大論文・プリキュアとその音楽考
このCDの山。
半分、自分の趣味。
…はいはいドン引きする皆さんの姿が目に浮かぶようですが。
まぁ、待ったらんしゃい。
私のサイトは趣味で書いてる物語をリストしてるところです。
現行連載状態で走ってる「Good-bye Red Brick Road」のヒロイン、レムリアは「14歳の魔女」です。
意識してナニが悪い(えらそうに腕組みしてふんぞり返る)。
バカはさておき。
実はワタクシ、「娘が好きだから」と軽い気持ちでこのCD買ってきてブッ飛び、慌てて一揃い買い漁りました。
本題の前に概要書きますと、このシリーズは日曜朝に放映している女の子向けの魔法・変身ものアニメで、近時「セーラームーン」遠く「メグちゃん」「サリー」に連なる系譜のものです。プリキュアとはprettyでcureの意で、まぁ「かわいい治療人」、意を汲んで「癒しの天使たち」とでも書いてやればいいでしょうか。要するに「大切な何か」を守る正義の味方の少女達です。とはいえ、同時展開している雑誌は主として「おともだち」「たのしい幼稚園」ですから、対象視聴者は高く見積もっても小学校低学年でしょう。にしては特徴的なのが、「萌え」がついてること。つまりイベントねーちゃんに「後ろの方の大きなお友達~」と呼ばれ「うぉ~」と野太い声で答えて子供をびびらせるヲタク「プリキュアヲタ」が存在しているわけです。
「ヲタをバカにするな!」
まぁそう脊髄反射するな。コメント欄開くのちょっと待て。オレだって鉄ヲタだ。
一般に創作物語に対してヲタが付くのは「登場人物の個性が強く」なおかつ「濃い」(世界観が深い・細かい・広い・一本筋通ってる)作品です。ヲタク活動とは端的には微に入り細をうがって関連する知識情報を網羅し、脳内に「体系化された世界」を確立。作品と自分、キャラクターと自分、ヲタ同士で、共有や共鳴・共感を持ってドーパミンを大量噴出させる(魂を震わせる)ことを楽しむ行為です。ですから、「濃さ」はヲタク魂をくすぐるバロメータになるわけです。ちなみに「萌え」とは、その「濃さ」が凝縮され純化結晶された対象に対し、「体系化された自分の世界が共鳴を覚える状態」と書けましょうか。「一部だが全部が垣間見える。そこに凝縮されてると思える」そんな感慨を抱いた時、魂の震え…萌えを覚えるのです(だから萌えの対象は一般に認知されている可愛い女の子…だけとは限らない)。
従って。
適当・いい加減・子供だましで作られた作品には萌えは付かない。
逆に言うと、萌えが付くのはその作品が情熱をもって作られている証であるとも言えるのです。だろ?ヲタ諸君。
前置きはこのくらいにして。
CD買ってきてぶっ飛びましたと書きました。なぜなら歌詞・楽曲ともにめちゃくちゃ凝ってるからです。
「ヲタ狙いだからだろ?」
この手のサウンドトラックでヲタ狙いというのは確かに存在します。愛だ恋だのフレーズをちりばめた甘ったるい純情可憐乙女模様…そのなんだ、雑誌のグラビアに「午後3時。ミルクティーを片手にあなたを想うの」とか書いてあんべや見もせんのに。そんな雰囲気の奴。
あーいうのとは違う。
まず作家陣。特に歌詞、lyrics。ほぼ全部女性です。上記したような虫酸歌詞考えるのは大抵男、要は妄想です。だから非現実的で虫酸が走るのです。男が「女の子っぽくしよう」とするとこうなってしまうのです。
対しこちらはほぼ全員女性。杉山清貴や菊池桃子に提供した青木久美子さん、アニソンでは知られた只野菜摘さんらが名を連ねている他、中にはメインVo.を取ってる五條真由美さんが書いたものもあります。「ほぼ」と書きました。すなわち男性もあります。ただその男性は「里乃塚玲央」さん。
「あっ!」と思った方は、お子様がいて、朝夕にNHK教育を見せてらっしゃる方でしょう。「ぐるぐるどっか~ん」「おすしのピクニック」他星の数ほど…あの辺の子ども達が大好きな歌詞を書かれた方です。
これが「ヲタ」を主眼に置いた布陣でしょうか。
更に具体的に見てみましょう。引用がすぎるとJASRACにどやされるので3カ所引きます。まずこれ。
♪heart to heart
♪深いトコに在る不思議なつながり
♪それを人は愛と呼んだ 生まれる前から
(Heart to Heart/青木久美子taken from 「ふたりはプリキュアボーカルアルバム DUAL VOCAL WAVE」Tr.7)
…これで「おともだち」に「たのしい幼稚園」だって?
確かにシリーズのコンセプトは「友情」と「信頼」にあると思います。しかしこの歌詞から感じるのは「魂の結びつき」であって、文字で書いた「友情と信頼」から受ける印象よりワングレード高いところを見ている。この歌詞で共感できるのは「あなたがいてくれて良かった」と涙ボロボロ流すような体験をした、それこそ劇中の娘達と同年代の女の子そのものではあるまいか。
次これ。
♪遥か遠い記憶では 大きな光そのもので
♪『わたし』という意識さえ もっと全体(すべて)とつながっていた
(わたしは光/青木久美子taken from「ふたりはプリキュアMax Heart ボーカルベスト!!」Tr.8)
これ端的にはキリスト教の概念に通じる。神と人は心を介して繋がってる。
中間すっ飛ばして。
「使命感」じゃねーか?
持ちますかい?中学生が「使命感」。
確かに使命感持ってる人強いです。かっこいいです。人格に重厚さを与えます。
軽薄で表面だけの世の中に。
最後。まぁこれはそう深刻じゃないす。
♪希望の力を信じる気持ちピンク 絶対 約束守り抜くよ!
♪(戦いの決めぜりふ)
♪みてみてみてね♪
(メタモルフォーゼ~青春乙女LOVE & DREAM~/うちやえ ゆかtaken from「Yes!プリキュア5Vocalアルバム1~青春乙女LOVE & DREAM~」Tr.2)
「みてみてみてね」
このフレーズ自体は予告編のラストのセリフです。そこにリンクしているのは確かです。
ですが。
これ、男の子向けのヒーローものでは成り立たないのです。え~適当な実例が見あたらないのでありがちなパターンで。
「カッコイイだろアクションもすごいぜ。見てくれよな」
「華麗に羽ばたく5つの心Yes! プリキュア5。みてみてみてね♪」
ニュアンス違うの判りますか?
答え書く前にひとつ類例を引きます。子どもに好き放題絵を描かせます。男の子は「自分から見た好きなもの」を描きます。ヒーロー、乗り物、生き物…。女の子は「好きなものと共にある自分」を描きます。つまり女の子には「自分に対する視点」という存在が常に念頭にあるのです。
見られたい(肯定的に)。
知って欲しい(内面的に)。
「みてみてみてね」
今日の服はどうしよう。髪型は。アクセサリーは。
ちなみに変身のセリフにメタモルフォーゼ(metamorphose)を使ったのには、モチーフが蝶という以上に、この言葉が生物一般成長に伴う姿形の変化…たとえば脱皮など…意味する事を考えると、
主役張る彼女たちは…自分のあるべき姿を確立する時期、思春期なわけで。
※メタモルフォーゼの直接の訳語は「変態」になるが、あまりに字面が悪かろう
曲にも触れましょう。端的にはアニソンですからノリの良いポップス主体です。但し音質的には高域も低域もカットされ、決して褒められる出来ではありません。ダイナミックレンジ的にも一本調子…緩急なし…です。アンプでスピーカーをドライヴするとか、D-T1のデュアルDAC-7が繊細に描き出す…って類のものではないです。典型的なヴォーカル重視の作りです。
ですが。
曲相自体はいろいろ用いられてます。上に引いた「Heart to Heart」は哀調たっぷりのダンサブルなカルメン調ですし、「情熱∞」(『ふたりはプリキュア』ボーカルアルバム2Vocal Rainbow Storm!! Tr.8)に至ってはユーロビートそのものです。哀調、高速BPM、レガート、スロー。必要充分のクオリティが与えられています。端的に申せば総じてこの37歳のオッサンでも聞き込めるように作ってあります。これは、番組と切り離した音楽集としても通用するという意味です。要するに本格派なのです。
これは「子供だからこそちゃんとしたものを」という作り手の意気込み、メッセージである、
と書いたら、大げさでしょうか?
やっぱりヲタ向けなのでしょうか。私がヲタだからアンテナが反応しただけ?
いいえ、ヲタ向けにちょいと味付けした…てな小手先ではこういう風にはなりません。むしろヲタはそれをやられると見抜いて冷めます。世の中明らかに「ヲタ向け」なのにヲタからそっぽ向かれた痛々しい商品が多々ありますが、こちらはむしろヲタを意識した作りではない。ちゃんと作ったらからこそヲタの目に止まっ(てしまっ)た、というのが実際の所ではないでしょうか。
「友情」と「信頼」で結ばれた仲間と何かを守るという使命を背負う。そのコンセプトは高尚ですし、これから人間として育って行く子ども達に対して、真っ直ぐに伝えるべき大切なことです。
しかし、手段を間違ってはいけない。
…少し考えると判りますが、テレビというメディアの影響力を考えると、これは極めて大変な仕事です。真剣に取り組まないと取り返しの付かない結果を招くことさえあります。いつぞやどこかのアニメで「用務員は先生ではないから…」旨のセリフが含まれ、大騒ぎになったことがありました。そうした観点からすると、この作品には「妙齢な女の子達をキチンと描こう」という作り手の姿勢と、それを反映した「濃さ」を強く感じます。「オモチャにしたら売れそうな」魔法・変身アイテムの数々は仕方ないにしても、一本筋は通してはいます。
現行、5人組で走ってる「Yes!プリキュア5」は、最初その5人組という設定もあってか、5人の描きわけが不安定など、心配な要素もありました。が、そこはさすがプロ集団(東堂いづみという作者名は東映の製作チームの擬名です)、今は…まぁ話の筋は読めちゃいますが、まとまってます。国産アニメの質の低下を言われる昨今ですが、オモチャ業界との縁故はさておき、これなら安心していいでしょう。
私自身、自作中で書いてますが、子どもは子供だましを見抜きます。逆に難しいと思っても、本物に触れさせれば、その子どもならではの鋭い直感で本質・コンセプトを見抜き、気に入ればモノにします。このシリーズの作り手は確実にそれを判っています。さすがにMDに移して通勤時朗々と鳴らそうとは思いませんが、例えばこれ鳴らしてレムリアや理絵子書いたところで、彼女らは文句いわんでしょう。まぁ大したモンですわ。
最後に。そんな私にトドメを刺した殺し文句はこれでした。
♪能ある鷹は 最後にネイルケア
(Crystal/大森祥子taken from「ふたりはプリキュアMax Heart ボーカルベスト!!」Tr.5)
だめ、イチコロ(笑)。
さぁ娘よ、今日はどれ聞いて寝るんだい?
・・・いろんな意味で。
アンタが筋金入りであることはよく判った。
(理絵子の萌えバージョンも考えていたが、これでは安易に描けん。ヲタはヲタ狙いを見抜くから)
投稿: TAC | 2007年8月21日 (火) 00時23分
>TACちん
…読むアナタも相当なモンでっせ。
理絵子は狙って萌え系にしようと思ってもならないと思う。「かわいらしく」描こうと思った結果として「萌える」形になるんじゃないかと。
投稿: すのぴ | 2007年8月21日 (火) 20時51分