品物ですが生物です
オオクワガタである。
天然物のわけない。ただでさえ数が少ない上に、高い木の穴の中とかにいて、昼間は絶対と言っていいくらい出てこない。しかも用心深くてすぐ逃げる。しがみついて取れやしない。
しかし何せ堂々たる姿でデカイもんだから、採集家には垂涎の的。ブームになりバブル期と重なって一匹10万円とかで取引された。「黒いダイヤ」「歩くダイヤ」とも。おかげさまで乱獲されて気が付けば「絶滅危惧II類(VU)」。あ、このブログでお決まりの学名書いてませんでしたね、Dorcus hopei binodulosus(どるくす・ほーぺい・びのどぅろーすす)。
何でコイツがオレの指に止まってるか。背景を書くとこうなる。先のイモムシ全部羽化して♂1♀4。
ハ~レム。
書いて笑うの人間だが昆虫の場合深刻な問題を起こす。のべつメス追いかけ回してオス生命力使い果たす。
いつぞやモンシロチョウのところで、「オスは羽化したらとにかく蜜を吸う間も惜しんでメス探す」と書いた。カブトムシも然り。昆虫において大人とは謳歌の始まりではなく、繁殖のみが目的と言って良い。機会があれば命がけで繁殖を目指す。
その位生存確率が低いのである。
で、とりあえずオスの数増やしてバランスを取ろう。取りに行くにせよ週末まで動けないし、必ずいるという保証ないので店で調達、まぁそんなわけだ。
昆虫ショップは恭しく篭に収まった巨大でぴかぴか光る外国のカブトムシたち。
「日本のカブトムシですか?」
尋ねたら、積み重なった納品段ボールの下。膨らんだ段ボールの中にしこたま盛られた土がほじくり返され、数匹発掘。
一匹チョイス。そこでちょっと興味がわいた。オオクワガタ。店で手軽に姿が拝める。養殖物でもオオクワはオオクワ。
ちょいと見たいじゃないのさ。
「います?」
「この辺が今年羽化した奴らですね」
カゴの中の恭しいカップル達は軒並み万単位のお値段。ああバブル弾けても宝石なのね。
「オスだけってのは?」
「こっちで」
ぞんざいに積み上げられたプラケース。
「これとか……これとか……これ、ああ、これダメですね」
既に硬直状態の個体つまみ上げてポイ。
ポ イ 。
そこで店員氏ぽつり。
「これ、引き取りません?翅に穴が開いてるんで安くしておきます」
「はぁ……」
やっぱ高いね、いらん。オレが用意していたセリフ。
しかし、仮にこれでオレがそれを実行したら、この翅に穴開いた彼の行く末は。
「ダメ」になって待つ運命は。
よぎるいつぞやの真冬のクワガタ。
値段じゃないんだ。
ウチへおいで。
だめだねぇ。犬猫なら飼えないってんで振り切れるんだけど、なまじ飼えるし。
多分、数年生きるし。
オオクワガタいっぺん飼ってみたかったし。←39歳の小さな夢
切ねーなおい。
で、連れてきてすぐは文字通りオレの指で固まっていたオオクワ君も、夜になれば本領発揮。
は、いいんだけど。
聞きしにまさる用心深さというか「臆病」ぶり。
ノコギリクワガタとかコクワガタなら、突くと足突っ張って顎広げて威嚇してきますわね。
こいつザリガニみたいにそそくさ後ずさりして逃げようとすんの。ってか、巨体に似合わぬ逃げ足の速さ。
砂糖水のティッシュ抱いてたと思って覗き込むと、オレの影が動いただけで木の裏へこそこそ。土の中へザクザク。
まぁねぇ、それなりの図体してるので、自分の図体見て逃げるのが当然で、尚寄ってくるのは勝てない相手と思うんだろうかしらね。
でもね、そのままじっと見てると、ゆったりと虫カゴの中歩くんだ。王者の風格。カブトムシたちの方がびびって逃げる位。ああ、こりゃオオクワにはまる人はまるなって判る。やはり、少し違う。
メスの一匹がすごく欲張り。誰、飼い主に似ると言うのは。
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