立ち会い出産体験記【7】
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でも事態の進行はあくまでゆっくりです。もどかしい気持ちで見上げた時計から感じる膨大なまでの時間の流れ。その中で妻には痛みが数え切れないほど繰り返し繰り返し訪れ、そのたびに顔をゆがめ、額に汗が玉をなします。でも、それでも理性を保持し、リズムを守って呼吸を繰り返します。いつ果てるともなく繰り返し訪れる痛み。先が見えず苦しみだけがある。避けようにも向こうから訪れる。その気持ちはどんなものでしょう。健気であり、同時にあまりにも過酷です。我が子に早く出てきて欲しい、そう願わずにはいられません。
痛みの訪れにあわせて呼吸法を実践し、去ったら力を抜かせるという時間が続きます。ウーロン茶を飲ませ、汗を拭き、肩や腕をほぐし、インターバルがわずかに長い間は眠らせる。その睡眠はわずか数分、いえ数十秒かも知れません。でも眠れるなら眠らせたい。
昼を回りました。
新しい変化が体に現れます。「いきみたい」という気持ちが妻に生じたのです。それは子どもの頭がまた少し骨盤の奥へ進んだ証拠。
「着実に進んでいるから。ゆっくりだけど、大丈夫だから。切らなくていいから」
私は妻に言い聞かせ、看護婦さんに確認の後、呼吸のサイクルにいきみの部分を加えます。
痛みが来ます。まず腰椎の刺激により腿に痛みが生じ、次いで妻の体が目に見えて判るほど小さくなり、腹部が鋼のように堅くなります。それは文字通り全身の筋肉を収縮させて力とし、子宮への加圧に参加させている証左です。感覚的には立って両手をバンザイの形にした状態から、その手を体にぎゅっと引きつけながら同時にしゃがみ込み、力を全て声にしてみる…その動作に近いのでしょうか。
そして妻は私の両手を血が止まるほどに強く握り、力を腹部に加えます。この時声を出すと、力が声となり、腹部にかかる力が減じるので良くないのですが、それでも声は時に口を押し開いて出てしまいます。それを制し「声を出さない!」と強く言います。力と共に顔面は見る間にチアノーゼを呈し、額は汗で濡れ光ります。「力抜いて」再び強く言い、握った手をブラブラと動かして脱力を促します。
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