小説・魔法少女レムリアシリーズ

【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -36・終-

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 次いで、彼女は相原学を指さし、
「こいつから聞いた理屈の私なりの理解は以上です。でも、反感、不信感、理解したがたい等々あるでしょう。それは否定しませんし、詩織かーちゃんみたいに理屈以前の問題の場合、和解はあり得ません。ただ、闇雲に怖がるよりは理屈知ってた方が安心出来る領域は増えますし、何より指輪みたいな失態は起こりません。さてこれで普通の女の子に戻って普通の授業に戻りたいですが、質問と言っておきたいこと、あれば」
 見回すと挙手したのは校長。
「ど、どうぞ」
「博識にびっくりだ。あなたは放射能が怖くないのかな?」
「誰かが言ってたんですが“正しく怖がれ”だと思います。医学、看護学、生物学に興味がありますが、食べ物に天然物の放射性物質が入っていますし、温泉周辺のラドンガスなんかも放射性同位体があると知識として持っています。そして、そういう環境で生きてきたのが地球生命ですので、放射能自体は多少あっても問題は無い。ただ、毒となる領域はあるので、危険を判断する能力は付けておくに越したことはない。それだけです。飛び降りると危険な高さを知ることと同じかと」
 すると校長はゆっくり頷き、
「なるほど。僕は後から来たから、あなたがどのように説明したか判らないけれども、放射性物質の話は中学生ではすぐに理解出来ないレベルの内容が多いと思うが、どうやったら正しい理解が得られると思うかな?」
「まず、大人が正しく理解することではないでしょうか。ネット広告で変な健康食品よく見ますが、そんなのがはびこるのは“科学する心”が大人達に足りないからだ、とこの人が言ってました」
 相原学を指さす。
「なので受け売りですが同意です。そんなに健康に対する効能があるなら医者が使うって。放射線も同じ。体内に大量に入らなければ問題はない。こういう言い方すると暴言とか言われますが、理論上はそうだと知っておくのが知識だと思います。ただ、この問題は理屈が面倒くさいので、親子で勉強する、というのもアリかと。優等生的な物言いですけどね」
「なるほど、ありがとう」
 校長は笑みを見せると、生徒達の方を向いた。
「さて皆さん、そういうわけで私は“放射能”に基づく誤解と、誤解に基づく差別は今後生じないと信じたいのですが、よろしいですか?」
「はい勿論です」
 と答えた平沢……以外の生徒達に、それでも残るためらい。

転入生担当係/終

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -35-

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 柴崎が白目をむいて倒れ込んでしまう。
「詩織(しおり)!」
 母親が叫んで駆け寄り、座り込み、娘の上半身を抱えて、
 諏訪君をこれ以上無いくらいの三白眼でにらみ付ける。
 それは、平沢の体臭問題を知るクラスにとって、“勝手な決めつけ”と判断するに足る動作であった。
 とはいえ、
「詩織さんを保健室に……」
 彼女は頭を切り替え、柴崎に近づこうとした。
「近寄るな!お前も放射能だろうが!」
 母親は彼女に鋭く一喝し、自ら娘を抱き上げようとする。
 しかし50キロは優にあるはずであり、もちろん持ち上がらない。
「いいよ相原さん。引っ込みな」
 女子にしては大柄な部類に属する大桑(おおくわ)という娘が動いてくれる。
「あんたもあの放射能の……」
「保険委員なだけです」
 大桑は柴崎をひょいとお姫様抱っこ。大桑の物言いに方便が幾らか含まれることは説明不要であろう。なお、彼女は転入して程なくこの娘と大げんかをしたが、今はよく喋る間柄。逆に言うと彼女レムリアと対立する側と立ち回りをよく知る立場であって、それを装って、それらしく動く分には実に好都合。ちなみに、大桑派だがレムリアは嫌いという者も引き続き存在し、二人の和解を承服しかねている。
“騒ぎの発信源”が退場した。
“もう一方の発信源”に衆目が集まるのは必然の成り行き。廊下には幾らか隣接する教室の生徒と、校長以外にも教員数名。
 何か喋らんと、コトが収まるまい。
「失神したのは放射線じゃ無くて脇の下想像しただけだから」
「え?そういうことなの?」
 平沢は困惑に眉毛を八の字にした。あちこちで忍び笑い。“誰もがそうだと思ったが、当の本人は気づいてなかった”。
 それは、ちょっとした和みになった。
「さておき、放射線と人体の関係について、科学的に全て解明出来ていない部分があるのは事実です。どこまでは影響が無くて、ひょっとして健康増進に利する部分があって、どこからが確実に毒なのか。ただ、今回の場合、その“毒”は、放射性ヨウ素なりセシウムなりを体内に取り込むことで起こります。それはやがてウンコオシッコで排出されます。仮に、人体から人体へ放射性物質が直接移動するとすればそこですが、触りますか?他人の排泄物」
 反応は待つまでも無い。
「では、諏訪君に嫌がらせする必要は無いですね?ただ、手放しで今まで通りの生活で良いとは言えない部分はあります。ヨウ素は8日もすれば気にしなくていいです。なので4月である今はもう大丈夫。面倒くさいのはセシウム。これは水に溶けますので、水の循環、食物連鎖を通じて、水の集まるところ、食物連鎖の頂点にいる生物に向かって濃く集まる。都内でも浄水場から検出されて大騒ぎになりましたね。類似の事象には警戒が必要です。ざっくり40年。対策としてミネラルウォーターやウォーターサーバーの利用は否定しません。毎日測定データが新聞やインターネットに載ってるので欠かさずチェック」

(次回・最終回)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -34-

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「この機械は国際放射線防護委員会の基準に基づき、1年間1ミリシーベルトを超える可能性のある放射線を検出すると警告を出すようにしてあります。身につけてられたコイツはそれを越えてます。規制されたので裏で出回りました。海外の安いもの……まぁ、引いちゃいましたね」
 相原学は校長から指輪を受け取った。
「そんな……」
「だから!」
 彼女は会話に割り込んで一喝した。しゅんとした雰囲気で大声を出したので盛大な効果があった。
「よく知りもせず放射線と聞くだけで全て悪いと言いつのるはただの無知。昆虫と言うだけで毒も害も無くても殺そうとするのと同じ愚かな行為。で、本当の危険に気づかない。私の物言いはロジハラですかね。危険を持ち込んで常時ばらまいていたのはどこのどちらさんですかね。節穴は誰ですかね!」
 彼女は責め立てた。その傍らで相原学は機械に付属している金属の引き出しを開け、受け取った指輪を収めた。防護ケース。
 警告表示が消える。
「あのう……」
 恐る恐る、という感じで発言したのは男子学級委員の辰野。
「はい」
 相原学が相対した。
「僕ら、それで被爆したんですかね」
「1年間浴び続ければ……というレベル。こちらさん見えて30分ほどか?レントゲン1回分も被爆してないよ」
 安堵の雰囲気が辺りを包む。
 対して。
「で?放射能キチガイがとんでもねぇ放射線ばらまいてたわけだが、この落とし前はどう付けるんですかねおばさん」
 平沢は“怒れる男”であった。
「オレのみならず、オレの友達までうつるだの来るなだの、あんたの言ったことやってることは“いじめ”のバイキン扱いとどう違うんだい」
 これは母親のみならず、校長を含めた教員の注目を浴びた。
「オレ、みんなより早く声変わりして、脇毛も生えて、ワキゲ野郎ってずっと言われた。あと、ワキガだったらしくて、女子は陰で臭い臭い言って近づいてこなかった。でも、相原さんは違った。ただの個体差だし、臭いはいい薬があるからこまめに塗ってりゃ気がつかないよって言ってくれた。それに何より、普通に友達として喋ってくれる。
 だから、オレは、知識無く理解無く諏訪君にガタガタ言う奴は絶対に許さねぇ。たとえ人の親でも、先生でも、だ。柴崎、お前今度諏訪君に何か言って見ろ。顔に脇の下擦り付けてやる」
 あ、いや、それはちょっと……と彼女は思ったが遅かった。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -33-

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 ピーという機械音。
 相原学がケースから取り出したガイガーカウンタである。液晶表示の上に赤ランプが点滅。
 教室がどよもし、みんな諏訪君から距離を取った。
 しかし、聴診器のオバケのようなセンサが向いているのは柴崎の母親。
「は?何そのふざけた……」
 センサを指さすとまたピー。
 衆目が柴崎の母親に。
 相原学が口を開く。
「失礼ですが、何か、宝石を使ったアクセサリを身につけてらっしゃいますか?」
「は?何の関係が」
「人気のある色を人工的に作り出すため、放射線を浴びせた宝石ってのが流通してましてね。キャッツアイとか」
 すると柴崎の母親はギョッとしたように己の手を見た。
 指輪がはまっている。
 そこへ。
「新聞で読んだことありますね。クリソベリル(chrysoberyl)に放射線を当てて色を変えた……でしたかね」
 しわがれた低い男の声。
 ギョッとしたように生徒と教員の人垣が反応し、モーセの海分けの如くサッと左右に分かれ、道を作る。
 すっかり頭髪のはげ上がった小柄な男性。
「校長の笹塚(ささづか)です。特定の生徒に出席停止を命じるのは校長判断です。お控え下さい。それと、わたくしは母の胎内で広島の原爆投下により被爆しています。あなた様の発言、娘さんの認識は非常に心が痛い。ケロイドを揶揄され、ピカがうつると言われた、聞いただけの話が我が身に降りかかると、それがどれだけ人を傷つけるか、よく分かります。ちょっとよろしいですかね」
 校長は……その“放射線ジュエル”の記事であろう画面を映したタブレット端末を柴崎の母親に渡すと、代わりに嵌めていた指輪をスッと抜いた。
「ちょっ……」
「ピカがピカを持ったところで何を今更ですよ」
 ニヤッ(と、彼女レムリアには見えた)笑いを浮かべ、ガイガーカウンタのセンサに近づける。
 赤ランプが付いてビービーガーガー。
 相原学はやや演技じみたため息をついて。
「どこで買いました?これ。日本国内の鑑別会社ではこの手の奴は鑑定書出しませんが……」
「海外からネット通販……」
 渋々、という口調で答える母親。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -32-

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 彼女は自分の顔が悪者のそれになっただろうなと意識しながら。
「増えるわけねーだろ。むしろ耐放射線完全防御の箱の中にいた分、ここにいた君たちより浴びた放射線は少ねえ……わよ」
 性格修正。 
「なんでそんな箱に入ったんだ?ヤバいところ行ったってことだろ」
 これには相原学が応じる。
「弊社では宇宙機を製造している関係で、宇宙空間の放射線に耐える飛行機械を幾らか所持しています。その中で放射線が観測されないならば、想定通りの機能を発揮しているという証拠ですからね。商売用の道具です。今回、嫁の……失礼、姫子の要請に応じ、急を要すると考え、自分の裁量で手配出来る自社の飛行機械を派遣しました。福島に行くから、ではなく、利用出来た飛行機械がそれだった、だけです」
 ここで口を開いたのは柴崎の母親。
「原発利権の手先の物言いが信じられるものですか!」
 こりゃだめだ。彼女は思った。そう判断するアナロジーを経験から誘導出来る。
 宗教だ。いつだったか、伝染病対策でボランティア活動をした際、男の子に言い寄られたことがある。すると“異教徒にたぶらかされた”として、男の子は父親に爆殺されてしまった。
 父親は自分を罵って去った。
「相原さん」
 諏訪君の小さな声。
「ありがとう。でも、もういいよ」
 その時。
「良くねぇだろ」
 ドスの効いた、この教室で過去に聞いたことの無い、野太い男の声がした。
 柴崎とその母親の前にのっしとばかり立ち塞がり、睥睨する、大柄な体格。
 平沢である。
「聞いてりゃ勝手ばかり。相原さんは理論で説明してるのに、あんた感情論ばっかじゃんか。いけないことと間違っていることがあるなら、何がどう違うのか説明してみたらどうだ」
「なにあんた生意気な。放射能はごめんだって言ってるだけじゃない。バッカじゃない?」
「だから諏訪君は持ってきてないし、うつらないし……」
「ずっとあそこに居たんでしょ?だったら来るなって言ってんの!」
「今、降って……」
「うるさいわね!あんたも一緒に出て行きな!」
 柴崎の母親は横暴を展開し、平沢、諏訪君、そして彼女らを指さした。
 その瞬間。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -31-

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 相原学は冷静に答えている。でもそうやって論理的に一つずつ潰して行くと、批判が難癖に変わってくるんだろうなあ……彼女は思う。
「どうやって証明するんだよ」
「ですので検出装置で調べられます」
「機械は絶対なのかよ」
 言わんこっちゃない。
 認めたくない人は、理論と論理で主張されると、最後は“嘘だ”と言い張るのである。
 何か言おうとする相原学を彼女は指で触れて制した。
「ラムサール条約って皆さん知ってますか?」
「何の関係が」
「いいから、柴崎さんご存じ?」
 彼女は学級委員であるその娘に振った。それは“優等生のプライド”……何でも知ってるをくすぐる行為でもあった。
「環境保護の……」
「その通り。“水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約”です。で、そのラムサールの意味はご存じ?」
「地名じゃなかったか」
 これは辰野君。そして、気づいたのであろう、ハッと目を見開いた。
「相原さんの言いたいことが判った。ラムサールって世界で一番放射線の量が多い街だろ」
 教室中がどよもした。
 環境保護の象徴たる地名が最も放射線が強い。普通、両者は結びつかない。
「日本の平均的な被曝量の10倍から1000倍に達することもあります。温泉地で、放射性物質のラドンが多く、ここからはアルファ線が出ます。ラジウム温泉って聞いたことのある人いると思いますが、街全体がそういう温泉になってるような場所です。ただ、温泉として長いこと存在していることから判る通り、ここにいて健康に問題が生じるわけではありません。放射線を浴びること自体は、たった今私たちの身体を宇宙からのガンマ線がバシバシ通過して遺伝子を壊していますが、そういう害の側面と、この温泉のようなむしろ健康に良いとされる薬の側面と両方あります。ただ、放射線ごとの毒と薬の境界線は科学的には未知です」
「それ見ろ!」
「だから、放射線はゼロでなくてはいかん、という見解を取られるなら自由です。ゼロまで避けるには厚さ30センチの鉛の箱に入ってなくちゃなりませんけどね。でも、福島に滞在したこと、福島から来たことで、放射性物質による害毒を受けるという認識は理論的に全くあり得ず、甚だしい誤解だと断言出来ます。従って、彼に今後そのような言動態度を示す必要はありませんし、許しません。言いたいことはそれだけです。よろしいですか」
 少し静かになる。環境保護と放射線の接点が効いたようだ。
 が、反駁のきっかけを必死になって探していることは容易に想像できる。
「でも……」
「だから、たった今アナタをブチ抜いてるガンマ線は気にせずに、彼が福島にいたことをギャーギャー言うのはナンセンスだと何度言ったら判るんですか?」
「そいつがいると今あるよりも増えるだろ!」
 なんじゃそりゃ。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -30-

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 疑義の声が上がった。女子生徒で成績が良かった記憶がある。
「ガンマ線って原爆とか」
「よく分からないから、レントゲンは方程式と同じで謎のXとしてX線と呼んだ。追ってガンマ線の一員に含まれることが判った。それだけですよ。続けますね。放射線に被爆すると遺伝子を壊される。これがヤバいんで大騒ぎになるんですが、放射線にはそこらを元々飛んでいるものと、さっき言った放射性セシウムや放射性ヨウ素を体内に取り込んでしまって、体内で放射線を出される場合の2パターンがある。体内に取り込むと、ずっと同じ位置にいて、ずっと同じ細胞に放射線を浴びせ続ける。なので、ヤバいんです。で、ヨウ素は甲状腺に取り込まれやすい、セシウムはカリウムと性質が似ていて、血液に乗って全身を巡る。存在量が半分になる半減期はヨウ素が8日、セシウム137が30年。セシウムは土の中や動物の体内にも溜まるので30年が重くのしかかる。以上ですが、諏訪君が福島にいたから何だって?」
 沈黙と困惑が教室を支配する。が、数秒。
「それって放射能持ってきた……」
 そこで相原学が小さく手を上げて説明する。
「高度に汚染された地域には行っていませんし、移動に際してはセンサで放射性物質の付着が無いことを確認しています」
 それはまるで伝染病対策の問答である。ちなみに実際そのような“イメージ通り”の放射性物質の付着が起こるとすれば、高度に汚染された地域……核反応が生じている直近になる。無論、そんなことはあり得ない。
「センサはこれです」
 と、相原は宙に掲げて一同に見せる。片手で抱えるサイズのジュラルミンケース。
 中を開くと虫眼鏡の親戚のようなセンサ部と、ケーブルでつながった液晶の数値表示部。
 取り出して電源を入れる。ちなみにこういう“非日常”のキカイが出てくると男の子が幾らか興味を持つ物だが、この場は逆に避けるような雰囲気。
「ふーん……それで諏訪は良くても、その病院にヤバい奴がいて吐く息とか汗とかに付いてるかも知れないだろ?」
 別の声。もはやウィルスのキャリア扱いである。逆に言えばそういう認識が“放射能・放射線”に対する一般レベルということであろう。
 レムリアだけに届いた相原学の心のため息。
 が、相原学は眉根ひとつ動かさず、
「菌のようにうつったりはしません。仮に、呼気や汗を介して付着したとしてもクリーニングやエアシャワーで除去可能です」
「クリーニング程度で落ちるのかよ!」
「ヨウ素は気体として、セシウムは液体で存在し、それぞれガスや微粒子として浮遊しています。従ってエアシャワーにより容易に除去が可能です」
「食い物や飲み物に入ってるんだろ?」
「汚染された飲食物は摂取していません。そもそもありません」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -29-

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「返事は!それともクラスまるごと国連レベルで告発していいのか」
「てめぇさっきから聞いてりゃ何様のつもりだ!」
 それは日直の男子生徒坂本である。
「姫様だ。文句あるか。全員教室入れ。他のクラスの邪魔だ。さてどうやって説明しようかね」
 レムリアは言いながら校内へ戻り、衆目を引きちぎりつつ階段を上り、廊下を歩いた。この際柴崎母娘がやかましくわめき散らしながら彼女を恐らく全速力で追いかけているつもりなのだろうが、何故か追いつけない。
 それは他の同様な目的の生徒も一緒。男子の脚力なら容易なはずなのになぜか女の子に追いつけない。
 ガラッとドアを開けて教室へ入った。
 黒板へ歩みより、まず落書きのピカを消す。
〈知恵貸して〉
 相原学にテレパシーでヘルプ。
〈好きにしてくれ〉
 それは彼の“脳内ノート”の開示。
 教卓に仁王立ちする。生徒達は不承不承という表情で、しかし彼女に食ってかかるようなことはせず、めいめい自席に座る。
 彼女は全員が座ったことを確認して、教卓に手をついて身を乗り出す。
「放射線は“目に見えない光のようなもの”を見つけた昔の人たちがそう呼んだのが始まりです。レントゲン、ベクレル、キュリー夫人、そうした人たちの一部、命がけの研究成果です……」
 以下、表により分類し、箇条書きでも良いのであるが、彼女の言ったままを記す。中学生なりの咀嚼された内容になっていると思われるためだ。
「原子力発電はウランやプルトニウムと言った連中に“中性子”という小さな粒子を衝突させ、ウランなんかの原子核を割ります。このとき出てくる莫大なエネルギーを発電に利用しています。で、ウランが割れると、その原子量235の概ね半分で、割れやすいサイスの物質に分かれます。ここに、セシウム、ヨウ素など、自然界では存在しない、放射能を持っていて、なおかつ、人体に吸収されやすい連中が含まれています。この放射性セシウム、放射性ヨウ素は、セシウム、ヨウ素としての振る舞いは同じだけれども、放射線を出す、これが厄介なのです」
 一息置く。
「これら放射性物質から出てくる放射線は、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の3つが主です。放射性ヨウ素の場合、ベータ線とガンマ線を出してキセノンに変わります。ベータ線というのは電子ビーム、ガンマ線は強い電磁波です。レントゲン光線のX線もガンマ線です」
「え?」

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -28-

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 それでも構わず近づく一行に、
 柴崎綾乃が絶叫した。
「キャー!来るな放射能キチガイ!」
 これに。
「キチガイはどっちだ!この馬鹿娘が!」
 絶叫を上回る大音声を発したのは果たしてレムリアであった。
「え……」
 文字通り驚愕したらしく、皆の行動にストップモーションが掛かっている。
 レムリアは王族の娘であるからして、往年の“城の塔から国民に触れを出す”習わしに従い、応じた発声訓練を受けている。肺活量の全てで全身の筋骨と空洞を共鳴させて相当なボリュームを一瞬で放つことが出来る。
“狂”が芽生えた者には尋常な物言いじゃダメで、驚かして正気に戻す。
「原発事故と影響を科学的に理解していない方が大勢おいでのようで。先生、説明したいので学級会の枠もらってもいいですか」
 レムリアは言った。そしてウェストポーチから小冊子を取り出す。
 放射線管理手帳。
「……自分の?」
 担任奈良井は丸い目で問うた。それは放射線被曝が生じる職業に従事する場合に、被曝量を自主管理し、必要に応じて診断を受けるために所持するもの。
「レントゲンなぶりますし」
 実際には例の空飛ぶ船の推進装置がガンマ線を放つからなのだが、まぁ、趣旨さえ伝われば良い。
「アンタも……放射能……」
「だまらっしゃい。ちなみに今アンタのナイスバディを宇宙から来たガンマ線や中性子線がガンガンぶち抜いてるがそういう認識はお持ち?」
 柴崎綾乃はキョトンとなった。意味不明の呪文を突如聞かされたような面持ち。
「あれ?学校で放射性物質のこと習うのって……」
 レムリアは自分の頭の上に目線を向けて訊いた。
「高校だろ。中学では原子爆弾とその被害、のみだろ。だから放射能、放射線という言葉に対して怖いという先入観を持つ。そのままこじらせて全て忌避するヒステリーがいっぱいいるけどな」
 相原学は皮肉っぽく応じた。
 レムリアはため息をついて。
「つまり何も知らないのにわめいてるだけね。今から説明しますから聞きなさい。内容を理解せず福島に滞在していただけで差別的な対応をすることを私は許さない。それでなお差別をするならありとあらゆる法的手段を駆使してその者を告発する。よろしいか」
 レムリアはドスを効かせて言ってみた。もちろん、クラスにはあまりの展開であろう、誰からも何の反応も無い。

(つづく)

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【魔法少女レムリアシリーズ】転入生担当係(但し、-魔法使い) -27-

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 相原は言うと、一旦公園内の四阿に立ち寄って銀色のアタッシェ・ケースを手に取りぶら下げ、学校へ向かい歩き出した。
 距離200メートルほど。程なくし、校門を飛び出してくる何人かの姿。ジャージ姿にホイッスルをぶら下げた学年主任の体育教諭、クラスメートたち。
「おーい。大丈夫か……そちらは?」
 学年主任がが走る速度を緩め、相原を見る。
「相原学……姫子の兄のようなモノです。母親が手を離せないので参りました」
「ああ、そうですか、わざわざ済みません。担任の奈良井ですが、今……」
「どこぞの親御さんに噛みつかれていると伺っております」
「ええ……はぁ、まあ」
「クラスで説明しますわ。こちらお収め下さい」
 相原学はケースを一旦足下にゴトリと置き、名刺を差し出して渡した。
「鎌倉宇宙機……ああ、人工衛星とかの」
「そうです。放射線測定器なんかもやってますので、まぁ、保護者様に誤謬である旨の説明はできるかと」
 連れだって校門をくぐると、物凄い勢いで飛び出してくる“おばさん”あり。
「近づくな放射能!」
 それは諏訪君らに「近づくな」と言い放った柴崎綾乃の母親であった。傍らに当の柴崎綾乃が立って睥睨している。
 これでレムリアは事態をようやく掌握した。原発事故の起こった福島にちなむ全てを“放射線被曝汚染物”と定義し、忌避しているのだ。類例の典型が原爆被害者を罵った“ピカ”と関連付ける物言いだ。原爆がピカッと光ってドンと爆発した……という表現に基づく。広島と福島という語呂まで合わせた悪質な“駄洒落”である。
「私の家族と友人に何か」
 相原学は防空識別圏とでも言うべき距離を置いて問うた。
「話しかけるな。出て行け!」
 ケンカを売るおばさん。
「理由をご教示いただきたく。家族友人を侮辱する意味なら聞き捨てなりません」
「ガンがうつるからに決まってるでしょ!」
「悪性新生物とひっくるめて呼ばれる病気のガンのことですか?」
「そうよ!」
「ガンはうつりませんし、ここにガンを患う者は一人もおりませんが」
「違った。放射能よ。放射能が移ってガンになるのよ。いちいちうるさいわね早く出て行きなさいよ」
 すると、
「お断りします。帰ってきたので」
 レムリアが呆れたように言い、諏訪君の手を引いて歩き出す。
「あ、あ、あ」
 おばさんが二人を押し戻すように両の手を広げながら後ずさり。

(つづく)

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