小説・魔法少女レムリアシリーズ

ブリリアント・ハート【45・最終回】

「そうですか…でも、何か悪い気もするので勝手な行動を謝罪致します。お騒がせしてすいません」
 レムリアはここだけは心から言い、支配人に向かって頭を下げた。すると支配人は滅相もないとばかりに手と首をパタパタ左右に振り、ウェイトレスに何事か手振りで指図した。
 レムリアは、ここに戻ることさえ出来ればどうにでもなると、なんとなく楽観していた理由を洞察した。
 大人達の事なかれ主義。
 丸く収まれば、最初から何もなかったことになり、責任追及は発生しない!
 程なく、二人の座るテーブルにゴージャス至極なプリンアラモードが運ばれた。
「どうぞ」
 と、支配人。
「頼んで…」
「わたくしからの奢りです。姫君に余計なお手間を取らせたお詫びでございます」
 何か悪い気もするが、断るのも不自然。
「いいんですか?ありがとうございます。あと、ちょっと資料を取ってきたいので、エレベータのカギを」
「かしこまりました」
 レムリアはその後、普段持ち歩いている自分の活動記録…救援活動の自己レポートが収まった半導体記憶装置(USBメモリ)をあすかちゃんに渡し、電子メールのアドレスを教えた。
「パソに挿せば見えるはず。但し英語。そこは勘弁」
「もらっちゃっていいの?」
「コピーあるし、あなたなら持ってもらって構わない。またお会いしましょう」
「うん。楽しかった。あなたとの夏を忘れない」
 二人は握手をして別れた。
 そしてレムリアは夜会服に身を包み、晩さん会へ向かった。

 9月に入ってから、あすかちゃんからメールが届いた。

やっほー\(^O^)/
元気?あなたとの大冒険、「魔法の姫様大脱走」ってタイトルで創作童話にして、自由研究の代わりに提出したんだ。そしたら「すっごいリアル」てほめられちゃった。
あと、レポート、訳しながら読んでる。あなたすごいね。とても一つしか違わないように見えない。

本物の魔法使いみたい。

ブリリアント・ハート/終

★魔法少女レムリアシリーズ(カッコ内の数字は原稿用紙換算枚数)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト(現在進行中 1000枚? HTML仕様 携帯不可)
ミラクル・プリンセス(280枚 HTML仕様 携帯不可)
マジック・マジック(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
魔女と魔法と魔術と蠱と(ココログ仕様)
ブリリアント・ハート(本作)
夏の海、少女(但し魔法使い)と。(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
東京魔法少女(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
Good-bye Red Brick Road(グッバイ・レッド・ブリック・ロード) (560枚 HTML仕様 携帯不可)
豊穣なる時の彼方から(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)
博士と助手(但し魔法使い)と。(短編 HTML仕様 携帯は機種次第)

現在ここまで。以下、彼女次第!

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ブリリアント・ハート【44】

 その間に、“部屋にいないように見えた”、最もらしい理由を考える。
 お役人、仕切り直しの咳払い。
「外へなどお出になっては?」
「まさか。あ、携帯が電波拾わないもんでベランダには出ましたけどね。外と言えば外ですね。…まずかったですか?」
 ウソではないが正確でもない。
 更に突っ込まれるか?しかし、男達は心理的にほぐれた様子を見せ、顔を見合わせて笑いあった。
 うまく誤魔化せたようである。レムリアは“多感な少女のつぶらな瞳”で、そうした彼らを見ながら、壮麗に盛りつけられたモンブランを一口頬張った。
 男達の表情が安堵に変わった。
「事件性は、ないようですな…」
 警官の表情が緩む。
「はい、そのようです。お手数を」
「いえいえ、何事もなくて何より。では、本部に報告を致しますので」
「承知しました」
 お役人が頭を下げて答え、警官は敬礼して辞した。
 支配人とお役人が一礼して警官を見送る。お役人はレムリアに目を戻すと、何か言いたげ。
「何か?」
 すっとぼけ。
 あすかちゃんは顔を伏せてモンブランを口に運ぶ。…笑いをかみ殺しながら。
 お役人は腰をかがめ、レムリアの耳元に口を寄せ、
「…姫様、実は姫様が御在室でいらっしゃらないので、誘拐事件の疑いが発生、非常線を敷いて捜索が行われました。横浜とか鎌倉とか、次は唐突にここの隣の市とか…いろいろ情報が飛び交いました。もう一度お伺いしますが、ずっと当ホテルにいらしたのですね?」
「ええ」
 うそつき。
「…でも相当な騒ぎになったのですね。わたくしの軽率な行動が原因でしょうね」
「あ、いえ、そういうことはございません。姫様はご無事でいらっしゃった。それで結構です。お友だちとのお約束や、携帯電話のご使用を制限させて頂くような必要性は全くありません。ホテルの方にも、国賓級の方にお泊まり頂くとあってか、過度の緊張で勘違いが重なったようです」
 お役人、支配人をじろり。

次回・最終回

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ブリリアント・ハート【43】

 レムリアは言うと、お冷やを口にした。
 あすかちゃんは夢見る少女の表情。
「魔法に掛かった気持ち」
 と一言。レムリアはドキッとした。あすかちゃんは続けて、
「全然遠い遠い存在だったのに、うちに来てくれて、一緒に逃亡して、こうやってお喋りまで…。真夏の昼間の、お姫様との大冒険。多分私の一生の思い出」
 レムリアは微笑した。但しその魔法は私じゃなくて。
「多分、その魔法は、あなたを全然違う女の子に変えた」
 レムリアは言った。もう目の前のあすかちゃんは、おずおずと質問した引っ込み思案で臆病な女の子ではない。自信がもたらすオーラの煌めきを纏い、大人の入り口に今しっかりと立ち、ドアノブに手を掛けた少女に変わった。
「結局、目的意識なんだと思う…」
「お待たせしました。…あの、お客様ちょっとよろしいでしょうか」
 レムリアのセリフを遮ってウェイトレス、それに続いて渋面のホテル支配人、真剣そうな警官、困った顔のお役人。
 まず、紅茶とケーキがテーブルに置かれる。その作業を見つめる困った顔の面々。
「あのう、失礼ですが」
 支配人が声を掛けた。
「はい。まだ時間には少々あると思いますが?もう準備の必要がありますか?」
 多くを語る必要はない。これで主旨は伝わる。
 果たしてお役人がため息…それはまるで娘にプチ家出された父親。
「どこにいらしてたんですか?」
 小声で尋ねる。
「…は?」
 レムリアはまずは尋常にとぼける。
「お部屋にいらっしゃらなかったようですが」
 丁寧だが怒りを含む。しらじらしいこと言うなこのガキャ。そんなところか。
 対しレムリアは“姫”の品格を意識して至極丁寧に。
「先ほどからこちらのラウンジに。あ、お友だちと待ち合わせがあったのでちょっと下まで迎えに行きまして、今はご覧の通りの状況ですが。何か?」
「何か…って、姫様あのですね」
 お役人が怒り通り越して苦笑する。会話がちぐはぐ…で、良いとレムリアは思う。意図してそうしているからである。そもそもの前提条件が違うので、そうならなくてはならない。

つづく

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ブリリアント・ハート【42】

 レムリアはソファに座るようあすかちゃんを促した。高級で知られるホテルの喫茶室であり、使用している調度類もそれなりに洒落たものだ。見るからに町中の喫茶店とは一線を画す。
 あすかちゃんは遠慮がち。
「え?いいの?高い…」
「気にしない気にしない。問題と感じるほどならお誘いしません。紅茶でいい?」
「あ、うん」
 ぎこちなく腰を下ろすあすかちゃん。背後で着座を待っていたウェイトレスが二人を一瞥し、目を円くする。
 その円くなった理由をレムリアはよく判っている。でも無視。
「オーダー、よろしいですか?」
 お上品に。
「え?ああはい」
 ウェイトレスは戸惑いながら、しかし冷水とおしぼりをテーブルに置き、発注機を取り出す。
「アールグレイのアイスをストレートで2つ。あと日替わりケーキを」
「…かしこまりました」
 タッチパネルを操作して一礼し、ウェイトレスが辞する。キッチンカウンターに向かい、主任らしき男性にひそひそ耳打ち。
 バレました。
 冒険の終了。レムリアは多少残念に思うと共に、もうこれで誰にも迷惑を掛けることもないと少し安堵した。ジェームズ=ボンドは無事帰還した。Mならぬ東京には後で言っておこう。
「今日はありがとうございました」
 レムリアは改めてあすかちゃんに頭を下げた。時刻午後4時12分。晩さん会は5時にお迎えの約束なので、ゆっくりは出来ないがまずまずというところか。
「いいえ。こちらこそ、なんか私のためにえらい騒ぎで…」
「ううん。私が勝手にやったことだし、それに第一、私は今ここにいる。ずっと居たと言い張れば、言い出しっぺ以外に責任が及ぶことはなし」
 ちなみに言い出しっぺは恐らく、自分の目付役である外務省の見下し役人氏。
 …あの目線はカチンと来たし、篭の中の鳥的なスケジュールを組まれた腹いせもあるから、いいや。
「そんなもん?」
 と、あすかちゃん。
「そんなもん。終わってしまえば『なぁ~んだ、まぁいいか』よ。映画と一緒。夏の幻。過ぎ去れば気にしない」

つづく

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ブリリアント・ハート【41】

「…これから孫達が米寿のお祝いに来てくれると言うから。料理をちょっとね」
 年齢の近い彼女たちがおいしいというなら、まず間違いないだろうと思う。老婦人はそういった主旨のことを、孫達の解説を加えながら話し、にっこり笑った。
 そしてこれには店のおばちゃんもにっこり。売り上げに繋がって二人は安堵。
「可愛い子には声かけてみるもんね。ありがとう。また来てね」
 笑顔でレムリア達を送り出してくれる。
「いいえ、では」
 二人は辞して売り場を横切る。私鉄の地下改札前を通り、やや狭い連絡通路を経由。
 そして、階段を上がればそこはホテルのエントランス。2階ロビーへ通ずるエスカレータが懐かしい(?)。真っ直ぐ10メートルも行けばJR切符売り場であり、警官が立っているが、そちらへ行く必要はない。
「着いたね」
 あすかちゃん。
「うん。あ、お茶でも飲んでいって。付き合わせて申し訳なくって」
「いいの?」
「もちろん、この暑い中何も飲まずに歩かせちゃってごめん」
 レムリアは言い、彼女の手を取ってホテルの敷地へ。
 警備員が立つエントランスを通過する。警備員はチラと見たが、二人が喋りあっていたこともあり、疑いは一瞬。単なる女の子の二人組と判断した様子。
 ゴールインと判断する。安心すると共に、あとはどうとでもなれ、だ。エスカレータで上がり、ホテルのフロントロビーへ。
 雑踏から抜けて音量が低くなる。人の数自体が違うし、絨毯が吸音しているせいもある。
 足先をその絨毯に埋めて歩きながら、フロントカウンターに目を向ける。女性従業員がすぐさま自分を見、ギョッとした顔になる。
 気付いたようである。レムリアは軽く頭を下げ、目線を戻してそのまま通過する。フロント従業員はしかし、半信半疑なのだろう声を掛けようとはせず、行き過ぎる自分の背中を目で追う。その視線を強く感じる。
 フロントロビー奥、喫茶ラウンジへ。
「座ってくださいな」

つづく

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ブリリアント・ハート【40】

 手近の佃煮屋の商品を見つめる。さもおみやげを探している風に。
 店のおばちゃんがそんなレムリアを発見。
「あらお若いのに珍しい。こういうの好き?」
「ええ。貝類とか特に」
 出任せだがウソというわけでもない。
「ちょっと食べてみる?」
「いいんですか?」
「あなた可愛いからサービス」
 おばちゃんは小さな発泡トレイに山盛りのアサリ佃煮をくれた。
 折角なのであすかちゃんと山分け。爪楊枝でつつく。
 美味。
「ご飯が欲しいね」
「そそる。幾らでも行けそう」
 二人の背後を警官が通過する。レムリアは特殊能力でその意識を読む。
〈似てるな。でも違うな〉
 欧州の姫様という触れ込みである。佃煮を好んで食べるとはまさか思わない。
 警官は柱を過ぎて曲がり、エスカレータの向こうへ姿を消す。
 大成功。佃煮万歳。
「行こう」
 あすかちゃんが言った。このまま行ってしまうのはおばちゃんの厚意を無にするようで忍びないが…。
「これから友達とサテライト会場のナイトパレードなんですよ。佃煮持ってパレードもあれなんで…」
 あすかちゃんはさも申し訳なさそうに言った。彼女の言うサテライト会場とは、この駅からほど近い場所に設営された博覧会のサブ会場であり、要は遊園地である。
「ああ、そうかい。いいよいいよ」
 おばちゃんは言うが表情には一抹の寂しさ。
 …このくらいならいいか。
「(我が心の苦しみを喜びへ昇華せよ)」
 魔法のつぶやきにあすかちゃんが首を傾げる。その心に“不思議”が生じたことにレムリアは気付く。
 まずい、と一瞬思ったが、直後、相当なお歳だろう。すっかり腰が曲がった老婦人が、あすかちゃんの肩を、とん、とん、と、ゆっくり叩き、生じた不思議を追いやってくれた。
「これ、おいしいかい?」
 老婦人は尋ねた。
「ええ。あ、おみやげでしたらおすすめですよ」
 あすかちゃんが答える。
「じゃぁ…」
 老婦人はなんと、15人分の佃煮を注文した。

つづく

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「ブリリアント・ハート」【39】

 運転士が行く先を訊くので、デパート、と答えると、5メートル先の下り階段を教えてくれる。
「では…」
 二人は会釈し、階段へ向かう。警官の視線に急ぎたい気持ちが生じるが、ダッシュは禁物。逸る気持ちを抑え、やや顔を伏せ、しかし至極ナチュラルに、デパートへ続く下りの階段へ。
 階段の中間から文字通り脱兎の如く走り出し、売り場フロアへ到達。階段を振り返る。追っ手なし。一安心。
「ふぅ」
「変装しなくて平気?あ、こっち」
 あすかちゃんがエレベータホールへ案内しながら尋ねる。現在レムリアはカムフラージュ一切なしである。報道のままの少女が、報道のままの服装で、駅前デパートに入った形。
「色々考えたんだけどね」
 レムリアは、一般には誘拐された旨放送されていること、ゆえに駅前の雑踏に女の子といきなり現れても、まさかと思われるだけで簡単には判らないという推論から、逆に堂々としていようと決めた。と話した。
「仮に追っ手に掛かっても、目と鼻の先でしょ。ずっとここにいましたが何か?で話済むしね」
「そういうもの?」
「そういうもの。私はこの土地を知らないもん。いつの間にか出てしまったの」
「それって俗に言う確信犯」
「そう」
 レムリアのセリフにあすかちゃんは笑顔。
「面白い姫様ですこと」
「それ以前に単なるオテンバですので」
 エレベータで地下へ。
 地下は総菜とみやげ物の売り場。ここまではスムーズ。
 しかし。
「警官!」
 あすかちゃんが見つけた。制服警官が一人来る。方々に目を向けており、明らかに自分を探している。
 レムリアは警官をチラと見る。こっちに来る気配がある。
 王女某はとらわれの身である、という前提があるため、大丈夫とは思う。しかし、目を合わせない方がいいのは確か。

つづく

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ブリリアント・ハート【38】

 コース取りとしては、駅を通った方が早いは早い。しかし、東京の言う通りであれば、避けた方が無難であろう。
「だったら」
 あすかちゃんの提案でデパートの地下へ出、系列の私鉄駅改札前を横切り、ホテルの1階へ顔を出す。の方を選定する。やや複雑であるが、追っ手と遭遇する率は低い。
 …彼女が来てくれて助かった。
 バスから降りることにする。相談している間に他の客が通路に並び終えたため、二人は列のしんがり。
 すると。
「ああ、君たち」
 運転手が立ち上がりながら呼び止めた。
 驚かないはずがない。予想外もいいとこ。
 自分に言い聞かせる。冷静に、冷静に。
「はい?」
 応じ、外に目をやる。ドア前プラットホーム上に交代運転士がおり、降車した客を駅方面へ案内中。客の殆どはその方向。
 と、その行く手から走ってくる制服姿2人前。
 警官。
「みなさ~ん、少々よろしいでしょうか~」
 言いながら走ってくる。これは先頭切って降りたらアウトだったということか?
 幸運、とはいえのんびりもしていられない。視界の向こうの状況を捉えながら、運転手のセリフを待つ。あの、急いでいるんですが…
「ああ、いやね。君たちを待ったおかげでトラブルに巻き込まれずに済んだみたいだと。盗難車が逃げていたらしい」
 運転手は室内ミラー脇に掲示された自分の名札を外し、椅子の座布団を取り外しながら、言った。
 レムリアは胸をなで下ろす。そのことか。
「そうですか?」
「ああ、君たちは幸運の女神様だよ。ありがとね」
 笑顔を見せる運転士と共にバスを降りる。レムリアはそれが、乗る際に自分たちに不機嫌顔を見せた“詫び”を兼ねている、と気付いた。
「いいえ、こちらこそ待って頂いてありがとうございました…」
 バスを降り、頭を下げる。視界向こうでは警官が乗客をチェック中。こちらを見るが、運転士と話しているせいもあろう、疑いの意識は感じられない。これも幸運?
「どこへ?」

つづく

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ブリリアント・ハート【37】

 シャトルバスは市街地の道こそやや混んだが、検問等に掛かることはなく、駅前バスセンターへの登坂スロープを目前に信号待ち。
『ご利用ありがとうございました…』
 運転手が放送し、バスが動き出す。乗客達が準備を開始。
 そこで電話。東京。あまりいい予感はしない。レムリアは再びカーテンの陰。
「…何?」
 言って生唾を飲み込む。
『今どこだい』
「あと1、2分ってとこ」
 その回答に東京は黙った。レムリアは焦りを感じた。その沈黙は手遅れと呼ばれる諦めの意思表示?
「…やばい?」
 返事を急くように尋ねる。東京は一回う~んと唸って。
『…かも判らん。手品が上手でウェストポーチを身につけた良く似た娘を、会場行きのバスで見かけたと』
 バスが交差点を横切り、カーブしているスロープを登りに掛かる。その車窓、今しがた横切った交差点を、パトカーがサイレン鳴らして駅へ急行。
 ビルの中に組み込まれた立体ターミナルにバスが乗り入れる。薄暗いコンクリートの空間に反響するエンジン音。
『警察は…』
 東京が言いかけたそこで電話が切れてしまう。コンクリート構造物に入り、780キロ彼方からの衛星電波が遮られたのである。
 心臓がドキドキ言い始める。バスの速度が落ち、他の乗客達が降りる準備を始める。
 と、前方に別の乗り場からのバスがニュッと顔を出し、シャトルバスは一旦止まる。
 降車場とおぼしき場所では、運転士と同じ制服の男性がこちらを見、手招きしている。手に座布団抱えているあたり交代の運転手なのだろう。そこまでバス数台分の距離だ。
 じれったいと思う。すぐそこじゃん早く着いてよ。
 着くバス出るバス交錯し、バスはなかなか前に行かない。
 降車場すぐ手前からバスが出発し、ようやく前方に進路が出来る。バスは最後の一ふかしとばかり加速し、降車場に停車する。
『到着です。JR方面は前方の…』
 ドアが開いて客が降り始める。
 降車客は2方向に進路を取れる。駅コンコースか、バスの系列会社の駅前デパートか。

つづく

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ブリリアント・ハート【36】

 自分が意識していた自分と、今の自分とにギャップがあり、頭の中の整理が付かない…自分の認識の変更が即座に出来ないのである。ただ、これらは自分にとってポジティブで有利な変化であるから、脳の中の認識変更作業は積極的かつ短時間で完了する。そしてその完了の合図は、“変わったのだ”という認識として、嵐明けの澄み渡った空のように訪れ、当人を成長過程における新たなステージに立たせる。
 電話が来る。東京。バスの中だが事情が事情につき受ける。マナー違反2回目。
「はい」
 カーテンに隠れてコソコソ。
『情報を少し。まず、タクシーの運転手は無罪放免。野球の試合を思い出して急発進させたんだと。カーチェイスは警察から逃げたんでなくて、“六甲颪”をガンガン鳴らしていて気付かなかったと』
東京が少し笑って言う。レムリアも笑いながら頷く。高坂運転手…大変世話になったと思う。できればもう一度会いに行ってお礼を言いたい。
『それと』
「はい」
『検問突破。こっちは盗難車で無関係と判明。警察は引き続き捜索中。今のところの警察見解は、動くのを控え、情勢をどこかで見ているのではないか。夜になって動くつもりではないかと。大きな国道、高速道路インターチェンジ、JRの主要駅に重点を絞って警戒中。こんなところだ。まぁバスセンターまでは行き着けるだろう。関門はそこからホテルだな。ラスト200メートルをいかに白々しく乗り切るか。ああちょっと待った』
「え…」
 レムリアは背筋がサッと冷えるのを感じた。新しい情報を彼がキャッチしたのは間違いない。
「なに?」
『今何着てる?』
「ブルーのスカートに白いカーディガン」
『脱げ』
「…は」
 そのセリフは、真意は判っているが、なまじ成人男性に言われただけにちょっとドキッとした、とだけは書いておこうか。
「目撃?」
『そう。可能であれば変えるべし。似たような女の子を博覧会行きバス乗り場で見かけた証言があるらしい』
「わかった。そうする。ありがとう」
 レムリアは言うと、電話を切った。
 スカートとカーディガンを脱衣に掛かる。

つづく

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