは、何らかベクトルのある思考……すなわち、特定の人や物に向けられた思惟は感知されやすく、中で自分に対するものは遮断できないということ。逆に単なる感想や欲求(花が綺麗、腹が減った)などは、「この人何考えているのかな?」とこちらから探りに行かない限り、感知することはない。すなわち、覗き趣味がなければ、見えすぎて困る、ということはない。
 ちなみに、自分に向けられた思惟を総括すると、男子達は外観上の評価と性的な目線、女子達は好悪両極端の反応、に大別出来る。このうち、性的に見られるのは勝手な想像と決めつけを含んでいて何かムカつくので、“相原姫子……あいはらひめこ:彼女の通り名……は貧乳である”というウワサを女子達に媒介してもらっている。それはそれで新たに食いついてきた手合いもあるらしいが。

(つづく)

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