立ち会い出産体験記【12・最終回】
【奥付】へ 産声が響きます。初め小さく、徐々に大きく、そして次第に力強く。これなら5分後アプガー指数も悪くない(んなこと考えていたのだからやっぱり取り乱していない)。
スタッフと妻に促されて臍帯を切断します。その瞬間、私たちの娘は、母の体から離れた。
そうたった今、たった今、バトンを受けた小さな命が歩き出したのです。泣き声が呼吸を促し、…恐らく体内では肺呼吸への転換と、不要になった血管の閉塞が進行していることでしょう。チアノーゼ状態だった顔に見る間に赤みが差してゆき、独立した人間として、彼女の生命維持システムが作動開始したことを高らかに、神々しく、私たちに教えてくれます。「足して2で割った顔だよ」確か私はそう言って笑ったはずです。
今にして思えば、あの時の涙は、この肉体が、人間の生物としての本質であるこの身が、自分の子孫の誕生に際し、遺伝子に刻まれた情報に基づき流させたような気がしてなりません。確かに安堵、すなわち、生まれて良かった、そして妻が痛みから解放されて良かった、という気持ちはありました。でも、それ以上に、この身、遺伝子で動かされている私の肉体生命そのものが、新たな命の誕生を喜び、涙でそれを表現している…生き物の本質的反射作用という気がしてならないのです。まぁ人間にだって一つや二つ、脳と意識を経由せず、その制御が効かない反射作用があってもいいじゃありませんか。だって人間も生き物なんですから。
さて赤ちゃんが一通りの処置を受け、妻の…母の両手に抱かれる瞬間がやってきました。
この時の安堵と喜びに満ちた妻の表情を私はなんと表現すればよいでしょう。
大きな花が開いた。いいえ、太陽が輝いた。命がきらめいた。
これも多分、意識が作った笑顔ではないでしょう。やはり遺伝子が生み出した笑み、子どもを迎え、そして喜ぶ「母体」の笑みです。その瞳は陽光を反射する水面のようにブリリアントな光を放ち、妻と子の周囲だけパッと明かりがともったよう。オーラが見えるという人、誰かいませんか?
祝福を、感謝を、私は私の妻と新しい私の家族に捧げました。妻よありがとう、そしてお疲れさま。娘よ初めまして、私たちがあなたの親だよ。
我が家にようこそ。
良かったね。本当に良かったね。
【奥付】へ
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