鉄道趣味の滅びの兆しか?
トレンドに鉄道だの見慣れた雑誌の名前だのがズラズラ出てきて覗いたらこう。
多分いろんな人が異口同音に書くと思うが、実物を対象とした趣味者向けの雑誌で「御三家」とか「三大」といわれたうちのひとつ。雑に言うと実地に乗りに行って考察する。
実物誌は知識欲と探究心のわがまま成り行きに任せて買っている。ただこの「鉄道ファン」誌は弟が買っていたものを幾らかかっぱらったものである。新幹線が出来る前の鉄道界に弟は興味が無く、応じた内容はウチに積み上がっている。
自らの意思で主として買っているのは「ピクトリアル」誌である。技術や発達史(思い出話)がメイン。休刊するジャーナル誌は過去に一度買っただけ(福岡市営地下鉄と当時の国鉄筑肥線の直通運転開始の特集)。
「ジャーナル休刊」の理由と経緯は常に三誌を買ってらっしゃる方も多いので任せるとしてもう少し大局的な話。これは「鉄道趣味」の退潮を示唆するのか?
①そもそも子供が減っている
②鉄に進む子供が減っている
③鉄道に趣味とするほどの面白みがなくなった
①は自明として他を考察してみよう。鉄道趣味は概ね、本物を見て「発症」する。
そりゃこんなデカくてパワフルなキカイ見たら厨二病要素のある子はノックアウトですわな。比して昨今の「子連れお出かけ」を見てみよう。多くの親が「子供を大人しくさせるため」スマホでアニメを見せている。勝手にどこか行かないし、ぐずったりすることもない。子供は周りには目もくれず機械的に手を引かれ足を動かし電車に乗って降りる。加えて「見たい・乗りたい・連れてって」は発生しないし、見たこともない電車を指さして「なにこれ・どうして」で答えに窮することもない。迷惑者の代名詞と化した撮り鉄にさせたくないという意向の持ち主もおられよう。「鉄道に興味を持たない」のはメリット多くしてデメリット皆無である。「なっちまったものはしかたがない」だろうが「電車に興味を持つかな?」というアクションを見せる親御さんは増えはしないだろう。なおこの「スマホ育児」は鉄道のみならず「スマホに出てこないモノ」への興味関心理解を断つ。その結果どんな子供に行き着くことやら。おやおやゾッとしない。
で、③趣味性。
「特急」という用語は本来「特別急行」の略で、すなわち一般的・庶民的な高速サービス列車は「急行」が担っていた。このため「急行」は旅客のニーズ……階層……懐具合……に応じた様々な車両を連結し、便益を提供していた。夜行急行の場合、遠隔地の朝刊や旅客の荷物を積んだ「荷物車」郵便物の「郵便車」。夜行なので寝台車があるが、2ランクA寝台B寝台とあり、更に短距離の利用や、金払って寝るとかもったいねぇ移動できればいいんだという旅客のために座席車も自由席・指定席・グリーン車。列車によっては食堂車もあった。ついでに書くと食事の入手は食堂車以外にも、車内販売や駅のホームで弁当屋から買うことも出来た。それが今はどうだろう。長距離移動は飛行機か新幹線で、「特急」はその先を短時間乗るモノに成り果てた。北陸特急「雷鳥」(現・サンダーバード)なんか最たるもので、往年のグリーン車2両に食堂付きの12両編成が今やグリーン車と普通車だけで1時間程度走って終点である。
・新幹線・特急・快速or普通
・普通車とグリーン車
これで終わってしまう。趣味というのは知り尽くしてそれが新たな理解に結びついて快感を呼び、更なる知識欲と探究心を呼んで……と深化(重症化)するものだが、深入りするほど情報がないのである。ちなみに「ジャーナル」誌は実際に旅して……と書いたが、新幹線はトンネルだらけ。食い物はコンビニ弁当……では何をジャーナリストすればいいのか。なお、新幹線以前に趣味人として出来上がった(慢性化)した人は新幹線アウトオブ眼中の御仁が多い。
「新幹線!?あんなもんどこがいいんだ。みんな同じだしただガーッと走ってるだけじゃねぇか」
なお「ガーッと走る」のは「デカくて強くて速い」のが大好きな男の子には一定確率で刺さるのだが、それは所詮それだけであるので趣味に昇華することはまずない。ウチに来てジオラマ見て「新幹線はないの?」といい、全速で走らせると飽きて出て行く。
④そして、難しくなった
②も③も宜なるかなというところだが、個人的にもう一つ理由を付けておきたい。③は換言すれば合理化されすぎた。と言える。それと矛盾するようだがコンピュータの導入で技術的に難しくなりすぎ、特にお子様にはキャッチアップ(現行水準に追いつくこと)が困難になっているのだ。
小学校の理科の実験でエナメル線を消しゴムに巻き巻きして消しゴムを外し、エナメル線を半分だけヤスリでしごいて銅線を露出させ、U字磁石を使って「モーター」を作った経験をお持ちの方は多いことだろう。
往年の電車のモーターも基本的な同じ構造の「直流モーター」であったから、「電車がどうやって走っているか」直感的な理解は容易であった。が、現在の電車がどんなテクノロジーで走っているか。子供向けの絵本や図鑑には出ておらず、それこそ実物誌を当たってようやくこういう文言に出くわす。
「センサレスベクトル・フルSiC2レベルVVVFインバータ制御」
SiCかこの子は pic.twitter.com/F1voOuoRne
— すのぴ@curekaisyain (@sunop2000) April 9, 2023
「ベクトル」は数学嫌いが聞いただけで蕁麻疹に見舞われるあのベクトルである。ベクトルってなあに?と聞かれた親御さんが怖気を奮ってググるとこういうモノに出くわす。
(公益社団法人日本電気技術者協会「電気技術開設講座・電動機のベクトル制御の基礎(3)」より)
さいん・こさいん・このカッコは一次変換……泡ぶくぶくじょぼぼ……私はカニさん……。
実物誌というのは業界用語とマニア語の集合体であって、いちいち解説なんか付いてない「理解したけりゃ自分で勉強して来い」である。そこで前述の(子供向けの図鑑の用語は)知り尽くしたお子様が、見たこともない専門用語と略号に「知りたい」と思えば新たな地平に踏み出せる。が、現状その1歩目、1段目のハードルは余りにも高すぎる。
こりは小学生のボクチャンが暗記するほど読み込んだ(結果バラバラのボロボロ)、そういう子供向け図鑑とマニア雑誌の仲立ちをする指南本のひとつである。当時の全形式(○○系、だけでなく、それを構成する全形式モハ**クハ**等個々)とそれぞれの採用技術とその解説が平易に書かれてあった。いま、こういう本はない。なくなって久しく、その間に技術はこの手の本でも解説をためらうレベルになってしまった。……それこそスマホ視聴向けだと思うが。
「細かいことはネットで見ればいいじゃん」そう思うだろう。「○○系電車」で検索すればそれぞれの細かいところを有志が微に入り細をうがって書いている。何ならジャーナル誌が主眼とした紀行記事も沿線動画付きで見ることが出来る。
それを見たいと欲すれば。
だが、そこには全般傾向・トレンド・系譜みたいな「大所高所からの概観・俯瞰」は載っていないのだ。興味を持った対象の深掘りは出来るが、「どんなものがあるかな?」という、世界地図を見るような、知らないことがちりばめられたような、趣味の根幹たる「全部知りたい」向けの見せ方にはなっていない(個人的には土日鉄道のブログに間違えてお子様が入ってしまった場合に備えてそういうのちりばめて書いてあるけどさ)。
人様の土地に無断侵入してプロと同じ構図で写真撮って(単なる猿まねして)喜んでいる暇があったら知識拡散とマナー啓蒙に努めた方が余程いいんじゃねぇのか。
そして出版界の「鉄」よ。どうぞ図鑑でも写真集でもない「広がりとつながりとテクノロジー」が概観できる指南書を。
鉄道はトレビシックやスティーブンソンの時代から積み上げられてきた人類の叡智と金属の塊であって、それを知ることは人類が駆使する技術の概ねを知ることにも繋がる。そんな知性の海(沼?)にお子様を触れさせてあげないとか勿体ないの極みじゃないのさ。
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