へろへろ
午前2時。
体温38度。
頓服を飲んで少し下がったが、血圧が高い上に耳鳴りがし、要するに熱でハイテンションなのだ。
結局完徹した。全身汗みずく。あのインフルエンザの夜を思い出す。
睡眠薬を飲めば違ったかも知れぬ。しかし、発熱は病気に対する身体の自然な反応であって、鎮静作用のあるものわざわざぶち込むのは如何なものか。
「休めば?」
妻は心配してくれたが、今日は出張。しかも新幹線の予約も入れてしまった。
出ざるを得ない。が、起き上がるや視界がモノクロになり気が遠くなる。貧血を起こしたのだ。発刊で大量の水分が失われたせいもあるだろう。その深夜帯時々お茶は口にしたが、足らなかったわけだ。塩分も失われたであろう。
ポカリスエットと麦茶を飲んで横になる。回復する。朝食にかかるが、すぐに貧血の兆候。また横になる。なんてことを3回ほど。このことは朝食を取れば消化のために血液が内臓に行くため、それでも貧血を起こす可能性を示唆する。
フレックス出社とし、体温が高いことを考慮し、寒さ対策のため長袖のワイシャツ腕まくりとする。食べて休みを繰り返してどうにか朝食を押し込み、少し横になってから始発電車を狙う。この朝の1本座れるのはなんと貴重なことか。
会社に顔を出し、出張に必要な書類を印刷する。わずかな時間だが濃いコーヒーを覚醒剤に少し仕事。
時間になり会社を出る。昼食は新幹線車中となるが、朝の状況から多く食べるのは不測の事態を招こう。簡単にサンドイッチとペットの紅茶を買い込む。
11時少し過ぎの列車。乗ってすぐ身体が不快感フラグを立てた。冷房がキツイというのだ。暑がりのオレにあるまじき反応。
しかし指定だから仕方ない。消化と血流の回復を急がせるため乗ってすぐサンドイッチを口にする。
新大阪まで1時間弱。列車は北向きに出立し、西に首を振り、更に南西に首を振る。
陽光を浴びる左半身。
冷風を浴びる右半身。
700系は吹き出し口が窓間荷棚下にあるのに。
加えてヘルニア座骨神経痛の血行不良。足に違和感。
気持ち悪くなってくる。要するに全身の血行が悪く、体内の熱バランスが取れていないのだ。
やばい。
これはやばい。
京都を出る。
新大阪まで10分少々。
視野狭窄と手足のしびれ。
また貧血。おい何だオレ新幹線で失神するんかい。
幸いにもABC席Aで、Bは不在だ。
肘掛けを上げて(上げられる。憶えておくと有用)横になる。冷や汗というか脂汗。ひぃはぁ呼吸をする。手先が痺れ、先端の感覚がない。
新大阪入り口のポイント群をかちゃかちゃ進む。人々は降車の準備。列車自体はここが終点。
「すいません……」
通りがかりの車掌を呼び止める。声が出た。人に聞こえる発音と音量で出ただけマシだ。
気持ち悪くて動けそうもないと訴える。人に頼らざるを得ないという状況ほど情けないものはない。しかし何がどうあれ戻れない。行くしかない。確かウルフガイ犬神明にそんな話があったなぁ。
全員下車して車掌さん達が手を差し伸べてくれる。しかし、その心遣いが多少力になったようだ。
血流が戻る。しびれが収まる。
どうにか立ち上がる。貧血無し、視野狭窄もないようだ。
「……大丈夫です」
頭を下げてホームへ出、切符を通して乗り換え。
↓前から書いてるように長時間座るのは苦痛なのだが、こうなると今度は立っているのが怖い。高槻から来た321系は幸い座れる。
大阪エリアを転がって下車。研究所へ。
出張の目的は講演の聴講。
現地行ってレジュメもらって会場入って絶句。硬い椅子がずらりと並び、300インチにパワーポイント。
椅子だけ。机があったならまだマシかも知れぬ。しかし椅子だけ。
座骨神経痛でこの硬い椅子半日座ってPPT見てろ?そういやこの講演ビデオに撮って全社配信とか言ってたなぁ。
「ようオレ様くん」
何だよ前のカチョじゃねーかよ。あんたも来たんかよ。聞いてねえよ。イコール居眠りも出来ない。何だよもう最悪と名の付く条件オールスターかよ。
出張報告自体はレジュメからねつ造も可能だ。だがこうなると。
業苦の5時間。
腰痛いのに前屈みになってレジュメにメモ。最悪の体調で最大の弱点に最も負担がかかるというこの状況。
質問なんかしてみるか。立てて身体伸ばせるしな。でもビデオ配信じゃ低レベルの質問は工場の沽券に関わるなぁ。
そんな緊張感。
そしてケツの痛み。
それらが眠気を呼ばない。そして痛みをごまかすには一生懸命に講演聞いてるのが一番。
てゆーかそれしかない。気力だけで生きてる殆ど幽霊。
「質問は?」
「はい」
あーオレ撮られちゃった。いつか吉村作治氏がエジプト冒険譚話しに来たときも社内報オレの写真だったんだよな。ニヤけたいかにもマッドサイエンティストなヲタクが写ってたっけなぁ。今度は幽霊が写るんだ。半分身体からはみ出てたらゴメンよ。
5時になり幕。日本橋へ出て模型店巡りをする予定だったがやめた。
来た電車は207系。
通るのはあの尼崎事故のカーブ。
しかもその電車最高速で走るとビリビリ言いやがる。
冷房ダクトが共振しているのだが、あのカーブを走る同じ形式の電車だということは乗客の皆さんよくご存じなわけで。
新大阪に戻る。チョコ買って餃子買って指定取って新幹線。
1時間。その長いこと。
名古屋駅。いつもの駅。せとでんのツリカケ電車。
どうにか帰宅。
「新幹線で気絶しそうになった」
「大丈夫!?」
生きてるよ。帰る家があるから、力が保てる。
「ふろ」
「はいはい」
「めし」
「はい少なめにしておきました」
「ねる」
「寝てください」
20時45分に睡眠薬食らってローカルニュースを見た。
その後の記憶がない。阪神が逆転サヨナラも知らない。
>妻
心配掛けた。ごめん。そしてありがとう。
>茶
メールで遊んでくれてありがとね←出張に行くとそっち方面の友人にメールをする「今○○です」で、本文が「でも通り過ぎるだけ」「但し時速300キロ全速通過!」とかいうヒドい代物。次の犠牲者は!?
(9月12日改訂)
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